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冷蔵庫の中は少しの果物とチーズと調味料、そして、数本の白ワインが冷えていた。
サラは、帰りに酒屋へ寄らなかった気のきかない自分自身に舌打ちしながら、適当に1本取り出してソファへ移動した。
シャワーの後、ろくに拭いていない髪からポタリとバスローブに雫が落ちる。気にせず、ワインをグラスに注いで口をつけた。
『・・・抱いてやるだけなら、かまわないが。』
たまらなく好きで好きで、一世一代の告白をしたサラに向かって、ブチャラティは言い放った。面倒なことになった、というような顔をして。
『おまえは大事な部下だが・・・俺は今、恋人を作るつもりはない。もっとマシな男を探せ。』
知っていた。
ブチャラティにとって自分はただの部下で、それ以上でも以下でもないことは。
『それでも・・・それでも、あなたがいいです・・・!』
『・・・』
その日の夜から、関係が始まった。
チームの仲間には秘密。嘘をついてまで隠しているわけではないが、積極的に知らせることはしない。サラは、仲間たちの前では今までと同じように振る舞うようにした。ブチャラティがそうしろと命じたわけではない。彼は何も口を出さないし、約束もしない。彼が望んでいるであろうことを、彼女がみずから行動するだけだ。
彼に好かれたい。
たとえ自分が、彼にとって都合の良い女になってしまっているとしても。
気まぐれに鳴る携帯が、サラは手放せなくなった。
ーーきっと、今夜は連絡はこない。
サラは、両脚をかかえてぼんやりと天井を見上げる。口の中にはシャルドネのさわやかな香りが広がっている。あまりアルコールに強くないので、すぐに頭の中がふわふわしてくる。任務の時などには困るが、こういう時には酔ってしまえる方がありがたい。
その時、ローテーブルの上で携帯電話が鳴り始め、びくりと肩が震えた。
サラはぎゅっと目をつぶる。
そうして、ためらないながら携帯をつかんだ。ディスプレイの文字に目を落とす。解けた緊張が吐息に変わった。
「・・・がっかりさせて申し訳ありません。」
電話に出た相手に対して何を感じたのか、開口一番、ジョルノはそう言った。
「がっかりなんてしてないよ。ちょうど、話相手が欲しかったところ。」
「そうですか・・・なら、今日は、ブチャラティと一緒じゃあないんですね。」
ブチャラティのサラに接する態度も以前のままだったので、チームの仲間は変化に気づいていなかった。
「一緒じゃないよ。っていうか、付き合ってないし。」
でも、なぜかわからないけど、ジョルノだけにはあっさりとバレてしまった。
「・・・あなたがそれでいいのならかまいませんが。でも、彼からの電話を待ってるんでしょう?」
「そう思うならなんでかけてきたの。」
「少々ムカつくので邪魔してやろうと思って。」
電話口の声はさらりと言った。しかし、サラが何か言う前に、
「そういえば今日、ナランチャが・・・」
急に仲間の面白い話を始める。頭のいいジョルノは話も上手く、聞きながら、サラは声を立てて笑っていた。ついワインが進んでしまう。
「ねえ、こういう無駄話もたまには悪くないでしょ?誰かさんはすぐ、時間の無駄です、とか言うけど。」
最後の方はジョルノの口真似をして言うと、いったい誰の真似ですか、と、冷たく返される。冷たい男はもう十分だというのに。
「ありがと、ジョルノ。」
「・・・電話に出たあなたの声、あまりにも悲壮感が漂っていたので。あなたの心が少しだけ明るくなるのなら、この時間は無駄ではないでしょう。」
「そっか・・・大丈夫だよ、わかってるから。今夜はもう、電話、かかってこないって。」
「なぜわかるんですか?まだ9時すぎですよ、これからかかってくるかもしれない。」
「今日・・・誕生日なの、私の。」
電話の向こう側が、息をのんだ。
「もちろんブチャラティも知ってる。直接伝えたわけじゃあないけどね。前、ナランチャに誕生日きかれた時、近くに彼もいたから。彼、そういうの忘れる人じゃあないでしょ。」
だから、と、続けた。
「彼、今日はうちに来ない。電話もしてこない・・・絶対に。」
ブチャラティは、<特別>じゃあない女に、変に気をもたせたりはしない。そのあたりは潔癖だ。冷酷なまでに。
「・・・わかってるんだ。」
と、くすりと笑った声は、震えていなかっただろうか。ちゃんと、酔っぱらいのどうしようもない戯れ言としてジョルノの耳に届いただろうか。
「・・・あなた、馬鹿ですよ。」
「ははっ・・・そうだろうねぇ。」
ジョルノと話していると楽しい。背伸びすることなく、ありのままの自分でいられる。だからかな、ほっとするのは。
そういえば、ブチャラティと一緒の時に、<楽しい>なんて思ったことがあっただろうか。
ブチャラティと一緒の時、私は、いつも自分らしくない気がする。だって、あの碧い瞳に見つめられると、何もかも見透かされているような恥ずかしい気持ちになるから。ひどく居心地が悪くて、見つめられた皮膚がじりじりと焼けるように熱くなってーー・・・
「・・・っ。」
我慢できない嗚咽がこみ上げて、慌てて口を覆ったけれど遅かった。
事実はいつだって残酷だ。ブチャラティにとって、女の人は私だけじゃあない。今頃、きっと私のことなど忘れてしまっているのだろう。会いたくて会いたくて、こんなに心は悲鳴をあげていても。
「泣かないで下さいよ。抱きしめに行きたくなるじゃあないですか。」
「う、るさい・・・年下のくせに・・・」
「僕は確かにあなたより年はいくつか下ですが、僕なら、そんなふうに声を押し殺して泣くような真似はさせないのに。」
「・・・すがりたくなるからそんなこと言わないで。」
「でもあなたは僕にすがらない。」
そうでしょう?そう言ったジョルノの声が、ほんの少しだけ湿り気を帯びて聞こえたのは、私の涙のせいだろうか。
けれど、年下の彼は優しいから、自分の傷には触れずにそっと心にしまい込んだ。
「もう、あきらめたらどうです?」
「・・・そう言う自分はどうなの。」
「僕は、弱っているところにつけ込む作戦なので。おかまいなく。」
思わずくすっと笑った拍子に、ぽつりと新しい涙がこぼれる。
恋人を作るつもりはない。そう言ったブチャラティは最初から何も変わらない。嘘もついていない。
この部屋で二人きりの時は、あの大好きな長い指で、優しく頭を撫でてくれる。肌を重ねている間は、もしかしたら、と、はかない夢を見させてくれる。
ーーそう、彼は何も悪くない。
ただ、私を愛してはくれないだけ。
「・・・ジョルノ。」
「何ですか?サラ。」
なんて耳に心地よい声だろう。金色の髪と翡翠の瞳をもつ、聡明な彼。きっと、この人の手を取れば幸せになれる。
明日こそ赤ワインを買って来よう。ブチャラティが唇に色がつくのをいやがるから、家にはいつのまにか白ワインばかりが増えてしまった。本当は、私は赤の方が好きなのに。
「私ね・・・」
それなのに私はーーー、明日もまた、あの人からの電話を待ってしまうのだろう。
サラは、帰りに酒屋へ寄らなかった気のきかない自分自身に舌打ちしながら、適当に1本取り出してソファへ移動した。
シャワーの後、ろくに拭いていない髪からポタリとバスローブに雫が落ちる。気にせず、ワインをグラスに注いで口をつけた。
『・・・抱いてやるだけなら、かまわないが。』
たまらなく好きで好きで、一世一代の告白をしたサラに向かって、ブチャラティは言い放った。面倒なことになった、というような顔をして。
『おまえは大事な部下だが・・・俺は今、恋人を作るつもりはない。もっとマシな男を探せ。』
知っていた。
ブチャラティにとって自分はただの部下で、それ以上でも以下でもないことは。
『それでも・・・それでも、あなたがいいです・・・!』
『・・・』
その日の夜から、関係が始まった。
チームの仲間には秘密。嘘をついてまで隠しているわけではないが、積極的に知らせることはしない。サラは、仲間たちの前では今までと同じように振る舞うようにした。ブチャラティがそうしろと命じたわけではない。彼は何も口を出さないし、約束もしない。彼が望んでいるであろうことを、彼女がみずから行動するだけだ。
彼に好かれたい。
たとえ自分が、彼にとって都合の良い女になってしまっているとしても。
気まぐれに鳴る携帯が、サラは手放せなくなった。
ーーきっと、今夜は連絡はこない。
サラは、両脚をかかえてぼんやりと天井を見上げる。口の中にはシャルドネのさわやかな香りが広がっている。あまりアルコールに強くないので、すぐに頭の中がふわふわしてくる。任務の時などには困るが、こういう時には酔ってしまえる方がありがたい。
その時、ローテーブルの上で携帯電話が鳴り始め、びくりと肩が震えた。
サラはぎゅっと目をつぶる。
そうして、ためらないながら携帯をつかんだ。ディスプレイの文字に目を落とす。解けた緊張が吐息に変わった。
「・・・がっかりさせて申し訳ありません。」
電話に出た相手に対して何を感じたのか、開口一番、ジョルノはそう言った。
「がっかりなんてしてないよ。ちょうど、話相手が欲しかったところ。」
「そうですか・・・なら、今日は、ブチャラティと一緒じゃあないんですね。」
ブチャラティのサラに接する態度も以前のままだったので、チームの仲間は変化に気づいていなかった。
「一緒じゃないよ。っていうか、付き合ってないし。」
でも、なぜかわからないけど、ジョルノだけにはあっさりとバレてしまった。
「・・・あなたがそれでいいのならかまいませんが。でも、彼からの電話を待ってるんでしょう?」
「そう思うならなんでかけてきたの。」
「少々ムカつくので邪魔してやろうと思って。」
電話口の声はさらりと言った。しかし、サラが何か言う前に、
「そういえば今日、ナランチャが・・・」
急に仲間の面白い話を始める。頭のいいジョルノは話も上手く、聞きながら、サラは声を立てて笑っていた。ついワインが進んでしまう。
「ねえ、こういう無駄話もたまには悪くないでしょ?誰かさんはすぐ、時間の無駄です、とか言うけど。」
最後の方はジョルノの口真似をして言うと、いったい誰の真似ですか、と、冷たく返される。冷たい男はもう十分だというのに。
「ありがと、ジョルノ。」
「・・・電話に出たあなたの声、あまりにも悲壮感が漂っていたので。あなたの心が少しだけ明るくなるのなら、この時間は無駄ではないでしょう。」
「そっか・・・大丈夫だよ、わかってるから。今夜はもう、電話、かかってこないって。」
「なぜわかるんですか?まだ9時すぎですよ、これからかかってくるかもしれない。」
「今日・・・誕生日なの、私の。」
電話の向こう側が、息をのんだ。
「もちろんブチャラティも知ってる。直接伝えたわけじゃあないけどね。前、ナランチャに誕生日きかれた時、近くに彼もいたから。彼、そういうの忘れる人じゃあないでしょ。」
だから、と、続けた。
「彼、今日はうちに来ない。電話もしてこない・・・絶対に。」
ブチャラティは、<特別>じゃあない女に、変に気をもたせたりはしない。そのあたりは潔癖だ。冷酷なまでに。
「・・・わかってるんだ。」
と、くすりと笑った声は、震えていなかっただろうか。ちゃんと、酔っぱらいのどうしようもない戯れ言としてジョルノの耳に届いただろうか。
「・・・あなた、馬鹿ですよ。」
「ははっ・・・そうだろうねぇ。」
ジョルノと話していると楽しい。背伸びすることなく、ありのままの自分でいられる。だからかな、ほっとするのは。
そういえば、ブチャラティと一緒の時に、<楽しい>なんて思ったことがあっただろうか。
ブチャラティと一緒の時、私は、いつも自分らしくない気がする。だって、あの碧い瞳に見つめられると、何もかも見透かされているような恥ずかしい気持ちになるから。ひどく居心地が悪くて、見つめられた皮膚がじりじりと焼けるように熱くなってーー・・・
「・・・っ。」
我慢できない嗚咽がこみ上げて、慌てて口を覆ったけれど遅かった。
事実はいつだって残酷だ。ブチャラティにとって、女の人は私だけじゃあない。今頃、きっと私のことなど忘れてしまっているのだろう。会いたくて会いたくて、こんなに心は悲鳴をあげていても。
「泣かないで下さいよ。抱きしめに行きたくなるじゃあないですか。」
「う、るさい・・・年下のくせに・・・」
「僕は確かにあなたより年はいくつか下ですが、僕なら、そんなふうに声を押し殺して泣くような真似はさせないのに。」
「・・・すがりたくなるからそんなこと言わないで。」
「でもあなたは僕にすがらない。」
そうでしょう?そう言ったジョルノの声が、ほんの少しだけ湿り気を帯びて聞こえたのは、私の涙のせいだろうか。
けれど、年下の彼は優しいから、自分の傷には触れずにそっと心にしまい込んだ。
「もう、あきらめたらどうです?」
「・・・そう言う自分はどうなの。」
「僕は、弱っているところにつけ込む作戦なので。おかまいなく。」
思わずくすっと笑った拍子に、ぽつりと新しい涙がこぼれる。
恋人を作るつもりはない。そう言ったブチャラティは最初から何も変わらない。嘘もついていない。
この部屋で二人きりの時は、あの大好きな長い指で、優しく頭を撫でてくれる。肌を重ねている間は、もしかしたら、と、はかない夢を見させてくれる。
ーーそう、彼は何も悪くない。
ただ、私を愛してはくれないだけ。
「・・・ジョルノ。」
「何ですか?サラ。」
なんて耳に心地よい声だろう。金色の髪と翡翠の瞳をもつ、聡明な彼。きっと、この人の手を取れば幸せになれる。
明日こそ赤ワインを買って来よう。ブチャラティが唇に色がつくのをいやがるから、家にはいつのまにか白ワインばかりが増えてしまった。本当は、私は赤の方が好きなのに。
「私ね・・・」
それなのに私はーーー、明日もまた、あの人からの電話を待ってしまうのだろう。
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