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ーー仕事にかかる前には、必ずイメージする。
いつ、どこで、どうやってターゲットに近づき、どんな方法で始末するか。不測の事態が起ころうとも対応できるよう、何パターンも頭の中で組み立てる。イメージは精密であればあるほどいい。与えられた任務は必ず遂行する。
ターゲットを確実に始末する為に必要な儀式みたいなもんだ。完璧なイメージを作り上げ、そして実行する。そうやって大勢殺してきた。男も女も年寄りも、時には子どもすら。
後悔はない。後悔なんてヤツは、覚悟のない連中の泣き言だ。俺たちのような人殺しの生き方など、しょせん天国を信じている連中にわかりはしない。
『・・・ソアラ・フォルトゥナは、当時のボスの恋人だったという噂だ。つまりボスの顔を知っている数少ない人間だった。その娘なら、何か知っていてもおかしくはない。』
『Molto bella!瞳の色は・・・ヴィオラかな?ベネ。ミステリアスじゃあないか。』
『ソアラ・フォルトゥナがボスの昔の女ってんならよお、この、ルナだっけか?ボスの娘っていう可能性もあるんじゃあねえのか?』
『不明だが、その可能性も含んでおけ。しかし、もしボスの娘だとしたら、もっと前にイタリアに現れてもいいはずだなんだが。』
『ハハッ!ボスの娘なら、ブチャラティの奴もさすがに手は出せねえだろ。』
『オイ、ペッシは?』
『アア?便所だろ。ゆうべ食った牡蠣があたったんだとよ。』
『しょうがね〜なあ!』
『プロシュート?』
『ー何だ。』
『・・・灰、落ちるぜ。』
メローネの指摘に、プロシュートは煙草の火が根元まで迫っていたことに初めて気がつく。慌てず、何でもないフリをしながら灰皿にジタンを押しつけた。
『ボスの正体を知る為にはこの女が必要だ。必ず捕らえる。他に道はない。俺たちが生き延びる為には・・・!』
仲間たちの声が遠くに聞こえる。
くしゃり、と、手の中の写真に皺が浮き上がる。当然ザ・グレイトフル・デッドの能力ではない。自分の指が無意識に力をこめ過ぎたせいだ。妙なところでカンのいいメローネにまた何か言われる前に、新しい煙草に火を点ける。目を閉じて肺に深々と吸い込んだ煙をゆっくりと吐き出した。
ーー因果な商売だ。どこまで行っても。
リゾットの言う通りだ。同じ組織の人間にさえ疎まれる俺たちにとって、他に道はない。
たとえ一瞬の邂逅で、自分の心に深く刻まれた女であっても。
ブチャラティのチームの奴らを始末して、女を手に入れる。新入りの奴を除いて、ブチャラティのチームの情報はスタンド能力まで掴んでいる。女がスタンド使いである可能性も加味して、入念にイメージを作り上げ、実行すればいい。いつも通りに。
「も〜・・・まいった・・・」
ーーそう。
いつも通りだったー・・・はず、なのに。
「悪いんだけど・・・スタンドは解除させて?さすがにー、死にそう・・・シワシワで・・・」
目の前に倒れた女の、顔を覆った左手の指の隙間から、途切れ途切れに漏れる呟き。
途端、かつてない感覚に襲われ、プロシュートは思わず周囲を見る。グレイトフル・デッドがいない。解除した覚えはないのに。
「ーーー!?」
女の手からシワが消えてゆく。ショートパンツから伸びたカモシカのような脚の皮膚に、水を弾くような張りが戻る。床の上で目を回しているミスタのスタンドの顔すら元に戻っていく。
「信じられない・・・猛スピードで突っ走ってる列車から飛び降りるとか、フツーやる?何が優先順位よ、、、」
ーーイメージが出来なかった。
何度やっても、ブチャラティのチームを始末して、ルナを捕らえるイメージだけは上手く作れなかったのだ。
自分の中から、ルナを捕らえることは太陽が西から昇るのと同じくらい<おかしなこと>だという違和感が、どうしても消えなかった!
「なぜだ・・・」
プロシュートはようやく声を発した。
「なぜ、俺を助けた・・・!?」
ペッシのビーチ・ボーイの糸が自分の手から外れたのを見た瞬間は、終わりだと思った。だが、地面に激突するはずの身体が受けたのは、奇妙な風だった。列車が起こす風とは真逆の方角から、身体を支えるように吹きつけた強烈な風。その直後、何かにぶつかったような衝撃とともに、身体は列車の中に転がっていた。
そして、目の前にはーー、
「・・・言わなかった?次に会ったらお礼するってーいったたたた・・・!」
顔をしかめながらルナは上半身をゆっくりと起こす。右手が肋骨のあたりを押さえている。どんなスタンドかは知らないが、大の男がぶつかって無傷で済むはずはない。しかしアメシストの瞳は、プロシュートを見てどこか哀しげな微笑みを浮かべていた。
「・・・私を助けてくれた日、あなたがあの路地にいたのは、きっと、予定外の行動だったのよね・・・」
話が見えない。
この女とは確かに偶然会ったことがある。それがいったい何だと言うのか。
壊れた乗降口から時速150キロの轟々とした音とともに、西に傾き始めた太陽の光が入ってくる。
プロシュートは立ち上がってルナを見下ろした。
「・・・俺なんざ助けなきゃあよかったものを。一緒に来てもらうぜ、ルナ。」
ペッシの針を奪ったブチャラティがあの後どうなったかわからないが、奴の強さと覚悟は身に染みて理解した。下手するとペッシがやられる。時間がない。
意外にもルナは素直に立ち上がる。
しかし、その口が発した言葉は、プロシュートの度肝を抜くには充分だった。
「あなたたち、ヒットマンチームと手を組みたいの。」
声も出せず、ただ目の前の女を穴があくほど見つめる。彼女は痛みを感じさせない落ち着いた表情でプロシュートの反応を見ていた。
ーー意味がわからねえ。手を組むだと?ブチャラティたちとか?何を言ってるんだこの女は。俺たちがボスを裏切ったことを知らねえのか?ブチャラティや他の連中が助けに来るまでの、時間稼ぎで言い出しやがったのか?
「私なんか捕まえても何の役にも立たないわ。ボスのことなんて何も知らない。でも、協力は出来る。だって、ブチャラティとジョルノは、すぐには無理かもしれないけどー、ボスを倒すつもりでいるから。だから、あなたたちとブチャラティのチームが争う必要なんてない。ボスを倒すっていう目的は同じだもの。」
「ボスを倒すだと・・・!?バカな、ブチャラティは幹部だぞ!なのに組織を裏切る気か!」
思わず叫んだ。
ーー時間稼ぎの下手な嘘をついているようには見えない。なぜならこの女がー、<俺をまったく恐れていない>のを感じるからだ。
「そうなんじゃない?」
軽い調子で言ってルナは首を傾げる。
「まあ、彼なりに組織に不満もあるんでしょうし、、、このあたり、ちょっとすり合わせが必要なところなんだけど。でも、組織に不満があるのはあなたたちもじゃあないの?深くきくつもりはないけど、過去によっぽどのことがあったから、今回みたいな行動に出たんじゃあないの?」
「・・・」
2年前の葬式が脳裏をフラッシュバックする。コンクリートのように固い椅子の冷ややかさ。鼓膜を圧する出口のない沈黙。最後まで動かなかったリゾットの背中。
「・・・正気とは到底思えねえな。ミスタの脳天ブチ抜いたのはこの俺だぞ。それでも手を組もうって言うのか。」
「でも彼は生きてる。大切なのはそこだわ。あなたの仲間はどう?もし死んでないのなら、何とかなるんじゃあないかしら。命をかけるほどの戦いなら、仲間は多い方がいい。違う?」
一度言葉を切ると、ルナは、おもむろに右手を差し伸べた。斜めに差し込む夕陽が、その指の一本一本まで金色に染め上げる。
「あなたたちが必要だわ。手を組みましょう、プロシュート!」
「ーっ・・・」
プロシュートは目を見張った。
まるで雷に打たれたかのような衝撃が全身を貫いた。
・・・信じられねえ。めちゃくちゃだ。俺たちが必要だと?いったい何なんだこの女は。そもそもこいつのスタンド能力は何だ?
混乱して立ち尽くす自分を、ルナは穏やかな表情で、黙って見つめている。
頭ではやめろと叫んでいるのに、放たれた言葉が、自身の心の奥深いところに波紋を広げてゆくのを止められない。名前も知らない、自分でも存在すら知らなかった何かの感情が揺り動かされたような気がした。静かに、しかし確実に。
風が渦を巻くように車内を吹き抜ける。その拍子に、ふっと、握りしめていた拳から力が抜ける。
ーーひとつだけ確かなことがある。
あの<違和感>が、今、自分の中から跡形もなく消えている。
黄金色の風に押されるようにして、プロシュートは自身の右手をゆっくりと持ち上げた。
ーー仕事にかかる前には、必ずイメージする。
いつ、どこで、どうやってターゲットに近づき、どんな方法で始末するか。不測の事態が起ころうとも対応できるよう、何パターンも頭の中で組み立てる。イメージは精密であればあるほどいい。与えられた任務は必ず遂行する。
ターゲットを確実に始末する為に必要な儀式みたいなもんだ。完璧なイメージを作り上げ、そして実行する。そうやって大勢殺してきた。男も女も年寄りも、時には子どもすら。
後悔はない。後悔なんてヤツは、覚悟のない連中の泣き言だ。俺たちのような人殺しの生き方など、しょせん天国を信じている連中にわかりはしない。
『・・・ソアラ・フォルトゥナは、当時のボスの恋人だったという噂だ。つまりボスの顔を知っている数少ない人間だった。その娘なら、何か知っていてもおかしくはない。』
『Molto bella!瞳の色は・・・ヴィオラかな?ベネ。ミステリアスじゃあないか。』
『ソアラ・フォルトゥナがボスの昔の女ってんならよお、この、ルナだっけか?ボスの娘っていう可能性もあるんじゃあねえのか?』
『不明だが、その可能性も含んでおけ。しかし、もしボスの娘だとしたら、もっと前にイタリアに現れてもいいはずだなんだが。』
『ハハッ!ボスの娘なら、ブチャラティの奴もさすがに手は出せねえだろ。』
『オイ、ペッシは?』
『アア?便所だろ。ゆうべ食った牡蠣があたったんだとよ。』
『しょうがね〜なあ!』
『プロシュート?』
『ー何だ。』
『・・・灰、落ちるぜ。』
メローネの指摘に、プロシュートは煙草の火が根元まで迫っていたことに初めて気がつく。慌てず、何でもないフリをしながら灰皿にジタンを押しつけた。
『ボスの正体を知る為にはこの女が必要だ。必ず捕らえる。他に道はない。俺たちが生き延びる為には・・・!』
仲間たちの声が遠くに聞こえる。
くしゃり、と、手の中の写真に皺が浮き上がる。当然ザ・グレイトフル・デッドの能力ではない。自分の指が無意識に力をこめ過ぎたせいだ。妙なところでカンのいいメローネにまた何か言われる前に、新しい煙草に火を点ける。目を閉じて肺に深々と吸い込んだ煙をゆっくりと吐き出した。
ーー因果な商売だ。どこまで行っても。
リゾットの言う通りだ。同じ組織の人間にさえ疎まれる俺たちにとって、他に道はない。
たとえ一瞬の邂逅で、自分の心に深く刻まれた女であっても。
ブチャラティのチームの奴らを始末して、女を手に入れる。新入りの奴を除いて、ブチャラティのチームの情報はスタンド能力まで掴んでいる。女がスタンド使いである可能性も加味して、入念にイメージを作り上げ、実行すればいい。いつも通りに。
「も〜・・・まいった・・・」
ーーそう。
いつも通りだったー・・・はず、なのに。
「悪いんだけど・・・スタンドは解除させて?さすがにー、死にそう・・・シワシワで・・・」
目の前に倒れた女の、顔を覆った左手の指の隙間から、途切れ途切れに漏れる呟き。
途端、かつてない感覚に襲われ、プロシュートは思わず周囲を見る。グレイトフル・デッドがいない。解除した覚えはないのに。
「ーーー!?」
女の手からシワが消えてゆく。ショートパンツから伸びたカモシカのような脚の皮膚に、水を弾くような張りが戻る。床の上で目を回しているミスタのスタンドの顔すら元に戻っていく。
「信じられない・・・猛スピードで突っ走ってる列車から飛び降りるとか、フツーやる?何が優先順位よ、、、」
ーーイメージが出来なかった。
何度やっても、ブチャラティのチームを始末して、ルナを捕らえるイメージだけは上手く作れなかったのだ。
自分の中から、ルナを捕らえることは太陽が西から昇るのと同じくらい<おかしなこと>だという違和感が、どうしても消えなかった!
「なぜだ・・・」
プロシュートはようやく声を発した。
「なぜ、俺を助けた・・・!?」
ペッシのビーチ・ボーイの糸が自分の手から外れたのを見た瞬間は、終わりだと思った。だが、地面に激突するはずの身体が受けたのは、奇妙な風だった。列車が起こす風とは真逆の方角から、身体を支えるように吹きつけた強烈な風。その直後、何かにぶつかったような衝撃とともに、身体は列車の中に転がっていた。
そして、目の前にはーー、
「・・・言わなかった?次に会ったらお礼するってーいったたたた・・・!」
顔をしかめながらルナは上半身をゆっくりと起こす。右手が肋骨のあたりを押さえている。どんなスタンドかは知らないが、大の男がぶつかって無傷で済むはずはない。しかしアメシストの瞳は、プロシュートを見てどこか哀しげな微笑みを浮かべていた。
「・・・私を助けてくれた日、あなたがあの路地にいたのは、きっと、予定外の行動だったのよね・・・」
話が見えない。
この女とは確かに偶然会ったことがある。それがいったい何だと言うのか。
壊れた乗降口から時速150キロの轟々とした音とともに、西に傾き始めた太陽の光が入ってくる。
プロシュートは立ち上がってルナを見下ろした。
「・・・俺なんざ助けなきゃあよかったものを。一緒に来てもらうぜ、ルナ。」
ペッシの針を奪ったブチャラティがあの後どうなったかわからないが、奴の強さと覚悟は身に染みて理解した。下手するとペッシがやられる。時間がない。
意外にもルナは素直に立ち上がる。
しかし、その口が発した言葉は、プロシュートの度肝を抜くには充分だった。
「あなたたち、ヒットマンチームと手を組みたいの。」
声も出せず、ただ目の前の女を穴があくほど見つめる。彼女は痛みを感じさせない落ち着いた表情でプロシュートの反応を見ていた。
ーー意味がわからねえ。手を組むだと?ブチャラティたちとか?何を言ってるんだこの女は。俺たちがボスを裏切ったことを知らねえのか?ブチャラティや他の連中が助けに来るまでの、時間稼ぎで言い出しやがったのか?
「私なんか捕まえても何の役にも立たないわ。ボスのことなんて何も知らない。でも、協力は出来る。だって、ブチャラティとジョルノは、すぐには無理かもしれないけどー、ボスを倒すつもりでいるから。だから、あなたたちとブチャラティのチームが争う必要なんてない。ボスを倒すっていう目的は同じだもの。」
「ボスを倒すだと・・・!?バカな、ブチャラティは幹部だぞ!なのに組織を裏切る気か!」
思わず叫んだ。
ーー時間稼ぎの下手な嘘をついているようには見えない。なぜならこの女がー、<俺をまったく恐れていない>のを感じるからだ。
「そうなんじゃない?」
軽い調子で言ってルナは首を傾げる。
「まあ、彼なりに組織に不満もあるんでしょうし、、、このあたり、ちょっとすり合わせが必要なところなんだけど。でも、組織に不満があるのはあなたたちもじゃあないの?深くきくつもりはないけど、過去によっぽどのことがあったから、今回みたいな行動に出たんじゃあないの?」
「・・・」
2年前の葬式が脳裏をフラッシュバックする。コンクリートのように固い椅子の冷ややかさ。鼓膜を圧する出口のない沈黙。最後まで動かなかったリゾットの背中。
「・・・正気とは到底思えねえな。ミスタの脳天ブチ抜いたのはこの俺だぞ。それでも手を組もうって言うのか。」
「でも彼は生きてる。大切なのはそこだわ。あなたの仲間はどう?もし死んでないのなら、何とかなるんじゃあないかしら。命をかけるほどの戦いなら、仲間は多い方がいい。違う?」
一度言葉を切ると、ルナは、おもむろに右手を差し伸べた。斜めに差し込む夕陽が、その指の一本一本まで金色に染め上げる。
「あなたたちが必要だわ。手を組みましょう、プロシュート!」
「ーっ・・・」
プロシュートは目を見張った。
まるで雷に打たれたかのような衝撃が全身を貫いた。
・・・信じられねえ。めちゃくちゃだ。俺たちが必要だと?いったい何なんだこの女は。そもそもこいつのスタンド能力は何だ?
混乱して立ち尽くす自分を、ルナは穏やかな表情で、黙って見つめている。
頭ではやめろと叫んでいるのに、放たれた言葉が、自身の心の奥深いところに波紋を広げてゆくのを止められない。名前も知らない、自分でも存在すら知らなかった何かの感情が揺り動かされたような気がした。静かに、しかし確実に。
風が渦を巻くように車内を吹き抜ける。その拍子に、ふっと、握りしめていた拳から力が抜ける。
ーーひとつだけ確かなことがある。
あの<違和感>が、今、自分の中から跡形もなく消えている。
黄金色の風に押されるようにして、プロシュートは自身の右手をゆっくりと持ち上げた。