「ココ！Amore、ただいま。」

ブチャラティが寝室のドアを開けると、恋人のココは、ベッドのヘッドボードに寄りかかり本を読んでいた。ちらりとこちらを見るも、またすぐに視線を本へ落とす。

「怒ってるのか・・・遅くなってすまない。これでもいろいろ放り出して帰って来たんだがな、、、」

言いながら、二人で選んだFlouのベッドに腰かけた。ココの肩に流れる艶やかな黒髪をそっとすくい取って口づける。紅い唇が何かに堪えるようにきゅっと結ばれるのが目の端に映った。

怒っているような哀しんでいるような。

笑顔はもちろん最高だが、こんな表情すら心の底から可愛いと思うのだから、つくづく自分は彼女にイカレていると思う。

「頼むよ・・・機嫌を直してくれ、tesoro. 君に哀しい顔をされたら、俺がどうしようもなくなっちまうってこと、よく知ってるだろ？」

「・・・」

ココの濡れたような黒い瞳が、ブチャラティをゆっくりと捉える。彼女が瞬きをすると、ほろり、と、一粒の涙が頬を伝った。その一粒だけの美しい涙が、いじらしい彼女の性格を表しているような気がして、ブチャラティの胸に苦しいほど愛しさがこみ上げる。

「ココ、君は本当に可愛いな・・・もう泣かないでくれ。頼むよ。君のそんな顔を見ていると、俺は不安になるんだ。君はとても頑張り屋で優しくてー、人に気を遣ってばかりだから、無理をして俺と付き合ってくれてるんじゃあないかってな・・・たとえそうだとしても、君を手離すことは俺には到底できそうにないが。」

最後は自嘲するように言ってブチャラティは、柔らかなココの身体を腕の中に閉じ込めるように抱きしめると、

「君の生まれ年のワインと好きな色のバラを買って来た。バラの本数は、明日の朝にでもゆっくり数えてくれるか？・・・この後、君にそんな余裕は与えてやれそうにないからな。」

彼女の目を見つめて、その唇に自分のそれを重ねながらささやいた。

「Buon compleanno、ココ。愛している。」