ギャングと泥棒
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Ⅲ
「ん・・・」
ぼんやりとした視界に映ったのは、見慣れない壁紙とチェストの上のサンタ・クローチェの空き瓶。次に感じたのは、背後から腰に巻きつくすらりと長い腕の重みと、背中に密着する素肌の温もり。
最後に、規則正しい静かな寝息が耳に届くと、レイアは片手で目を覆った。
「・・・」
ーーやっちゃった。うん、文字通りに。
食事に行って、部屋に来てーー・・・アレコレ思い出した途端に、ズシリ、と鈍い腰の痛みとともに、全身に気だるさが襲ってくる。
腰が痛い、、、だって、何回シた?2回、3回、いやもっと?普段は、性欲なんてなさそうな涼しい顔してるくせに。いつミネラルウォーターを飲んだのかすら記憶が危うい。何度目か致した後、飲ませてもらったような気もする、なんとなく。ほとんど気絶するように寝ちゃったんじゃあないかしら、私。
・・・ものすごく良かったけど、ね。控えめに言っても。
少しだけ身体を動かして背後を見る。
ブチャラティは、レイアを抱きしめるようにして眠っていた。彼の右の腕は枕とレイアの首の間に通り、左腕は彼女の腰から腹にからみついている。まるで彼の腕の中に閉じ込められているようだ。
・・・相手が恋人じゃあなくても、いつも彼はこんなふうに朝を迎えるのかしら。だとしたら罪作りな男。たいていの女は誤解してしまうだろう。
身体に巻きつく腕をそっと持ち上げ、ベッドから出ようとした、その時、
「ーBuon giorno、tesoro.」
寝起きの少しかすれた声と同時に、ぐっと力がこもった腕がレイアをシーツの波間に引き戻す。
「・・・ベッドに置き去りか?つれないな。」
今度は、正面からレイアをすっぽり抱きしめる。何ひとつ身に付けていない裸の身体と身体がぴたりと密着する。お互いの肌の温もりが心地いい。ブチャラティは満足げに微笑んで彼女の額にキスした。
ーーだから、そんなところが罪なのよ・・・
そう思いながら目を伏せる。男らしい筋肉をまとった厚い胸板。ウエストのくびれから尖った腰骨にかけて腰のラインが、溜め息が出るほどセクシュアルだ。この美しい肉体にひと晩中抱かれたなんて、信じられない。
「・・・シャワーを借りようと思ったの。」
「一緒に使おう。」
「だめ。」
「なんでだ?」
「シャワーだけじゃあすまないもの、きっと。」
触れるだけのキスをレイアに落としながら、くっくっ、と、ブチャラティは喉で笑った。
「鋭いな、レイア。」
「もう無理。誰かさんのせいで身体中が痛いわ。あなたってどれだけタフなの?」
「君のせいだろ、それは。」
「・・・だとしても、少しは加減して欲しいわ。」
「ゆうべは無理って言いながら付き合ってくれただろ?最高に可愛かったぜ、体力つけろよ。」
レイアは顔を赤らめながらわざと乱暴にブランケットをブチャラティの頭にかける。その隙に起き上がると、ベッドの下に脱ぎ捨てられていた彼のシャツを羽織った。
「・・・泥棒に逃げられたな。」
ちらりと肩越しに見やると、ブチャラティは枕に肘をついてくすくす笑って彼女を見ていた。ブルーブラックの細く柔らかな髪がくしゃくしゃに乱れているのも気にせず、無防備な笑顔。それを見て、不覚にもレイアの心臓はどきんと鳴った。
**********
髪を簡単に乾かしてリビングに戻ると、ひやりとした新鮮な空気を感じた。朝と昼の合間の中途半端な時間。開いた窓から斜めに差し込む光が眩しい。キッチンではマキネッタが香ばしい薫りをさせていた。
ブチャラティが歩み寄り、カップをレイアに渡す。そのまま彼は、お礼を言って受け取った彼女をじっと見つめた。
「?どうしたの?」
「ん?ああ、何でもない。君はやっぱり綺麗だと思ってな。」
と、真顔で言って彼はバスルームに消えた。
置き去りにされたレイアは、脱力してソファに沈没する。
ーーもう、ほんと・・・なに?アレ。天然なの?天然のタラシなの?
気を取り直すようにカップに口をつける。苦くて甘いエスプレッソ。ダークローストを好む南部にしては苦味と酸味のバランスがとれている。美味しい。
ふう、と、息をついて周りを見る。
昨夜も思ったけど、すっきりした部屋。必要最小限のシンプルなインテリア。余分な物がほとんど無い。強いて言うなら、壁にかけられたいくつかの海の写真ぐらいだろうか。
ブチャラティは、海が好きなのかしら・・・
写真を眺めながらしばらくぼんやりしていると、テーブルの上にいつの間にか置かれていたレイアのクラッチバッグの中から、ブルブルとくぐもった音が聞こえた。
「ーPronto?」
反射的に電話に出ると、耳に届いたのはよく知った声。
「え?・・・大丈夫よ、仕事じゃあないから。まあ、そうね。そんなとこ。ごめんなさい、30分後には開けるーー!?」
急に後ろから電話を奪われ、驚きのあまり言葉が途切れる。
振り向いた先で、いつのまにかシャワーから出たブチャラティが、彼女の携帯を耳に当てていた。
「・・・悪いが、取り込み中だ。後にしてくれ。」
相手に向かってそう言うやいなや、ブチャラティは通話を切って携帯をソファの上に放る。
冬の夜空のように冴え冴えと輝く瞳が静かにレイアを見下ろす。
ぽたり、と、濡れた髪から伝った雫が、たくましい裸の上半身を濡らした。
「・・・おじいちゃんからだったらどうするの?」
「違うんだろ?」
と、ブチャラティは、まるで身体のどこかが痛むような表情で答えた。レイアは戸惑いながら微笑む。彼にこんな顔をさせたいわけじゃあないのに。
「カフェのお客さんよ。まだ開いてないから、心配して電話をくれたの。」
「ーー・・・」
何か言いかけた言葉を飲み込むと、ブチャラティは目を伏せて息を吐いた。それを合図のようにしてレイアは立ち上がる。
「ごちそうさま。あなた、コーヒーを淹れるのが上手なのね、ブチャラティ。美味しかったわ。」
携帯とバッグを持って歩き出す。玄関のドアノブに手をかけた時、その手に後ろから大きな手が重なり、もう片方の手がドアを押さえた。
「・・・ふふ。ギャングのくせに寂しがり屋なの?」
「性悪な泥棒猫よりマシだろ。」
ーー失礼ね。そう文句を言う前に、強引に彼女を振り向かせた男の唇によって口をふさがれてしまう。
レイアはそっと目を閉じながら、キスと身体の相性は比例する、とつくづく思った。
シャンプーのいい香りが鼻腔をくすぐる。きっと今は、私も同じ匂いをさせているのだろう。
たったひと晩で数え切れないほど交わしたキスが徐々に熱を帯びてくると、その熱を逃すようにレイアはするりと身を引いた。同時に、後ろ手で鍵を外してドアを開け、流れるような動きでアパルタメントの廊下にひらりと躍り出る。
ブチャラティの悔しそうな表情がなんだか可愛らしい。
「Ciao!」
踵を返した途端、背中から、
「レイア。」
視線だけで振り返ると、ブチャラティは両手をズボンのポケットに入れ、ゆったりとドアに半身を預けていた。彼女の目を真っすぐに見て、ニヤッと笑う。
「そう簡単に逃がしてやるつもりはない。覚悟しておくんだな。」
サファイアブルーの瞳が鋭く、そして甘やかに揺れてレイアを捕らえる。
じわり、と、熱を持ったように感じた。バスルームの鏡の前で思わず息を飲んだほど、彼女の全身に散らばっていたたくさんの赤い痣が。
通りに出るとすぐ、再びバッグの中の携帯が振動した。華奢なヒールで石畳を軽やかに進みながら、相手の声に耳を傾ける。
「心配しないで、平気よ。ありがとう・・・え?はいはい、デリバリーすればいいのね。人数は?」
・・・そういえば、さっきまでいた部屋のリビングの窓は、この通りに面していたんじゃあないかしら。もしかしたらーー・・・
不意になぜかそんなことを思いつき、レイアの口からふっと笑みがこぼれる。
ーー面白い人。思っていた以上に。
あえて後ろは振り返らないまま、電話の呼びかけに応えた。
「了解。ーリゾット。」
「ん・・・」
ぼんやりとした視界に映ったのは、見慣れない壁紙とチェストの上のサンタ・クローチェの空き瓶。次に感じたのは、背後から腰に巻きつくすらりと長い腕の重みと、背中に密着する素肌の温もり。
最後に、規則正しい静かな寝息が耳に届くと、レイアは片手で目を覆った。
「・・・」
ーーやっちゃった。うん、文字通りに。
食事に行って、部屋に来てーー・・・アレコレ思い出した途端に、ズシリ、と鈍い腰の痛みとともに、全身に気だるさが襲ってくる。
腰が痛い、、、だって、何回シた?2回、3回、いやもっと?普段は、性欲なんてなさそうな涼しい顔してるくせに。いつミネラルウォーターを飲んだのかすら記憶が危うい。何度目か致した後、飲ませてもらったような気もする、なんとなく。ほとんど気絶するように寝ちゃったんじゃあないかしら、私。
・・・ものすごく良かったけど、ね。控えめに言っても。
少しだけ身体を動かして背後を見る。
ブチャラティは、レイアを抱きしめるようにして眠っていた。彼の右の腕は枕とレイアの首の間に通り、左腕は彼女の腰から腹にからみついている。まるで彼の腕の中に閉じ込められているようだ。
・・・相手が恋人じゃあなくても、いつも彼はこんなふうに朝を迎えるのかしら。だとしたら罪作りな男。たいていの女は誤解してしまうだろう。
身体に巻きつく腕をそっと持ち上げ、ベッドから出ようとした、その時、
「ーBuon giorno、tesoro.」
寝起きの少しかすれた声と同時に、ぐっと力がこもった腕がレイアをシーツの波間に引き戻す。
「・・・ベッドに置き去りか?つれないな。」
今度は、正面からレイアをすっぽり抱きしめる。何ひとつ身に付けていない裸の身体と身体がぴたりと密着する。お互いの肌の温もりが心地いい。ブチャラティは満足げに微笑んで彼女の額にキスした。
ーーだから、そんなところが罪なのよ・・・
そう思いながら目を伏せる。男らしい筋肉をまとった厚い胸板。ウエストのくびれから尖った腰骨にかけて腰のラインが、溜め息が出るほどセクシュアルだ。この美しい肉体にひと晩中抱かれたなんて、信じられない。
「・・・シャワーを借りようと思ったの。」
「一緒に使おう。」
「だめ。」
「なんでだ?」
「シャワーだけじゃあすまないもの、きっと。」
触れるだけのキスをレイアに落としながら、くっくっ、と、ブチャラティは喉で笑った。
「鋭いな、レイア。」
「もう無理。誰かさんのせいで身体中が痛いわ。あなたってどれだけタフなの?」
「君のせいだろ、それは。」
「・・・だとしても、少しは加減して欲しいわ。」
「ゆうべは無理って言いながら付き合ってくれただろ?最高に可愛かったぜ、体力つけろよ。」
レイアは顔を赤らめながらわざと乱暴にブランケットをブチャラティの頭にかける。その隙に起き上がると、ベッドの下に脱ぎ捨てられていた彼のシャツを羽織った。
「・・・泥棒に逃げられたな。」
ちらりと肩越しに見やると、ブチャラティは枕に肘をついてくすくす笑って彼女を見ていた。ブルーブラックの細く柔らかな髪がくしゃくしゃに乱れているのも気にせず、無防備な笑顔。それを見て、不覚にもレイアの心臓はどきんと鳴った。
**********
髪を簡単に乾かしてリビングに戻ると、ひやりとした新鮮な空気を感じた。朝と昼の合間の中途半端な時間。開いた窓から斜めに差し込む光が眩しい。キッチンではマキネッタが香ばしい薫りをさせていた。
ブチャラティが歩み寄り、カップをレイアに渡す。そのまま彼は、お礼を言って受け取った彼女をじっと見つめた。
「?どうしたの?」
「ん?ああ、何でもない。君はやっぱり綺麗だと思ってな。」
と、真顔で言って彼はバスルームに消えた。
置き去りにされたレイアは、脱力してソファに沈没する。
ーーもう、ほんと・・・なに?アレ。天然なの?天然のタラシなの?
気を取り直すようにカップに口をつける。苦くて甘いエスプレッソ。ダークローストを好む南部にしては苦味と酸味のバランスがとれている。美味しい。
ふう、と、息をついて周りを見る。
昨夜も思ったけど、すっきりした部屋。必要最小限のシンプルなインテリア。余分な物がほとんど無い。強いて言うなら、壁にかけられたいくつかの海の写真ぐらいだろうか。
ブチャラティは、海が好きなのかしら・・・
写真を眺めながらしばらくぼんやりしていると、テーブルの上にいつの間にか置かれていたレイアのクラッチバッグの中から、ブルブルとくぐもった音が聞こえた。
「ーPronto?」
反射的に電話に出ると、耳に届いたのはよく知った声。
「え?・・・大丈夫よ、仕事じゃあないから。まあ、そうね。そんなとこ。ごめんなさい、30分後には開けるーー!?」
急に後ろから電話を奪われ、驚きのあまり言葉が途切れる。
振り向いた先で、いつのまにかシャワーから出たブチャラティが、彼女の携帯を耳に当てていた。
「・・・悪いが、取り込み中だ。後にしてくれ。」
相手に向かってそう言うやいなや、ブチャラティは通話を切って携帯をソファの上に放る。
冬の夜空のように冴え冴えと輝く瞳が静かにレイアを見下ろす。
ぽたり、と、濡れた髪から伝った雫が、たくましい裸の上半身を濡らした。
「・・・おじいちゃんからだったらどうするの?」
「違うんだろ?」
と、ブチャラティは、まるで身体のどこかが痛むような表情で答えた。レイアは戸惑いながら微笑む。彼にこんな顔をさせたいわけじゃあないのに。
「カフェのお客さんよ。まだ開いてないから、心配して電話をくれたの。」
「ーー・・・」
何か言いかけた言葉を飲み込むと、ブチャラティは目を伏せて息を吐いた。それを合図のようにしてレイアは立ち上がる。
「ごちそうさま。あなた、コーヒーを淹れるのが上手なのね、ブチャラティ。美味しかったわ。」
携帯とバッグを持って歩き出す。玄関のドアノブに手をかけた時、その手に後ろから大きな手が重なり、もう片方の手がドアを押さえた。
「・・・ふふ。ギャングのくせに寂しがり屋なの?」
「性悪な泥棒猫よりマシだろ。」
ーー失礼ね。そう文句を言う前に、強引に彼女を振り向かせた男の唇によって口をふさがれてしまう。
レイアはそっと目を閉じながら、キスと身体の相性は比例する、とつくづく思った。
シャンプーのいい香りが鼻腔をくすぐる。きっと今は、私も同じ匂いをさせているのだろう。
たったひと晩で数え切れないほど交わしたキスが徐々に熱を帯びてくると、その熱を逃すようにレイアはするりと身を引いた。同時に、後ろ手で鍵を外してドアを開け、流れるような動きでアパルタメントの廊下にひらりと躍り出る。
ブチャラティの悔しそうな表情がなんだか可愛らしい。
「Ciao!」
踵を返した途端、背中から、
「レイア。」
視線だけで振り返ると、ブチャラティは両手をズボンのポケットに入れ、ゆったりとドアに半身を預けていた。彼女の目を真っすぐに見て、ニヤッと笑う。
「そう簡単に逃がしてやるつもりはない。覚悟しておくんだな。」
サファイアブルーの瞳が鋭く、そして甘やかに揺れてレイアを捕らえる。
じわり、と、熱を持ったように感じた。バスルームの鏡の前で思わず息を飲んだほど、彼女の全身に散らばっていたたくさんの赤い痣が。
通りに出るとすぐ、再びバッグの中の携帯が振動した。華奢なヒールで石畳を軽やかに進みながら、相手の声に耳を傾ける。
「心配しないで、平気よ。ありがとう・・・え?はいはい、デリバリーすればいいのね。人数は?」
・・・そういえば、さっきまでいた部屋のリビングの窓は、この通りに面していたんじゃあないかしら。もしかしたらーー・・・
不意になぜかそんなことを思いつき、レイアの口からふっと笑みがこぼれる。
ーー面白い人。思っていた以上に。
あえて後ろは振り返らないまま、電話の呼びかけに応えた。
「了解。ーリゾット。」