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43
「つまりその敵も、あなたのスタンドが運命を変えてしまった一人だと?」
と、ジョルノは周囲を警戒しながら言った。
ミラノからネアポリスをつなぐ高速道路、アウトストラーダA1。南北に長いこの国を縦断する大動脈は、ボローニャ、フィレンツェ、ローマといった主要都市を経由し、アウトストラーダ・デル・ソーレ(太陽の道路)の別名を持つ。そのAutogrillは平日ながら混み合っていた。
「そんなイヤな顔しなくても・・・」
箱入りのBaciを手に取りながら、ルナは困ったように笑う。自分ではそんなつもりはないが、顔に出ていたのだろうか。
「ナランチャ、お菓子が食べたいって言ってたわよね?」
「はい。」
言いながらジョルノはもう一箱カゴに追加する。頭を働かせるために糖分が欲しい。
「うわ〜!見て見てハルくん、このパスタ、カラフルで可愛い!すごいわあ、普通の高速のサービスエリアなのに、種類がこんなに。イタリアって感じね〜。」
「ルナ、観光じゃあないので、余計なものは買わないでください。」
「・・・けち。」
「日本語で言ってもわかります。まったく・・・緊張感のない人ですね、あなたは。」
リスのように頬を膨らませた不満顔で、パスタやらリモンチェッロ(いつのまにカゴに入れていたのか)やらを、彼女は棚に戻してゆく。
店内には見える位置にチーム全員がいる。先程、食事をだいたい終えた頃だった。急にルナが買い物をしたいと席を立ったのは。
『ージョルノ、彼女のガードにつけ。』
こうして、ルナから列車での話をあらかた聞いた今は、なぜブチャラティが自分にそう命じたのか理由がわかる。
「大丈夫よ。あれから、ヒットマンチームの攻撃、なくなったじゃない。きっとプロシュートが仲間に話をしてくれたんだわ。」
「・・・そうだといいですね。このまま何事もなくヴェネツィアまで行けたら良いのですが。」
停止した列車を離れて、適当にピックアップした車で高速を北上する間、このローマ近郊のサービスエリアまで敵が追撃してくる様子はない。
ーーもしこれが本当に、ルナの言う通りなら。
ジョルノは、レジで精算する彼女から目を離さず思う。
つまり、老化させるスタンドの男は、自分は仲間に殺される覚悟をして、ルナを信じたということだ。
ルナを捕まえることーー。その目的を果たすどころか、思いがけない提案をされたとはいえ、彼女を見逃したのだから。仲間から、裏切り行為と捉えられても仕方ない。
アブソリュート・ブレスは運命を司るスタンド。ルナの意思とは関係なく、特定のスタンド使いの運命を変えてゆくという。すなわちそれは、相手を彼女の運命に巻き込んでしまうとも言える。
ルナは、今回の老化させる男の行動は、自分のその特殊なスタンド能力のせいだと考えているようだが、はたしてそうだろうか?相手の運命を変えることと、相手の心を動かすことは別のように思える。
そこまで考えて、ジョルノは小さく溜め息をついた。
・・・イヤな顔をしたくなるのも、当然じゃあないか。
「ハルくん?」
レジを終えたルナが目の前に来て首を傾げる。髪を一つにまとめているせいで露わになった白くなめらかな首筋が、息苦しくなるほど綺麗だ。
「・・・もし彼があなたの話にのったフリをして、今頃ボスに知らせていたらどうしますか?ブチャラティが組織を裏切るつもりだと。」
と、彼女の手にある買い物袋を持ちながら言った。すると、思いもよらなかった、と言わんばかりに彼女は目を丸くして、
「プロシュートのこと?彼がボスに密告するの?」
まるで10年来の旧友のように親しげに敵の名前を呼ぶ。そして吹き出した。
「ふふっ、ハルくん、難しい顔して何を考えてるのかと思ったら、、、ないない!プロシュートはそんな人じゃあないもの。」
なぜそう言い切れるんですか?と、訊こうとした言葉をジョルノは飲み込む。
ーー無駄だ。この人の言動に、論理的な答えを見出そうとするのは。きっと理屈より感性が優先している。
何の計算や理由もなく、ただ相手を信じることなんて、僕なら出来ない。愛情を受けて育ったら僕もそうなれたのだろうか。僕に無償の優しさを与えてくれたのはルナとソアラさんで、敬意を払うことの意味を教えてくれたのは名も知らぬギャングの男。そしてブチャラティが、仲間を与えてくれたのだ。最近、彼とルナは似ているところがあると思う。助けを必要とする人間を見捨てておけず、自分では特別なことをしている自覚がまったくないまま、自然とー、相手をありのまま受け入れる懐の深いところが。
・・・本人たちには似ているなんて絶対に教えないけれど。特にブチャラティには。
そう思いながら隣を見ると、ふとルナの様子に違和感を覚えた。
「ルナ、大丈夫ですか?なんだか顔色が悪いようですけど・・・」
もともと白い肌が今は蒼ざめているようにも見える。少しぽてっとした、いかにも柔らかそうな(実際とても柔らかいけれど)唇にも、血の気がない。
「え、そう?何ともないわよ。」
「少し疲れたんじゃあないですか?ヴェネツィアまではまだ時間がかかります。亀の中で休んでください。」
「心配性ね。」
くすりと笑ってジョルノを見た表情はいつもと変わらなかった。気のせいか?店の照明の加減だろうか。
「心配するのは当然でしょう。忘れたんですか?僕はあなたが好きなんですよ。」
赤くなるだろうなと思ったらその通りに頬を染める。そんな顔で睨まれてもちっとも怖くない。むしろ愛おしいだけだ。
「・・・さらっと言わないで。わかってる?ここ、高速のサービスエリアなのよ?」
「どこでどんなふうに言おうと関係ないです。事実なんですから。僕にとって、ルナより大切な人は他にいません。」
「〜〜!」
彼女の顔がますます赤くなる。そして耐えきれなくなったようにそっぽを向いて片手で目を覆った。
「・・・なんでそんなセリフを照れもせず言えるわけ?まったくもう、、、」
前にも言ったじゃあないですか。はっきり言わないと伝わらないからですよ、鈍感なあなたには。そもそも、本当のことなのに照れなければならない理由がわからない。
と、ジョルノが心の中でひとりごちていた時、少し離れた席に脚を組んで座り、こちらを睨んでいるブチャラティと目が合う。
・・・ルナと一緒に席を離れた時から、背中に視線が張りついているのには気づいていたけれど。今、もし彼の視線に質量があれば自分は串刺しになっているに違いない。
予想はしていたけど、イライラが抑えられないんでしょう?僕の気持ちを知っているのに、ルナと二人きりにさせるからです。自業自得じゃあないですか。あなたの、そういう<良い人>の部分は性格で、演技をしているわけではないのはとっくに気がついてる。だからやりづらい。部下としてならいいが、男としての僕を信頼しすぎないで欲しい。何だかんだ言っても僕がルナには本気で手を出さないとでも思っているのだろうか。
甘いですよ、ブチャラティ。僕も、あなたとルナが一緒にいるのを見ると内心イライラしている。言ったはずだ、偉そうにかまえていられるのは今のうちだと。僕だって譲れないのだから。
「そうそう、ハルくん。」
ルナは気を取り直すようにわざとらしく咳をすると、
「ゴールド・エクスペリエンスの能力で、ひとつ、思いついたことがあるの。」
真面目な顔で言った。
「私のスタンドでは出来ないけれど、あなたのスタンドなら・・・生命を創り出す能力があるのなら、もしかしたら出来るかも。」
「どういう意味です?僕のスタンド能力なら、何が出来るんですか?」
「あなたしか出来ないこと。」
訝しげなジョルノに向かって、ルナは、まるで悪戯をする子どものように目を輝かせて続ける。
「とりあえず、ミスタに協力してもらわなきゃ。彼の頭の傷、まだ完全にはふさがってないから。」
「つまりその敵も、あなたのスタンドが運命を変えてしまった一人だと?」
と、ジョルノは周囲を警戒しながら言った。
ミラノからネアポリスをつなぐ高速道路、アウトストラーダA1。南北に長いこの国を縦断する大動脈は、ボローニャ、フィレンツェ、ローマといった主要都市を経由し、アウトストラーダ・デル・ソーレ(太陽の道路)の別名を持つ。そのAutogrillは平日ながら混み合っていた。
「そんなイヤな顔しなくても・・・」
箱入りのBaciを手に取りながら、ルナは困ったように笑う。自分ではそんなつもりはないが、顔に出ていたのだろうか。
「ナランチャ、お菓子が食べたいって言ってたわよね?」
「はい。」
言いながらジョルノはもう一箱カゴに追加する。頭を働かせるために糖分が欲しい。
「うわ〜!見て見てハルくん、このパスタ、カラフルで可愛い!すごいわあ、普通の高速のサービスエリアなのに、種類がこんなに。イタリアって感じね〜。」
「ルナ、観光じゃあないので、余計なものは買わないでください。」
「・・・けち。」
「日本語で言ってもわかります。まったく・・・緊張感のない人ですね、あなたは。」
リスのように頬を膨らませた不満顔で、パスタやらリモンチェッロ(いつのまにカゴに入れていたのか)やらを、彼女は棚に戻してゆく。
店内には見える位置にチーム全員がいる。先程、食事をだいたい終えた頃だった。急にルナが買い物をしたいと席を立ったのは。
『ージョルノ、彼女のガードにつけ。』
こうして、ルナから列車での話をあらかた聞いた今は、なぜブチャラティが自分にそう命じたのか理由がわかる。
「大丈夫よ。あれから、ヒットマンチームの攻撃、なくなったじゃない。きっとプロシュートが仲間に話をしてくれたんだわ。」
「・・・そうだといいですね。このまま何事もなくヴェネツィアまで行けたら良いのですが。」
停止した列車を離れて、適当にピックアップした車で高速を北上する間、このローマ近郊のサービスエリアまで敵が追撃してくる様子はない。
ーーもしこれが本当に、ルナの言う通りなら。
ジョルノは、レジで精算する彼女から目を離さず思う。
つまり、老化させるスタンドの男は、自分は仲間に殺される覚悟をして、ルナを信じたということだ。
ルナを捕まえることーー。その目的を果たすどころか、思いがけない提案をされたとはいえ、彼女を見逃したのだから。仲間から、裏切り行為と捉えられても仕方ない。
アブソリュート・ブレスは運命を司るスタンド。ルナの意思とは関係なく、特定のスタンド使いの運命を変えてゆくという。すなわちそれは、相手を彼女の運命に巻き込んでしまうとも言える。
ルナは、今回の老化させる男の行動は、自分のその特殊なスタンド能力のせいだと考えているようだが、はたしてそうだろうか?相手の運命を変えることと、相手の心を動かすことは別のように思える。
そこまで考えて、ジョルノは小さく溜め息をついた。
・・・イヤな顔をしたくなるのも、当然じゃあないか。
「ハルくん?」
レジを終えたルナが目の前に来て首を傾げる。髪を一つにまとめているせいで露わになった白くなめらかな首筋が、息苦しくなるほど綺麗だ。
「・・・もし彼があなたの話にのったフリをして、今頃ボスに知らせていたらどうしますか?ブチャラティが組織を裏切るつもりだと。」
と、彼女の手にある買い物袋を持ちながら言った。すると、思いもよらなかった、と言わんばかりに彼女は目を丸くして、
「プロシュートのこと?彼がボスに密告するの?」
まるで10年来の旧友のように親しげに敵の名前を呼ぶ。そして吹き出した。
「ふふっ、ハルくん、難しい顔して何を考えてるのかと思ったら、、、ないない!プロシュートはそんな人じゃあないもの。」
なぜそう言い切れるんですか?と、訊こうとした言葉をジョルノは飲み込む。
ーー無駄だ。この人の言動に、論理的な答えを見出そうとするのは。きっと理屈より感性が優先している。
何の計算や理由もなく、ただ相手を信じることなんて、僕なら出来ない。愛情を受けて育ったら僕もそうなれたのだろうか。僕に無償の優しさを与えてくれたのはルナとソアラさんで、敬意を払うことの意味を教えてくれたのは名も知らぬギャングの男。そしてブチャラティが、仲間を与えてくれたのだ。最近、彼とルナは似ているところがあると思う。助けを必要とする人間を見捨てておけず、自分では特別なことをしている自覚がまったくないまま、自然とー、相手をありのまま受け入れる懐の深いところが。
・・・本人たちには似ているなんて絶対に教えないけれど。特にブチャラティには。
そう思いながら隣を見ると、ふとルナの様子に違和感を覚えた。
「ルナ、大丈夫ですか?なんだか顔色が悪いようですけど・・・」
もともと白い肌が今は蒼ざめているようにも見える。少しぽてっとした、いかにも柔らかそうな(実際とても柔らかいけれど)唇にも、血の気がない。
「え、そう?何ともないわよ。」
「少し疲れたんじゃあないですか?ヴェネツィアまではまだ時間がかかります。亀の中で休んでください。」
「心配性ね。」
くすりと笑ってジョルノを見た表情はいつもと変わらなかった。気のせいか?店の照明の加減だろうか。
「心配するのは当然でしょう。忘れたんですか?僕はあなたが好きなんですよ。」
赤くなるだろうなと思ったらその通りに頬を染める。そんな顔で睨まれてもちっとも怖くない。むしろ愛おしいだけだ。
「・・・さらっと言わないで。わかってる?ここ、高速のサービスエリアなのよ?」
「どこでどんなふうに言おうと関係ないです。事実なんですから。僕にとって、ルナより大切な人は他にいません。」
「〜〜!」
彼女の顔がますます赤くなる。そして耐えきれなくなったようにそっぽを向いて片手で目を覆った。
「・・・なんでそんなセリフを照れもせず言えるわけ?まったくもう、、、」
前にも言ったじゃあないですか。はっきり言わないと伝わらないからですよ、鈍感なあなたには。そもそも、本当のことなのに照れなければならない理由がわからない。
と、ジョルノが心の中でひとりごちていた時、少し離れた席に脚を組んで座り、こちらを睨んでいるブチャラティと目が合う。
・・・ルナと一緒に席を離れた時から、背中に視線が張りついているのには気づいていたけれど。今、もし彼の視線に質量があれば自分は串刺しになっているに違いない。
予想はしていたけど、イライラが抑えられないんでしょう?僕の気持ちを知っているのに、ルナと二人きりにさせるからです。自業自得じゃあないですか。あなたの、そういう<良い人>の部分は性格で、演技をしているわけではないのはとっくに気がついてる。だからやりづらい。部下としてならいいが、男としての僕を信頼しすぎないで欲しい。何だかんだ言っても僕がルナには本気で手を出さないとでも思っているのだろうか。
甘いですよ、ブチャラティ。僕も、あなたとルナが一緒にいるのを見ると内心イライラしている。言ったはずだ、偉そうにかまえていられるのは今のうちだと。僕だって譲れないのだから。
「そうそう、ハルくん。」
ルナは気を取り直すようにわざとらしく咳をすると、
「ゴールド・エクスペリエンスの能力で、ひとつ、思いついたことがあるの。」
真面目な顔で言った。
「私のスタンドでは出来ないけれど、あなたのスタンドなら・・・生命を創り出す能力があるのなら、もしかしたら出来るかも。」
「どういう意味です?僕のスタンド能力なら、何が出来るんですか?」
「あなたしか出来ないこと。」
訝しげなジョルノに向かって、ルナは、まるで悪戯をする子どものように目を輝かせて続ける。
「とりあえず、ミスタに協力してもらわなきゃ。彼の頭の傷、まだ完全にはふさがってないから。」