一.後ろを振り向くことなかれ



 池の水を冷たいと感じる。何度も、何度も、しつこいな。

 胴の刀が引き抜かれ、無造作に突き立てられるを繰返された体は引き寄せ刀に抵抗する間もなく言葉にならぬ声を漏らした。
 水飛沫が上がり、掴まれた着物は重く貼り付き体は水になれるのではないかと思った。

 ぼんやりと、薄暗い庭の中に金色の光がふたつ見える。それはいつもの真ん丸ではなくて、おそらくは吊り上げでもしているのだろう、そちらへ手を伸ばすと、応えるように水飛沫が止んだ。

「は、こ……」

 伸ばした手を、一回り大きい手のひらが掴み、体を支える優しい手にも安堵する。

「次は、わたくしが」

 ――それはいやだと、何度言えばわかるのだろう。
 頭を抱えて困り顔にするくらいの言葉を並べてやりたくも、意識は薄れ手放してしまった。
7/54ページ
スキ