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52
「傷はもういいのか、ジョルノ。」
観光客がにぎやかにざわめく中、fisarmonicaの調べにのせた伸びやかな歌声が聞こえる。
ジョルノは、すべるように水路を進んでゆくゴンドラからブチャラティへ視線を移動させて頷いた。
「はい、ブチャラティ。傷はスタンドでふさぎましたから。」
先ほどの戦いで騒ぎになったリストランテを離れ、一行はサン・マルコ広場に近いカフェで観光客の中にまぎれていた。
親衛隊の二人組は、個々のスタンドそのものは特に強力というわけではなかった。しかし、それぞれのスタンド能力を上手く組み合わせることで、かなりの脅威となり得た。あの時、調理場でとっさに造った舌の部品にナランチャが気づいてくれなければ、僕の命は危なかっただろう。スタンドによる戦いはパワーがあればいいというわけじゃあない。もっと奥深いものだ。
「・・・で、ブチャラティ。」
ワイングラスを置いたアバッキオが、口を開く。
「これからどうするんだ。」
「ーボスのスタンドは、」
ブチャラティは静かに切り出した。
「明らかに時間を消し去り、そしてその中をボスだけが自由に動いていた。無敵だ。どう考えても何者だろうと、あのスタンドの前ではその攻撃は無駄となる。」
やはりか・・・
ジョルノは拳を握る。
サン・ジョルジョ・マッジョーレ島で味わった、あの奇妙な感覚。やはりあれは、時間が<消し飛んで>いたのだ。
「ーただし、」
と、ブチャラティは力強く続けた。
「ボスの正体を突き止めた時は別だ。ボスの素顔さえ知ることができれば、本体を暗殺できるかもしれないからな。そのために、なんとかして正体を知らねばならない・・・!」
「・・・しかし、どうやって探すんだ?ボスは、あらゆる人生の足跡を消して来てる男だぜ。」
ミスタの疑問に答えたのはアバッキオだった。
「ールナだ。ルナに何かヒントがあるんだぜ。みんなルナを追い、そしてボスは、ルナを始末しようとしていた・・・だろ?ブチャラティ。」
ブチャラティは厳しい表情のまま頷くと、
「ルナ本人は自覚すらしていないのかもしれないが、彼女には、ボスの過去に通じる何かがあるのだ。あの時・・・」
記憶をたどるように一度目を閉じる。そして、再び部下たちを見すえた。
「サン・ジョルジョ・マッジョーレ教会の地下でボスと対峙した時、俺がもっとも感じたのは・・・恐ろしいまでの<執着>だ。その対象がボスの地位なのか、ルナの亡くなった母親なのか、あるいはその両方なのか・・・それはわからない。しかしこれだけは確実に言える。ボスは、この世からなんとしてもルナを消し去るつもりだ・・・!」
ーー逆に言えば、と、ジョルノは思う。
それだけルナは、ボスにとって脅威となり得る存在だということだろう。そして、その始まりはおそらく、彼女の母親にーー、ソアラさんにある。
「・・・度がすぎる執着は身を滅ぼす。」
全員がはっとして声がした方を見る。
「っていう言葉、聞いたことない?」
「ルナ!」
ブチャラティの隣の椅子に置かれた亀から、ルナがひょっこりと出て来ていた。
「大丈夫か?」
ブチャラティが声に心配をにじませて尋ねる。
「平気よ。よく寝たもの。あなたの方こそ、もう大丈夫、、、なのよね?」
と、最後の方はジョルノに目を向けて言う。
『ハルくん!助けて!ブローノが死んじゃう!』
・・・命を狙われてもけろっとしているあなたの、あんなふうにーーー、今にも泣き出しそうな声を初めて聞いた。
かすかな胸の痛みを感じながらジョルノが頷くと、ありがとう、と、ルナは微笑んだ。
その笑顔はいつものように美しいけれど、どこか透き通るような、ある種のはかなさがあるように見える。本当に大丈夫なのだろうか。
「・・・ナランチャから、だいたいの話は聞いたけど。」
言いながらルナは、水路沿いの手すりを背にしてこちらを見る。陽を受けた琥珀色の髪が艶やかに輝き、中世の面影の色濃いヴェネツィアの街並に美しく溶け込んでいた。
「まあ、、、100歩譲ってブローノはー、わかるわよ?ボスを裏切るのも。でも・・・どうしてみんなまで?よく知らないけど、今度は、パッショーネの組織全体から狙われることになるんじゃあないの?」
・・・なぜブチャラティだけなんだ。
憮然としたジョルノの視線に気づき、ルナは気まずそうに目線を宙に泳がせると、
「ハルくージョルノも、まあ、わからなくもないかな・・・?地球半周ぐらい譲れば、だけど。」
譲りすぎです。
「とにかく・・・知ってると思うけど、ボスのように徹底的に姿を隠すタイプの敵には、私のスタンドは通用しない。見えないと支配できないからね。でも、私がそばにいる限り、あなたたちのようなスタンド能力者の運命をどんどん変えてしまう。当然、悪い方向に流れることだってある。私なんかのために命をかけたっていいことないわよ?」
「へっ・・・今さらだぜ、ルナ。」
テーブルに頬杖をついたミスタは、ニヤリと口の端を持ち上げた。
「悪いけどよォ、おまえがグースカ寝てる間に話はついてるんだ。俺たちはもう立派な裏切り者だぜ?能天気なのがおまえの取り柄なんだからよォ、似合わねー心配なんかするんじゃあねえっての!」
アバッキオが淡々と続ける。
「ミスタの言う通りだぜ。俺たちは全員、自分の意志で組織を裏切り、ブチャラティにつくと決めたんだ。俺たちがこの後どんなふうにくたばろうが、ルナ、おめーが気にすることじゃあねえよ。」
「・・・」
ルナは複雑な表情を浮かべている。そんな彼女を、ブチャラティは静かに見つめていた。
『ボスは、みずからの手でルナを始末する為に、俺たちに彼女を護衛させた。ルナの母親の<矢>は確かにあったが、ルナを自分のもとへ来させる為の餌にすぎなかった。それを知って俺は、ボスを許すことができなかった。だから裏切った。』
ーーサン・ジョルジョ・マッジョーレ教会の船着場で。
ブチャラティは、部下たちを巻き込まない為に、裏切りの理由を話すつもりはなかったが、ジョルノは反対した。仲間が必要だと思ったからだ。ひそかな確信もあった。ブチャラティの人望なら、ついてくる者がいる、と。
『俺は、相手が誰であろうとルナを守り抜く。しかしこれは、言うまでもなく俺の個人的な感情だ。だから俺に義理なんぞを感じてついてくる必要はない。』
・・・この人のこういう潔さは、真似しようと思って出来るものじゃあないな。
そう考えながらジョルノはブチャラティを見た。その碧い目の中に、揺るぎない決意が光っている。ジョルノの<覚悟>と<夢>に賭けると宣言した時のように。
アバッキオ、ミスタ、ナランチャがボートに乗ると決めた後、ミスタが言った。
『ーで?オメーはどうするよ?フーゴ。』
『・・・』
フーゴは、気を失ってボートに横たわるルナの方を見る。そして苛立たしげに髪をかき上げると、深々と溜め息をついた。
『まったく、そろいもそろってバカばっかりだな・・・!』
『そういうオメーも、だろ?』
からかうようなミスタの言葉は無視して、フーゴは、ブチャラティに向き直ると、
『ブチャラティ、僕はボートには乗らない。ゾロゾロ行ったって目立つだけじゃあないか・・・いいですか?パッショーネはでかい組織だ。狙いはボスひとりだとしても、外から攻めるだけなんて能無しのやることだ。あんたがルナに<重症>なのはわかっていたけど、そんなことも判断できなくなったんですか?僕は表向きは組織に残る。バカげた裏切りに付き合うのは不本意ですが、何もせず全員の死体を拝むよりはずっとマシだ。』
『・・・』
ブチャラティは目を見張って聞いていたが、その口許にふっと笑みを浮かべた。
『悪態をつく時のおまえは、頼りになる。すまないな、フーゴ。』
『・・・あんたに付き合ってたら、こっちまでマトモな判断ができなくなったんですよ・・・!』
『アハハハッ!フーゴォ、おまえって素直じゃあねーよなァ。』
『やかましいっ!このド低脳があッ!』
「ールナ。」
ブチャラティが沈黙を破る。
「君も、サン・ジョルジョ・マッジョーレ教会の地下でボスと話をしたはずだ。何でもいい、ボスの正体について何か心当たりはないか?あるいは、君のお母さんについて何か思い出したことでもいい。」
「・・・」
ルナはあきらめたように息を吐くと、
「思い出したというか、<教えられた>というか・・・私のスタンド能力は遺伝的なもの。そのせいなのか時々、スタンドを通じて過去を感じ取ることがある。たいてい夢を見てる時だけど・・・さっき、ある場所の風景が出てきた。」
目線を上げ、ジョルノたちを真っすぐに見た。
「サルディニア島だわ。亀の中にあった地図のおかげで名前がわかった・・・私のママは子どもの頃、サルディニアに住んでいた。たぶんボスとはそこで知り合ったのよ。」
サルディニア!?
「ルナの母親が子どもの頃ってことは・・・ボスが組織のボスになる前?ひょっとしてボスが生まれ育った故郷か・・・!?」
アバッキオの言葉にルナは肩をすくめる。
「そこまではわからないけど。可能性はあるかもね。」
サルディニア。
このヴェネツィアを脱出して向かう場所はそこだ。
そこに、ボスの過去と正体がある・・・!
「・・・みんな、ほんとにいいの?夢に出てきただけの、うさんくさい話を信じて。」
自信なさげな表情を浮かべるルナを見て、ジョルノは、やれやれ、と思う。
あなたって人は・・・自分を客観視することが本当に出来ない人ですね。
あなたの言葉を疑う者など、このチームには誰ひとりいないというのに。
あなたは、すでに<道標>だ。
かの有名なドラクロワの絵画で描かれた、高々と自由の旗を掲げ、傷つき倒れた兵士たちを鼓舞し、みずから先頭に立って道を切り拓いてゆくーーー、あの、自由の為に戦う女神のように。
たとえあなた自身が、そんな役割を望んだわけではないとしても。
誰にも縛られることのない自由で気高い精神に、惹き寄せられてしまう。
ーーカツン。
「・・・なるほどな。」
上質な革靴が石段を叩く音が響く。同時に、少し癖のある煙草の香りがふわりと漂った。
「おまえらの次の目的地は、サルディニア島ってわけだ・・・」
水路に通じる階段をゆっくりと上って来たのは、煙草をくわえた金髪の男。ジョルノの視界の端で、ルナが大きく息をのむのがわかった。
「プロシュート・・・!」
ーーあなたが望まなくても。
組織の名のもとに服従を強いられた者たちの運命を、変えてゆく。
「傷はもういいのか、ジョルノ。」
観光客がにぎやかにざわめく中、fisarmonicaの調べにのせた伸びやかな歌声が聞こえる。
ジョルノは、すべるように水路を進んでゆくゴンドラからブチャラティへ視線を移動させて頷いた。
「はい、ブチャラティ。傷はスタンドでふさぎましたから。」
先ほどの戦いで騒ぎになったリストランテを離れ、一行はサン・マルコ広場に近いカフェで観光客の中にまぎれていた。
親衛隊の二人組は、個々のスタンドそのものは特に強力というわけではなかった。しかし、それぞれのスタンド能力を上手く組み合わせることで、かなりの脅威となり得た。あの時、調理場でとっさに造った舌の部品にナランチャが気づいてくれなければ、僕の命は危なかっただろう。スタンドによる戦いはパワーがあればいいというわけじゃあない。もっと奥深いものだ。
「・・・で、ブチャラティ。」
ワイングラスを置いたアバッキオが、口を開く。
「これからどうするんだ。」
「ーボスのスタンドは、」
ブチャラティは静かに切り出した。
「明らかに時間を消し去り、そしてその中をボスだけが自由に動いていた。無敵だ。どう考えても何者だろうと、あのスタンドの前ではその攻撃は無駄となる。」
やはりか・・・
ジョルノは拳を握る。
サン・ジョルジョ・マッジョーレ島で味わった、あの奇妙な感覚。やはりあれは、時間が<消し飛んで>いたのだ。
「ーただし、」
と、ブチャラティは力強く続けた。
「ボスの正体を突き止めた時は別だ。ボスの素顔さえ知ることができれば、本体を暗殺できるかもしれないからな。そのために、なんとかして正体を知らねばならない・・・!」
「・・・しかし、どうやって探すんだ?ボスは、あらゆる人生の足跡を消して来てる男だぜ。」
ミスタの疑問に答えたのはアバッキオだった。
「ールナだ。ルナに何かヒントがあるんだぜ。みんなルナを追い、そしてボスは、ルナを始末しようとしていた・・・だろ?ブチャラティ。」
ブチャラティは厳しい表情のまま頷くと、
「ルナ本人は自覚すらしていないのかもしれないが、彼女には、ボスの過去に通じる何かがあるのだ。あの時・・・」
記憶をたどるように一度目を閉じる。そして、再び部下たちを見すえた。
「サン・ジョルジョ・マッジョーレ教会の地下でボスと対峙した時、俺がもっとも感じたのは・・・恐ろしいまでの<執着>だ。その対象がボスの地位なのか、ルナの亡くなった母親なのか、あるいはその両方なのか・・・それはわからない。しかしこれだけは確実に言える。ボスは、この世からなんとしてもルナを消し去るつもりだ・・・!」
ーー逆に言えば、と、ジョルノは思う。
それだけルナは、ボスにとって脅威となり得る存在だということだろう。そして、その始まりはおそらく、彼女の母親にーー、ソアラさんにある。
「・・・度がすぎる執着は身を滅ぼす。」
全員がはっとして声がした方を見る。
「っていう言葉、聞いたことない?」
「ルナ!」
ブチャラティの隣の椅子に置かれた亀から、ルナがひょっこりと出て来ていた。
「大丈夫か?」
ブチャラティが声に心配をにじませて尋ねる。
「平気よ。よく寝たもの。あなたの方こそ、もう大丈夫、、、なのよね?」
と、最後の方はジョルノに目を向けて言う。
『ハルくん!助けて!ブローノが死んじゃう!』
・・・命を狙われてもけろっとしているあなたの、あんなふうにーーー、今にも泣き出しそうな声を初めて聞いた。
かすかな胸の痛みを感じながらジョルノが頷くと、ありがとう、と、ルナは微笑んだ。
その笑顔はいつものように美しいけれど、どこか透き通るような、ある種のはかなさがあるように見える。本当に大丈夫なのだろうか。
「・・・ナランチャから、だいたいの話は聞いたけど。」
言いながらルナは、水路沿いの手すりを背にしてこちらを見る。陽を受けた琥珀色の髪が艶やかに輝き、中世の面影の色濃いヴェネツィアの街並に美しく溶け込んでいた。
「まあ、、、100歩譲ってブローノはー、わかるわよ?ボスを裏切るのも。でも・・・どうしてみんなまで?よく知らないけど、今度は、パッショーネの組織全体から狙われることになるんじゃあないの?」
・・・なぜブチャラティだけなんだ。
憮然としたジョルノの視線に気づき、ルナは気まずそうに目線を宙に泳がせると、
「ハルくージョルノも、まあ、わからなくもないかな・・・?地球半周ぐらい譲れば、だけど。」
譲りすぎです。
「とにかく・・・知ってると思うけど、ボスのように徹底的に姿を隠すタイプの敵には、私のスタンドは通用しない。見えないと支配できないからね。でも、私がそばにいる限り、あなたたちのようなスタンド能力者の運命をどんどん変えてしまう。当然、悪い方向に流れることだってある。私なんかのために命をかけたっていいことないわよ?」
「へっ・・・今さらだぜ、ルナ。」
テーブルに頬杖をついたミスタは、ニヤリと口の端を持ち上げた。
「悪いけどよォ、おまえがグースカ寝てる間に話はついてるんだ。俺たちはもう立派な裏切り者だぜ?能天気なのがおまえの取り柄なんだからよォ、似合わねー心配なんかするんじゃあねえっての!」
アバッキオが淡々と続ける。
「ミスタの言う通りだぜ。俺たちは全員、自分の意志で組織を裏切り、ブチャラティにつくと決めたんだ。俺たちがこの後どんなふうにくたばろうが、ルナ、おめーが気にすることじゃあねえよ。」
「・・・」
ルナは複雑な表情を浮かべている。そんな彼女を、ブチャラティは静かに見つめていた。
『ボスは、みずからの手でルナを始末する為に、俺たちに彼女を護衛させた。ルナの母親の<矢>は確かにあったが、ルナを自分のもとへ来させる為の餌にすぎなかった。それを知って俺は、ボスを許すことができなかった。だから裏切った。』
ーーサン・ジョルジョ・マッジョーレ教会の船着場で。
ブチャラティは、部下たちを巻き込まない為に、裏切りの理由を話すつもりはなかったが、ジョルノは反対した。仲間が必要だと思ったからだ。ひそかな確信もあった。ブチャラティの人望なら、ついてくる者がいる、と。
『俺は、相手が誰であろうとルナを守り抜く。しかしこれは、言うまでもなく俺の個人的な感情だ。だから俺に義理なんぞを感じてついてくる必要はない。』
・・・この人のこういう潔さは、真似しようと思って出来るものじゃあないな。
そう考えながらジョルノはブチャラティを見た。その碧い目の中に、揺るぎない決意が光っている。ジョルノの<覚悟>と<夢>に賭けると宣言した時のように。
アバッキオ、ミスタ、ナランチャがボートに乗ると決めた後、ミスタが言った。
『ーで?オメーはどうするよ?フーゴ。』
『・・・』
フーゴは、気を失ってボートに横たわるルナの方を見る。そして苛立たしげに髪をかき上げると、深々と溜め息をついた。
『まったく、そろいもそろってバカばっかりだな・・・!』
『そういうオメーも、だろ?』
からかうようなミスタの言葉は無視して、フーゴは、ブチャラティに向き直ると、
『ブチャラティ、僕はボートには乗らない。ゾロゾロ行ったって目立つだけじゃあないか・・・いいですか?パッショーネはでかい組織だ。狙いはボスひとりだとしても、外から攻めるだけなんて能無しのやることだ。あんたがルナに<重症>なのはわかっていたけど、そんなことも判断できなくなったんですか?僕は表向きは組織に残る。バカげた裏切りに付き合うのは不本意ですが、何もせず全員の死体を拝むよりはずっとマシだ。』
『・・・』
ブチャラティは目を見張って聞いていたが、その口許にふっと笑みを浮かべた。
『悪態をつく時のおまえは、頼りになる。すまないな、フーゴ。』
『・・・あんたに付き合ってたら、こっちまでマトモな判断ができなくなったんですよ・・・!』
『アハハハッ!フーゴォ、おまえって素直じゃあねーよなァ。』
『やかましいっ!このド低脳があッ!』
「ールナ。」
ブチャラティが沈黙を破る。
「君も、サン・ジョルジョ・マッジョーレ教会の地下でボスと話をしたはずだ。何でもいい、ボスの正体について何か心当たりはないか?あるいは、君のお母さんについて何か思い出したことでもいい。」
「・・・」
ルナはあきらめたように息を吐くと、
「思い出したというか、<教えられた>というか・・・私のスタンド能力は遺伝的なもの。そのせいなのか時々、スタンドを通じて過去を感じ取ることがある。たいてい夢を見てる時だけど・・・さっき、ある場所の風景が出てきた。」
目線を上げ、ジョルノたちを真っすぐに見た。
「サルディニア島だわ。亀の中にあった地図のおかげで名前がわかった・・・私のママは子どもの頃、サルディニアに住んでいた。たぶんボスとはそこで知り合ったのよ。」
サルディニア!?
「ルナの母親が子どもの頃ってことは・・・ボスが組織のボスになる前?ひょっとしてボスが生まれ育った故郷か・・・!?」
アバッキオの言葉にルナは肩をすくめる。
「そこまではわからないけど。可能性はあるかもね。」
サルディニア。
このヴェネツィアを脱出して向かう場所はそこだ。
そこに、ボスの過去と正体がある・・・!
「・・・みんな、ほんとにいいの?夢に出てきただけの、うさんくさい話を信じて。」
自信なさげな表情を浮かべるルナを見て、ジョルノは、やれやれ、と思う。
あなたって人は・・・自分を客観視することが本当に出来ない人ですね。
あなたの言葉を疑う者など、このチームには誰ひとりいないというのに。
あなたは、すでに<道標>だ。
かの有名なドラクロワの絵画で描かれた、高々と自由の旗を掲げ、傷つき倒れた兵士たちを鼓舞し、みずから先頭に立って道を切り拓いてゆくーーー、あの、自由の為に戦う女神のように。
たとえあなた自身が、そんな役割を望んだわけではないとしても。
誰にも縛られることのない自由で気高い精神に、惹き寄せられてしまう。
ーーカツン。
「・・・なるほどな。」
上質な革靴が石段を叩く音が響く。同時に、少し癖のある煙草の香りがふわりと漂った。
「おまえらの次の目的地は、サルディニア島ってわけだ・・・」
水路に通じる階段をゆっくりと上って来たのは、煙草をくわえた金髪の男。ジョルノの視界の端で、ルナが大きく息をのむのがわかった。
「プロシュート・・・!」
ーーあなたが望まなくても。
組織の名のもとに服従を強いられた者たちの運命を、変えてゆく。