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8
ルナは感嘆の溜め息をもらした。
「綺麗・・・」
ネアポリスの南、カンパーニア州にあるソレントからサレルノまでの全長40キロの海岸線は、コスティエラ・アマルフィターナ(Costiera Amalfitana)と呼ばれ、世界でもっとも美しい海岸線と言われている。
眼前には、切り立った崖に沿って絶妙なバランスでひしめくパステルカラーの建築物。複雑な形の海岸線から先は、コバルトブルーの海が広がっていた。
「一度は見てみたいと思ってた。」
「連れて来たかいがあったな。」
ブチャラティは良かったというふうに笑って続けた。
「『アマルフィ』という名前の由来を知っているか?」
ルナは首を横に振る。
「『アマルフィ』という名前の由来は、ギリシャ神話の妖精アマルフィから付けられている。ギリシャ神話の英雄ヘラクレスと恋仲だったアマルフィの死後、とても悲しんだヘラクレスが世界で一番美しい場所にアマルフィを葬ったことから、それ以来この都市はアマルフィと呼ばれるようになったんだそうだ。」
「・・・」
「今日の君の服と、同じ色だな。」
ブチャラティの言葉が海を指していることに気づき、ルナはくすくす笑った。
「そうね。でもこれは、あなたの瞳の色みたいだと思って買ったのよ?」
「ーー!」
ブチャラティは虚をつかれたような表情を浮かべてルナを見た。
そして、まいったというような感じで片手で目を覆いながら横を向いた。
「まったく・・・ルナ、男と二人でいる時に、そういうことを気軽に言うんじゃあない。」
「あら、どうして?」
「計算じゃあない分、始末が悪いからだ。」
「???」
どういう意味かしら。
ルナは不思議だったけれど、クールで隙のないブチャラティがめずらしく少し照れている様子が可愛くて、まあよしとすることにした。
それから、街を歩いた。
建物がかなり密集して建てられていることがわかる。世界遺産だけに観光客が多かった。私もだけど。
二人で歩いたり食べたり眺めたりーー、アマルフィでの時間は、あっという間に過ぎた。
夕方になると、地元の人が、夕陽が絶景だと教えてくれたビーチに行ってみることに。
穴場スポットなのか、観光客の姿はまばらで、住人ぽいおじいさんやおばあさんがのんびりしている感じだった。
ルナはウェッジソールのサンダルを脱いだ。ひんやりとした砂が火照った素足に心地よい。
ブチャラティは、脱いだジャケットの襟のところに指をかけて、肩の上に乗せた。
ルナは、ブチャラティの少し先を歩きながら、肩越しに振り返った。
「いろいろ引っ張り回してごめんね。せっかくのお休みなのに。疲れたでしょう。」
「いや。こんなに楽しかったのは・・・久しぶりだ。」
ブチャラティは目を伏せてかすかに微笑んだ。
「ありがとう、ルナ。少し・・・楽になった。」
さらりと、くせのないブルーブラックの髪が潮風に舞う。
彼の言葉は、一瞬、ルナを泣きたいような気持ちにさせた。
「俺の親父は漁師だった。」
突然、ブチャラティはそう言って、海へと目を向けた。
「俺が7歳の時に両親が離婚して、母は俺を引き取ろうとしたが、俺は断った。親父は、一人では離婚の傷から立ち直れずに、駄目になってしまう気がしたからだ。親父は休みにはよく釣りに連れて行ってくれた。さっきのアマルフィの話も、親父が教えてくれたものだ。」
「・・・」
「俺が12の時、親父は釣りに行くという二人組の男を乗せて小さな島まで行った。たが、奴らの本当の目的は麻薬の取引で、取引現場を目撃してしまった親父は銃で撃たれて、意識不明の重傷を負ったんだ。親父が生きている限り、奴らは口封じのために親父を消しに来る。そう考えた俺は、襲ってきた奴らを殺した。そして俺は、俺と親父の身を守るために、町を支配していた組織にーー、<パッショーネ>に入った。」
「ーーお父さんは?」
と、ルナが尋ねると、ブチャラティは一瞬目を見張り、
「撃たれた後遺症で、5年後に死んだ。」
と、静かな声で答えた。
「やっぱり変わっているな、君は・・・目の前にいる男が人殺しだということより、親父の生死の方が気になるなんて。」
「ギャングの世界がどんなものかわからないけれど、ブローノは、きっと、仕事で人を殺すこともあるんじゃあないかしら。」
そう言ってルナは、波打ち際へ歩いた。
穏やかで少し冷たい波が、足をゆるゆると包み込む。
「でもきっとーー、あなたには、何か強い信念があるはず。そう感じるの。あなたを見ていると。」
ルナは、ブチャラティの目を見つめて続けた。
「ああきっと、この人は、自分のために戦っているんじゃあないなあ、って。」
「・・・」
波音が心地よい。
ほんの少し前まで日本にいた自分が、今、この美しい海岸でこうしていることが、純粋に不思議に思えた。
しばらくして、ブチャラティは溜め息をついて言った。
「かいかぶりすぎだ。俺は・・・君が思っているほど、そんなに出来た人間じゃあない。」
ルナはくすりと笑って首を傾げた。
「そう?」
次の瞬間、ぐいっ、と手首を強く引かれて、気がついた時はもう、抱きしめられていた。
痛いほど強い力でーーーー。
「俺が何を考えていると思う?ルナ。俺に関わったせいで、君が危険な目に遭うかもしれない。それをわかっていながらーー。君のことを考えると冷静でいられない。君がもうすぐいなくなるかと思うと、どうにかなりそうになる。君が好きだ、ルナ。君の何もかも全部、俺のものにしたいー・・・!!」
熱くかすれた声が耳をくすぐる。
ルナが顔を上げると、熱を帯びたサファイアの瞳と視線がぶつかり、そのあまりの真剣さに、思わず息をのんだ。
「ブローノ・・・」
「・・・出会ったばかりなのに、おかしいと思うだろう?でも俺はーー・・・」
ブチャラティは、離さないとでもいうようにルナの首の後ろを押さえて上向かせると、切れ長の瞳を伏せた。
「Ti amo・・・」
潔癖そうな形のいい唇が、ルナの唇に重なる。
ーー愛してるって、意味だわ・・・
ルナは、ブチャラティにキスされたまま、ぼんやりと思った。
ああ、頭が上手く働かない。
露伴ちゃんに、イタリア語はペラペラにしてもらったはずなのに・・・私、どうしちゃったのかしら。
でも、一つだけ、わかる。
ブローノは、普段は冷静沈着だけど、本当は、誰よりも情熱的な人。
だってこんなにもーー、火傷しそうに熱い彼の想いが、全身に流れ込んでくるから・・・
どこか名残惜しそうに、そっと、唇が離れる。
ルナが目を開けると、ブチャラティは困ったように笑って、
「泣かないでくれ・・・」
言いながら、すらりと長い指でルナの目尻から流れた一筋の涙を拭った。
「あなたのせいじゃないの・・・」
ブチャラティは、再びルナを抱きしめた。
たくましい胸から、いつか感じたマリンノートがかすかに香り、ルナは目を閉じた。
ーー今、言わなければ。
この場所が、これ以上、優しくなる前に。
「・・・ルナ?」
急に身を離した彼女を、ブチャラティが怪訝そうに見る。
ルナは、ひとことひとこと、噛みしめるように言った。
「ブローノ、あなたは・・・スタンド使いね。」
ルナは感嘆の溜め息をもらした。
「綺麗・・・」
ネアポリスの南、カンパーニア州にあるソレントからサレルノまでの全長40キロの海岸線は、コスティエラ・アマルフィターナ(Costiera Amalfitana)と呼ばれ、世界でもっとも美しい海岸線と言われている。
眼前には、切り立った崖に沿って絶妙なバランスでひしめくパステルカラーの建築物。複雑な形の海岸線から先は、コバルトブルーの海が広がっていた。
「一度は見てみたいと思ってた。」
「連れて来たかいがあったな。」
ブチャラティは良かったというふうに笑って続けた。
「『アマルフィ』という名前の由来を知っているか?」
ルナは首を横に振る。
「『アマルフィ』という名前の由来は、ギリシャ神話の妖精アマルフィから付けられている。ギリシャ神話の英雄ヘラクレスと恋仲だったアマルフィの死後、とても悲しんだヘラクレスが世界で一番美しい場所にアマルフィを葬ったことから、それ以来この都市はアマルフィと呼ばれるようになったんだそうだ。」
「・・・」
「今日の君の服と、同じ色だな。」
ブチャラティの言葉が海を指していることに気づき、ルナはくすくす笑った。
「そうね。でもこれは、あなたの瞳の色みたいだと思って買ったのよ?」
「ーー!」
ブチャラティは虚をつかれたような表情を浮かべてルナを見た。
そして、まいったというような感じで片手で目を覆いながら横を向いた。
「まったく・・・ルナ、男と二人でいる時に、そういうことを気軽に言うんじゃあない。」
「あら、どうして?」
「計算じゃあない分、始末が悪いからだ。」
「???」
どういう意味かしら。
ルナは不思議だったけれど、クールで隙のないブチャラティがめずらしく少し照れている様子が可愛くて、まあよしとすることにした。
それから、街を歩いた。
建物がかなり密集して建てられていることがわかる。世界遺産だけに観光客が多かった。私もだけど。
二人で歩いたり食べたり眺めたりーー、アマルフィでの時間は、あっという間に過ぎた。
夕方になると、地元の人が、夕陽が絶景だと教えてくれたビーチに行ってみることに。
穴場スポットなのか、観光客の姿はまばらで、住人ぽいおじいさんやおばあさんがのんびりしている感じだった。
ルナはウェッジソールのサンダルを脱いだ。ひんやりとした砂が火照った素足に心地よい。
ブチャラティは、脱いだジャケットの襟のところに指をかけて、肩の上に乗せた。
ルナは、ブチャラティの少し先を歩きながら、肩越しに振り返った。
「いろいろ引っ張り回してごめんね。せっかくのお休みなのに。疲れたでしょう。」
「いや。こんなに楽しかったのは・・・久しぶりだ。」
ブチャラティは目を伏せてかすかに微笑んだ。
「ありがとう、ルナ。少し・・・楽になった。」
さらりと、くせのないブルーブラックの髪が潮風に舞う。
彼の言葉は、一瞬、ルナを泣きたいような気持ちにさせた。
「俺の親父は漁師だった。」
突然、ブチャラティはそう言って、海へと目を向けた。
「俺が7歳の時に両親が離婚して、母は俺を引き取ろうとしたが、俺は断った。親父は、一人では離婚の傷から立ち直れずに、駄目になってしまう気がしたからだ。親父は休みにはよく釣りに連れて行ってくれた。さっきのアマルフィの話も、親父が教えてくれたものだ。」
「・・・」
「俺が12の時、親父は釣りに行くという二人組の男を乗せて小さな島まで行った。たが、奴らの本当の目的は麻薬の取引で、取引現場を目撃してしまった親父は銃で撃たれて、意識不明の重傷を負ったんだ。親父が生きている限り、奴らは口封じのために親父を消しに来る。そう考えた俺は、襲ってきた奴らを殺した。そして俺は、俺と親父の身を守るために、町を支配していた組織にーー、<パッショーネ>に入った。」
「ーーお父さんは?」
と、ルナが尋ねると、ブチャラティは一瞬目を見張り、
「撃たれた後遺症で、5年後に死んだ。」
と、静かな声で答えた。
「やっぱり変わっているな、君は・・・目の前にいる男が人殺しだということより、親父の生死の方が気になるなんて。」
「ギャングの世界がどんなものかわからないけれど、ブローノは、きっと、仕事で人を殺すこともあるんじゃあないかしら。」
そう言ってルナは、波打ち際へ歩いた。
穏やかで少し冷たい波が、足をゆるゆると包み込む。
「でもきっとーー、あなたには、何か強い信念があるはず。そう感じるの。あなたを見ていると。」
ルナは、ブチャラティの目を見つめて続けた。
「ああきっと、この人は、自分のために戦っているんじゃあないなあ、って。」
「・・・」
波音が心地よい。
ほんの少し前まで日本にいた自分が、今、この美しい海岸でこうしていることが、純粋に不思議に思えた。
しばらくして、ブチャラティは溜め息をついて言った。
「かいかぶりすぎだ。俺は・・・君が思っているほど、そんなに出来た人間じゃあない。」
ルナはくすりと笑って首を傾げた。
「そう?」
次の瞬間、ぐいっ、と手首を強く引かれて、気がついた時はもう、抱きしめられていた。
痛いほど強い力でーーーー。
「俺が何を考えていると思う?ルナ。俺に関わったせいで、君が危険な目に遭うかもしれない。それをわかっていながらーー。君のことを考えると冷静でいられない。君がもうすぐいなくなるかと思うと、どうにかなりそうになる。君が好きだ、ルナ。君の何もかも全部、俺のものにしたいー・・・!!」
熱くかすれた声が耳をくすぐる。
ルナが顔を上げると、熱を帯びたサファイアの瞳と視線がぶつかり、そのあまりの真剣さに、思わず息をのんだ。
「ブローノ・・・」
「・・・出会ったばかりなのに、おかしいと思うだろう?でも俺はーー・・・」
ブチャラティは、離さないとでもいうようにルナの首の後ろを押さえて上向かせると、切れ長の瞳を伏せた。
「Ti amo・・・」
潔癖そうな形のいい唇が、ルナの唇に重なる。
ーー愛してるって、意味だわ・・・
ルナは、ブチャラティにキスされたまま、ぼんやりと思った。
ああ、頭が上手く働かない。
露伴ちゃんに、イタリア語はペラペラにしてもらったはずなのに・・・私、どうしちゃったのかしら。
でも、一つだけ、わかる。
ブローノは、普段は冷静沈着だけど、本当は、誰よりも情熱的な人。
だってこんなにもーー、火傷しそうに熱い彼の想いが、全身に流れ込んでくるから・・・
どこか名残惜しそうに、そっと、唇が離れる。
ルナが目を開けると、ブチャラティは困ったように笑って、
「泣かないでくれ・・・」
言いながら、すらりと長い指でルナの目尻から流れた一筋の涙を拭った。
「あなたのせいじゃないの・・・」
ブチャラティは、再びルナを抱きしめた。
たくましい胸から、いつか感じたマリンノートがかすかに香り、ルナは目を閉じた。
ーー今、言わなければ。
この場所が、これ以上、優しくなる前に。
「・・・ルナ?」
急に身を離した彼女を、ブチャラティが怪訝そうに見る。
ルナは、ひとことひとこと、噛みしめるように言った。
「ブローノ、あなたは・・・スタンド使いね。」