ただ恋をしている
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
昼下がりのカフェのテラス席で、サラはうっとりとした表情を浮かべていた。片方の手で頬杖をつき、少し小首を傾げるようにして。そっと閉じられた睫毛と心持ち弧を描いた唇の上で、秋の繊細な陽光が透き通りながら踊っていた。
どきり、と、自分の胸が鳴る音をブチャラティは聞いた。
東洋系のせいか、もともと自分たちイタリア人よりも随分と若く見える。あどけなさすら残る顔立ちからは、まさかギャングとは想像できないだろう。しかし、まぎれもなく彼女は自分の部下であり、その明るさでいつもチームの雰囲気を良くしてくれていた。
・・・日頃から喜怒哀楽がはっきり顔に出るタイプだが、今日はまた随分と幸せそうだ。
ブチャラティが思わずくすりと笑みをこぼすと、気配を感じたのかサラは目を開けた。
「わっ!ブチャラティ!いつ来たんですか!?」
予想通りの反応がまた笑いを誘う。
「少し前だが。どうやら君が一番乗りのようだな。」
だったら早く声をかけて下さいよ、というぼやき声を流して席に座る。近づいて来たカメリエーレに、自分の飲み物と彼女のおかわりを頼んだ。
「何か良いことでもあったのか?」
「えっ?どうしてですか?」
「俺に気づくまで、そんな顔をしていたからな。」
「・・・」
彼女の頬が赤く染まる。そして、しばらく目を泳がせた後、観念したように溜め息をついた。
「金木犀です。」
「金木犀?」
思わずブチャラティがおうむ返しに問うと、彼女の右手が、店に寄り添うようにそびえる木々のうちのひとつを指さした。
「ほら、あそこに。すごく良い香りがするな〜、と思ってたんです。あの甘い匂い、好きなんですよね。」
「・・・」
「・・・いいですよ、笑っても。」
ブチャラティは小さく吹き出しながら憮然としたサラを見る。そういえば確かに、砂糖を煮詰めたような甘い香りが漂っている。ふとした瞬間に香るのは秋の涼やかな風のせいだろうか。風上には彼女が指した金木犀が重たげに枝を垂れている。小さな花はまるで橙色の十字架を散りばめたようだった。
「もう・・・ジョルノは笑わずに聞いてくれたのに。」
なにげないその言葉に、コーヒーカップに伸ばしかけたブチャラティの指がぴたりと止まる。胸の奥でスッと何かが冷えてゆくような気がした。
そういえばアジトでサラとジョルノはよく談笑している。ジョルノも他のメンバーより彼女に心を許しているようだ。その証拠に、彼女と話している時のあいつの顔は、美しいが作り物のような笑顔ではなく、血の通った人間らしい表情のように見える。
黙り込むブチャラティを尻目に、いつのまにかサラはジョルノについて話すのに夢中だ。ジョルノは本をたくさん読んでるんです。自分のスタンド能力に関わるような本だけじゃなくて、この間なんてー、、、えーっと、、、タイトルは忘れちゃったけど、難しい哲学の本とかも読んでました!理由をきいたら、経験の絶対量が足りないから、せめて少しでも多く知識を吸収しておかないと、いざという時にチームの役に立てないって。まだ15なのにすごくないですか?ああ見えて努力家ですよね、彼って。
なぜ彼女はこんなふうに話すのだろう。瞳をキラキラと輝かせながら、まるで自分のことのように誇らしげに。サラは俺の方を見て話をしている。しかし彼女はけっして俺を見てはいないのだ。こんなに近くにいるのに。
そう思った途端、猛烈に腹が立った。
新入りで一番年下のジョルノが早くチームに馴染めるよう気にかけてくれとサラに頼んだのはこの俺だ。彼女は任せてくださいと答えて、今やジョルノはチームに自分の居場所を作り上げた。彼女のおかげだ。だから俺が抱いているこの感情はまったくもって理不尽だ。サラとジョルノが親しくなるのはあたりまえのことじゃあないか。
さわさわと葉ずれの音が鳴る。秋を溶かし込んだような金色の風が二人の間を戯れにすり抜けてゆく。
「うわぁ・・・甘い匂い。なんだか歯が痛くなっちゃいそう。」
そう言いながらもサラの横顔は心地よさげに目を細めている。歯のうずくような甘い香りに包まれて、いったい何を思い、誰を想っているのか。こうやってあいつは、自身が不在の時すら彼女の心を独占しようとするのか。
ブチャラティの手が、頬杖をついたサラの華奢な手首をつかむ。
「?」
そして不思議そうな彼女が何か言葉を発する前に、その口を自分のそれでふさいだ。
ーー歯が痛むほど甘いのなら、いっそのこと、もっと甘くなってしまえばいい。
柔らかな感触を味わってから離れると、呆然と開かれたままの瞳に自分の姿が映っている。やっと自分を見てくれた、と、ブチャラティは思った。それなのに甘さではなく苦さが胸に広がるのはなぜなのか。
「な・・・に?え・・・?」
リンゴのように朱に染まった顔を片手で覆いながらサラは呟く。その様子はわかりやすく戸惑っていて、自分が彼女をそうさせていると思うと、彼はようやく少しばかり溜飲を下げた。
「確かに、甘いな。」
ブチャラティは彼女に微笑みかける。この女はやはり特別だ。いとおしい。だから、キスする寸前、目の端に映った部下の影には気づかないフリをすることに決めた。簡単には手離せないものが俺にもひとつくらいあってもいいだろう?悪いが、世の中、何でも思い通りになるわけじゃあないんだぜ、坊や。
椅子の背もたれに身を預けながら、ブチャラティはゆっくりと脚を組む。その目線の先には、緑の瞳を怒りで輝かせながら最短距離でここへ向かって来る金髪の男。さてどうしようか。
どきり、と、自分の胸が鳴る音をブチャラティは聞いた。
東洋系のせいか、もともと自分たちイタリア人よりも随分と若く見える。あどけなさすら残る顔立ちからは、まさかギャングとは想像できないだろう。しかし、まぎれもなく彼女は自分の部下であり、その明るさでいつもチームの雰囲気を良くしてくれていた。
・・・日頃から喜怒哀楽がはっきり顔に出るタイプだが、今日はまた随分と幸せそうだ。
ブチャラティが思わずくすりと笑みをこぼすと、気配を感じたのかサラは目を開けた。
「わっ!ブチャラティ!いつ来たんですか!?」
予想通りの反応がまた笑いを誘う。
「少し前だが。どうやら君が一番乗りのようだな。」
だったら早く声をかけて下さいよ、というぼやき声を流して席に座る。近づいて来たカメリエーレに、自分の飲み物と彼女のおかわりを頼んだ。
「何か良いことでもあったのか?」
「えっ?どうしてですか?」
「俺に気づくまで、そんな顔をしていたからな。」
「・・・」
彼女の頬が赤く染まる。そして、しばらく目を泳がせた後、観念したように溜め息をついた。
「金木犀です。」
「金木犀?」
思わずブチャラティがおうむ返しに問うと、彼女の右手が、店に寄り添うようにそびえる木々のうちのひとつを指さした。
「ほら、あそこに。すごく良い香りがするな〜、と思ってたんです。あの甘い匂い、好きなんですよね。」
「・・・」
「・・・いいですよ、笑っても。」
ブチャラティは小さく吹き出しながら憮然としたサラを見る。そういえば確かに、砂糖を煮詰めたような甘い香りが漂っている。ふとした瞬間に香るのは秋の涼やかな風のせいだろうか。風上には彼女が指した金木犀が重たげに枝を垂れている。小さな花はまるで橙色の十字架を散りばめたようだった。
「もう・・・ジョルノは笑わずに聞いてくれたのに。」
なにげないその言葉に、コーヒーカップに伸ばしかけたブチャラティの指がぴたりと止まる。胸の奥でスッと何かが冷えてゆくような気がした。
そういえばアジトでサラとジョルノはよく談笑している。ジョルノも他のメンバーより彼女に心を許しているようだ。その証拠に、彼女と話している時のあいつの顔は、美しいが作り物のような笑顔ではなく、血の通った人間らしい表情のように見える。
黙り込むブチャラティを尻目に、いつのまにかサラはジョルノについて話すのに夢中だ。ジョルノは本をたくさん読んでるんです。自分のスタンド能力に関わるような本だけじゃなくて、この間なんてー、、、えーっと、、、タイトルは忘れちゃったけど、難しい哲学の本とかも読んでました!理由をきいたら、経験の絶対量が足りないから、せめて少しでも多く知識を吸収しておかないと、いざという時にチームの役に立てないって。まだ15なのにすごくないですか?ああ見えて努力家ですよね、彼って。
なぜ彼女はこんなふうに話すのだろう。瞳をキラキラと輝かせながら、まるで自分のことのように誇らしげに。サラは俺の方を見て話をしている。しかし彼女はけっして俺を見てはいないのだ。こんなに近くにいるのに。
そう思った途端、猛烈に腹が立った。
新入りで一番年下のジョルノが早くチームに馴染めるよう気にかけてくれとサラに頼んだのはこの俺だ。彼女は任せてくださいと答えて、今やジョルノはチームに自分の居場所を作り上げた。彼女のおかげだ。だから俺が抱いているこの感情はまったくもって理不尽だ。サラとジョルノが親しくなるのはあたりまえのことじゃあないか。
さわさわと葉ずれの音が鳴る。秋を溶かし込んだような金色の風が二人の間を戯れにすり抜けてゆく。
「うわぁ・・・甘い匂い。なんだか歯が痛くなっちゃいそう。」
そう言いながらもサラの横顔は心地よさげに目を細めている。歯のうずくような甘い香りに包まれて、いったい何を思い、誰を想っているのか。こうやってあいつは、自身が不在の時すら彼女の心を独占しようとするのか。
ブチャラティの手が、頬杖をついたサラの華奢な手首をつかむ。
「?」
そして不思議そうな彼女が何か言葉を発する前に、その口を自分のそれでふさいだ。
ーー歯が痛むほど甘いのなら、いっそのこと、もっと甘くなってしまえばいい。
柔らかな感触を味わってから離れると、呆然と開かれたままの瞳に自分の姿が映っている。やっと自分を見てくれた、と、ブチャラティは思った。それなのに甘さではなく苦さが胸に広がるのはなぜなのか。
「な・・・に?え・・・?」
リンゴのように朱に染まった顔を片手で覆いながらサラは呟く。その様子はわかりやすく戸惑っていて、自分が彼女をそうさせていると思うと、彼はようやく少しばかり溜飲を下げた。
「確かに、甘いな。」
ブチャラティは彼女に微笑みかける。この女はやはり特別だ。いとおしい。だから、キスする寸前、目の端に映った部下の影には気づかないフリをすることに決めた。簡単には手離せないものが俺にもひとつくらいあってもいいだろう?悪いが、世の中、何でも思い通りになるわけじゃあないんだぜ、坊や。
椅子の背もたれに身を預けながら、ブチャラティはゆっくりと脚を組む。その目線の先には、緑の瞳を怒りで輝かせながら最短距離でここへ向かって来る金髪の男。さてどうしようか。
1/1ページ