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「・・・1990年代になって、私と空条承太郎は<矢>の追跡調査を始めた。」

ーー不思議な気持ちがした。

承太郎さんたちが、エジプトでDIOを倒したあの旅からーー、もう10年以上経つ。

「<矢>は人を選び、選んだ者を磁力のように引きつける・・・私は、<矢>がヨーロッパにあることを突き止めた。ヨーロッパ、特にイタリアの犯罪の統計が1980年代後半に急激に伸びていることと、少年少女の麻薬犯罪とその死者が20倍以上になったことから、犯罪組織を調べ、核心まで近づいたのだ。」

彼と一緒に旅をした人の話を、今、このサルディニアで聞くことになるなんて。

「しかしその時、私は2つのミスを犯していた。」

「ミス?」

と、オレンジの皮をナイフで器用に剥きながら、ナランチャが首を傾げる。

「私が追っていた犯罪組織は、すでにあまりにも完璧に構築された組織になっていたのだ。電話、郵便、交通、マスコミ、警察、政治、、、この社会すべてに孤立させられ、私は助けを呼ぶことができなかった。ボスの正体をつかんでおきながら・・・そして、私が犯した2つ目のもっとも大きな過ちは、<矢>を発掘した青年の能力が、私の想像をはるかに邪悪に超えていることだった・・・!」

ポルナレフの手が強く義足をつかみ、ギシリと車椅子がきしんだ。

「・・・再起不能となった私はかろうじて生き長らえ、2年前からはこの島に身を隠していた。そして私は待ったのだ。あの男の正体を探る、君たちのような者が現れるのを・・・」

ふと、ポルナレフの片方だけの視線がルナをとらえると、

「・・・やはり、雰囲気が似ている。」

なつかしいものを見るように微笑んだ。

「承太郎が話していた。エジプトでの闘争の間・・・日本で、彼の母親をDIOの呪縛から守ってくれている親類の少女がいると。君には礼を言わなきゃあならないな。」

ルナは目を閉じて首を横に振ると、

「あの頃、私はまだ子どもで・・・何の役にも立てなかった。」

DIOの強大すぎる力の前では、子どもの未完成なスタンド能力なんて焼け石に水だった。しかも、アブソリュート・ブレスの力をうまくコントロールできなくて、、、承太郎さんがDIOを倒してホリィさんが助かったのがわかった後、意識を失い、丸1週間、目が覚めなかった。

「あのォッ!昔話の途中で、悪いんだけどッ!」

ナランチャが我慢できないというように身を乗り出す。

「い、今、アンタ、ボスの正体をつかんだ、って言ったよな!?知ってるのかッ!?」

ポルナレフは小さく、しかしはっきりと頷くと、

「ーーディアボロ。それが、君たちが追っている男の名だ。」

ディアボロ!?

ルナは息をのんでブチャラティを見た。

「・・・ディアボロ。それが、ボスの名なのか。」

と、ブチャラティはきつく眉を寄せて言った。

「そうだ。かつて私をこの世から消し損なった男。奴の<時を吹き飛ばす>能力に、弱点はない。君たちはこれから奴を暗殺しようと考えているのだろうが、それはきっと失敗するぞ。」

「・・・」

「奴の<キング・クリムゾン>は無敵だ。しかし、奴を倒す可能性を私は知っている。ただし、<可能性>、だ・・・」

そこまで言うと、ポルナレフはテーブルの上に置かれた矢を睨むように見すえた。

「私が、矢の追跡調査の過程で知った真実を君たちに教えよう・・・ディアボロは、この矢の真の使い方を知らない!」

どくり、と、ルナの心臓が激しく肋骨を叩く。全身が震えてしまいそうな気がして、とっさに自分の左腕を右手で強く握りしめた。

何かしら、、、この感覚。

まるで、これ以上、知ってはいけないような・・・

「この矢には、秘められた叡知があるのだ。それを教えよう。君たちは、<キング・クリムゾン>を超える力を手に入れなくてはならない。この矢は、あの男を倒すたった一つの最後の手段なのだ・・・!」

ーー秘められた、叡知・・・

沈黙の中、ふと、ルナは肩に置かれた手の感触に目線を上げる。

ブチャラティの大きな手のひらが、知らず知らずのうちにこわばっていた彼女の肩に安心させるように優しく触れていた。

「・・・その前に一つきいておきたい。俺たちがここに現れた時、あなたは、<待っていた>と言った。なぜ、俺たちがこのサルディニアにーー、あなたの許へ来るとわかったのだ?」

「・・・」

キシリ、と、車椅子がしなる。

ややうつむいて目を閉じたポルナレフは、穏やかな表情をしていた。

「大したことじゃあない・・・ディアボロから完膚なきまでに叩き潰され、死にかけていた私の枕元に、、、犬を連れた占い師が現れてね。この島に行くように言われた。おまえには、まだやるべきことがある・・・と。まったく・・・おせっかいな性格というのは、死んでも変わらないものだな。」

それは、ある種のなつかしさと哀しさを帯びた、静かな声だった。

きっと、肉体は不自由になっても、その精神に宿る正義への想いは以前のままなのだろう。

かけがえのない仲間との絆は、今もその輝きを失ってはいないのだろう。

かつて、承太郎たちと共に命をかけて戦った人物を前に、ルナは、そう思わずにはいられなかった。

「さあ、私の話はいい。本題に戻ろう。」

ポルナレフはテーブルの矢を手に取ると、目の高さで水平に掲げた。

「まず最初に言っておく・・・我々が知るこの<矢>はーー、2種類ある。」

えっ?

「正確に言うなら、ルナ、君の一族に伝わるこの<矢>と、スタンド能力者をつくり出す他の<矢>は、その力が根本的に異なるのだ・・・!」

ルナは目を見張った。

私の<矢>と、他の<矢>が、違うーーー!?

「それはどういうー」

その時、突然の電子音がブチャラティの言葉を止めた。

彼は携帯を取り出すと、失礼、と言って耳にあてながら、

「ージョルノか。そっちはどうだ。」

少しの間の後、ブチャラティの瞳にすっと鋭い光が浮かぶ。

「・・・教会?」

次の瞬間、テラスに通じる開け放した窓から、とっさに目をつぶってしまうほどの強風がうなりを上げて部屋の中を吹き抜けた。

「うわッ、すっげェ風!」

「ああ・・・この島は風が強い。特に今の時期は、こんな荒々しい風が急に吹くことがある。」

「ふーん、、、ていうか、アレ、ちょっとうるさいんじゃあねえの?」

片耳を押さえたナランチャが指さしているのは、テラスの天井の梁からぶら下がっているウィンドチャイムだった。ようやく風が収まった今も、まだ金属同士は激しくぶつかり合い、さまざな音階をかき鳴らしている。

その風の音は、しばらく耳の奥から消える気配はなかった。





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