21話 おしゃべり
あたたかくてきもちよかったお気に入りの場所もすっかりさむくなって、なんだかつまらないなあと思っていたの。
すると
〇〇が、寒くなったねぇそろそろこれの出番だね、ってふかふかがもっとふかふかになって、中に入れるものを置いてくれたのよ。落ち着くやつ。そういえば、前にもさむくなったとき、これに入って外を眺めていた気がするわ。
これに入ってしまったら出れないのも思い出したの。だって心地よすぎるんだもの。
〇〇のベッドもいいけれど、
〇〇が起きてひとりになったらひんやりするし、さみしいのよ。だからここに入っておくの。
最近、さむいのが苦手な
〇〇も暗い時間に早起きしてわたしとお気に入りの場所へ行くのよ。なんでも、あいざわさんがここから見えるんだって。
〇〇とってもうれしそう。
〇〇とあいざわさんは仲良くなったのね。わたしと
〇〇くらいに。だってよくお家にも来るのよ。わたしと遊んでもくれるし、撫でてくれる手が
〇〇と同じくらいにやさしいの。
だからわたしもあいざわさんがすきなのよ。
わたしがあいざわさんのおひざに乗ると、
〇〇はちょっとかなしそうな顔をしてちょっとうらやましそうな顔をするの。わかってるわ、
〇〇はわたしのこともすきだし、あいざわさんのこともすきなんでしょ。ふたりがたのしそうにお話し始めると、どうぞってゆずるのよ。えらいでしょ。
だってわたしもふたりがすきなんだもの。
今日は、そのふたりがでーとっていうのをするらしい。わたしには全然わからないんだけれど、キャーキャー言いながら準備する
〇〇を見ていて、きっとたのしいことなのだわ、と思ったの。
「ね、よるさん、どう? 可愛い? 相澤さんと並んでも変じゃないかな? またバレンタインの時みたいにかっこよすぎる格好だったらどうしよう!」
「大丈夫よ、かわいいわ」
「普段パンツばかりなのに、ワンピース着て行ったら気合い入ってるって思われる? や、これそんなにヒラヒラしてないし、ジャンパースカートだし深めのVネックで大人っぽさもあるし、インナーだって甘すぎないの選んだから大丈夫だよね?」
「大丈夫だってば」
「昨日はこれで完璧! って思ってたのに、着てみたらわかんなくなっちゃった!」
「
〇〇、ちょっと落ち着きなさいよ、もう」
「え、可愛い? 大丈夫? ありがとうよるさん!」
あわてる
〇〇の足元に擦り寄って、名前を呼んだら少し落ち着いたみたい。もうまったくほんとに世話が焼けるわね、まったくもう。
わあ、もうこんな時間! とまたあわてる
〇〇を眺めていたら、お家にあいざわさんがやってきた。
〇〇と一緒に玄関まで行くとあいざわさんが撫でてくれたのよ。
〇〇の手とは全然違うのだけれど、やさしいのは一緒なの。
「よるさん、こんにちは。今日は
〇〇さんとお出かけさせてくださいね」
「まあ、いいわよ」
「
◇◇さん、今日はいつもと雰囲気が違って、一段と可愛いですね」
「ひゃ、い」
「ね、大丈夫だったでしょ?」
ふふんと得意げな顔で
〇〇を見上げたけれど、
〇〇は顔をまっかにして目をパチパチさせて、ちっともこっちを見なかったのよ。まったくもう。
ふたりを見送って、わたしはゴハンを食べたり眠ったり遊んだり外を見たりしていつも通りに過ごしたの。
はやく帰ってこないかしら、と丸くなっていると、玄関から音がしてお出迎えに行くと、お風呂あがりみたいに顔がふにゃふにゃにゆるみまくった
〇〇がいて、ただいまの前に、「あいざわさんだいすき」って言ったのよ。
それからわたしを撫でて「ただいま、よるさん」と言って、うれしそうにしあわせそうに今日あったことをたくさん話してくれたの。
「ちょっとはしゃぎすぎたとは思っていたんだけどね、落ち着きどころがなくってついあわあわしちゃってね」
「まあ、いつもの
〇〇じゃない、気にすることないわ」
「相澤さん、迷子にならないようにって、手を繋いだの。ショッピングモール内だけだったけど」
「迷子はだめね、ひとりはかなしいのよ」
「なんだかんだでね、外で一緒に何かを食べるの初めてだったの。エスコートも注文も何もかもスマートで、店員さんにも丁寧でね。困ってる人いたらスッと助けちゃうし、そんなの惚れ直すに決まってるじゃない?」
「ちょっと早口すぎてわからないわ」
「すぐ、すみませんって戻ってきて、何も謝ることじゃないのにね。だから解かれた手を私から繋いじゃったの。そしたら、その笑顔安心しますって」
「
〇〇がうれしかったのはわかったわ」
「私、相澤さんとお付き合いしたいなあ」
「好き、って言いたいなあ」
寝起きみたいに、もそもそぽつぽつ話す
〇〇は泣いているみたいで、でも元気がないわけじゃないみたいで、すき、を、すき、と言うことがそんなにむずしいのかとわたしは首をひねった。
すきよ、
〇〇。
「ふふふ、ありがとう。私もよるさん、大好き」
ほらね、大丈夫なのよ。きっとぜんぶ、大丈夫。