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32
「ナランチャは?」
と、みんなのいる玄関ホールに現れたルナに向かって、ブチャラティが尋ねた。
「とりあえず傷はだいたいふさがったから、大丈夫、かな。」
私のスタンドは傷を治すわけではない。
あくまで、私にわかる範囲で、<元に戻るよう>に命じるだけ。
だから、欠けた人体の一部を作ったり体力を回復させたりはできない。
「そうか。ありがとう。」
「Di niente.」
買い物の帰りに、ナランチャは襲われた。現れた敵はひとり。でも、対象を切りつけて縮小させることができる、スタンド使いだった。ナランチャは自身のスタンド、<エアロスミス>でからくも倒したけれど、自分もボロボロになってしまって。
ちなみに、敵の生死は不明・・・
死んでたら、私の計画は早くもオシマイね。ちーん。
「ブチャラティ、俺はもうこの隠れ家はヤバイと思う。このブドウ畑はな。すぐここを出るべきだぜ!」
「だが、どうやって移動する?」
ブチャラティは厳しい表情で、アバッキオを見て続けた。
「ナランチャを襲った奴の話だと、奴らはヒットマンチームだ。しかも、情報を得る特別なルートを持っているらしい。ナランチャのレンタカーがあっという間に発見されてるし、港や駅や空港はもちろん、高速道路だって通過すりゃあ奴らに見つかる危険は大きい。危険は、ルナを連れて移動すればするほど大きくなるんだ。」
「・・・僕は、そんなことを言っている余裕なんぞないと思います。一刻も早く隠れ家を変えるべきだ。僕があれだけ注意したのにー、」
そこで、フーゴはちらりとルナの背後を見る。彼女が振り向くと、ナランチャがしょんぼりと立っていた。
「あいつったら尾行されちまって、しかも道路中の車に火をつけまくったんですよ。目立つの目立たないのって・・・合図の狼煙を上げてやったってわけだ。敵はこの一帯をシラミつぶしに捜して来ますよ。そうなった方が、ここを移動するのが難しくなると思う。」
頭を抱えて、ますますしょんぼりするナランチャ。可哀想に。
「僕は、ナランチャは立派に敵を阻止したと思います。ナランチャはすべてにおいて的確な行動をしたと思います。」
と、ジョルノがきっぱりと言った。
「それに、ルナをかくまっているのがブチャラティだと敵のヒットマンチームに勘づかれるのは、どのみち時間の問題だったと思います。そもそもブチャラティは顔が知られているし、そんな人が女性とー、<ルナと>街を歩いていたら、いやでも目立つじゃあないですか・・・二人が付き合っていることは、ネアポリス中が知っているでしょう。賢明なボスなら、そのことも計算に入れて、きっと何か逃げる方法を指示してくるはずです。ボスからの連絡があるまで、ここを動くべきではないと思います。」
・・・なんか、途中が皮肉っぽく聞こえたのは、気のせいだろうか。
「下っ端のおまえの意見なんぞ、誰もきいちゃあいねーぞ!ジョルノ!」
と、噛みついたのは、やっぱりアバッキオ。
「それに、すぐボスから連絡があるって、なぜおまえにわかるんだ?何日も、もしかしたら1週間も指令が来ねーかもしれねーじゃあねーかっ!混乱すること言ってんじゃあねーぞ!」
「ールナ。」
急に名前を呼ばれて、見ると、腕を組んだブチャラティが視線を向けている。
「君はどう思う?」
「・・・」
彼の瞳には、なぜ私にきくの?と、訊きたいけど口にできないような、静かな迫力があった。
ルナは、ふう、と息を吐く。
「私はジョルノに賛成。もう少しここに止まった方がいいと思う。ボスからの連絡、今日明日にはくるんじゃあないかしら。少なくとも何日も無いなんてことはあり得ない。だって、」
アバッキオとフーゴを見ながら続ける。
「ボスの目的が、矢の封印とやらを私に解かせることなら、私を、矢のある場所まで移動させなければならないはず。でも裏切り者がいて狙ってくるなら、のんびりしてはいられない。だから、移動手段やルートが確保でき次第、連絡はくると思うわ。下手に移動したりすれば、ブローノが言うように敵に見つかる危険が高いし、ボスから次の指令がきた時に、物理的に実行不可能っていう事態にもなりかねないんじゃあない?」
どうしてブローノは、私の意見なんかきいたのかしら。
そう不思議に思いながら、ルナは話していた。
結局、明日の朝までという期限付きで、この隠れ家に残ることに。
アバッキオとフーゴは微妙に納得いかなそうだったけれど、ブチャラティが決めたことなら、という感じで従った。
ブローノって、ほんと、みんなの絶対的なリーダーなのね・・・すごいわあ。
そんな人が、私を好きというかーー、愛してくれてるなんて、なんだか、嘘みたい。
いやもちろん嬉しいんだけど・・・嬉しいというよりむしろ、恐縮?
でも、肝心の私の気持ちがーー・・・
はあ、と、溜め息をつきつつ、ルナがキッチンの戸棚の中をチェックしていると、当のブチャラティがやって来た。
「何してるんだ?」
「ん〜、何か使えるものがないかと思って。みんな、おなかすいたでしょ?」
ナランチャが買ったものは燃えちゃったみたいだから、ここにあるもので何とかしなきゃよね。
イタリアの家のキッチンに、オリーブオイルとパスタは必ずあるって本当だわ。あった。
さすがに冷蔵庫はほとんど空だけど、パントリーにはいろんな缶詰と調味料がそのままになってるし、これなら大丈夫そう。
そう伝えると、ブチャラティはあっさり言った。
「ルナはたくましいな。イタリアのマンマみたいだ。」
「誰がマンマよ!それ、女の子に対して褒め言葉になってないからっ!」
まあ、たくましいのは認めなくもないけど。
ルナの猛抗議に、ブチャラティはすまない、と謝る。そして、聡明そうなサファイアの瞳を優しく細めて彼女を見つめた。
「Grazie、ルナ。助かるよ。」
・・・ずるい。
イケメンの笑顔って、破壊力あるわ。
ブチャラティはルナの肩を引き寄せると、彼女の頭のてっぺんにキスした。
「髪を結んでるのは初めて見たな。よく似合うよ、Amore。」
「・・・」
さっきの厳しい顔とは、大違い。
こんなギャップでドキドキさせてーー、この人だって、私を振り回してる。
しばらくして料理が出来上がると、ブチャラティは自分は最後でいいと言って、メンバーを呼びに行った。見張りがあるので交代で食べるらしい。
最初にナランチャ、次にフーゴ&ミスタ&ピストルズ、3番目はジョルノ。
そして、アバッキオが現れると、ルナは自分の髪からスカーフを解いて渡した。
「髪の毛、食べるのに邪魔でしょ。これで結んでおいたら?」
「ああ・・・」
「座って。やってあげる。」
後ろから、キラキラした銀色の髪を指で梳きながらひとつにまとめる。
「綺麗な髪ね〜。長いとお手入れが大変でしょ。」
「人のこと言えねえだろうが、おまえも。」
「まあね。」
ルナは、パスタのお皿や付け合わせを出すと、洗い物に取りかかった。
「ブチャラティはもう食ったのか?」
「まだよ。最後でいいって。」
と、ルナは手を動かしながら振り返らずに答える。
「ったく・・・幹部になっても、あの性格は変わらねえな。」
「幹部?あ、そっか。ブローノ、幹部になったんだっけ。」
「あ?もう少し興味もってもバチは当たらねえぜ。おまえ、あいつの女だろ。」
「あはは。私なんかでいいのかしら。」
「・・・なに言ってやがる。」
アバッキオの声のトーンが変わる。
「ブチャラティに、たとえ任務じゃあなくても命がけで守る覚悟をさせるような女は、他にいるわけねえだろ。」
「・・・」
「それとも、」
カシャン、と、皿にフォークを置く静かな音がした。
「おまえは、あの生意気なジョルノ・ジョバァーナとブチャラティの二人を、天秤にかけてやがるのか?」
「!!ーー・・・」
直球の質問に、思わずルナの手が止まる。
「ジョルノの奴がおまえに惚れてるのなんて、誰が見てもわかるぜ。奴の目は常に、犬みてーにおまえの姿を追いかけてるからな。まあ、隠す気もねーんだろうがよ・・・」
そういうところも気に食わねえ、と、アバッキオは呟く。
ルナは、溜め息をついた。
「・・・天秤にかけるなんてー、そんな偉そうなことをしているつもりはないんだけど、ね。最低なのは、認める。」
「・・・」
しばらくの間、キッチンに水音だけが響く。
「おまえは愛想はいいが、どこか一歩引いてるよな。」
アバッキオは追及の手を緩めなかった。
「深入りしねえのは、自分のせいで他人をろくでもないことに巻き込むのが嫌なんだろ?自分自身に向けられる攻撃には、こっちが呆れるぐらい肝が据わってやがるくせによ。だから今、どっちつかずの宙ぶらりんなんじゃあねーのか?」
ーー痛いところを突いてくる。
そう思いながら、ルナは自嘲の笑みを浮かべた。
アバッキオから、そんなふうに見られているとは知らなかった。
「たんに優柔不断なだけかもよ?」
「ああ、俺の思い過ごしなら、その方がマシだ。」
椅子が動く音がして、アバッキオが立ち上がったのがわかった。
「何より俺自身が・・・一番、中途半端な人間だからな。」
「・・・」
ふわり、と、空気が揺れたかと思うと、後ろから、ヘアゴムでまとめただけのルナの髪が持ち上がった。
その優しい手つきに、なぜだか、ルナは目の奥がじんと熱くなる。
「おまえが何を心配していようと、ブチャラティは、それごと受け入れてくれる男だぜ。」
「・・・知ってる。」
「あのクソガキの方はどうかわからねーけどな。」
「ふふ。もう少し優しくしてあげて?」
「奴がおまえにフラれて落ち込んでるのを見かけたら、考えてやってもいい。」
スカーフはするすると髪の結び目に巻き付いていき、初めより綺麗に髪を彩ったのがわかった。
ぽん、と、肩が叩かれる。
「・・・ルナ、おまえは、俺みたいになるな。」
振り向いたルナの視線の先で、アバッキオの背中は、片手を軽く挙げながらキッチンを出て行った。うまかった、と、ひと言だけ残して。
「ナランチャは?」
と、みんなのいる玄関ホールに現れたルナに向かって、ブチャラティが尋ねた。
「とりあえず傷はだいたいふさがったから、大丈夫、かな。」
私のスタンドは傷を治すわけではない。
あくまで、私にわかる範囲で、<元に戻るよう>に命じるだけ。
だから、欠けた人体の一部を作ったり体力を回復させたりはできない。
「そうか。ありがとう。」
「Di niente.」
買い物の帰りに、ナランチャは襲われた。現れた敵はひとり。でも、対象を切りつけて縮小させることができる、スタンド使いだった。ナランチャは自身のスタンド、<エアロスミス>でからくも倒したけれど、自分もボロボロになってしまって。
ちなみに、敵の生死は不明・・・
死んでたら、私の計画は早くもオシマイね。ちーん。
「ブチャラティ、俺はもうこの隠れ家はヤバイと思う。このブドウ畑はな。すぐここを出るべきだぜ!」
「だが、どうやって移動する?」
ブチャラティは厳しい表情で、アバッキオを見て続けた。
「ナランチャを襲った奴の話だと、奴らはヒットマンチームだ。しかも、情報を得る特別なルートを持っているらしい。ナランチャのレンタカーがあっという間に発見されてるし、港や駅や空港はもちろん、高速道路だって通過すりゃあ奴らに見つかる危険は大きい。危険は、ルナを連れて移動すればするほど大きくなるんだ。」
「・・・僕は、そんなことを言っている余裕なんぞないと思います。一刻も早く隠れ家を変えるべきだ。僕があれだけ注意したのにー、」
そこで、フーゴはちらりとルナの背後を見る。彼女が振り向くと、ナランチャがしょんぼりと立っていた。
「あいつったら尾行されちまって、しかも道路中の車に火をつけまくったんですよ。目立つの目立たないのって・・・合図の狼煙を上げてやったってわけだ。敵はこの一帯をシラミつぶしに捜して来ますよ。そうなった方が、ここを移動するのが難しくなると思う。」
頭を抱えて、ますますしょんぼりするナランチャ。可哀想に。
「僕は、ナランチャは立派に敵を阻止したと思います。ナランチャはすべてにおいて的確な行動をしたと思います。」
と、ジョルノがきっぱりと言った。
「それに、ルナをかくまっているのがブチャラティだと敵のヒットマンチームに勘づかれるのは、どのみち時間の問題だったと思います。そもそもブチャラティは顔が知られているし、そんな人が女性とー、<ルナと>街を歩いていたら、いやでも目立つじゃあないですか・・・二人が付き合っていることは、ネアポリス中が知っているでしょう。賢明なボスなら、そのことも計算に入れて、きっと何か逃げる方法を指示してくるはずです。ボスからの連絡があるまで、ここを動くべきではないと思います。」
・・・なんか、途中が皮肉っぽく聞こえたのは、気のせいだろうか。
「下っ端のおまえの意見なんぞ、誰もきいちゃあいねーぞ!ジョルノ!」
と、噛みついたのは、やっぱりアバッキオ。
「それに、すぐボスから連絡があるって、なぜおまえにわかるんだ?何日も、もしかしたら1週間も指令が来ねーかもしれねーじゃあねーかっ!混乱すること言ってんじゃあねーぞ!」
「ールナ。」
急に名前を呼ばれて、見ると、腕を組んだブチャラティが視線を向けている。
「君はどう思う?」
「・・・」
彼の瞳には、なぜ私にきくの?と、訊きたいけど口にできないような、静かな迫力があった。
ルナは、ふう、と息を吐く。
「私はジョルノに賛成。もう少しここに止まった方がいいと思う。ボスからの連絡、今日明日にはくるんじゃあないかしら。少なくとも何日も無いなんてことはあり得ない。だって、」
アバッキオとフーゴを見ながら続ける。
「ボスの目的が、矢の封印とやらを私に解かせることなら、私を、矢のある場所まで移動させなければならないはず。でも裏切り者がいて狙ってくるなら、のんびりしてはいられない。だから、移動手段やルートが確保でき次第、連絡はくると思うわ。下手に移動したりすれば、ブローノが言うように敵に見つかる危険が高いし、ボスから次の指令がきた時に、物理的に実行不可能っていう事態にもなりかねないんじゃあない?」
どうしてブローノは、私の意見なんかきいたのかしら。
そう不思議に思いながら、ルナは話していた。
結局、明日の朝までという期限付きで、この隠れ家に残ることに。
アバッキオとフーゴは微妙に納得いかなそうだったけれど、ブチャラティが決めたことなら、という感じで従った。
ブローノって、ほんと、みんなの絶対的なリーダーなのね・・・すごいわあ。
そんな人が、私を好きというかーー、愛してくれてるなんて、なんだか、嘘みたい。
いやもちろん嬉しいんだけど・・・嬉しいというよりむしろ、恐縮?
でも、肝心の私の気持ちがーー・・・
はあ、と、溜め息をつきつつ、ルナがキッチンの戸棚の中をチェックしていると、当のブチャラティがやって来た。
「何してるんだ?」
「ん〜、何か使えるものがないかと思って。みんな、おなかすいたでしょ?」
ナランチャが買ったものは燃えちゃったみたいだから、ここにあるもので何とかしなきゃよね。
イタリアの家のキッチンに、オリーブオイルとパスタは必ずあるって本当だわ。あった。
さすがに冷蔵庫はほとんど空だけど、パントリーにはいろんな缶詰と調味料がそのままになってるし、これなら大丈夫そう。
そう伝えると、ブチャラティはあっさり言った。
「ルナはたくましいな。イタリアのマンマみたいだ。」
「誰がマンマよ!それ、女の子に対して褒め言葉になってないからっ!」
まあ、たくましいのは認めなくもないけど。
ルナの猛抗議に、ブチャラティはすまない、と謝る。そして、聡明そうなサファイアの瞳を優しく細めて彼女を見つめた。
「Grazie、ルナ。助かるよ。」
・・・ずるい。
イケメンの笑顔って、破壊力あるわ。
ブチャラティはルナの肩を引き寄せると、彼女の頭のてっぺんにキスした。
「髪を結んでるのは初めて見たな。よく似合うよ、Amore。」
「・・・」
さっきの厳しい顔とは、大違い。
こんなギャップでドキドキさせてーー、この人だって、私を振り回してる。
しばらくして料理が出来上がると、ブチャラティは自分は最後でいいと言って、メンバーを呼びに行った。見張りがあるので交代で食べるらしい。
最初にナランチャ、次にフーゴ&ミスタ&ピストルズ、3番目はジョルノ。
そして、アバッキオが現れると、ルナは自分の髪からスカーフを解いて渡した。
「髪の毛、食べるのに邪魔でしょ。これで結んでおいたら?」
「ああ・・・」
「座って。やってあげる。」
後ろから、キラキラした銀色の髪を指で梳きながらひとつにまとめる。
「綺麗な髪ね〜。長いとお手入れが大変でしょ。」
「人のこと言えねえだろうが、おまえも。」
「まあね。」
ルナは、パスタのお皿や付け合わせを出すと、洗い物に取りかかった。
「ブチャラティはもう食ったのか?」
「まだよ。最後でいいって。」
と、ルナは手を動かしながら振り返らずに答える。
「ったく・・・幹部になっても、あの性格は変わらねえな。」
「幹部?あ、そっか。ブローノ、幹部になったんだっけ。」
「あ?もう少し興味もってもバチは当たらねえぜ。おまえ、あいつの女だろ。」
「あはは。私なんかでいいのかしら。」
「・・・なに言ってやがる。」
アバッキオの声のトーンが変わる。
「ブチャラティに、たとえ任務じゃあなくても命がけで守る覚悟をさせるような女は、他にいるわけねえだろ。」
「・・・」
「それとも、」
カシャン、と、皿にフォークを置く静かな音がした。
「おまえは、あの生意気なジョルノ・ジョバァーナとブチャラティの二人を、天秤にかけてやがるのか?」
「!!ーー・・・」
直球の質問に、思わずルナの手が止まる。
「ジョルノの奴がおまえに惚れてるのなんて、誰が見てもわかるぜ。奴の目は常に、犬みてーにおまえの姿を追いかけてるからな。まあ、隠す気もねーんだろうがよ・・・」
そういうところも気に食わねえ、と、アバッキオは呟く。
ルナは、溜め息をついた。
「・・・天秤にかけるなんてー、そんな偉そうなことをしているつもりはないんだけど、ね。最低なのは、認める。」
「・・・」
しばらくの間、キッチンに水音だけが響く。
「おまえは愛想はいいが、どこか一歩引いてるよな。」
アバッキオは追及の手を緩めなかった。
「深入りしねえのは、自分のせいで他人をろくでもないことに巻き込むのが嫌なんだろ?自分自身に向けられる攻撃には、こっちが呆れるぐらい肝が据わってやがるくせによ。だから今、どっちつかずの宙ぶらりんなんじゃあねーのか?」
ーー痛いところを突いてくる。
そう思いながら、ルナは自嘲の笑みを浮かべた。
アバッキオから、そんなふうに見られているとは知らなかった。
「たんに優柔不断なだけかもよ?」
「ああ、俺の思い過ごしなら、その方がマシだ。」
椅子が動く音がして、アバッキオが立ち上がったのがわかった。
「何より俺自身が・・・一番、中途半端な人間だからな。」
「・・・」
ふわり、と、空気が揺れたかと思うと、後ろから、ヘアゴムでまとめただけのルナの髪が持ち上がった。
その優しい手つきに、なぜだか、ルナは目の奥がじんと熱くなる。
「おまえが何を心配していようと、ブチャラティは、それごと受け入れてくれる男だぜ。」
「・・・知ってる。」
「あのクソガキの方はどうかわからねーけどな。」
「ふふ。もう少し優しくしてあげて?」
「奴がおまえにフラれて落ち込んでるのを見かけたら、考えてやってもいい。」
スカーフはするすると髪の結び目に巻き付いていき、初めより綺麗に髪を彩ったのがわかった。
ぽん、と、肩が叩かれる。
「・・・ルナ、おまえは、俺みたいになるな。」
振り向いたルナの視線の先で、アバッキオの背中は、片手を軽く挙げながらキッチンを出て行った。うまかった、と、ひと言だけ残して。