9話 冒険
久しぶりに夢を見た。
穏やかすぎる昼下がり。ぽかぽかした陽気を浴びれば、自然と瞼がとろんと重くなり、気づけば眠っていた。最近徹夜が続いていた上に、先日登壇した学会から戻ったばかりだった。
リコ、ロイ、ドット、そしてフリードが旅立って10日が経った。夕食後のミーティングルームでは毎晩、4人からの定期報告が行われている。まもなく折り返し。旅の出会いやハプニングはもちろん、目指す場所へ近づいている興奮からか、報告中の表情は日に日に輝きを増していた。
だからだろうか、私もそんなみんなと、フリードと冒険をする夢だった。
「大丈夫だと思ってたけど、夢で会うと恋しくなるもんだね」
「ルリルリ」
「ヤアン」
ぼんやりと空を仰ぎ呟いた私に、側にいてくれた相棒たちが慰めるように寄り添い、返事をする。
出会った時から姿の変わらない、可愛くて頼りになる、大好きで大切な私の家族。
リコたちの相棒は、冒険やピンチを乗り越えるたびに成長し、やがて進化していった。それを見て、彼女たちよりずっと長く一緒にいる自分の相棒たちがなかなか進化しないことに、不安を感じたこともあった。悩んでも仕方がないと聞いてみれば、ヤドンはわざとシェルダーを釣り上げないこと、マリルはどこかで拾ったかわらずのいしを持っていて、そしてそれがとてもお気に入りなことがわかった。蓋を開ければ、なんてことはない。本ポケたちが望んでそうしているのだ。
要はひとりで悩んでも意味がないということ。
『――って感じだな。さっき見たと思うが、3人とも元気だ。ポケモン共に健康状態に問題はナシ。予定通りあと3日で目的地に着くと思うぜ。定期報告は以上だ!』
「オッケー、順調で何より。今日の昼には
〇〇も帰ってきたし、こっちも問題ないよ!」
オリオの言葉にフリードがリーダらしく、腕を組み、うんうんと頷いた。今夜も無事、定期報告が行われたことに胸を撫でおろす。
「あ、マードックが掛け持ちのバイト増やしたくらいかな」
『なんだ、働きすぎは良くないぞ。今も出てるのか?』
眉間にシワを寄せたフリードの顔が、グイと画面に近寄った。
「ドットが心配すぎるんだってさ。今は帰ってきたドットたちに食べさせるんだーって新作スイーツの開発やってるよ」
「それがコレ。顔を見ちゃうと余計に心配になるからとかなんとか」
「おこぼれ、いただいてます。泣かない自信がないっても言ってたね」
モリーと私は、お皿に盛られた色とりどりのスイーツを画面の向こうにいる彼へ差し出す。それぞれが言うマードックの様子に、なーんだいつものやつか、と安心したように眉尻を下げた。
『それにしても、んまそうだな!』
「帰ってからのお楽しみだね」
私がそう言うと、甘いもん食いてえなあ、とぼやき、「じゃあ、また連絡する」と言って通話を切った。淡々と、けれども賑やかに報告は終わり、少しの寂しさが漂う。
「ふう。今更だけどさ、
〇〇、やっと想いが通じた恋人と離れるのつらくない?」
「そうそう、あのタイミングでしか告れないなんてさあ」
「うーん、この船に乗るまで何年も連絡とってなかったしなあ。そう思うと今は恵まれてる、かな。連絡はとれてるし」
本音と強がりが入り混じる。そして思い出す、さっきまで電波で繋がっていた彼のこと。私の中の、夢でも見た、あの笑顔も。
「健気! 泣ける!」
「言いたいことは言いなよ? アンタたち変なとこで似たとこあるから」
「えへへ、そうかなあ」
「別に褒めてないんだけど」
「いいじゃん、惚気ちゃえ!」
本当は寂しい。毎日画面越しに顔を合わせて声は聞けても、ぬくもりを知ってしまった私は、知らなかった頃に戻ることはもうできない。
「あ、そうそう。今日、うたた寝しちゃった時にね、」
『ロトロトロト、ロトロトロト』
話し始めた私に、なになに、と興味深そうに近づいたふたりの顔を交互に見つめた時、ポケットに入れていたスマホロトムが目の前に飛び出した。
「フリード! どうしたの?」
「いいところだったのに!」
『なんだよ、まだそこにいたのか。今日はまだちゃんと声聞けてなかっただろ?』
「ハイハイ、オリオ、私たちは部屋に戻るよ。
〇〇、おやすみ」
「また今度聞かせてね!
〇〇、おやすみ!」
「ありがと。おやすみ、モリー、オリオ」
気を利かせてくれたふたりは残ったスイーツをそれぞれ手に取ってドアの前で軽く手を振ると、ミーティングルームを後にした。
『お邪魔だったか?』
「ううん、大丈夫だと思うよ。私も船に帰ってきたし、いつでも話せるから」
フリードは告白通り、毎日空いた時間に電話をかけてきてくれる。朝だったり、お昼の休憩中だったり、今日のように報告後だったり、様々。寝起き直後と思われる姿でかかってきた時は、ふにゃりとしたあくびの可愛らしさと朝の気怠い色気のギャップが心臓に悪かった。今もさっきの格好ではなく、ゴーグルもジャケットも脱いだ完全にオフのフリードだ。これはこれで、ドキドキしてしまう。いや、彼がどんな格好でも私の胸は高鳴るようになっているのだと思う。
『
〇〇、この間は学会、サンキューな』
本来は冒険の後に仕上げるはずだった共同研究の論文だったが、旅の途中でもフリードが必要なデータを随時送ってくれたため、予想より早く完成した。タイミングよく、彼がかつて登壇した学会が間近にあり、今回は私が発表を務めることになった。フリードのネームバリューに負けないほどには活動していたからか、変に突いてくる人もおらず、他の研究者の話も聞けて有意義な会だった。並んだ名前と顔写真は、何度見てもくすぐったかったけれど。
「いえいえ、久しぶりに緊張したよ。フリードの研究成果でもあるからさ」
『アーカイブ見たが、あれ緊張してたか? 普段通り、堂々としててかっこよかったぜ』
「えへへ、そうかなあ、ありがと。あ、メールでも送ったんだけど、今度、トレーナー向けの講演会のお誘いがあったよ。ポケモン分布と周辺の環境について、だったかな。近隣の学生さんが多く参加するみたい」
『見た見た。コレ、
〇〇と俺のそれぞれの分野で聞きたいから、是非ふたりでってやつだっただろ? うーん、日時的にギリ間に合わんくらいか』
「もしフリードの時間が合えばだけど、リモートとか出来る? 事前にお願いしたら機材増やしてもらえるかも」
『お、それいいな。講演会についてはまた調整しよう。で、』
「で?」
『ふたりの時は研究者じゃない、
〇〇の声も聞きたいんだがなあ』
さっきまでの溌剌とした声が、しっとりとした低音に変わる。その鼓膜を優しく撫でるような声が近づき、深い琥珀色の瞳に私を映そうとした。とろけるように甘い瞳は、画面越しでも心拍数が上がる。
「んっ、そんな急に言われても……うーんと、えっとね、き、今日、フリードの夢見たの。一緒に冒険してる夢」
『へえ』
「だからね、ちょっと寂しくなっちゃった。あ、私も行きたかったとかの未練じゃなくて、日に日にみんなの顔が良くなってきてるからその影響かな。この先の報告もすごく楽しみにしてるよ!」
少しわがままぽくなったかも。こんな風に言いたかったわけじゃないのに。けれど、そういうのも含めて彼の言う、私の声、なんだと思う。言葉にして初めて気づいたり、分かり合ったり、胸の内を明かしてもいいのだと、私はこの船に乗って知ることができた。
きっと、フリードなら、そういう私も全部受け止めてくれる。
「……会いたい、よ。フリード」
『っ、クソ、可愛すぎるだろ。俺も
〇〇に会いてえよ。今すぐ飛んで行きたいくらいだ』
「帰ったら、ギュッてしてね」
『する。ぜってえする! おまえさあ、たまに爆弾発言するよな。身がもたねえよ』
「フリードが聞きたいって言ったのに?」
私が首を傾げると、彼は「はい、言いました」とぺこりと頭を下げた。凛々しい眉は上がったり下がったり、大きな口も楽しそうに形を変え、見ていて飽きないなあ、と愛おしい気持ちで胸がキュッと苦しくなる。
『好きだよ、愛してる。あーあ、
〇〇が好きすぎてどうにかなっちまいそうだぜ』
「ちょっと、もう。フリードだっていつも急じゃない。……わ、私も、フリード、大好き」
いいなこういうの、と彼はふんわり笑って、「このまま
〇〇の声を聞きながら寝落ちれたら最高なんだがなあ」と大きなあくびをして目尻に涙を溜めた。それなら、と通話したまま自室へ戻り、私はベッドへ、フリードはテント内に敷いた寝袋へ横になる。恥ずかしいセリフもさらりと言ってしまう彼に、いまだ慣れはしないけれど、伝えそびれることだけはしたくない。
分布図の更新も共同研究も落ち着いたことだし、次なにしたい? と聞いてみる。すでに半分夢の世界へ行きかけている彼は、そうだなあ、と目を瞑り、「
〇〇と釣りがしたい、だろ? まだ行ったことない場所にも行ってみてえし、一緒に美味いものも食いたい」とゆったりと話す。
てっきり、ポケモンのことを話すのだと思っていた。けれど今、彼の瞼の裏に浮かんでいるのは、私かもしれない。そう思った瞬間、ちゃんと彼の心にも私がいるんだと感じて、離れていても繋がっている、そんな思いに、胸が温かく満たされていった。
「いいね、すごく楽しそう。水がきれいなところとか」
『ああ、いいな』
しばらく現と夢を行ったり来たりしながら、ぽつりぽつりと話していると、フリードから静かな寝息が聞こえてきた。
「……おやすみ、フリード。愛してるよ」
寝顔にそっと囁いて、彼のスマホロトムへ、通話を切るお願いをした。
彼の望みを叶えられたという小さな誇らしさが、私を深い眠りへと誘った。夢は見なかったけれど、心に残っていた寂しさは、すっかり消えていた。
その後、フリードたちは目的地へ着き、調査を開始した。ここ数日の報告によると私の事前に調べたものと概ね一致し、冒険の手掛かりが一つ、確実なものとなった。無事、旅の目的を果たしたのだ。リコ、ロイ、ドット、フリードはもちろん、待機組の私たちも達成感にその日の報告会は大盛り上がりだった。無論、マードックが泣いていたのは言うまでもない。
調査後は現地の方のご好意で、ちょうど開催されていた祭りが終わるまでの3日間、町に滞在し、翌日、次の町のポケモンセンターまで送ってもらうことが決まったそうだ。屋台や提灯が並び、夜には花火も上がるらしいと聞いて、きっと子どもたちも喜んでいるだろう。急ぎ足で向かった分、そこの地域に生息しているポケモンの観察も兼ねているという、なんともフリードらしい考えに私たちも賛成せざるを得なかった。
テキパキと何でもこなしてしまう彼が講演会のことを忘れるはずもなく、空いた時間、主に子どもたちがフィールドワークに出ている間、打ち合わせをすることができた。ポケモン博士の血が騒いだようで、3人と一緒に出かけて忘れられた日もあり、次の日の通話で平謝りされたが、それもフリードらしいと私は笑った。
『いよいよ明日だな』
「ね、楽しみ。明日は朝に軽くリハもあるから忘れないでね」
フリードは送ってもらった次の町のポケモンセンター内にある宿泊施設に、私は講演会のため、ジョウト地方のエンジュシティにあるホテルに滞在していた。
『ああ、もちろんだ。なあ、
〇〇のその服って』
「へへ、可愛いでしょ? 館内着が浴衣なの。好きなの選んでいいらしくって。トサキント柄選んでみたの、どう?」
さすがはジョウト地方、粋な計らいに私もテンションが上がっていた。普段と違う格好に気付いた彼へ、浴衣姿を見てもらうべく、立ち上がって全身をスマホロトムに映してもらう。
『やっべーな。可愛い。すげえ似合ってるよ。あれ、俺、もしかして惜しいことした?』
両手で顔を覆いながらも、指の隙間からふにゃりと目尻の下がったタレ目がこちらを見ている。
「私も見たかったなー、フリードの浴衣姿。いつか見れたらいいな」
そう言う私も、ポケモンセンターで貸し出されている、ゆるいパジャマ姿の彼にドキドキしていた。髪を下ろしたパジャマ姿のフリードは、白衣姿とはまた違う色気がある。けれど、パジャマが似合っている、なんて恥ずかしすぎて言えるわけもなく、胸の高鳴りに上擦りそうになる声を必死に抑えていた。
そして迎えた、講演会当日。
リモートで登壇したフリードは外にいることを活かして、現地を観察しながらポケモンの分布についてわかりやすく説明した。彼の軽快なトークは学生の皆さんに大ウケで、打ち合わせやリハで何度も聞いていた私も改めて聞き入ってしまった。“共存するタイプ別のポケモン”という表題については、フリードが分布の例を挙げ、続いて私が“ポケモンにとって住みやすい環境”について解説するという、交互に進行する構成にした。
講演終了後の質問タイムでは、ピンと伸びた腕が最後の最後まで途切れず会場を埋め尽くし、私たちは時間の許す限り、ふたりで精一杯答え続けた。終了のアナウンスが流れ、会場中には温かな拍手が広がる。論文を発表した学会の舞台とも違う和やかで一体感のある空気に、今この時、ふたりの共同研究が実を結んだような気がした。
『今日はお疲れ、大盛況だったな! 俺は先生って柄じゃないが、ああいうのもいいなって思ったよ』
「お疲れさま。そう? フリードは先生も向いてる気がするけど」
その日の夜、関係者の皆さんとの打ち上げが終わったあと、部屋へ戻って通話をしていた。
『ジッとしてられねえんだよなあ。バトルもしてえし、なんせ旅癖ついちまってるから』
「うふふ、確かに。それ私もなんだよね、動いてないとソワソワしちゃう」
彼は、だよな、と白い歯を見せて笑った。細められた目が、とても優しい笑顔だった。
『明日の朝にはここを発つ。あと数日で帰れそうなんだが、
〇〇、旅の準備しておいてくれないか?』
「どうして?」
『帰ったら伝える。今日はゆっくり休めよ』
「うん、わかった。フリードもね」
『おやすみ、
〇〇。愛してる』
「おやすみ、フリード。私も、愛してるよ」
画面がぷつりと暗くなると、そこには少し微笑んだ、しあわせそうな自分の顔が映っていた。ベッドへ横になると、ほどよい疲れでほわほわと眠気がやってくる。
旅の準備って、どこか行くのかな。今回の調査結果を受けて、次の場所へ行くってことなのかな。今度は私も一緒なんだ、嬉しい。昨日の定期報告では何も言ってなかったけど、何かあったのかな。帰ったら伝える、か。なんだろう。楽しみだな。
私がエンジュシティから戻った2日後、帰ってくる4人を出迎えるべく、待機組のメンバーはウイングデッキで待っていた。旅立ちの時も綺麗な青空だったが、今日も見事な晴天、清々しい空が広がっている。
「一度帰ってきてまたすぐ冒険なんて、我らがリーダーもタフだねえ」
モリーが私の荷物を見て、呆れたように笑った。
「みんなは行かないんだよね、私もどこに行くとかまだ聞かされてなくて」
「一週間くらいって言ってたっけ? まーたアイツは大事なこと伝えないで」
ふう、とため息をついたオリオに、マードックが「あれはもう直んねえよ」と、はあ、とため息をついた。ランドウのじっちゃんが「本人にとってはサプライズのつもりかもしれんぞ」とポツリと溢したが、他の3人は、ナイナイと首を横に振った。
「おーい! みんなー!」
声のする方を見上げると、タイカイデンの脚に捕まって空を飛ぶロイが見えた。すぐ後ろには、リザードンに乗ったフリード、リコ、ドットの姿も見える。みんなで手を振ると、2匹はスピードを上げ、ブレイブアサギ号へ一直線に向かってきた。
「ただいまー!」
「みんな、ただいま!」
「ただいま」
デッキに降り立つやいなや、子どもたちは冒険の疲れを感じさせないほど元気に走ってくる。生き生きと自信に満ち溢れた表情は、とてもいい経験をしてきた証。1ヶ月離れている間に、子どもたち3人はすごく成長したようだ。「おかえり」と久々の再会に駆け寄った私たちへ興奮気味に話し始めたロイに、珍しくそれに乗り饒舌に話すリコ、滝のような涙を流すマードックから後ずさるドット。静かだった船は一気に賑やかになった。ポケモンたちも、くるくると追いかけっこをしながら再会を喜んでいる。
「みんなただいま。留守を預かってくれてサンキューな!」
キャップを肩に乗せたフリードが輪の中へ入ってきた。
見慣れたはずの姿なのに、現実の彼を目にした途端、ドクンと胸が一際大きく脈を打つ。恋しさが、じんわりと全身に広がっていく。
「おかえりなさい」
「ああ、ただいま」
今日の空にぴったりな太陽のような笑顔が眩しい。安心したのか、想いが溢れてしまったのか、なんだかちょっとだけ泣きそうだ。そんな感傷に沈む私をよそに、彼は何でもない顔で「よしよし、準備はできてるな」と軽く笑って、当然のように私の荷物を持った。
「んじゃ行きますか!」
「どこに?」
「新婚旅行に決まってるだろ!」
「「「「「「「ええ〜?!」」」」」」」
船周辺にメンバーの声が響き渡り、近くの木々に留まっていたトリポケモンたちがザワザワと飛び立った。一同がポカンとヤドンのように口を開け、トランセルのように固まる中、ランドウのじっちゃんだけが、フォフォフォと笑っていた。
みんなの仰天した声にフリードは少しだけ顔を顰めたが、気に留める様子もなく、リザードンにハーネスを装着しながら淡々と荷物を括りつけていく。
「帰って話すって言ってたけど、な、なんでそうなるの?」
サプライズどころではない、突飛な発言に、私はおそるおそる声をかけた。
「へ? 論文、連名で出したんだ。実質結婚したも同然だろ? 講演会ではふたりで登壇もしたしな! もちろん、ご両親には報告済みだ。あれ、言ってなかったか?」
「そんな大事なこと、聞いてない!」
「まあまあ、行きながら話そうぜ!」
ほら、と差し出された手を取ると、ぐんと引っ張られ、勢いよく横抱きにされた。いわゆるお姫様抱っこというやつだ。周りからは「わあっ!」「きゃーっ!」と歓声があがる。フリードといると感情が忙しくて大変だけれど、それでも私は、そんな彼の側にいたいと思ってしまう。
「ちょっと、フリード、恥ずかしいってば」
「いいだろ、始まりは肝心なんだよ」
そう言って、フリードはおどけたようにパチンとウインクをしてみせながら、私をリザードンの背中にそっと乗せる。
「何も言ってくれなかったのに?」
「これから言うんだ。大事なこと、だからな」
矛盾してない? と聞く私に、ハハハ、と笑いながら彼もリザードンへ跨り、私を支えた。
「ハア、これほどまでとはね。先が思いやられるな」
モリーは眉間を押さえながら、呆れたようにため息をついた。けれど口元はかすかに笑っていて、心底怒っているわけではないのがわかる。
「ありゃもう無理だ。直らん」
マードックが肩をすくめて首を振る。
一周回って楽しくなってきた、と笑うオリオは手をひらひらと振って、「お土産よろしく〜」と叫んだ。
「いってらっしゃい!」
「気をつけて!」
ロイは元気よく両手をぶんぶんと振りながら、笑顔で叫んだ。隣のリコも全身で思いを込めるように手を振る。その横で、少し照れたようにしながらも、ドットも小さく手を振ってくれていた。ランドウのじっちゃんもふさふさの眉で隠れてはいたけれど、あたたかい眼差しをこちらへ向けてくれている気がした。
「いってきます!」
「またしばらく留守にするが、船よろしくな! 合流地点で会おう!」
フリードの声が響くと、リザードンの大きな翼が力強く羽ばたき、私たちはふわりと宙に浮いた。
空に吸い込まれるよう、ぐんぐんと高く飛び上がる。
デッキにいるみんなが小さくなっていく。足元には広がる海、そしてその上には、気持ちの良い青空がどこまでも続いている。心地よい風が頬を優しく撫で、思わず笑みがこぼれた。
私たちの冒険はまだまだ続いていく。いつかまたと言わず、今この瞬間も、ずっと、この先も。
一度終わっても、きっと離れていたって続いていくのだろう。
フリードの言う“大事なこと”が何なのか、そして行き先がどこなのか――それを知るのは、また別のお話。
NEXT TIME…
A NEW BEGINNING!
write 2025/5/27