ギャングと泥棒

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I

よかったら食事に行かないか。ブチャラティが何でもない様子でそう言ったのは、まだ陽も高い頃。

ブチャラティのチームと協力して取り組んでいた仕事が成功裏に終わり、彼の上司でありレイアの依頼人でもあるポルポから上から目線のお褒めの言葉を賜った、その直後だった。

だから、てっきりバールかどこかで、アバッキオやミスタや他のメンバーも一緒に、これから一杯やろう、という意味かと思って、レイアも軽くオーケーした。

「じゃあ、20時に迎えに行く。」

・・・<だから>、そんな言葉を残し、さっさと踵を返した長身の後ろ姿に、ぽかんとするしかなかった。

そうして、本当に迎えに来た彼がエスコートしてくれたのは老舗のトラットリアで、奥まった角の席でいただくリングイネ・アッラ・ペスカトーラの香りは食欲をそそるには充分だったし、彼が選んだラクリマ・クリスティも柔らかな口当たりで、豊かな葡萄の味を感じた。

ーなるほど、と、納得する。
このシチュエーションなら、確かにーー・・・

「どうした?」

くすりと笑ってグラスを傾けるレイアに、90度の位置に座るブチャラティが首を傾げて尋ねる。彼のように美しい男のそんな仕草は、本人が無意識だからこそ女心をくすぐる。罪な男。

「ようやく、どうやらこれはデートらしいと理解してきたところ。どうして誘ったの?」

「一度、君とはゆっくり話をしてみたかった。」

「常套句ね。」

「手厳しいな。でもそう答えるしかない。君は興味深い。」

「女の泥棒だから?」

「腕が良く、賢く、誰もが振り返るfigonaなら、なおさらだ。」

「褒めすぎよ。」

彼はふっと笑ってフォークを口に運ぶ。食べ方が綺麗だ。もしかしたら幼い頃は、まっとうな家庭で育っているのかもしれない。

「あなたも興味深いわよ。」

「たとえば?」

「そうねえ・・・私と同じ歳でそんなポジションにいるってことは、裏の世界でそこそこ長く生きているでしょうに、その色に染まっていないところ、かしら。」

「・・・褒め言葉として受け取っておく。」

彼がリーデルのグラスを傾けると、伏せられた長い睫毛の下の青玉の瞳にルビー色が映り込む。不思議な色香をまとった穏やかな佇まいは、とてもじゃないが彼の職業に似つかわしくない。

「他には?」

その声でレイアは、彼の横顔に見惚れていた自分に気がつく。

「他にはないのか?俺に興味はない?」

ないわ、と、言える女など、地球上に存在するのだろうか。

「・・・詮索はしない主義よ。」

「それは仕事上の君の主義だろ。今は仕事じゃあない。」

「ブチャラティ、あなた、私を口説いてるの?」

「とっくに気づいてると思っていたが。」

ブチャラティは苦笑いを浮かべる。
つっ、と、整えられた指先が、テーブルの上に置いたレイアの左手を触れるか触れないかギリギリの距離でなぞる。

「俺は、もっと君を知りたいーーーー。」

ー君は?と、艶のあるセクシーな声が、レイアから目をそらさずに続ける。そのサファイアブルーに輝く瞳は、彼女の手も、意識も、捕らえたまま離す気はないと告げていた。

「・・・考えさせてくれる?」

「そうだな。ドルチェを食べ終わるまでなら。」

聖人のような微笑みを浮かべ自分の指を絡めたレイアの指先にキスしながら、なかなか強引な答えを有無を言わせず返すあたりは、やはりギャングと言うべきか。

レイアは、心の中で溜め息をつく。
カメリエーレお勧めのドルチェは、時間をかけて味わうことにしよう。
ギャングに捕まった哀れな泥棒の、せめてもの抵抗にーーーー。





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