ギャングと泥棒
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Ⅳ
落書きだらけの古びたビルの正面に、愛用のベスパを停める。くたびれた階段を上がって押したインターホンはすぐに応答した。
「Chi è?」
「私。誰か運ぶの手伝ってくれる?」
ほどなくして開いたドアから現れた人物を見て、レイアは目を見張った。
「ギアッチョ?」
「・・・ンだよそのツラ。俺じゃあ不服だってェのかよ?」
赤いウェリントンフレームの眼鏡の下から、アイスブルーの瞳がジロリとレイアを見下ろす。
「まさか!ペッシあたりが来るかと思ったから、意外だっただけ。久しぶりね。」
言いながら軽くハグすると、結構強い力で返されて、また少しだけ驚く。レイアは抱きついたまま、くすりと笑っていて彼を見上げた。
「ギアッチョ、コレ持っても大丈夫?溶けたりしない?」
「・・・溶けるかよアホが。」
そんなぶっきらぼうな言葉と共に、彼は、目をそらしながら彼女を引き離した。
ギアッチョに保温ボックスを持ってもらって、中は案外綺麗に掃除されているビルの階段を登って2階へ。すると、仕立ての良いスーツを絶妙に着崩した男が、開け放したリビングのドアに寄りかかっていた。
「遅かったじゃあねえか、レイア。」
「Ciao!プロシュート。」
100万回繰り返したかのように手慣れた仕草で腰を抱かれ、頬にキスされる。ふわりと鼻腔をくすぐる煙草と香水の薫り。不快に感じるどころか、腰が砕けそうになるほど色気を感じるのはなぜだろう。イケメンは薫りすらイケメンだ。
「・・・おい!どこに置きゃあいいんだよ!」
先に部屋に入っていたギアッチョが苛立たしげに怒鳴った。レイアはローテーブルに置くようお願いしながら、プロシュートを振り向いて目と身振りで訴える。
ーー彼、機嫌悪いの?
すると、プロシュートは肩をすくめた。が、形のいい厚めの唇は含んだ笑みをたたえている。そのまま彼は、煙草をくわえながらソファに腰を下ろした。彼女は、なんとなくごまかされたような気がしつつ、自分の仕事に取りかかる。今日は人数が少ない。任務だろうか。
「はいメローネ。こっちはギアッチョ。これはプロシュートで、、、」
カップに付けた目印を確認しながら渡して行く。
「ペッシはこれね、特製ミルクラテ。」
「グラッツェ!」
申し訳程度にエスプレッソを垂らしたカフェラテ(?)を渡すと、ペッシは嬉しそうに受け取った。エスプレッソは苦くて飲めないけど、ミルクを頼むと兄貴にどやされるんだよなァ、、、そんな話を聞いて以来、レイアは特別な甘いカフェラテを彼に作ってあげている。
「オイ、あんまりペッシを甘やかすんじゃあねえよ、レイア。」
と、プロシュートが呆れたように言った。
「いいじゃない。好きなのを飲めば。」
「いつまでもマンモーニでいられても困るんだよ。」
プロシュートの言わんとすることもわかる。外でミルクを頼んでいたら、そりゃあ、一緒にいるメンバーだって格好がつかないだろう。そこに気が回らない点は、ペッシはまだ一人前ではないのかもしれない。
けれど、せめて今みたいな時にはーーー。
レイアは、ペッシのツルツルの後頭部を撫でながら笑った。
「ふふっ。マードレは厳しいですねー。」
「ババアにしてやろうか?」
それは、やだ。
その時、奥の部屋に通じるドアがガチャリと開いた。
「騒がしいと思ったら・・・レイアか。」
リゾットの声は独特だ。
押さえつけたように低くこもっているのに、ひとことひとことが存在感をもって耳に届く。人を自然と緊張させる。常に怜悧に輝く瞳と共にその声は、まるで生まれた時からそうであるかのように彼に馴染んでしまっていた。
・・・そう。彼の牙城は崩れない。私を抱く時でさえも。
リゾットとの付き合いは長い。
若い頃、私のおじいちゃんにとっても世話になったとかで、義理堅い彼は私のことまで何かと気にかけてくれた。おじいちゃんが、<家業>を引退して、私が後を継ぐようになってからも、ずっと。
リゾットは一人用のソファに大きな体躯を埋める。彫りの深い顔立ちに銀髪が陰を作って、少しだけ疲れているように見える。また徹夜でもしたのだろうか。
シチリアの老舗カフェから特別に譲ってもらっている豆を使った、カッフェ・アマーロを彼に手渡しながら尋ねる。
「忙しいの?」
「・・・大したことはない。」
まあ、そう言うと思ったけど。
レイアは半ばあきらめの心境で、保温ボックスを片付け始める。
「朝、電話に出た男は誰だ?」
唐突な質問に思わず手を止めて、彼女は振り返った。リゾットはカップに口をつけながら、その視線は手に持った書類を辿っている。120%普段通りの彼だった。
「ブローノ・ブチャラティ。」
ーーこのタイミングできく?
内心溜め息をつきながらそう答えた途端、メローネが叫んだ。
「ブチャラティって、あのポルポの飼い犬か!?うっわマジかよ!レイア、あいつとヤッたのか?」
「ーッブハァ!!」
「オイペッシ!馬鹿野郎、汚えな!」
「ご、ごめん・・・」
レイアは苦笑して、ラテを吹き出したペッシに紙ナプキンを渡しながら、
「飼い犬なんて言わないでよ、メローネ。彼、なかなかいい男よ?」
「俺とは寝てくれないのになんで・・・ディ・モールト悲しいぜ、、、」
人の話はスルーなの?
「いや、あなたのことはおもしろいから好きだけど、まだ性の深淵を知る勇気ないから。」
「要するに、変態はお断りってことだ。」
と、ニヤリと笑ってプロシュートが言うと、メローネは大げさに肩を落とす。
「レイア、せめて、ブチャラティの血液サンプルを採ってー」
「普通に無理。」
少しでいいから!と、懇願するメローネを無視して、質問をした張本人にちらりと目をやると、さっきと同じ姿勢で書類を眺めたままだ。相手がわかった途端、この話題には興味をなくしてしまったようだ。
リゾットは、私が誰と寝ようと気にしないし、私もそうだ。彼は確かに私を大切に思っているし、私も、彼を大切に思っているけれど。恋愛感情というより、もしかすると家族愛に近いのかもしれない。
「じゃ。みんな、次はご来店お待ちしてます。」
「ーレイア。」
部屋を出て行く直前、リゾットの声が呼び止める。彼女が振り返ると、彼は書類から顔を上げた。
「ポルポは他人の命をゴミのように使い捨てにして幹部までのし上がった奴だ。隙を見せるんじゃあないぞ。」
鋭く真剣な眼ざしがレイアをとらえる。彼女はふっと笑って頷いた。
「・・・わかってる。」
♢
「おい、ギアッチョ。」
ベスパのエンジン音が遠ざかっていく中、プロシュートはゆったりとした動作で煙草に火を点ける。
「俺たちを凍死させてえのか?スタンド解除しろよ。」
「ー!!・・・るせェクソが!」
ペッシはそっとギアッチョを盗み見る。彼の手の中のカップが完全に凍りついていた。
・・・道理で、少しひんやりすると思った。スタンドを出してるってこと、自分で気がついてなかったのか?
「クソッ!!」
ギアッチョが床にカップを叩きつける。茶色い氷の塊がバラバラになって弾け飛び、ペッシは、もったいないと思った。せっかく、レイアが店で作って持って来てくれたのに。
ギアッチョがキレて物にあたるのはしょっちゅうなので、他のメンバーは平然と自分のしたいことをしている。こんな時、気の弱いペッシだけが、なんだか居心地の悪い思いをする。
「ギアッチョ。」
ーーゾクッ、とした。
ドスドスと床を踏み鳴らして出て行こうとしたギアッチョを呼び止めた、その声の有無を言わせぬ低い響きのせいで、背筋が。
「・・・何だよ、リゾット。」
「手を出すのはかまわない。ただし傷つけるな。レイアを傷つけたらその時はーー、わかってるな?」
ペッシは、ゴクリと唾を飲み込む。
部屋の空気が張り詰め、温度が急に下がった気がした。さっき、ホワイト・アルバムが出ていた時よりも。
「いいな、ギアッチョ。」
「・・・ああ。」
ギアッチョは振り向かずに答えると部屋を出て行った。やがて上の階からドアが乱暴に閉まる音が届く。そして、何事もなかったようにリゾットも仕事部屋に戻って行くと、ペッシはようやく大きく息を吐いた。
「でもさ〜、リゾットも残酷なこと言うよなァ。いっそのこと手を出すなって言われた方が気が楽でしょ、ギアッチョも。たぶん最初は軽い気持ちでヤッちまったんだろうけど。あいつみたいに不器用な奴には向いてないよな〜、レイアみたいなタイプは。彼女、無自覚に男をのめり込ませるタイプじゃん。」
と、メローネがベイビィ・フェイスのキィを叩きながら言う。
「女慣れしてねェからな、ギアッチョの奴は。」
・・・兄貴と違って。と、ペッシは心の中でプロシュートのセリフに付け足した。
初めは、レイアはリゾットの恋人なのかと思っていた。しかしそうではないらしい。チームのメンバーの誰かが彼女を誘うのは自由で(もちろん自分にそんな勇気はないけれど)、彼女も気が向けば応じた。リーダーが部下たちに命じたのはひとつだけ。<彼女がいやがることは強制するな>。それを破ったら、たとえ仲間でも殺す、と。
プロシュートも時々レイアと二人で会っている。女なんてよりどりみどりにも関わらず、その日は普段より少しだけ機嫌がいいことをペッシは知っている。
「おい、ペッシ。」
「はいいっ!?」
「・・・」
心の中を読まれたかと思って、ペッシは飛び上がる。そんな自分に無言で圧をかけるプロシュート。やがて濡れた床に視線を向け軽く顎をしゃくった。
「汚え。片づけておけ。」
やっぱり俺か・・・と、ペッシは肩を落とすのだった。
落書きだらけの古びたビルの正面に、愛用のベスパを停める。くたびれた階段を上がって押したインターホンはすぐに応答した。
「Chi è?」
「私。誰か運ぶの手伝ってくれる?」
ほどなくして開いたドアから現れた人物を見て、レイアは目を見張った。
「ギアッチョ?」
「・・・ンだよそのツラ。俺じゃあ不服だってェのかよ?」
赤いウェリントンフレームの眼鏡の下から、アイスブルーの瞳がジロリとレイアを見下ろす。
「まさか!ペッシあたりが来るかと思ったから、意外だっただけ。久しぶりね。」
言いながら軽くハグすると、結構強い力で返されて、また少しだけ驚く。レイアは抱きついたまま、くすりと笑っていて彼を見上げた。
「ギアッチョ、コレ持っても大丈夫?溶けたりしない?」
「・・・溶けるかよアホが。」
そんなぶっきらぼうな言葉と共に、彼は、目をそらしながら彼女を引き離した。
ギアッチョに保温ボックスを持ってもらって、中は案外綺麗に掃除されているビルの階段を登って2階へ。すると、仕立ての良いスーツを絶妙に着崩した男が、開け放したリビングのドアに寄りかかっていた。
「遅かったじゃあねえか、レイア。」
「Ciao!プロシュート。」
100万回繰り返したかのように手慣れた仕草で腰を抱かれ、頬にキスされる。ふわりと鼻腔をくすぐる煙草と香水の薫り。不快に感じるどころか、腰が砕けそうになるほど色気を感じるのはなぜだろう。イケメンは薫りすらイケメンだ。
「・・・おい!どこに置きゃあいいんだよ!」
先に部屋に入っていたギアッチョが苛立たしげに怒鳴った。レイアはローテーブルに置くようお願いしながら、プロシュートを振り向いて目と身振りで訴える。
ーー彼、機嫌悪いの?
すると、プロシュートは肩をすくめた。が、形のいい厚めの唇は含んだ笑みをたたえている。そのまま彼は、煙草をくわえながらソファに腰を下ろした。彼女は、なんとなくごまかされたような気がしつつ、自分の仕事に取りかかる。今日は人数が少ない。任務だろうか。
「はいメローネ。こっちはギアッチョ。これはプロシュートで、、、」
カップに付けた目印を確認しながら渡して行く。
「ペッシはこれね、特製ミルクラテ。」
「グラッツェ!」
申し訳程度にエスプレッソを垂らしたカフェラテ(?)を渡すと、ペッシは嬉しそうに受け取った。エスプレッソは苦くて飲めないけど、ミルクを頼むと兄貴にどやされるんだよなァ、、、そんな話を聞いて以来、レイアは特別な甘いカフェラテを彼に作ってあげている。
「オイ、あんまりペッシを甘やかすんじゃあねえよ、レイア。」
と、プロシュートが呆れたように言った。
「いいじゃない。好きなのを飲めば。」
「いつまでもマンモーニでいられても困るんだよ。」
プロシュートの言わんとすることもわかる。外でミルクを頼んでいたら、そりゃあ、一緒にいるメンバーだって格好がつかないだろう。そこに気が回らない点は、ペッシはまだ一人前ではないのかもしれない。
けれど、せめて今みたいな時にはーーー。
レイアは、ペッシのツルツルの後頭部を撫でながら笑った。
「ふふっ。マードレは厳しいですねー。」
「ババアにしてやろうか?」
それは、やだ。
その時、奥の部屋に通じるドアがガチャリと開いた。
「騒がしいと思ったら・・・レイアか。」
リゾットの声は独特だ。
押さえつけたように低くこもっているのに、ひとことひとことが存在感をもって耳に届く。人を自然と緊張させる。常に怜悧に輝く瞳と共にその声は、まるで生まれた時からそうであるかのように彼に馴染んでしまっていた。
・・・そう。彼の牙城は崩れない。私を抱く時でさえも。
リゾットとの付き合いは長い。
若い頃、私のおじいちゃんにとっても世話になったとかで、義理堅い彼は私のことまで何かと気にかけてくれた。おじいちゃんが、<家業>を引退して、私が後を継ぐようになってからも、ずっと。
リゾットは一人用のソファに大きな体躯を埋める。彫りの深い顔立ちに銀髪が陰を作って、少しだけ疲れているように見える。また徹夜でもしたのだろうか。
シチリアの老舗カフェから特別に譲ってもらっている豆を使った、カッフェ・アマーロを彼に手渡しながら尋ねる。
「忙しいの?」
「・・・大したことはない。」
まあ、そう言うと思ったけど。
レイアは半ばあきらめの心境で、保温ボックスを片付け始める。
「朝、電話に出た男は誰だ?」
唐突な質問に思わず手を止めて、彼女は振り返った。リゾットはカップに口をつけながら、その視線は手に持った書類を辿っている。120%普段通りの彼だった。
「ブローノ・ブチャラティ。」
ーーこのタイミングできく?
内心溜め息をつきながらそう答えた途端、メローネが叫んだ。
「ブチャラティって、あのポルポの飼い犬か!?うっわマジかよ!レイア、あいつとヤッたのか?」
「ーッブハァ!!」
「オイペッシ!馬鹿野郎、汚えな!」
「ご、ごめん・・・」
レイアは苦笑して、ラテを吹き出したペッシに紙ナプキンを渡しながら、
「飼い犬なんて言わないでよ、メローネ。彼、なかなかいい男よ?」
「俺とは寝てくれないのになんで・・・ディ・モールト悲しいぜ、、、」
人の話はスルーなの?
「いや、あなたのことはおもしろいから好きだけど、まだ性の深淵を知る勇気ないから。」
「要するに、変態はお断りってことだ。」
と、ニヤリと笑ってプロシュートが言うと、メローネは大げさに肩を落とす。
「レイア、せめて、ブチャラティの血液サンプルを採ってー」
「普通に無理。」
少しでいいから!と、懇願するメローネを無視して、質問をした張本人にちらりと目をやると、さっきと同じ姿勢で書類を眺めたままだ。相手がわかった途端、この話題には興味をなくしてしまったようだ。
リゾットは、私が誰と寝ようと気にしないし、私もそうだ。彼は確かに私を大切に思っているし、私も、彼を大切に思っているけれど。恋愛感情というより、もしかすると家族愛に近いのかもしれない。
「じゃ。みんな、次はご来店お待ちしてます。」
「ーレイア。」
部屋を出て行く直前、リゾットの声が呼び止める。彼女が振り返ると、彼は書類から顔を上げた。
「ポルポは他人の命をゴミのように使い捨てにして幹部までのし上がった奴だ。隙を見せるんじゃあないぞ。」
鋭く真剣な眼ざしがレイアをとらえる。彼女はふっと笑って頷いた。
「・・・わかってる。」
♢
「おい、ギアッチョ。」
ベスパのエンジン音が遠ざかっていく中、プロシュートはゆったりとした動作で煙草に火を点ける。
「俺たちを凍死させてえのか?スタンド解除しろよ。」
「ー!!・・・るせェクソが!」
ペッシはそっとギアッチョを盗み見る。彼の手の中のカップが完全に凍りついていた。
・・・道理で、少しひんやりすると思った。スタンドを出してるってこと、自分で気がついてなかったのか?
「クソッ!!」
ギアッチョが床にカップを叩きつける。茶色い氷の塊がバラバラになって弾け飛び、ペッシは、もったいないと思った。せっかく、レイアが店で作って持って来てくれたのに。
ギアッチョがキレて物にあたるのはしょっちゅうなので、他のメンバーは平然と自分のしたいことをしている。こんな時、気の弱いペッシだけが、なんだか居心地の悪い思いをする。
「ギアッチョ。」
ーーゾクッ、とした。
ドスドスと床を踏み鳴らして出て行こうとしたギアッチョを呼び止めた、その声の有無を言わせぬ低い響きのせいで、背筋が。
「・・・何だよ、リゾット。」
「手を出すのはかまわない。ただし傷つけるな。レイアを傷つけたらその時はーー、わかってるな?」
ペッシは、ゴクリと唾を飲み込む。
部屋の空気が張り詰め、温度が急に下がった気がした。さっき、ホワイト・アルバムが出ていた時よりも。
「いいな、ギアッチョ。」
「・・・ああ。」
ギアッチョは振り向かずに答えると部屋を出て行った。やがて上の階からドアが乱暴に閉まる音が届く。そして、何事もなかったようにリゾットも仕事部屋に戻って行くと、ペッシはようやく大きく息を吐いた。
「でもさ〜、リゾットも残酷なこと言うよなァ。いっそのこと手を出すなって言われた方が気が楽でしょ、ギアッチョも。たぶん最初は軽い気持ちでヤッちまったんだろうけど。あいつみたいに不器用な奴には向いてないよな〜、レイアみたいなタイプは。彼女、無自覚に男をのめり込ませるタイプじゃん。」
と、メローネがベイビィ・フェイスのキィを叩きながら言う。
「女慣れしてねェからな、ギアッチョの奴は。」
・・・兄貴と違って。と、ペッシは心の中でプロシュートのセリフに付け足した。
初めは、レイアはリゾットの恋人なのかと思っていた。しかしそうではないらしい。チームのメンバーの誰かが彼女を誘うのは自由で(もちろん自分にそんな勇気はないけれど)、彼女も気が向けば応じた。リーダーが部下たちに命じたのはひとつだけ。<彼女がいやがることは強制するな>。それを破ったら、たとえ仲間でも殺す、と。
プロシュートも時々レイアと二人で会っている。女なんてよりどりみどりにも関わらず、その日は普段より少しだけ機嫌がいいことをペッシは知っている。
「おい、ペッシ。」
「はいいっ!?」
「・・・」
心の中を読まれたかと思って、ペッシは飛び上がる。そんな自分に無言で圧をかけるプロシュート。やがて濡れた床に視線を向け軽く顎をしゃくった。
「汚え。片づけておけ。」
やっぱり俺か・・・と、ペッシは肩を落とすのだった。