7話 余情
狙いが変わったのか、勢力が変わったのか段々と陰湿になっていくエクスプローラーズ。
遭遇し、バトルになることは以前より少なくなってきたが、どこに奴らの目が光っているかわからない。監視されているやもとの意見も上がったが、それでもメンバー全員の決意は固く、「止まるなんてらしくない! 自分たちは自分たちの目指す方へ進むのみ!」と今日も全力前進なライジングボルテッカーズの面々だった。
昼食をとった後、リコ、ロイ、フリードは、情報提供者の元へ向かっていった。他のメンバーは各自持ち場での作業を行っている。
私はというと、午前中、自室に缶詰めだったぶん、今は気分転換に甲板で作業している。彼から頼まれた調べ物も、同時に進めていた。おとぎ話レベルの古いものだからか、石、化石、琥珀、各地方に存在するエネルギー結晶、該当しそうな資料を読み漁るも、これだという情報になかなか辿りつかない。
「うーん、論文にしても本にしてもネット公開されてるものだけだとやっぱり厳しいなあ。これは現地調査が必要かも」
『ロトンッ』
「ん、メールだ。なになに、え、それってこの近くじゃない! 行こうヤドン、マリル!」
情報収集を任された際、その分野に通じている人たちへ連絡を入れておいたのだ。専門的に研究していなくとも、興味や趣味で調べている人もいたりして、その中でも博物館好きの遺跡マニアな博士からの返信だった。
「ルッリー!!」
「イヤン」
元気よくジャンプしたマリルの横で、ヤドンは目を瞑りゆっくりと首を横に振った。
「え、ヤドン行かないの? じゃあ、マリルと行ってくるよ、お留守番よろしくね」
「ヤア」
メールには、古い記録が展示されている博物館の住所と、それにまつわる文献のタイトルが幾つか書かれていた。しかも博物館の横には図書館があり、その本が寄贈されているという。館長さんのおじいさまが残した博物館と手記で、知る人ぞ知る貴重なものらしい。なんと幸運なことに、船はちょうどその街の近くに停泊していた。幸運に幸運が重なった嬉しさに、アプリのグループチャットへ一言連絡を入れ、マリルと共に船を飛び出した。
博物館では、人柄の良い館長さんから展示物以外にも保管されていた希少な記録を見せてもらい、詳しい話を聞くことができた。時間いっぱい堪能したあとは、図書館へ移動。許可を貰って撮らせてもらった古い記録の写真と本を読み比べ、気になる箇所をノートに書き写していく。冒険のヒントになりそうな情報はほんのひと握りだったが、知らないことを知っていく感覚はいくつになってもワクワクするものだった。
「あの〜、そろそろ閉館のお時間なのですが」
「あ、すみません、今片付けます、ってフリード!」
職員さんかと思い、慌てて振り返ると、イタズラに成功した子どものような顔で笑う彼が立っていた。
「
〇〇が慌ててんの久しぶり見たな。いやあ、いいもん見れた。でも閉館はホントだぜ?」
ほら、と指差した先の時計は、まもなく閉館時間を知らせようとしていた。館内にはもうひと気がなく、窓の外も、いつの間にかとっぷりと日が暮れている。私は「裏声で喋るの反則」とぶうぶう言いながら、すっかり眠ってしまったマリルをモンスターボールへ戻し、急いで片付けて荷物をまとめた。
「ノートに書くの好きだよな」
「うん、一度デジタルもやってみたんだけど、やっぱり紙に書くのが好きみたい」
最後に彼が渡してくれたノートをしまって、お世話になった司書さんへ挨拶し、図書館を後にした。
「帰り、どうするつもりだったんだ?」
「え、うーん、タクシーとか?」
「とかぁ? ったく、考えてなかっただろ」
「子どもたちならまだしも、私は大人だから自分でなんとかできるよ」
「だろうけどさ、連絡のひとつやふたつくれたっていいだろ」
昼、意気揚々とマリルと駆けた道を、帰りはフリードと歩いて帰るなんて、思いもしなかった。
さっきは笑っていたのに、今は少しだけ怒っているみたい。やっぱり、心配して来てくれたんだよね。
「……心配かけてごめんね。でも、みんなへ連絡したよ、船出る前に」
「来てたさ、グループチャットにな。もしかすると俺宛てには“迎えに来て”とか来るかもってちょっと期待しちまっただろ。いやまあ、それは置いといて。マリルが一緒だったとはいえ、外は明かりもねえし、道悪いし、木ばっかだし、」
連絡、期待してたのか。これは怒ってるんじゃなくて、拗ねてる? ちょっと可愛いかも。それにしても、迎えに来てもらうなんて全く頭になかった。確かに、なんかあったらすぐ俺に連絡しろってリコたちには言ってるもんな。その場合、子どもたちには叱ってる。拗ねてるってことは、そういうのとは違うってことよね。期待して拗ねるなんて、フリードもそういう気持ちになるんだ。私と同じだ。
「フリード、迎えに来てくれて、ありがと。次からは連絡するね」
「ん。ほら、」
そう言って差し出されたのは、彼の手のひら。
私、何か落としたかな。それとも、しまい忘れ?
「うん? 暗くてよく見えない」
「ちげえよ、手、繋ぐの!」
「え、あ、はい!」
彼の勢いのある声に、私も勢い余ってパチンと手を重ねてしまった。ジンジンと軽い痛みの後に感じたのは、彼のしっかりとした手のひらの感触。私のとは違う、分厚くて骨張った、男の人の手。
じわりと体温が伝わってきて実感する。
私、フリードと手繋いでる。
何度か抱きしめられたことはあったが、それとはまた違った親密さに、鼓動が速くなる。柔く包む指が、遠慮がちに私の手の甲を撫でた。心配だけではない感情が流れ込み、頬を熱くさせる。暗くてよかった、と夜風で冷ましながら、鼓動を落ち着かせるため周りの音に集中した。だが、私の歩幅に合わせる彼のゆっくりとした足音に気づくと、落ち着くどころか心拍数は上がった。
「どうだった、博物館は。熱中するほどに面白えもん見つけたか?」
「ん、そうなの! 博物館や遺跡に詳しいひとが、ここなら参考になるんじゃないかって教えてくれてね。フリードが気にしていた永遠のめぐみ……ラクリウムに違い成分が観測されてて、古い記録にはそれに似た名前も残ってたの! なにか関係あるのかもしれないよ」
「へえ、興味深いな。詳しく聞きたいがここは、ガマンガマン」
「ふふふ、しっかりまとめて明日報告するね。フリードたちはどうだった?」
「こっちも収穫あり、だ。明日は報告祭りだな! やっぱ
〇〇はすげえよ。頼りになる」
「そうかなあ。情報くれたのは知り合いだし、それを調べることくらいしかやってないけど」
「謙遜すんなって。初めて会った時からすげえなって思ってたんだ」
繋いだ手をぎゅっと握ると、彼は話し始めた。有名な進学校からの転入生だからと高を括っていたが、フットワークの軽さや分析の目の付け所は同級生以上で、自分が一番だと思っていたフリードは負けていられないと思ったらしい。最初は対抗心からだったが、徐々に協力する意味だとか、誰かと冒険をする楽しさを知っていったという。
〇〇の両親に言ったこと、あれは説得のためじゃない、俺の本心、昔から思ってたことだ、と言った。それから、母に遮られた話の続きも教えてくれた。もちろん、解決の糸口となった例のノートのことも覚えていて、彼もまだそれを持っているということも話してくれた。
彼から初めて聞く話に、驚くばかりだった。私も、フリードと出会えたから気づけたこと、たくさんある。もし私一人だったら、もっと迷い悩んでいた気がする。近くに尊敬できるひとがいたから、高め合えるひとがいたから、真っ直ぐ前を向けたんだ。
「尊敬や憧れ、それがいつからか、……おっと、話してたらあっという間だったな」
「ホントだ」
木々の向こうに、ぽつりぽつりと船の窓から漏れる明かりが見えて来た。
繋いだ手はそのまま。もしかして、告白ってこんな雰囲気の時にするものなのかもしれない。伝えたらフリードはどんな顔をするのだろう。暗がりでは、きっとよく見えない。それはたまらなく惜しい気がした。それでも……
複雑な想いが胸に渦巻くまま、いつしか船のスロープ下まで辿り着いていた。自然と、繋いでいた手がそっと離れる。なかなか踏み出せずにいると、彼がもう一度、手を差し伸べてくれた。私は、さっきまで重ねていたぬくもりに触れ、その手を頼りにスロープを上った。
お礼を告げると、彼はふっと微笑み、「いーえ」と優しく答えて、私を部屋の前まで送り届けてくれた。
「マードックが夕食残してくれてるから、後で一緒に食おう」
「うん、荷物置いたら、行くね」
「ああ、じゃあまた」
彼は同じ船内にいて、すぐ会えるのに、今どうしても離れがたい。頷く私に彼はもう一度、あとで、と言って名残惜しそうにドアをゆっくりと閉めた。
涙が滲むほどに想いが溢れて止まらない。やっぱりさっき、伝えていればよかった。
私、フリードのことが……
「すき」
足音が遠ざかったかも気づかないくらいに、胸は彼への想いでいっぱいで、鼓動だけがやけにうるさく響いていた。
To Be Continued
write 2025/4/28