RING
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
55
人生には、できれば遠慮したい、っていう事柄がいくつかあるものだと思う。
虫歯になることとか、早起き苦手なのに毎朝5時に起きることとか、学校でイヤな奴の隣の席になることとか。
ジョースターの血を引く人と同じ飛行機に乗ること、とかーーー。
「何ですか?ルナ。」
顔をしかめてじっと見つめてくる彼女に、ジョルノは不思議そうにきいた。
「・・・何でもない。」
ルナはとぼとぼと席に戻る。
しょうがない、、、今さらジタバタしたってどうにもならないわ。だって、すでに空の上なんだから。
ヴェネツィアの海を渡り、マルコ=ポーロ国際空港で拝借した自家用ジェットは、今のところ快適な空の旅を提供してくれている。
でも、、、亀の中にいたから知らなかったけど、ムーディ・ブルースで操縦してるって聞いた時は、思わずムンクの叫びみたいになっちゃったわよ、、、さっき滑走路に現れたっていう追っ手?の話なんかよりよっぽどインパクトあったわ。
ジョセフおじいちゃんのジンクスが、ハルくんに受け継がれていないことを切に祈ろう。ん?違うか、DIOの肉体は元々はジョナサンさんのものなんだから、DIOの息子であるハルくんはジョセフおじいちゃんのお父さんと腹違いの兄弟になってーー・・・
「ルナ?」
頭がこんがらがってきたところで、ブチャラティが隣に来て言った。
「どうしたんだ。具合でも悪いのか?」
「いえちょっと家系図が複雑なだけ、、、大丈夫。」
「・・・いつも大丈夫としか言わないな、君は。」
ルナが顔を上げると、心配そうなサファイアブルーの瞳と視線がぶつかる。
「さっきもあまり食べていなかったし・・・何をひとりで抱え込んでる?話してくれないのか?」
どきん、と、心臓がはねた。
・・・私の一族に受け継がれるスタンドは、全力で使えば使うほど、命を削ることになる。だから普段は無意識に力をセーブしている(それでも短命の人が大半らしい)。今の私の体調不良の原因は、あの教会の地下で、瀕死のブローノを救うためにスタンドパワーのリミッターを外したからだ。だからと言って、さすがにすぐポックリとはいかないけど、身体にはそれなりの反動がきている。
でもそれを、ブローノに話してしまったら・・・きっと彼は自分をすごく責めるだろう。それに、もしかしたらもうスタンドを使うなと言うかもしれない。でも、今、それはできない。だってみんなは、私をボスから守るために命がけで組織を裏切ったというのに。私はただ守られるだけなんてーー、そんなのいやだ。
「・・・だって、本当に大丈夫なんだもの。」
ーー久しぶりにスタンドパワーを使いすぎたから、回復に少し時間がかかっているだけ。
ルナは心の中で自分に言い聞かせる。
大丈夫。しばらくしたら元に戻る・・・何もなければ、きっと。
「強情だな・・・」
ブチャラティは溜め息をつくと、
「頼むから・・・無理はしないでくれ。」
ルナの頭を引き寄せ、唇に触れるだけのキスをした。そして、驚いて目を見張る彼女にふっと微笑み、流れるように艶やかな声で愛しているとささやいた。
『ごめんね、フーゴ・・・』
ふと、飛行機に乗る前、電話越しの会話を思い出す。
『あなたが謝る必要はないですよ、ルナ。みんな自分で決めたことだ。』
『うん。あと、ひとりにしてごめんねって意味。すぐみんなをネアポリスに帰すからね。』
『・・・』
駅のアナウンスのような音が聞こえる。自分たちとフーゴとの物理的な距離を感じた。
『少なくとも僕は、ブチャラティと知り合ってから数年間のうちで、彼が自分のための我儘を通すのを見たのは、これが初めてだった。あなたは、彼をそうさせてくれた唯一の人だ。だから・・・』
その時の静かなフーゴの声は、今も、ルナの胸の奥に止まっている。
ーーあなただから、です。
ブチャラティの綺麗な横顔を盗み見ながら、彼女はそっと溜め息をついた。
・・・責任、重大だなあ・・・
その時、
「お、おい!ジョルノ!?」
前の方からミスタの焦った声がして、はっとして立ち上がった。
「!?」
なに、あれ、、、
ハルくんの右腕に、赤茶色の肉の塊のようなものがまとわりついて蠢いている。ううん、まとわりつくっていうよりー、内側から喰い破って外に出てきてる・・・!?
「ゴールド・エクスペリエンス!」
ジョルノのスタンドが、赤茶色の何かに左腕を振り下ろす。しかし何かに躊躇したように止まった、次の瞬間、銃声が立て続けに響いた。
ボトリ、と、右手と肉の塊が壁にぶつかってずり落ちる。
「・・・早く、新しい右腕を創るんだな、ジョルノ。」
と、細く煙の上がるS&W M10をかまえたまま、ミスタが言った。
「ハルくん!」
「待て、ルナ!君はここにいろっ。ーいったいどういうことなのだ、ジョルノ!」
ルナを制し、ブチャラティが駆け寄る。するとジョルノは、痛みに顔を歪めながら、
「今までの・・・常識を超える、初めてのスタンドです。」
「スタンドなら、敵本体はこの機のどこかに潜んでいるということなのか!?」
「本体はいません・・・すでに死んでいます。さっき、ヴェネツィアの滑走路の上で、、、」
え!?それって、さっき言ってた追っ手のことーーー!?
「あの男は、<死ぬために>やって来たんだ・・・わざと撃たれて死んだのです。スタンドの能力だけを自動追跡にするために。エネルギーだけが生きている・・・本体が死んで初めて動き出したスタンドのようです。そして本体がいないから、高度1万2000メートル、時速800キロのー、このジェット機のスピードに付いて来れているのです。僕の身体にひっついて、、、」
「死ぬために・・・?」
ペリーコロの最期の姿が脳裏をよぎる。
まただ。あの男は、なぜ自分の部下にそんな命令を下せるのだろう。
「だがジョルノ!動きはのろいぞ!いや、もう全然動かなくなったぜ!今のでくたばったか!?」
「動かねえ、だと・・・?違う、ナランチャ・・・」
思わず息をのんだ。
突然、銃をかまえたままのミスタの身体から、何カ所も血が噴き出したから。
「<食事中だから>、動く必要がねえんだ・・・近づきすぎた・・・素早いぜ、こいつーー・・・俺のピストルズが、今ので4体・・・半分以上、だ・・・」
「No.2!No.3!」
「No.6!No.7!」
ピストルズが、喰べられてる・・・!?
「ヤバいぞ、こいつ・・・近づくのはヤバい。みんな、近づくな・・・!」
「ミスターッ!」
ナランチャが動いた瞬間、ピストルズを飲み込もうとしていた塊が、素早く彼の元へ動いた。
攻撃目標をなぜか今度はナランチャに変えた・・・!?本体がいないのだから見えるわけではないはず。このスタンドは、何かを区別して攻撃しているの?
「なめやがって!近づかなきゃあいいんだろ!オレのエアロスミスなら、近づかずにブッ飛ばせるぜぇーッ!」
「ナランチャ!危ないっ!」
飛び出したエアロスミスに敵のスタンドが襲いかかるのと、ルナがアブソリュート・ブレスを発動するのは、ほぼ同時だった。
動きを封じられた敵のスタンドが、エアロスミスもろともグシャリと床に落ちる。
「ナランチャ!」
「や、ヤバかった・・・コイツ素早すぎるぞ!!本体が近くにいて見えなきゃ、こんな正確にエアロスミスの動きがわかるわけがないッ!」
ナランチャは床の上でもがくスタンドを見すえながら、口の端から流れた血を手の甲で拭う。ブチャラティがこちらを振り向いた。
「ルナ、このスタンドを解除できるか!?」
「もうやってる・・・けど、ダメだわ・・・本体がもう死んでいるから行き場がない!コイツは消せないっ・・・!」
さらに言うなら、この気色悪いスタンド、すごいパワーだわ。動きを止めるだけでアブソリュート・ブレスのエネルギーをもっていかれている。普段ならいいけど、今は、身体への負荷がかかりすぎる・・・!
「スティッキィ・フィンガーズ!」
声と同時にブチャラティのスタンドが床を叩く。ジッパーが現れたかと思うと、わずかに開いた隙間から敵のスタンドが外へ吸い出された。
「やっー、やった!」
ナランチャが窓際に走る。
「ブチャラティ!奴は真っ逆さまに墜ちてってるぜ!ザマーミロだっ。」
「ふう・・・」
ルナはアブソリュート・ブレスを引っ込めると、全身で溜め息をついた。
「とりあえず危機は脱したか・・・ジョルノ、まず失った自分の右腕を創るんだ。ナランチャ、ミスタの傷はどうだ。」
「ピストルズが4体分だもんなァ、、、けっこう深いみたいだ・・・ルナ!治してやってよ!」
「ーう、うん!」
まずい・・・まるで貧血を起こしたみたいに頭がクラクラする。呼吸も苦しい。
「・・・さっきのスタンドですが、」
ふいに、ジョルノがブチャラティの方を見て言った。
「明らかに、<何か>を探知しているようでした・・・もしかすると、探知していたのは、僕たちの<動き>じゃあないでしょうか。あのスタンドは、動いているものに反応し、最優先に攻撃してくる。ミスタの弾丸、エアロスミス・・・スピードが速ければ速いほど、それと同じスピードで最優先に追跡してくるのです。」
「なるほどな・・・」
ブチャラティが頷く。
「本体はもう死んでいるから殺すこともできず、ルナのアブソリュート・ブレスを使っても解除することができない。恐ろしいスタンドだ。」
「でも、このジェット機からは追い出したんだから、もういいじゃん。奴は今頃、1万メートル下の海にドボンしちゃってるんだからさァ。」
「ええ、ナランチャ・・・しかし用心はしないと。始末したわけじゃあないのだから。もしー」
瞬間、全員が何かにつかまらなければ立っていられないほど、機体が大きく揺れた。
な、なに・・・!?
「ブチャラティ!」
コックピットのドアが開き、アバッキオが叫ぶ。
「何があった!!急に高度が下がり始めたぞっ!」
「何だと!?」
「ブチャラティ!あ、あそこ・・・!」
ナランチャが窓の外を指さす。
「野郎、エンジンを喰ってやがるッッ!そ、そんなバカな・・・!吹き飛ばされなかったっていうのかよ!?時速800キロの飛行機のスピードに振り落とされなかったのかよ!?」
「いや違う、逆だ!ジョルノの言う通り、この敵が動くものに反応するのならー、だったらむしろ、この機が時速800キロもの速さで動いているから、優先して追いついて来るのだ!」
「エンジンです・・・ジェットエンジンのエネルギーをこいつは取り込んでいる!このままでは墜落します!」
エンジンにしがみついている奴を、私のスタンドで切り離すことができれば・・・!
近くの窓に駆け寄ろうと、慌てて足を踏み出したその時、
バキィッッ!
背後のクローゼットの扉が、内側から砕けながら吹き飛んだ。
「えっ・・・!?」
敵のスタンドの一部が触手のように延び、ルナの振り向いた動作に反応して勢いよく向かって来る。
こいつ、すでにエンジンから飛行機の中へ入って・・・!間に合わない!
「ルナっ!」
やだっ!コレ気持ち悪いから嫌いっ!来ないでーーーっ!
思わず目をつぶった、次の瞬間、ルナは強く腕を引かれる感触とともに、ヒヤリとした肌を刺す冷気を感じた。
人生には、できれば遠慮したい、っていう事柄がいくつかあるものだと思う。
虫歯になることとか、早起き苦手なのに毎朝5時に起きることとか、学校でイヤな奴の隣の席になることとか。
ジョースターの血を引く人と同じ飛行機に乗ること、とかーーー。
「何ですか?ルナ。」
顔をしかめてじっと見つめてくる彼女に、ジョルノは不思議そうにきいた。
「・・・何でもない。」
ルナはとぼとぼと席に戻る。
しょうがない、、、今さらジタバタしたってどうにもならないわ。だって、すでに空の上なんだから。
ヴェネツィアの海を渡り、マルコ=ポーロ国際空港で拝借した自家用ジェットは、今のところ快適な空の旅を提供してくれている。
でも、、、亀の中にいたから知らなかったけど、ムーディ・ブルースで操縦してるって聞いた時は、思わずムンクの叫びみたいになっちゃったわよ、、、さっき滑走路に現れたっていう追っ手?の話なんかよりよっぽどインパクトあったわ。
ジョセフおじいちゃんのジンクスが、ハルくんに受け継がれていないことを切に祈ろう。ん?違うか、DIOの肉体は元々はジョナサンさんのものなんだから、DIOの息子であるハルくんはジョセフおじいちゃんのお父さんと腹違いの兄弟になってーー・・・
「ルナ?」
頭がこんがらがってきたところで、ブチャラティが隣に来て言った。
「どうしたんだ。具合でも悪いのか?」
「いえちょっと家系図が複雑なだけ、、、大丈夫。」
「・・・いつも大丈夫としか言わないな、君は。」
ルナが顔を上げると、心配そうなサファイアブルーの瞳と視線がぶつかる。
「さっきもあまり食べていなかったし・・・何をひとりで抱え込んでる?話してくれないのか?」
どきん、と、心臓がはねた。
・・・私の一族に受け継がれるスタンドは、全力で使えば使うほど、命を削ることになる。だから普段は無意識に力をセーブしている(それでも短命の人が大半らしい)。今の私の体調不良の原因は、あの教会の地下で、瀕死のブローノを救うためにスタンドパワーのリミッターを外したからだ。だからと言って、さすがにすぐポックリとはいかないけど、身体にはそれなりの反動がきている。
でもそれを、ブローノに話してしまったら・・・きっと彼は自分をすごく責めるだろう。それに、もしかしたらもうスタンドを使うなと言うかもしれない。でも、今、それはできない。だってみんなは、私をボスから守るために命がけで組織を裏切ったというのに。私はただ守られるだけなんてーー、そんなのいやだ。
「・・・だって、本当に大丈夫なんだもの。」
ーー久しぶりにスタンドパワーを使いすぎたから、回復に少し時間がかかっているだけ。
ルナは心の中で自分に言い聞かせる。
大丈夫。しばらくしたら元に戻る・・・何もなければ、きっと。
「強情だな・・・」
ブチャラティは溜め息をつくと、
「頼むから・・・無理はしないでくれ。」
ルナの頭を引き寄せ、唇に触れるだけのキスをした。そして、驚いて目を見張る彼女にふっと微笑み、流れるように艶やかな声で愛しているとささやいた。
『ごめんね、フーゴ・・・』
ふと、飛行機に乗る前、電話越しの会話を思い出す。
『あなたが謝る必要はないですよ、ルナ。みんな自分で決めたことだ。』
『うん。あと、ひとりにしてごめんねって意味。すぐみんなをネアポリスに帰すからね。』
『・・・』
駅のアナウンスのような音が聞こえる。自分たちとフーゴとの物理的な距離を感じた。
『少なくとも僕は、ブチャラティと知り合ってから数年間のうちで、彼が自分のための我儘を通すのを見たのは、これが初めてだった。あなたは、彼をそうさせてくれた唯一の人だ。だから・・・』
その時の静かなフーゴの声は、今も、ルナの胸の奥に止まっている。
ーーあなただから、です。
ブチャラティの綺麗な横顔を盗み見ながら、彼女はそっと溜め息をついた。
・・・責任、重大だなあ・・・
その時、
「お、おい!ジョルノ!?」
前の方からミスタの焦った声がして、はっとして立ち上がった。
「!?」
なに、あれ、、、
ハルくんの右腕に、赤茶色の肉の塊のようなものがまとわりついて蠢いている。ううん、まとわりつくっていうよりー、内側から喰い破って外に出てきてる・・・!?
「ゴールド・エクスペリエンス!」
ジョルノのスタンドが、赤茶色の何かに左腕を振り下ろす。しかし何かに躊躇したように止まった、次の瞬間、銃声が立て続けに響いた。
ボトリ、と、右手と肉の塊が壁にぶつかってずり落ちる。
「・・・早く、新しい右腕を創るんだな、ジョルノ。」
と、細く煙の上がるS&W M10をかまえたまま、ミスタが言った。
「ハルくん!」
「待て、ルナ!君はここにいろっ。ーいったいどういうことなのだ、ジョルノ!」
ルナを制し、ブチャラティが駆け寄る。するとジョルノは、痛みに顔を歪めながら、
「今までの・・・常識を超える、初めてのスタンドです。」
「スタンドなら、敵本体はこの機のどこかに潜んでいるということなのか!?」
「本体はいません・・・すでに死んでいます。さっき、ヴェネツィアの滑走路の上で、、、」
え!?それって、さっき言ってた追っ手のことーーー!?
「あの男は、<死ぬために>やって来たんだ・・・わざと撃たれて死んだのです。スタンドの能力だけを自動追跡にするために。エネルギーだけが生きている・・・本体が死んで初めて動き出したスタンドのようです。そして本体がいないから、高度1万2000メートル、時速800キロのー、このジェット機のスピードに付いて来れているのです。僕の身体にひっついて、、、」
「死ぬために・・・?」
ペリーコロの最期の姿が脳裏をよぎる。
まただ。あの男は、なぜ自分の部下にそんな命令を下せるのだろう。
「だがジョルノ!動きはのろいぞ!いや、もう全然動かなくなったぜ!今のでくたばったか!?」
「動かねえ、だと・・・?違う、ナランチャ・・・」
思わず息をのんだ。
突然、銃をかまえたままのミスタの身体から、何カ所も血が噴き出したから。
「<食事中だから>、動く必要がねえんだ・・・近づきすぎた・・・素早いぜ、こいつーー・・・俺のピストルズが、今ので4体・・・半分以上、だ・・・」
「No.2!No.3!」
「No.6!No.7!」
ピストルズが、喰べられてる・・・!?
「ヤバいぞ、こいつ・・・近づくのはヤバい。みんな、近づくな・・・!」
「ミスターッ!」
ナランチャが動いた瞬間、ピストルズを飲み込もうとしていた塊が、素早く彼の元へ動いた。
攻撃目標をなぜか今度はナランチャに変えた・・・!?本体がいないのだから見えるわけではないはず。このスタンドは、何かを区別して攻撃しているの?
「なめやがって!近づかなきゃあいいんだろ!オレのエアロスミスなら、近づかずにブッ飛ばせるぜぇーッ!」
「ナランチャ!危ないっ!」
飛び出したエアロスミスに敵のスタンドが襲いかかるのと、ルナがアブソリュート・ブレスを発動するのは、ほぼ同時だった。
動きを封じられた敵のスタンドが、エアロスミスもろともグシャリと床に落ちる。
「ナランチャ!」
「や、ヤバかった・・・コイツ素早すぎるぞ!!本体が近くにいて見えなきゃ、こんな正確にエアロスミスの動きがわかるわけがないッ!」
ナランチャは床の上でもがくスタンドを見すえながら、口の端から流れた血を手の甲で拭う。ブチャラティがこちらを振り向いた。
「ルナ、このスタンドを解除できるか!?」
「もうやってる・・・けど、ダメだわ・・・本体がもう死んでいるから行き場がない!コイツは消せないっ・・・!」
さらに言うなら、この気色悪いスタンド、すごいパワーだわ。動きを止めるだけでアブソリュート・ブレスのエネルギーをもっていかれている。普段ならいいけど、今は、身体への負荷がかかりすぎる・・・!
「スティッキィ・フィンガーズ!」
声と同時にブチャラティのスタンドが床を叩く。ジッパーが現れたかと思うと、わずかに開いた隙間から敵のスタンドが外へ吸い出された。
「やっー、やった!」
ナランチャが窓際に走る。
「ブチャラティ!奴は真っ逆さまに墜ちてってるぜ!ザマーミロだっ。」
「ふう・・・」
ルナはアブソリュート・ブレスを引っ込めると、全身で溜め息をついた。
「とりあえず危機は脱したか・・・ジョルノ、まず失った自分の右腕を創るんだ。ナランチャ、ミスタの傷はどうだ。」
「ピストルズが4体分だもんなァ、、、けっこう深いみたいだ・・・ルナ!治してやってよ!」
「ーう、うん!」
まずい・・・まるで貧血を起こしたみたいに頭がクラクラする。呼吸も苦しい。
「・・・さっきのスタンドですが、」
ふいに、ジョルノがブチャラティの方を見て言った。
「明らかに、<何か>を探知しているようでした・・・もしかすると、探知していたのは、僕たちの<動き>じゃあないでしょうか。あのスタンドは、動いているものに反応し、最優先に攻撃してくる。ミスタの弾丸、エアロスミス・・・スピードが速ければ速いほど、それと同じスピードで最優先に追跡してくるのです。」
「なるほどな・・・」
ブチャラティが頷く。
「本体はもう死んでいるから殺すこともできず、ルナのアブソリュート・ブレスを使っても解除することができない。恐ろしいスタンドだ。」
「でも、このジェット機からは追い出したんだから、もういいじゃん。奴は今頃、1万メートル下の海にドボンしちゃってるんだからさァ。」
「ええ、ナランチャ・・・しかし用心はしないと。始末したわけじゃあないのだから。もしー」
瞬間、全員が何かにつかまらなければ立っていられないほど、機体が大きく揺れた。
な、なに・・・!?
「ブチャラティ!」
コックピットのドアが開き、アバッキオが叫ぶ。
「何があった!!急に高度が下がり始めたぞっ!」
「何だと!?」
「ブチャラティ!あ、あそこ・・・!」
ナランチャが窓の外を指さす。
「野郎、エンジンを喰ってやがるッッ!そ、そんなバカな・・・!吹き飛ばされなかったっていうのかよ!?時速800キロの飛行機のスピードに振り落とされなかったのかよ!?」
「いや違う、逆だ!ジョルノの言う通り、この敵が動くものに反応するのならー、だったらむしろ、この機が時速800キロもの速さで動いているから、優先して追いついて来るのだ!」
「エンジンです・・・ジェットエンジンのエネルギーをこいつは取り込んでいる!このままでは墜落します!」
エンジンにしがみついている奴を、私のスタンドで切り離すことができれば・・・!
近くの窓に駆け寄ろうと、慌てて足を踏み出したその時、
バキィッッ!
背後のクローゼットの扉が、内側から砕けながら吹き飛んだ。
「えっ・・・!?」
敵のスタンドの一部が触手のように延び、ルナの振り向いた動作に反応して勢いよく向かって来る。
こいつ、すでにエンジンから飛行機の中へ入って・・・!間に合わない!
「ルナっ!」
やだっ!コレ気持ち悪いから嫌いっ!来ないでーーーっ!
思わず目をつぶった、次の瞬間、ルナは強く腕を引かれる感触とともに、ヒヤリとした肌を刺す冷気を感じた。