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35
アバッキオは、右手を握りしめて開く動作を数回繰り返す。多少の痛みとしびれを感じるものの、切り離した右手首は、元どおりにつながっていた。
己の意思で切断した右手。
そこに再び血を通わせてくれた本人は、アバッキオの一連の動作を心配げに見つめていた。
「動く・・・な。助かったぜ、ルナ。大したもんだ。」
ーポンペイの遺跡近くの広場。
ボスの指令通りキーを手に入れたアバッキオたちは、ブチャラティたちと合流した。
車から降りたルナは、ベンチにぐったりと座り込むアバッキオの怪我を目にするやいなや、ブチャラティに言われるより前に飛んで来たのだった。
「・・・あのねえ、私のアブソリュート・ブレスは、本来は近距離パワー型のスタンドなのよ?傷の治療は専門外なの。失ったものは作れないし、今だって、完全に元に戻ってるわけじゃあないんだから。」
アバッキオが顔を上げると、ルナは隣から立ち上がり、正面から彼を見下ろしていた。
「???だから、大したもんだって言ってるじゃあねーか。」
「そうじゃなくてっ!!違うわよ!バカ!」
普段、自分をバカ呼ばわりする人間はいない(いたとしても二度と言えない身体にする)ので、アバッキオは思わず目を見開く。
ーもしかして、こいつ、怒ってやがるのか・・・?
合点のいかない様子のアバッキオを見て、はあ、と、ルナは大きく溜め息をついた。そして、身をかがめてアバッキオの目を覗き込むと、
「いくら・・・任務のためだからって、ひとりで無茶しないで、って言ってるの。出血多量で死んだらどうするのよ。まさか、あなた、自分はいつ死んでもいいなんて思ってる?」
「っ・・・」
意志の強さが光る紫色の瞳。
心の底まで見通されたような気がした。
「護ってもらってて言うのは悪いんだけど、私は、あなたたちのボスの命令なんかより、あなたの命の方が大事なの。もっと自分を大切にして。あなたは、けっして、中途半端な人間なんかじゃあ、ない。」
「・・・」
ー何くだらねえこと言ってやがる。
普段の自分なら、そう一蹴できるはずだ。
しかし今は、向けられる一切の不純物のない眼ざしが、それを許さなかった。
その時、
「ルナ、終わったか?」
ブチャラティが声をかける。
「時間がない。フーゴとジョルノは、車の中で手当てしてやってくれ。」
「OK。」
ーこういうところ、だ。
何事もなかったかのように歩き出す後ろ姿を見て、アバッキオは、これまで漠然としていたものが、すとん、と、腑に落ちるのを感じていた。
ブチャラティは、持ち前の頭脳と強靭な精神力で、仕事ぶりは冷徹なまでに優秀だが、根っこが途轍もなく優しい。
そんな男の苦悩について、俺は、しばらく前から気づいていた。
長年の裏稼業によって、ブチャラティの心には昇華できない<澱>が少しずつ淀み溜まりーーーー、まるで真綿に首を絞められるように、じわじわと息ができなくなっていることに。
気づいていても、どうすることもできなかった。
ブチャラティは、部下にはけっして弱音を吐かない。すべて自分ひとりで抱え込む。そうなると、俺や、チームの連中じゃあ駄目だった。だからと言って、他に誰かあいつを救える奴がいるわけでもなかった。
カタギの連中からは、いい奴だとか、頼りになるとか、当然のように上手くやることを勝手に期待されて。
自分の立場の矛盾に気づきながらも、それでもあいつは、時には自身の骨身を削ってまで助けてやろうとする。
じゃあ、あいつ自身は?
優しいから、どこにも立ち止まれない。
優しいから、誰にも頼れない。
だがもしかしたら、この女にならーーーー・・・・・
目を閉じたアバッキオは、自然と、自分の口角がかすかに上がるのを感じた。
「・・・生意気な奴らだ・・・」
立ち上がり、両手をポケットに入れて歩き出す。身体は疲弊しているのに、その足取りは重くはなかった。
♢
「ちょっと、変わったキーよね・・・」
ポンペイで手に入れたというキーを眺めながら、ルナは呟いた。
車の鍵とかにしては大きいし、重い。真ん中にはめ込まれている赤い石は、ルビーかしら?本物?
庶民発想のルナは思う。
もし本物だとしたら、こんなメッセージを刻むなんて、もったいないわ。
---ーー------ーー-------
私の古い友人の娘を護ってくれて礼を言う、ブチャラティ。
ネアポリス駅6番ホームにある亀のいる水飲み場へ行き、このキーを使え。そして列車にて、彼女をヴェネツィアまで連れて来ること。
追伸:君への指令は、ヴェネツィアにて終了する。
---ーー------ーー-------
「駅の水飲み場に何があるんだ?」
ルナの呟きが聞こえたのか、アバッキオがブチャラティを見て尋ねる。
「ボスは、敵に見つからず移動できる方法があると言っていた。駅は危険だが、信じて行くしかない。」
「ボ、ボスは!」
ナランチャが身を乗り出して続ける。
「ヴェネツィアにいるのかなあ?その文面の感じは!」
「そんなことは考えなくていい。俺たちは指令通りやるだけだ。10分後のフィレンツェ行き特急、それに乗る。ーフーゴ、尾行は?」
「今のところは大丈夫です、ブチャラティ。しかし、駅はマズイ・・・金を掴まされている奴らが、あっという間に敵に知らせる。」
車の中に沈黙が下りる。
ルナは、ちらりと隣に座るジョルノを見た。ポンペイで起きたことは、すでに全員が聞いている。そして車に乗り込む時、彼は、ルナの耳許で、日本語でささやいたのだ。
敵は生きています、とーーーー。
いったい、どんな魔法を使ったのかしら。
自分も、パープル・ヘイズのウイルスに感染して死にかけてるのに、よくもまあ、敵を<生かす>余裕があるものだわ。これも、血は争えないっていうのかしら。末恐ろしい子。
血、と言えば、、、
私がイタリアに来たのは、ハルくんが本当にDIOの息子かどうかを確かめるためだった。確かめはしたものの、まあ、何だかんだあって、私のママがギャングだったとか、矢の封印を解けとか、話が変な方向に行き始めて。
結局ハルくんには、父親について伝えることができていない。
この旅が終わったらー、彼が望むなら、私が知っていることを話そう。
その時、彼は、いったいどんな反応をするのかしら・・・
「どうかしましたか、ルナ?」
彼女の視線に気づき、ジョルノが尋ねる。
「そんなに熱い視線を送られると・・・何か期待してますか?」
「してません!」
残念です、と、彼は口許に手をやりながらくすくす笑う。
年上をからかわないで欲しいわ・・・
ジョルノ・ジョバァーナ・・・恐るべし。
火照った頬を手でパタパタと扇いでいると、車がやや乱暴に止まった。そして、運転席からミスタが振り向く。
「着いたぜ。ネアポリス駅だ。」
アバッキオは、右手を握りしめて開く動作を数回繰り返す。多少の痛みとしびれを感じるものの、切り離した右手首は、元どおりにつながっていた。
己の意思で切断した右手。
そこに再び血を通わせてくれた本人は、アバッキオの一連の動作を心配げに見つめていた。
「動く・・・な。助かったぜ、ルナ。大したもんだ。」
ーポンペイの遺跡近くの広場。
ボスの指令通りキーを手に入れたアバッキオたちは、ブチャラティたちと合流した。
車から降りたルナは、ベンチにぐったりと座り込むアバッキオの怪我を目にするやいなや、ブチャラティに言われるより前に飛んで来たのだった。
「・・・あのねえ、私のアブソリュート・ブレスは、本来は近距離パワー型のスタンドなのよ?傷の治療は専門外なの。失ったものは作れないし、今だって、完全に元に戻ってるわけじゃあないんだから。」
アバッキオが顔を上げると、ルナは隣から立ち上がり、正面から彼を見下ろしていた。
「???だから、大したもんだって言ってるじゃあねーか。」
「そうじゃなくてっ!!違うわよ!バカ!」
普段、自分をバカ呼ばわりする人間はいない(いたとしても二度と言えない身体にする)ので、アバッキオは思わず目を見開く。
ーもしかして、こいつ、怒ってやがるのか・・・?
合点のいかない様子のアバッキオを見て、はあ、と、ルナは大きく溜め息をついた。そして、身をかがめてアバッキオの目を覗き込むと、
「いくら・・・任務のためだからって、ひとりで無茶しないで、って言ってるの。出血多量で死んだらどうするのよ。まさか、あなた、自分はいつ死んでもいいなんて思ってる?」
「っ・・・」
意志の強さが光る紫色の瞳。
心の底まで見通されたような気がした。
「護ってもらってて言うのは悪いんだけど、私は、あなたたちのボスの命令なんかより、あなたの命の方が大事なの。もっと自分を大切にして。あなたは、けっして、中途半端な人間なんかじゃあ、ない。」
「・・・」
ー何くだらねえこと言ってやがる。
普段の自分なら、そう一蹴できるはずだ。
しかし今は、向けられる一切の不純物のない眼ざしが、それを許さなかった。
その時、
「ルナ、終わったか?」
ブチャラティが声をかける。
「時間がない。フーゴとジョルノは、車の中で手当てしてやってくれ。」
「OK。」
ーこういうところ、だ。
何事もなかったかのように歩き出す後ろ姿を見て、アバッキオは、これまで漠然としていたものが、すとん、と、腑に落ちるのを感じていた。
ブチャラティは、持ち前の頭脳と強靭な精神力で、仕事ぶりは冷徹なまでに優秀だが、根っこが途轍もなく優しい。
そんな男の苦悩について、俺は、しばらく前から気づいていた。
長年の裏稼業によって、ブチャラティの心には昇華できない<澱>が少しずつ淀み溜まりーーーー、まるで真綿に首を絞められるように、じわじわと息ができなくなっていることに。
気づいていても、どうすることもできなかった。
ブチャラティは、部下にはけっして弱音を吐かない。すべて自分ひとりで抱え込む。そうなると、俺や、チームの連中じゃあ駄目だった。だからと言って、他に誰かあいつを救える奴がいるわけでもなかった。
カタギの連中からは、いい奴だとか、頼りになるとか、当然のように上手くやることを勝手に期待されて。
自分の立場の矛盾に気づきながらも、それでもあいつは、時には自身の骨身を削ってまで助けてやろうとする。
じゃあ、あいつ自身は?
優しいから、どこにも立ち止まれない。
優しいから、誰にも頼れない。
だがもしかしたら、この女にならーーーー・・・・・
目を閉じたアバッキオは、自然と、自分の口角がかすかに上がるのを感じた。
「・・・生意気な奴らだ・・・」
立ち上がり、両手をポケットに入れて歩き出す。身体は疲弊しているのに、その足取りは重くはなかった。
♢
「ちょっと、変わったキーよね・・・」
ポンペイで手に入れたというキーを眺めながら、ルナは呟いた。
車の鍵とかにしては大きいし、重い。真ん中にはめ込まれている赤い石は、ルビーかしら?本物?
庶民発想のルナは思う。
もし本物だとしたら、こんなメッセージを刻むなんて、もったいないわ。
---ーー------ーー-------
私の古い友人の娘を護ってくれて礼を言う、ブチャラティ。
ネアポリス駅6番ホームにある亀のいる水飲み場へ行き、このキーを使え。そして列車にて、彼女をヴェネツィアまで連れて来ること。
追伸:君への指令は、ヴェネツィアにて終了する。
---ーー------ーー-------
「駅の水飲み場に何があるんだ?」
ルナの呟きが聞こえたのか、アバッキオがブチャラティを見て尋ねる。
「ボスは、敵に見つからず移動できる方法があると言っていた。駅は危険だが、信じて行くしかない。」
「ボ、ボスは!」
ナランチャが身を乗り出して続ける。
「ヴェネツィアにいるのかなあ?その文面の感じは!」
「そんなことは考えなくていい。俺たちは指令通りやるだけだ。10分後のフィレンツェ行き特急、それに乗る。ーフーゴ、尾行は?」
「今のところは大丈夫です、ブチャラティ。しかし、駅はマズイ・・・金を掴まされている奴らが、あっという間に敵に知らせる。」
車の中に沈黙が下りる。
ルナは、ちらりと隣に座るジョルノを見た。ポンペイで起きたことは、すでに全員が聞いている。そして車に乗り込む時、彼は、ルナの耳許で、日本語でささやいたのだ。
敵は生きています、とーーーー。
いったい、どんな魔法を使ったのかしら。
自分も、パープル・ヘイズのウイルスに感染して死にかけてるのに、よくもまあ、敵を<生かす>余裕があるものだわ。これも、血は争えないっていうのかしら。末恐ろしい子。
血、と言えば、、、
私がイタリアに来たのは、ハルくんが本当にDIOの息子かどうかを確かめるためだった。確かめはしたものの、まあ、何だかんだあって、私のママがギャングだったとか、矢の封印を解けとか、話が変な方向に行き始めて。
結局ハルくんには、父親について伝えることができていない。
この旅が終わったらー、彼が望むなら、私が知っていることを話そう。
その時、彼は、いったいどんな反応をするのかしら・・・
「どうかしましたか、ルナ?」
彼女の視線に気づき、ジョルノが尋ねる。
「そんなに熱い視線を送られると・・・何か期待してますか?」
「してません!」
残念です、と、彼は口許に手をやりながらくすくす笑う。
年上をからかわないで欲しいわ・・・
ジョルノ・ジョバァーナ・・・恐るべし。
火照った頬を手でパタパタと扇いでいると、車がやや乱暴に止まった。そして、運転席からミスタが振り向く。
「着いたぜ。ネアポリス駅だ。」