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20

「ねえ、隣の席に座っていい?」
「あら、あたしが座りたいのに!ねえジョルノ、あたしと一緒にお茶してよ。」
「あーら!あたしが払うわよ!?ねえジョルノー」

「うるさいな。一人が好きなんだ、あっち行けよ。」

はあい、と、女の子3人組は残念そうに挨拶して去って行く。

彼女たちとすれ違った後、ルナは、外のテーブルに近づいた。

「一人が好きなら、お邪魔かしら?」

サングラス越しに見えるジョルノは、ルナに気づくと、ゆっくりと微笑んだ。

「あなたなら歓迎ですよ、ルナ。」

ジョルノが、ブチャラティのチームに入った、昨日。その帰り際に、約束していたスタンドの話をするために、ジョルノとルナは、このカフェで待ち合わせをしたのだった。

「彼女たち、同級生?可愛いわね。」

ルナはサングラスを外しながら、ジョルノが引いてくれた椅子に腰を下ろした。

「うるさいだけです。」

「ふふっ。こんなにカッコいいのに、そういうつれないところも、モテる要因でしょうね。」

「僕にとって大事な女性は、一人しかいませんから。」

言ってジョルノは、ルナの手を取り、目を閉じて口づけた。

パラソルの隙間から差し込む陽にあたって、美しい黄金の髪がキラキラ輝く。

ハルくんは、太陽がよく似合う。

「実は、あなたが好きだと、ブチャラティに言いました。」

ルナは目を見張った。

「えっ!?いつ!?」

「昨日、チームの他のメンバーに会う前に。どうせわかることなので。その様子じゃあ、彼は、あなたに何も言わなかったんですね。あれから一緒に帰ったんでしょう?」

ルナが頷くと、ジョルノはふっと笑って、カップに視線を落とした。

「てっきり、あなたに手を出すな、と言われるとばかり思っていたんですけどね・・・」

「けど?」

「・・・秘密です。まだー・・・悔しいので。」

「?」

ルナは首を傾げた。
そんな彼女を見て、ジョルノは溜め息をついて言った。

「まったく・・・やっかいなライバルを作ってくれましたね、ルナ。まあ、だからと言って、あなたをあきらめるつもりは毛頭ありませんけど。」

エメラルドグリーンの瞳が、妖しげにキラリと光る。その、まるで獲物を狙う猫のような眼ざしに、ルナは胸がドキッとした。

「僕以上に、あなたを愛している男はいません。だから、ルナ、早く僕に堕ちてください。絶対に後悔させませんよ。」

「・・・」

ハルくん、イタリア生活が長いから、イタリアーノになっちゃったわ・・・

ルナは、頰を熱くしながら思った。

あなた、ほんとは、イギリス人と日本人のハーフよね?知らないだろうけど。

「ちょっと、確認させて・・・私、ブローノが好きって、あなたに言ったわよね?」

「ええ。聞きましたよ。でもそれは、大した問題じゃあないでしょう。あなたに、僕の方をより好きになってもらえるよう、僕が努力すればいいだけです。」

「・・・前向きな考え方ね。」

ルナ、あなたにとって、僕はずっと弟のような存在だった。でも、僕の気持ちを知って、今、ようやくー、ようやく僕を<男>として、意識し始めているでしょう?」

図星を指されて、ルナは息をのんだ。

「僕はそれが嬉しいんです。たぶん、あなたの心はまだ、100%ブチャラティのものではないように思えます。」

「・・・」

ルナは、大きく溜め息をついた。

昔も、頭のいい子だったけど。
それに加えて、なんていうかーー、洞察力がある。

「・・・本題に、入っていい?」

頭を抱えながら、ルナがそう呟くと、ジョルノは頷いた。

「ええ。お願いします。」

それから、ルナは、スタンド能力について、ひととおり説明した。
ジョルノは、時折、的確な質問をしつつ、真剣な表情で耳を傾けていた。

話し終えると、ルナは、冷めてしまった紅茶を飲んだ。

ルナ、最後にもう一つ訊いても?」

「もちろん。」

「あなたは、なぜ、僕に会いに来たんですか?」

ルナが目を上げると、ジョルノの真っすぐな視線にぶつかった。

「これは僕の想像ですが、あなたがわざわざイタリアまで来た理由は、僕の父親が関係しているーー・・・違いますか?」

「・・・」

「僕は、父親についてほとんど何も知りません。母は、日本人じゃあないと言っていましたけど。信用は出来ないですね。なんせ、あなたもよく知っているように、あんな母親ですから。」

と、ジョルノは突き放すような声で言った。

ルナは、日本にいた頃のジョルノを思い出して胸が痛んだ。

ーーハルくんは、いつも、一人だった。

ハルくんのお母さんは、綺麗な人だったけれど、いわゆる良い母親ではなかった。

家を空けてばかりで、ごくたまにー、気の向いた時だけ子どもを可愛がり、それ以外の時はほったらかしで。

アパートの階段に座り込んで泣いている男の子に声をかけたのは、ルナが6歳の時だった。

「あなたは、さっき、スタンド能力は遺伝する、と言った。僕の場合、それは父親からなんでしょう?この髪の色も。」

そう言って、ジョルノはパスケースのような物を出して、ルナに見せた。

「ーー!!」

そこには、がっしりとした体格の男の写真があった。全体的に暗い上に、斜め後ろから撮られていて顔はよく見えない。しかし、癖のあるブロンドは、ジョルノと同じだった。

「写真が、あったの・・・」

「母が持っていたのを、失敬しました。たぶんあの人は、なくなったことにも気づいてませんよ。」

ジョルノが冷たく言った、その時、テーブルの上の携帯電話が鳴り始めた。それは昨日、連絡用にと、ブチャラティがジョルノに渡したものだ。

「ーわかりました。すぐに行きます。」

そう言って電話を切ると、ジョルノはルナを見た。

「すみません、ルナ。話の途中ですが、行かなくては。」
「気にしないで。何かあったの?」
「ええ。」

ジョルノはポケットから折りたたんだ紙幣を出すと、テーブルへ置きながら、

「ポルポが<自殺>したそうです。」

と、日本語で言った。

驚きのあまり、ルナは言葉を失った。
その内容もだけれどーー、何よりジョルノが、日本語をまだ話せたことに対して。

「昨日、刑務所から出て来る前に、奴の拳銃を一丁、ゴールド・エクスペリエンスでバナナに変えて来たんです。最後の食事を、よく味わうことが出来たようだ。」

「ハルくん、あなた・・・」

「奴は、あの無関係のじいさんの命を侮辱した。言ったでしょう?ルナ。これは僕がケリをつける、と。わざわざ、あなたが手を下すことはない。まあ、ブチャラティは何かしら勘づいているようですが、一応、内緒にしておいてくださいね。じゃあー」

「あなたの父親のことはーーー!」

思わずルナは立ち上がり、行きかけたジョルノの肘を掴んで言った。

「もしあなたが望むなら、私の知っていることを話すわ。ハルくん、あなたには、知る権利がある。あなたの身体にーー、星型のアザがある理由も・・・!」

ジョルノは大きく目を見張って、空いた方の手で、自分の左肩の辺りを押さえた。
そして、何か言いたげにルナを見つめると、ふっと、目を細めた。

「わかっています・・・あなたが話せないでいるのは、僕を傷つけたくないからだ。あなたはそういう人です、ルナ。誰よりも美しい、僕の天使・・・」

ジョルノが去った後、ルナは脱力して、再び椅子に座った。そして指先で、そっと、自分の唇に触れる。

そこには、今、ジョルノにキスされた感触がまだ、残っていた。

この間、初めてキスされた時は、びっくりしすぎて固まってしまったけれど。

今日は、キスされるって、思った。
だから避けられたのに、身体が、動かなかった。

「・・・私、どうしちゃったの・・・?」




20.5

ブチャラティがその<指令>を受けたのは、ポルポの葬儀が執り行われた日だった。

夜、ある1本の電話をかけた。
決断するなら、今だと思ったからだ。

「話はわかった。いいだろう、ブチャラティ。君を信じよう。」

「ありがとうございます、ペリーコロさん。」

「ただし、一つ条件がある。ある女性を一緒に連れて来てもらいたい。君がよく知っている女性じゃよ。名前は・・・ルナ・フォルトゥナ・クウジョウ。」

「!!?・・・なぜ、ですか?」

「それはまだ言えない。ブチャラティ、君と彼女が親しい友人であることは承知している。だから君がいい。それとも、この任務は、別のチームにやらせた方が良いかね・・・?」

受話器を握り締めた手に力がこもる。
ギリ、と、奥歯を噛みしめた。

「案ずるな。彼女に危害を加えるつもりはない。ただ・・・確かめねばならん。いいな、ブチャラティ 。」

電話を終えると、雨が降り始めていた。

脳裏に浮かぶのは、愛する女の顔。

会いたい。今すぐに。

しかしブチャラティは、そこへ向きかけた足を必死の思いで止めた。

ダメだ。
こんな深夜にーー、こんなにも負の感情にまみれたままルナに会ったら、何をするかわからない。警戒心ゼロの彼女は、きっと驚きつつ俺を部屋に招き入れるだろう。そうなったらおそらくーいや絶対、ルナを抱いてしまう。自分自身を抑えられない。

ーーいいじゃあないか。心底好きな女を抱きたいのは、男なら当然だろ?

そんな悪魔の囁きが聞こえる。

ブチャラティは一度ぎゅっと強く目をつぶると、自宅の方角へ踵を返した。

こんな形で、ルナを抱きたくない。
傷つけたくない。

そして、今夜は眠れそうにないな、と思った。






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