三.菊花百景
「お寝巻きト・ラ・オ~!」
「金・屏・風……!」
隠し階段の上は金屏風が鎮座しており、床や襖、天井に至る全てが金色に輝いている。
「ンもォお肌によろしくなくてよォ! 眠れないのかしらァ?」
ふわふわもこもこのパステルカラーの寝巻きに身を包んだ虎雄がパックを外しながら聞くも、羽鶴は小さく息を吸って切り出した。
「店長、宵ノ進が引き寄せ刀に命を狙われてる、と思う……! 助けてほしい……!」
「それは、私にお願いするってことでいいのかしらァ?」
「セクシートラオ違う違う、助けを求めてるやつ!」
「あらそォ? すばめ屋の若といい騒がしいわねぇ。あの子にはお守りを持たせてあるわ、命に関わる事柄を逸らしてくれるようなものよ。安心なさいな」
「えっと多分そのお守りを僕が持ってて……」
「なんでよあの馬鹿息子」
「僕に持たせてくれました……まさかそんなたいそうな物だとは……明日返します無理矢理にでも……」
「でもセクシートラオ、宵ちゃんが持たせたってことは鶴ちゃんもだいぶそうなんじゃないの?」
「ああそうねぇ、返したら返したで危ないのよねえ。そうだわ、あんたに別のお守りをあげるから、肌身離さず持ってるのよ。そしたら返してやれるでしょ、それがいいわ」
返事を待たずに虎雄が大きな手で差し出したのは金色のお守り袋である。
「店長これ自分のとかじゃないですよね?」
「私のよ。沢山あるから気にしないで頂戴」
「ありがとうございます、明日返しておきます」
「ねえ鶴ちゃん」
「何朝日?」
「引き寄せ刀、見てないよね?」
「えっとああうん、…………半分見た……」
「半分? なるほど! 鶴ちゃんのばーか!」
「えええいきなりなんなのおおおお」
「ひっかけだぞ! 鶴ちゃんが引き寄せ刀を見た事件は皆が知っている……! だからあとの半分もあるとかホラーだよね! セクシートラオ、鶴ちゃんは正直です、嘘がつけません!」
「そうねェいいんじゃないかしらァ。すばめ屋の若にも言ったけれど、その半分の方を始末するにはね、外野じゃダメなのよ。本人がやらなきゃならないの。だからどのみち危ない目には遭うわ。私は手助けをしてやるくらいしかできないのよ。この籠屋を護りにして、あの子達が解決するのを待つしかないの。そう伝えたら、若には俺は勝手にするって言われちゃったけれど。あんたもそう? 寄宮羽鶴」
いつもの濃い紫のアイシャドーも強烈な香水も綺麗に落とされている虎雄の張りのある肌に乗る真っ黒な目玉に心がざわついて、羽鶴は普段よりもたっぷりと時間をかけて声を震わせる。
「店長は、あの二人が好きじゃないんですか」
「愛しているわ。私の家族よ。私は、個人に出来る範疇を越えてはいけないと思っている。壊れてしまえばそれまでだもの。私は私にできることを、あなたを踏み荒さない程度の距離から。あんたも若も似てるわね、諦めきれない、俺はやるってね。いいこと、この籠屋にはあんたが言う半分の方は入っては来れないわ。あんたが見た方は特例だけれど、今は追い払ってある。半分をやるなら、さっき渡したお守りを決して離さないこと。若に近づきすぎないこと。いいわね」
「店長はわかってて……これ以上なにもしないって言うんですか……?」
「私が消し去れたらしているわよ。私にできるのは守ってあげることくらいなの。ごめんなさいね」
「鶴ちゃんのばーか! 虎雄様が謝ることなんて何一つないんだからね!」
「こら朝日」
「あ、虎雄様、手紙が来た」
急に壁の方を向いた朝日につられてそちらを向くと、ちりんと鈴が鳴り金色の筒から丸められた紙筒が落ちてきたところだった。
虎雄は大きな指で摘み上げ、片眉を上げる。次いで悲しげな表情を浮かべては朝日と羽鶴の両者へ眼を向けた。
「金・屏・風……!」
隠し階段の上は金屏風が鎮座しており、床や襖、天井に至る全てが金色に輝いている。
「ンもォお肌によろしくなくてよォ! 眠れないのかしらァ?」
ふわふわもこもこのパステルカラーの寝巻きに身を包んだ虎雄がパックを外しながら聞くも、羽鶴は小さく息を吸って切り出した。
「店長、宵ノ進が引き寄せ刀に命を狙われてる、と思う……! 助けてほしい……!」
「それは、私にお願いするってことでいいのかしらァ?」
「セクシートラオ違う違う、助けを求めてるやつ!」
「あらそォ? すばめ屋の若といい騒がしいわねぇ。あの子にはお守りを持たせてあるわ、命に関わる事柄を逸らしてくれるようなものよ。安心なさいな」
「えっと多分そのお守りを僕が持ってて……」
「なんでよあの馬鹿息子」
「僕に持たせてくれました……まさかそんなたいそうな物だとは……明日返します無理矢理にでも……」
「でもセクシートラオ、宵ちゃんが持たせたってことは鶴ちゃんもだいぶそうなんじゃないの?」
「ああそうねぇ、返したら返したで危ないのよねえ。そうだわ、あんたに別のお守りをあげるから、肌身離さず持ってるのよ。そしたら返してやれるでしょ、それがいいわ」
返事を待たずに虎雄が大きな手で差し出したのは金色のお守り袋である。
「店長これ自分のとかじゃないですよね?」
「私のよ。沢山あるから気にしないで頂戴」
「ありがとうございます、明日返しておきます」
「ねえ鶴ちゃん」
「何朝日?」
「引き寄せ刀、見てないよね?」
「えっとああうん、…………半分見た……」
「半分? なるほど! 鶴ちゃんのばーか!」
「えええいきなりなんなのおおおお」
「ひっかけだぞ! 鶴ちゃんが引き寄せ刀を見た事件は皆が知っている……! だからあとの半分もあるとかホラーだよね! セクシートラオ、鶴ちゃんは正直です、嘘がつけません!」
「そうねェいいんじゃないかしらァ。すばめ屋の若にも言ったけれど、その半分の方を始末するにはね、外野じゃダメなのよ。本人がやらなきゃならないの。だからどのみち危ない目には遭うわ。私は手助けをしてやるくらいしかできないのよ。この籠屋を護りにして、あの子達が解決するのを待つしかないの。そう伝えたら、若には俺は勝手にするって言われちゃったけれど。あんたもそう? 寄宮羽鶴」
いつもの濃い紫のアイシャドーも強烈な香水も綺麗に落とされている虎雄の張りのある肌に乗る真っ黒な目玉に心がざわついて、羽鶴は普段よりもたっぷりと時間をかけて声を震わせる。
「店長は、あの二人が好きじゃないんですか」
「愛しているわ。私の家族よ。私は、個人に出来る範疇を越えてはいけないと思っている。壊れてしまえばそれまでだもの。私は私にできることを、あなたを踏み荒さない程度の距離から。あんたも若も似てるわね、諦めきれない、俺はやるってね。いいこと、この籠屋にはあんたが言う半分の方は入っては来れないわ。あんたが見た方は特例だけれど、今は追い払ってある。半分をやるなら、さっき渡したお守りを決して離さないこと。若に近づきすぎないこと。いいわね」
「店長はわかってて……これ以上なにもしないって言うんですか……?」
「私が消し去れたらしているわよ。私にできるのは守ってあげることくらいなの。ごめんなさいね」
「鶴ちゃんのばーか! 虎雄様が謝ることなんて何一つないんだからね!」
「こら朝日」
「あ、虎雄様、手紙が来た」
急に壁の方を向いた朝日につられてそちらを向くと、ちりんと鈴が鳴り金色の筒から丸められた紙筒が落ちてきたところだった。
虎雄は大きな指で摘み上げ、片眉を上げる。次いで悲しげな表情を浮かべては朝日と羽鶴の両者へ眼を向けた。