一.後ろを振り向くことなかれ

「おはようございます羽鶴様。皆を紹介致します。籠屋の店主である虎雄様は出ておりますが、書き置きを預かりました」

 朝一番に籠屋へ行くと、宵ノ進が出迎え中へ通された。受付奥の暖簾をくぐると小さな部屋になっており、書物や着物が置いてある。布のかけられた姿見や、小さな引き出しがたくさんついた箪笥等、一昨日昨日と使った部屋よりも物がある印象だった。
 その小さな部屋にぞろぞろと、長着や振り袖の人物が入ってくる。一度見た顔が殆どで、羽鶴はほっと息をついた。

「わたくしは宵ノ進と申します。板前と帳簿を預かっております」
「宵は所謂まとめ役だよ。もう一度自己紹介って変な話じゃない? 鶴、おはよう。宜しくね」
「大瑠璃。挨拶なさいと虎雄様に言われております」
「わかったよ。大瑠璃。元看板で今は何にもしてないよ」
「はいはーいそれで今看板なのが朝日ね! お座敷盛り上げ隊長だよー!」
「私は、受付担当の白鈴です。よろしくお願いします……!」
「やっほー羽鶴。雨麟な。掃除担当してンよ」
「香炉……板前、してます……」
「いちにーさんしーごーろく……六人!? 籠屋って六人で賄ってるの!? うぉああよろしくお願いします!!」

 羽鶴はお辞儀をしながら名前と特徴を合わせる作業に必死である。
(ふわふわ黄朽ち葉色の髪を左で短い三つ編みにしちゃうのが宵ノ進、黒い艶々さらさら髪を肩まで伸ばしてる真っ黒い眼の美人が大瑠璃、黒い髪で前髪が急なナナメで何ヵ所か長ーく伸ばしてる明るい振り袖が朝日、おとなしくて髪も着物も白いのが白鈴、ピンク頭の雨麟、紫髪で眼の真っ黒なのが香炉……! 店主はマッチョ……!!)

「鶴ちゃん入れて七人だと心強い! 着付けしよう着付け! 籠屋は着物だからね鶴ちゃん!」
「朝日、羽鶴様は男性ですよ。雨麟、大瑠璃、お任せします」
「はーい。羽鶴はやっぱ白かなあ」
「え、ちょっと待って雨麟、女の子でしょ」
「何いってンだ俺は男だ羽鶴。声は、女の子だけどね!」
「そして趣味は女装の遊女フォーム」
「うぉおおぉお」
「皆私語はいいですから持ち場へ行きますよ。お客様がいらっしゃいます。それでは羽鶴様、後程」

 四人が出ていき雨麟と大瑠璃が羽鶴の腕をがしっと掴みピンク頭と黒髪黒眼は企み事のある顔をしている。

「ひっさしぶりだな着付け! 白花色なンてどうかな!?」
「味気ないよ白群がいいんじゃない。髪が銀で眼が黒茶なら割と何でもいけそうだけど」
「二人とも物凄い楽しそうだね……僕今から脱がされるような気がしてきた……」
「は?」
「そうだけど?」
「いや後ろ向くとかあるじゃん!! 袖を通したらこうするよとかあるじゃん!!」
「羽鶴かわいーなぁーあっはは」
「採寸ー採寸ー」
「うぉおおぉお籠屋まじか!! これから入るのか!!」

 来て早々涙目になりながら、羽鶴はすがるように店主虎雄の書き置きを広げる。

『チャオ!』

「アホかぁああぁあ!!」
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