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妄想

終焉の途中

---私は賽を振った。
何度賽を振っても変わらない数値。おお、重りが下についていたではないか。道理で同じ値がでるわけだ。

何度も試行錯誤して振ったが、結局は無駄だったということだったのだ。
やれやれ、気づくのにどれだけ時間が掛かったか。もう、ここで終わることだろう。
---

私は歩きだした。周囲は白い空間が広がっている。時々黒い靄が見える。不気味だから近づかないのだが、ある時は靄が近づきすり抜けて、ある時は逃げ惑うものもいて、あるいは一人で踊っているものもいる。

その靄達は決して他者のことを考えてはいないのだろう。ただ、自分のためだけに存在する。
こちらとしては黒い靄の動向を気にしているが、まるで私自身も自分のことを傷つくのを恐れて、自分のことだけを考えていると思うと、自分のことばかり考えている黒い靄と同じ思考だと考え、それに不快感を覚える。

私は興味深い所を見つけて、近づいてみることにした。
どうやらババ抜きをしているらしい。正確には、ジジ抜きだ。ジジ抜きというのは、トランプの中からランダムに1枚取り出して、あとはババ抜きと同じ要領だ。これは何がジョーカーか分からないので面白い。

「負けちまったよ!最悪だよ!」と言って笑う声。参加していた他の3人も笑っている。
負けて悔しい靄と楽しかった別の靄達もまたやりはじめた。

その場を離れると、チェスをしている靄達がいたので遠目から見ることにした。
チェスの駒が残り僅かになっていた。終盤なのだろうか。片方が神妙に考えているらしく、腕を顎に触れさせている。
チェスのルールは確かチェックメイトとなったら勝ちである。チェックメイトいうのは将棋でいう詰みである。私は曖昧にしかルールを知らなかったので興味が起こらずその場を立ち去った。

「チンチロリンやりませんか」

靄が背後にいたので驚いた。
私は簡単なルールだと思って参加してみることにした。

「3本勝負です。負けたらあなたの大事なものを暴露していただきます」

やってやろうじゃないか。
さあ賽を振った。あれ、これは不利だぞ。

「私の番ですね」

やはり負けてしまった。

「では、大事な話を一つ」

持ち越すことにしたら「それもいいでしょう」と許しをもらえたのでもう一度振ってみることにした。しかし、三回以上しても同じ数値しか出ないのだ。そこでずるをしていたことに気がついた。

「しかし、乗ったのはあなたです。大事な話を二つ話してください」

しばし考えた後、私は語ることにした。
一つ目は、なぜ人は死ぬことは知っているのに、生きるとはどういうことなのかと考えているということ。
二つ目は、なぜ人は無意識に最も幸せな者になりたがるのか。
二つを語ると、黒い靄は考え込んだ。そして告げた。

「それが生きるということなのでしょう」

黒い靄が霞んできた。もう時間らしい。

「ではまた会いましょう」

胡散臭いチンチロリン馬鹿は嫌いだが、良い言葉をもらった。
霞みゆく黒い靄達を見て、私もまた、住処で休むことにした。

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