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46
「あの塔の上に、今、ボスがいるのかァ・・・」
ナランチャの声につられるように、ルナは塔を見上げた。
島の名前と同じ、壮麗なサン・ジョルジョ・マッジョーレ教会が、早朝の薄青い空気の中にたたずんでいる。塔の上は影になっていて見えないが、あの高さならラグーナや対岸のサン・マルコ広場まで見渡せるだろう。
「細かい指示といい、ものすごく用心深い。だがそうじゃなきゃあ、組織のボスなんかやってらんねーだろうがな。」
フーゴの言葉に、アバッキオが頷きながら続ける。
「しかしまあ、俺たちの任務もここで終わりだな。全員無事だったし、よかったってところか。」
「でもよお、、、肝心なことを忘れてねーか?おまえら。」
ミスタが、彼にしてはめずらしくためらいがちに言った。
「ルナをあの塔の上に連れてってよお、その後、どうなるんだ?」
ボートの上が無言になる。
ぱしゃん、ぱしゃん、と、船着き場の石段に運河の水がゆるやかに打ち寄せていた。
「・・・塔の上に、矢だけ置いてあるんじゃあねーか?」
「そ、そうだよな!たぶんボスはあの辺りのどこかに隠れてて、声だけで指示してくるんだぜ!絶対!声だけじゃあ正体なんかわかんねーしっ。な!?フーゴ、おまえもそう思うよな!?」
「まあ・・・誰も正体を知らない謎のボスなんだ。できる限り姿は見せないでおきたいんじゃあないかな、やっぱり。」
「ってことは、だ!いいか、ルナ。おまえ、間違ってもボスの方を見るんじゃあねえぞ。顔なんて絶対に見るなよっ。」
「・・・」
ルナはぽかんとしてやり取りを眺めていたが、次の瞬間、吹き出してしまった。
「「ハアァ!?笑うところじゃあねーからっ!」」
ボスの正体を知れば殺されるかもしれないから。だから、みんなーー、アバッキオもナランチャもフーゴもミスタも、私を心配してくれている。彼らの任務は<私を護衛してボスの所まで連れて来る>ことで、その後に何があろうと彼らの責任ではないのに。もちろん心配してくれる一番の理由は、尊敬するリーダーの彼女(一応)っていうせいだろうけれど、それにしたって、、、
「ほんとに、、、誰がギャングかわからないわね・・・」
ーーどうしよう、と、思った。涙が出そうだ。
ご立腹のミスタやナランチャを尻目に、ブチャラティへ視線を向ける。それを受け止めると彼は、ゆっくりと深く頷いた。
「ふふっ・・・グラッツェ。みんなに心配してもらえて嬉しいわ。お礼にキスしたいぐらいよ。」
「あ〜、、、いや待て、ルナ、悪くない話ではあるんだが、そいつはちょっとばかし問題があるんじゃあねーか?俺たちの命に関わる問題がよ、、、」
「?」
なぜかみんなの視線が自分を素通りするので、見ると、ブチャラティに集中している。その視線を華麗にスルーすると、彼は長い脚で軽々とボートから石段に移った。そして、ルナに向かって手を差し伸べる。彼女はその手をしっかりとつかんでボートを降りた。
その時、
「ールナ、待ってください。」
島に着いてから初めてジョルノが口を開いた。
「お守りに、これを。てんとう虫は太陽の象徴。幸運を呼ぶと・・・子供の頃、あなたに教わりました。」
言ってジョルノは、自分の胸許からてんとう虫を象った小さなブローチを外し、ルナに手渡した。
ーーどくん。
手のひらに感じた力強い脈動に、ルナが目を見張った時、
「お守り、です。なくさないでくださいね。」
恐いほど真剣なエメラルドグリーンの瞳が、彼女を見つめる。
ーーハルくん・・・
ルナはブローチのピンを服に通した。せつなさで指が震えそうになる。
10年も前の話なのに。
もしかして、ずっと覚えていたの?
「・・・気をつけて。」
と、ジョルノは複雑な表情で言った。
ルナはそこに、心配と、もどかしさと、確かな愛しさがにじんでいるような気がした。
♢
「・・・発信機の代わりになるな。」
ルナは隣を歩きながらブチャラティを見上げて微笑む。
「わかった?」
「ああ。ゴールド・エクスペリエンスの能力で、ブローチに生命を与えたんだな。これでジョルノには君の位置がわかる。名案だ。」
「なんとかして、これをボスに付けられないかしら?そうしたらボスの居場所がわかるもの。正体を知る手がかりになるわ。」
ーーまったく・・・
ブチャラティの口から溜め息がもれる。
ルナはすぐこれだ。
たった今、ミスタたちからボスに近づくなと注意されたばかりだというのに。
どうやったらおとなしく守られてくれるのか、誰か教えて欲しいくらいだ。
「そんなことは今はどうでもいい。ルナ、約束してくれ。少なくとも無事にこの島を出るまでは、そのブローチをけっして外さないと。」
「はーい・・・」
ほどなくしてサン・ジョルジョ・マッジョーレ教会の堂々とした白亜のファサードが二人を迎え入れた。
外と同様、広い教会内部の空間にも人の気配は感じられない。大理石がしらじらと冷たく光り、吹き抜けの高い天井は二人分の足音を吸い込んでいく。重たい空気の塊が肩にのしかかってくるようだった。
荘厳なティントレットの作品群が侵入者たちを無言で見下ろす中、ブチャラティは周囲を警戒しながら祭壇の近くまで進んだ。
すると、ルナが眉をひそめ、何か気になるように周囲を見回す。
「どうした?」
「・・・なんだか落ち着かなくて。」
めずらしいな、と、思った。
これまで、不安そうな様子を見せたことなど一度もないのに。
「ごめんなさい。いいの。こんな由緒ある教会の雰囲気に、日本人の私が慣れていないだけかもしれないわ。」
ルナはちょっと笑ってブチャラティを見る。心配させないよう、明るく言っているのがわかった。
ーー君が、そんなことを望んでいないのはわかっているが。
ブチャラティは静かに思う。
やはり俺は、君を守る為なら何でもするだろう。自分の命どころか、他人の命すら犠牲にするかもしれない。
君を失わずにすむのならば。
「・・・行けるか?」
ブチャラティが差し出した手のひらに、白い手が迷わず重なった。
旧式のエレベーターに乗り込み、二つしかないボタンの一つを押す。
「ーねえ、ブローノ。」
突然、ルナは言った。
「気づいてる?私たち、お互いの誕生日すら知らないのよ?」
ブチャラティは完全に虚をつかれてルナを見た。そんな彼を、長い睫毛に縁取られた菫色の瞳が微笑んで見つめる。
「お互いのこと、意外と知らないものね・・・わりと、中身の濃い時間を過ごしてると思うんだけど、ね。」
思わず苦笑がもれた。
「・・・帰りに教えてくれ。君の好きな花も一緒に。」
返事の代わりに、つないだ手に力が込もるのを感じた。
ドアの上にある、秤のような針がゆっくりと半周し、そろそろ最上階へ到着しようとしている。
「着くぞ。塔上だ。」
その一瞬、何か違和感を覚えた。
エレベーターが、着いている。
「・・・ルナ?」
沈黙。
おかしい。なぜだ。この手はつながっているのにーーーー、気配が、感じられない。
「っ・・・!!!?」
振り向いたブチャラティの目に飛び込んだ光景が、彼の呼吸を止める。
ぼたぼたとこぼれ落ちる鮮血が、またたく間に床を朱く染めあげていた。
血まみれの左手。
その<先>が、ない。
手首から新たに血がほとばしるのと、ブチャラティの言葉にならない叫びがエレベーターが割れるほどに響くのが、同時だった。
「あの塔の上に、今、ボスがいるのかァ・・・」
ナランチャの声につられるように、ルナは塔を見上げた。
島の名前と同じ、壮麗なサン・ジョルジョ・マッジョーレ教会が、早朝の薄青い空気の中にたたずんでいる。塔の上は影になっていて見えないが、あの高さならラグーナや対岸のサン・マルコ広場まで見渡せるだろう。
「細かい指示といい、ものすごく用心深い。だがそうじゃなきゃあ、組織のボスなんかやってらんねーだろうがな。」
フーゴの言葉に、アバッキオが頷きながら続ける。
「しかしまあ、俺たちの任務もここで終わりだな。全員無事だったし、よかったってところか。」
「でもよお、、、肝心なことを忘れてねーか?おまえら。」
ミスタが、彼にしてはめずらしくためらいがちに言った。
「ルナをあの塔の上に連れてってよお、その後、どうなるんだ?」
ボートの上が無言になる。
ぱしゃん、ぱしゃん、と、船着き場の石段に運河の水がゆるやかに打ち寄せていた。
「・・・塔の上に、矢だけ置いてあるんじゃあねーか?」
「そ、そうだよな!たぶんボスはあの辺りのどこかに隠れてて、声だけで指示してくるんだぜ!絶対!声だけじゃあ正体なんかわかんねーしっ。な!?フーゴ、おまえもそう思うよな!?」
「まあ・・・誰も正体を知らない謎のボスなんだ。できる限り姿は見せないでおきたいんじゃあないかな、やっぱり。」
「ってことは、だ!いいか、ルナ。おまえ、間違ってもボスの方を見るんじゃあねえぞ。顔なんて絶対に見るなよっ。」
「・・・」
ルナはぽかんとしてやり取りを眺めていたが、次の瞬間、吹き出してしまった。
「「ハアァ!?笑うところじゃあねーからっ!」」
ボスの正体を知れば殺されるかもしれないから。だから、みんなーー、アバッキオもナランチャもフーゴもミスタも、私を心配してくれている。彼らの任務は<私を護衛してボスの所まで連れて来る>ことで、その後に何があろうと彼らの責任ではないのに。もちろん心配してくれる一番の理由は、尊敬するリーダーの彼女(一応)っていうせいだろうけれど、それにしたって、、、
「ほんとに、、、誰がギャングかわからないわね・・・」
ーーどうしよう、と、思った。涙が出そうだ。
ご立腹のミスタやナランチャを尻目に、ブチャラティへ視線を向ける。それを受け止めると彼は、ゆっくりと深く頷いた。
「ふふっ・・・グラッツェ。みんなに心配してもらえて嬉しいわ。お礼にキスしたいぐらいよ。」
「あ〜、、、いや待て、ルナ、悪くない話ではあるんだが、そいつはちょっとばかし問題があるんじゃあねーか?俺たちの命に関わる問題がよ、、、」
「?」
なぜかみんなの視線が自分を素通りするので、見ると、ブチャラティに集中している。その視線を華麗にスルーすると、彼は長い脚で軽々とボートから石段に移った。そして、ルナに向かって手を差し伸べる。彼女はその手をしっかりとつかんでボートを降りた。
その時、
「ールナ、待ってください。」
島に着いてから初めてジョルノが口を開いた。
「お守りに、これを。てんとう虫は太陽の象徴。幸運を呼ぶと・・・子供の頃、あなたに教わりました。」
言ってジョルノは、自分の胸許からてんとう虫を象った小さなブローチを外し、ルナに手渡した。
ーーどくん。
手のひらに感じた力強い脈動に、ルナが目を見張った時、
「お守り、です。なくさないでくださいね。」
恐いほど真剣なエメラルドグリーンの瞳が、彼女を見つめる。
ーーハルくん・・・
ルナはブローチのピンを服に通した。せつなさで指が震えそうになる。
10年も前の話なのに。
もしかして、ずっと覚えていたの?
「・・・気をつけて。」
と、ジョルノは複雑な表情で言った。
ルナはそこに、心配と、もどかしさと、確かな愛しさがにじんでいるような気がした。
♢
「・・・発信機の代わりになるな。」
ルナは隣を歩きながらブチャラティを見上げて微笑む。
「わかった?」
「ああ。ゴールド・エクスペリエンスの能力で、ブローチに生命を与えたんだな。これでジョルノには君の位置がわかる。名案だ。」
「なんとかして、これをボスに付けられないかしら?そうしたらボスの居場所がわかるもの。正体を知る手がかりになるわ。」
ーーまったく・・・
ブチャラティの口から溜め息がもれる。
ルナはすぐこれだ。
たった今、ミスタたちからボスに近づくなと注意されたばかりだというのに。
どうやったらおとなしく守られてくれるのか、誰か教えて欲しいくらいだ。
「そんなことは今はどうでもいい。ルナ、約束してくれ。少なくとも無事にこの島を出るまでは、そのブローチをけっして外さないと。」
「はーい・・・」
ほどなくしてサン・ジョルジョ・マッジョーレ教会の堂々とした白亜のファサードが二人を迎え入れた。
外と同様、広い教会内部の空間にも人の気配は感じられない。大理石がしらじらと冷たく光り、吹き抜けの高い天井は二人分の足音を吸い込んでいく。重たい空気の塊が肩にのしかかってくるようだった。
荘厳なティントレットの作品群が侵入者たちを無言で見下ろす中、ブチャラティは周囲を警戒しながら祭壇の近くまで進んだ。
すると、ルナが眉をひそめ、何か気になるように周囲を見回す。
「どうした?」
「・・・なんだか落ち着かなくて。」
めずらしいな、と、思った。
これまで、不安そうな様子を見せたことなど一度もないのに。
「ごめんなさい。いいの。こんな由緒ある教会の雰囲気に、日本人の私が慣れていないだけかもしれないわ。」
ルナはちょっと笑ってブチャラティを見る。心配させないよう、明るく言っているのがわかった。
ーー君が、そんなことを望んでいないのはわかっているが。
ブチャラティは静かに思う。
やはり俺は、君を守る為なら何でもするだろう。自分の命どころか、他人の命すら犠牲にするかもしれない。
君を失わずにすむのならば。
「・・・行けるか?」
ブチャラティが差し出した手のひらに、白い手が迷わず重なった。
旧式のエレベーターに乗り込み、二つしかないボタンの一つを押す。
「ーねえ、ブローノ。」
突然、ルナは言った。
「気づいてる?私たち、お互いの誕生日すら知らないのよ?」
ブチャラティは完全に虚をつかれてルナを見た。そんな彼を、長い睫毛に縁取られた菫色の瞳が微笑んで見つめる。
「お互いのこと、意外と知らないものね・・・わりと、中身の濃い時間を過ごしてると思うんだけど、ね。」
思わず苦笑がもれた。
「・・・帰りに教えてくれ。君の好きな花も一緒に。」
返事の代わりに、つないだ手に力が込もるのを感じた。
ドアの上にある、秤のような針がゆっくりと半周し、そろそろ最上階へ到着しようとしている。
「着くぞ。塔上だ。」
その一瞬、何か違和感を覚えた。
エレベーターが、着いている。
「・・・ルナ?」
沈黙。
おかしい。なぜだ。この手はつながっているのにーーーー、気配が、感じられない。
「っ・・・!!!?」
振り向いたブチャラティの目に飛び込んだ光景が、彼の呼吸を止める。
ぼたぼたとこぼれ落ちる鮮血が、またたく間に床を朱く染めあげていた。
血まみれの左手。
その<先>が、ない。
手首から新たに血がほとばしるのと、ブチャラティの言葉にならない叫びがエレベーターが割れるほどに響くのが、同時だった。