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悲しい出来事は、にわか雨のように突然やってくる。
心中に宿っている雨雲を何とか消そうと試みながら、彼の家へと歩を進める。
図書館で出会い、常連同士意気投合して付き合う事になった彼の名前は河村拓哉さん。
今日はお互いお休みということで、お勧めの本でも交換するついでに彼のお家でまったりしようということになっている。
彼の事を考えることで消えていた雨雲が、また私の心を蝕みに戻ってきた。
いやいや、もう彼の家は目の前。ドアの前でいつも通りの笑顔を練習した後、チャイムを押した。
「いらっしゃい。」
「お邪魔します。」
何回か繰り返されたこのやり取りにも少し慣れてきた。
私の持ってきたお茶菓子と彼の持っているお茶をテーブルに並べ、
たわいもない話をしながら二人並んでソファーに腰掛けるこの瞬間は何とも言えない至福の時だ。
あの件がなければなあ…。
「で、どうしたの?」
「…え?」
「何かあったんでしょ。花子。」
「何にもないよ。えへへ、どうしたの急に。」
何て言ってごまかすけれど
「仮にも貴方の彼氏なのだから、もうちょっと頼ってくれてもいいんじゃない?」
神はぜーんぶお見通しなのです。嘘。
何て言われたらもう隠す事なんてできなくて。
少し年上の彼には、やっぱり敵わないな。
「実は…」
私は友達が非常に少ない。
それは、上辺だけの付き合い、
つまり、裏表を見ながらあっちともこっちともニコニコ仲良くできるような器用な付き合いができないからだ。
青臭いことを言うようだが、どうしても心と心のつながりが出来た相手としか仲良くできない。
その分、一度仲良くなった人とはとことん付き合う。
相手のどんな悩みも聞くし、自分も話す。
何があっても相手を助けたいし、自分もそう思われているという感覚があった。
まあ、まとめれば簡単だ。
学生時代仲良くしていた友達が急に音信不通になってしまったと。
出来る限りの手は尽くしたがどうにもならなかった。
普通の人ならそんなに傷つかないのかもしれないが、かけがえのない友だっただけに傷口がズキズキと痛む。
「まあ、こんな感じ。
ごめんね、突然こんな話して。
はい、暗い話はおしまい。」
パンッと手を打って話を変えようとしたが
全く雰囲気は変わらなかった。
「花子、頭触るね?」
「?うん。」
そう言った彼は隣に座る私の頭をそっと撫でた。
「よくがんばりました。100点満点。
…でもね、そんなに真面目に頑張り過ぎなくていいんだよ。
僕が言えた事じゃないけど、
あんまり真面目になり過ぎると僕みたいに心が擦り切れて壊れちゃうよ。」
僕みたいにね、と笑う彼の目があまりにも大人で美しくて、その手があまりにも白くて大きくて、涙がどこかへ飛んでいった。
「それと」
こてん、と彼が私の頭を彼の肩へ寄せる。
「僕は離れないから。
どれだけ時が経って何かが変わったとしても、
…万が一僕らの関係が変わったとしても、
僕はちゃんと花子のそばにいる。
絶対、離れていかないから。
だから安心して、ゆっくり休みな。」
片耳から柔らかい彼の声を聞き、
塞がった方のもう片耳から彼の骨を伝ってやってくるくぐもった声が身体に流れていく。
彼の儚い優しさが、
どんな思いも嘘にならない様に紡がれる言の葉のひとつひとつに込められた愛が
嬉しくて、愛おしくて、
今の私はこれに勝る言葉を知らない。
「拓哉さん、ありがとう。」
目を瞑って、彼の温もりを感じる。
彼の隣だったら、沈黙ですら心地よい。
「私も。ずっと拓哉さんのそばにいる。
『別れよう』なんて言ったって絶対別れてなんかあげないんだから。」
「おー。それは怖い怖い。」
不思議だ。
先程までの雨雲は嘘の様に去った快晴の中、しとしとと嬉し涙が心の中に降っていく。
穏やかな昼下がり。例えるなら狐の嫁入りといったところだろうか。
心中に宿っている雨雲を何とか消そうと試みながら、彼の家へと歩を進める。
図書館で出会い、常連同士意気投合して付き合う事になった彼の名前は河村拓哉さん。
今日はお互いお休みということで、お勧めの本でも交換するついでに彼のお家でまったりしようということになっている。
彼の事を考えることで消えていた雨雲が、また私の心を蝕みに戻ってきた。
いやいや、もう彼の家は目の前。ドアの前でいつも通りの笑顔を練習した後、チャイムを押した。
「いらっしゃい。」
「お邪魔します。」
何回か繰り返されたこのやり取りにも少し慣れてきた。
私の持ってきたお茶菓子と彼の持っているお茶をテーブルに並べ、
たわいもない話をしながら二人並んでソファーに腰掛けるこの瞬間は何とも言えない至福の時だ。
あの件がなければなあ…。
「で、どうしたの?」
「…え?」
「何かあったんでしょ。花子。」
「何にもないよ。えへへ、どうしたの急に。」
何て言ってごまかすけれど
「仮にも貴方の彼氏なのだから、もうちょっと頼ってくれてもいいんじゃない?」
神はぜーんぶお見通しなのです。嘘。
何て言われたらもう隠す事なんてできなくて。
少し年上の彼には、やっぱり敵わないな。
「実は…」
私は友達が非常に少ない。
それは、上辺だけの付き合い、
つまり、裏表を見ながらあっちともこっちともニコニコ仲良くできるような器用な付き合いができないからだ。
青臭いことを言うようだが、どうしても心と心のつながりが出来た相手としか仲良くできない。
その分、一度仲良くなった人とはとことん付き合う。
相手のどんな悩みも聞くし、自分も話す。
何があっても相手を助けたいし、自分もそう思われているという感覚があった。
まあ、まとめれば簡単だ。
学生時代仲良くしていた友達が急に音信不通になってしまったと。
出来る限りの手は尽くしたがどうにもならなかった。
普通の人ならそんなに傷つかないのかもしれないが、かけがえのない友だっただけに傷口がズキズキと痛む。
「まあ、こんな感じ。
ごめんね、突然こんな話して。
はい、暗い話はおしまい。」
パンッと手を打って話を変えようとしたが
全く雰囲気は変わらなかった。
「花子、頭触るね?」
「?うん。」
そう言った彼は隣に座る私の頭をそっと撫でた。
「よくがんばりました。100点満点。
…でもね、そんなに真面目に頑張り過ぎなくていいんだよ。
僕が言えた事じゃないけど、
あんまり真面目になり過ぎると僕みたいに心が擦り切れて壊れちゃうよ。」
僕みたいにね、と笑う彼の目があまりにも大人で美しくて、その手があまりにも白くて大きくて、涙がどこかへ飛んでいった。
「それと」
こてん、と彼が私の頭を彼の肩へ寄せる。
「僕は離れないから。
どれだけ時が経って何かが変わったとしても、
…万が一僕らの関係が変わったとしても、
僕はちゃんと花子のそばにいる。
絶対、離れていかないから。
だから安心して、ゆっくり休みな。」
片耳から柔らかい彼の声を聞き、
塞がった方のもう片耳から彼の骨を伝ってやってくるくぐもった声が身体に流れていく。
彼の儚い優しさが、
どんな思いも嘘にならない様に紡がれる言の葉のひとつひとつに込められた愛が
嬉しくて、愛おしくて、
今の私はこれに勝る言葉を知らない。
「拓哉さん、ありがとう。」
目を瞑って、彼の温もりを感じる。
彼の隣だったら、沈黙ですら心地よい。
「私も。ずっと拓哉さんのそばにいる。
『別れよう』なんて言ったって絶対別れてなんかあげないんだから。」
「おー。それは怖い怖い。」
不思議だ。
先程までの雨雲は嘘の様に去った快晴の中、しとしとと嬉し涙が心の中に降っていく。
穏やかな昼下がり。例えるなら狐の嫁入りといったところだろうか。