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大晦日の真昼間、世間一般の人々が大掃除や御節の準備に忙しなく街を歩く姿は「師走」という文字を彷彿とさせる。
地元香川への帰省組な上に初詣にも行かない私はそんな世間から取り残された様に、年中行事に目もくれず、ただひたすらに手汗の滲む手で目の前のLINE画面を観ては眉間に皺を寄せて悩んでいた。
「福良拳(本物)」
偽物と完全な区別化を測ろうとするのが彼らしいな、と微笑んでしまって思考がまた同じルーティンを辿っている事に気付いて首を振る。ダメだ私、早く結論を出さないと。
あの頃、私のとんでもない自意識過剰でなければ、高校生の私達は両思いだった。自作の謎解きをおすすめの本の中に挟んで出し合ったり、テスト範囲の分からない所をこっそり教えて貰った日々が懐かしい。
ただ、付き合えた訳では無い。頭の固い先生方は「恋愛は受験の邪魔」「恋愛は校内の風紀を乱す」というお決まりの常套句で生徒の恋愛に目くじらを立てまくっていた。全国トップクラスの成績を取り続ける彼と何とか着いていっている私が付き合えばどうなるかなんて言わずもがな。高校生クイズに出場した事による彼の人気度の急上昇もあったけれど、やはり最たる悪手は私が地元の大学に進んだ事だろう。結局彼を追って、東京の大学院に進学したのだけれど。
懐古はさておき、ラジオで地元に帰ると聞いた時、心臓が止まるかと思った。貴方に伝えたい事が山程ある。あの時言えなかった事、今だから言える事、きっと今日を逃したら一生チャンスはないだろう。会いたい、ただ純粋に。
しかし、大晦日に数年音沙汰のない人に突然連絡を入れるという無礼がチキンな私に出来る筈もなく、「これで彼がいなかったら縁が無かったんだ。忘れよう。」なんて出来るはずも無い無謀な願掛けをして、何となく彼との思い出の場所である学校へと足を進めた。
まあ、当然だけれど校門は閉まっていた。愚行だったなと思いつつ、どうせならと少し遠くにある校内を眺める。うわ、あの石碑やっぱりまだあるんだ。あ、図書室のカーテンの色変わったんだ。私たちの時ちょっとカビが来てたからなあ。
「花子ちゃん?」
聞き馴染んだ声にふと振り返ると、
「えっ…ふくらくん?」
まさかの出来事を認識するのには一瞬の間が要った。
画面越しで遠くに感じていた彼が目の前に現れた困惑と、あのころと何ら変わらない笑顔に心拍数が上昇する。
「やっぱり!なんだか昔の雰囲気に似てて。
思わず声かけちゃった。」
えへへ。と笑って貰えると私も心が解れて
「お久しぶり。
ふくらくんも全然変わってないね〜。
って言っても私は動画でしょっちゅう観てるんだけど。」
なんて先程までの苦悩が嘘のように舌が回る。
「え!見てくれてるんだ!
嬉しいけどすげー恥ずかしい。」
あ、やっぱり感情が高ぶると男っぽい話し方になるの、あの頃と一緒。
立ち話も何だからって入った近くのファミレスから出る頃には、
オフィスと私の現住所が近いだの
やっぱり年越しは讃岐うどんだよねだのあの会社の脱出ゲームはトリックの構成が好きだの話した私達は何となくあの頃の雰囲気をちょっぴり超越していた。
「ごめん。俺、親戚が待ってるからもうすぐ行くわ。」
帰ると先に言ったのはふくらくんなのにいつの間にか会計を済ませて今車道側に立って家まで送ってくれるなんて、本当に彼は出来過ぎた男だ。
今年もあと数時間か。
ああ、家に着いてしまう。
きっともう次なんて、ない。
「もう、ここで大丈夫。」
「え?うん。」
これ以上一緒にいたらきっと泣いてしまう。
もう一生会えないと思っていたのにこんなに話せたなんて、あんまりに至福過ぎた。
「今日は本当にありがとう。すっごく楽しかった。動画、また観るね!」
「何、なんかもうこれからずっと会わないみたいじゃん(笑)じゃあ、また。着いたら連絡頂戴?」
笑いながら言ってくれるから
なんだか本当に次が実現しそうで私も笑顔で頷いた。
あと少しの家路を歩きながら話した内容を反芻する。
本当、学校に行ってよかった。…学校に行って……?
踵を返して走り出す。なんで気付かなかったんだろう。声かけてくれた彼の耳は少し赤くなっていた。
「ふくらくんっ!」
「うわあっ!びっくりした、どうしたの突然?」
息切れしたまま突然手首を掴んでしまえば驚かれるのも当然だ。
「ああ、ごめんっ。はぁはぁ。
私っ、ふくらくんにっ、言い忘れたっ、事があってっ。」
うん、どうしたの落ち着いて?と背中を摩ってくれる彼の反対の手も掴んでしまう。
「私、私も、今日ふくらくんに会うためだけに学校に行ったの。」
離れても別の場所に行っても貴方より好きな人なんて現れなかった。私、本当はずっと拳くんの事が好きだった。
なんてドラマ程にベタな言葉は流石に続けて言えなかったけれど、1番伝えたかった思いは伝えられた。
顔を上げて目が合うと彼はにっこりと笑う。
「わざわざ伝えに来てくれてありがとね。
実は、俺もずっと花子ちゃんに言いそびれたことがあるんだ。」
「え、何?」
「高校の頃からずっと好きだった。
俺と付き合ってください。」
頷いた私を、彼は優しく抱きしめた。
地元香川への帰省組な上に初詣にも行かない私はそんな世間から取り残された様に、年中行事に目もくれず、ただひたすらに手汗の滲む手で目の前のLINE画面を観ては眉間に皺を寄せて悩んでいた。
「福良拳(本物)」
偽物と完全な区別化を測ろうとするのが彼らしいな、と微笑んでしまって思考がまた同じルーティンを辿っている事に気付いて首を振る。ダメだ私、早く結論を出さないと。
あの頃、私のとんでもない自意識過剰でなければ、高校生の私達は両思いだった。自作の謎解きをおすすめの本の中に挟んで出し合ったり、テスト範囲の分からない所をこっそり教えて貰った日々が懐かしい。
ただ、付き合えた訳では無い。頭の固い先生方は「恋愛は受験の邪魔」「恋愛は校内の風紀を乱す」というお決まりの常套句で生徒の恋愛に目くじらを立てまくっていた。全国トップクラスの成績を取り続ける彼と何とか着いていっている私が付き合えばどうなるかなんて言わずもがな。高校生クイズに出場した事による彼の人気度の急上昇もあったけれど、やはり最たる悪手は私が地元の大学に進んだ事だろう。結局彼を追って、東京の大学院に進学したのだけれど。
懐古はさておき、ラジオで地元に帰ると聞いた時、心臓が止まるかと思った。貴方に伝えたい事が山程ある。あの時言えなかった事、今だから言える事、きっと今日を逃したら一生チャンスはないだろう。会いたい、ただ純粋に。
しかし、大晦日に数年音沙汰のない人に突然連絡を入れるという無礼がチキンな私に出来る筈もなく、「これで彼がいなかったら縁が無かったんだ。忘れよう。」なんて出来るはずも無い無謀な願掛けをして、何となく彼との思い出の場所である学校へと足を進めた。
まあ、当然だけれど校門は閉まっていた。愚行だったなと思いつつ、どうせならと少し遠くにある校内を眺める。うわ、あの石碑やっぱりまだあるんだ。あ、図書室のカーテンの色変わったんだ。私たちの時ちょっとカビが来てたからなあ。
「花子ちゃん?」
聞き馴染んだ声にふと振り返ると、
「えっ…ふくらくん?」
まさかの出来事を認識するのには一瞬の間が要った。
画面越しで遠くに感じていた彼が目の前に現れた困惑と、あのころと何ら変わらない笑顔に心拍数が上昇する。
「やっぱり!なんだか昔の雰囲気に似てて。
思わず声かけちゃった。」
えへへ。と笑って貰えると私も心が解れて
「お久しぶり。
ふくらくんも全然変わってないね〜。
って言っても私は動画でしょっちゅう観てるんだけど。」
なんて先程までの苦悩が嘘のように舌が回る。
「え!見てくれてるんだ!
嬉しいけどすげー恥ずかしい。」
あ、やっぱり感情が高ぶると男っぽい話し方になるの、あの頃と一緒。
立ち話も何だからって入った近くのファミレスから出る頃には、
オフィスと私の現住所が近いだの
やっぱり年越しは讃岐うどんだよねだのあの会社の脱出ゲームはトリックの構成が好きだの話した私達は何となくあの頃の雰囲気をちょっぴり超越していた。
「ごめん。俺、親戚が待ってるからもうすぐ行くわ。」
帰ると先に言ったのはふくらくんなのにいつの間にか会計を済ませて今車道側に立って家まで送ってくれるなんて、本当に彼は出来過ぎた男だ。
今年もあと数時間か。
ああ、家に着いてしまう。
きっともう次なんて、ない。
「もう、ここで大丈夫。」
「え?うん。」
これ以上一緒にいたらきっと泣いてしまう。
もう一生会えないと思っていたのにこんなに話せたなんて、あんまりに至福過ぎた。
「今日は本当にありがとう。すっごく楽しかった。動画、また観るね!」
「何、なんかもうこれからずっと会わないみたいじゃん(笑)じゃあ、また。着いたら連絡頂戴?」
笑いながら言ってくれるから
なんだか本当に次が実現しそうで私も笑顔で頷いた。
あと少しの家路を歩きながら話した内容を反芻する。
本当、学校に行ってよかった。…学校に行って……?
踵を返して走り出す。なんで気付かなかったんだろう。声かけてくれた彼の耳は少し赤くなっていた。
「ふくらくんっ!」
「うわあっ!びっくりした、どうしたの突然?」
息切れしたまま突然手首を掴んでしまえば驚かれるのも当然だ。
「ああ、ごめんっ。はぁはぁ。
私っ、ふくらくんにっ、言い忘れたっ、事があってっ。」
うん、どうしたの落ち着いて?と背中を摩ってくれる彼の反対の手も掴んでしまう。
「私、私も、今日ふくらくんに会うためだけに学校に行ったの。」
離れても別の場所に行っても貴方より好きな人なんて現れなかった。私、本当はずっと拳くんの事が好きだった。
なんてドラマ程にベタな言葉は流石に続けて言えなかったけれど、1番伝えたかった思いは伝えられた。
顔を上げて目が合うと彼はにっこりと笑う。
「わざわざ伝えに来てくれてありがとね。
実は、俺もずっと花子ちゃんに言いそびれたことがあるんだ。」
「え、何?」
「高校の頃からずっと好きだった。
俺と付き合ってください。」
頷いた私を、彼は優しく抱きしめた。