15話 お世話
ゴハンを食べて、
〇〇に返事をして、お見送りしていつものいそがしい朝だったわ。
〇〇はね、たまにおかしなことを言うのよ。モノを探したりもするし、ぱたぱたあわあわさわがしく動くときもあるわ。わたしはそのたびに、返事をしたり、探し物を持っていってあげたり、声をかけてあげたりするのよ。えらいでしょう。
今日は帰ってくるのがおそい日らしくて、たくさん撫でてくれたわ。
〇〇がいない間自由に過ごすのもわるくないんだけれど、やっぱり
〇〇と一緒にいたいの。だからはやく帰ってきてくれないかしら。
いつものようにガチャガチャと音がして、玄関へ向かうと、
〇〇と知らない人がいたの。すごく大きくておどろいて、ぶわわっと毛が逆立って、「
〇〇から離れて」って言ったのだけれど、よくすんすんしてみたら前に嗅いだことのある匂いがしたの。
その人に抱えられた
〇〇はベッドで寝ているときと同じくらいよく眠っていて、とてもきもちよさそうだったわ。だから悪い人じゃないのかもって思ったの。
「すみません、少しお邪魔します」
その人がそう言って、
〇〇を部屋に連れて行ったの。心配でわたしもついていくと
〇〇をベッドに寝かせてやさしくお布団をかけたのよ。
「きみがよるさんか。やっぱり綺麗な猫だ」
当たり前なことを言って、
「◇◇さんの荷物、ここに置いておきますね」
とわたしに言ったの。だから、
「わかったわ」
とわたしも言ったの。
〇〇とわたしに、おやすみ、を言って帰っていったわ。カギがどうとか、メモがどうとか言っていたけれどよくわからなかったから、わたしも
〇〇の横で寝たの。
朝、時間になっても起きないから、今日はおやすみなんだと思って、伸びたり爪を研いだりしていたのよ。
〇〇の声が聞こえて様子を見に行ったら、しあわせそうな顔から、うーんとした顔になったりごめんって顔になったり、と思ったら突然しゃべりだしたりして、今日も
〇〇はおかしいわ、と思ったの。だから「
〇〇」って呼んだのよ。
全然ゴハンじゃなくても、ゴハンを出されたら食べるしかないじゃない? お腹は空いていたんだし。けれど、おかしかった
〇〇が落ち着いたんだからやっぱりわたしのおかげだと思うの。
お腹いっぱいになったから、お気に入りの場所とお気に入りのふかふかの上で休憩。
あら、あの人わたしをたまに見てる黒い人。あら、昨日
〇〇を連れて帰ってきた人もあんな感じの黒い人だったわ。あら? あらら?
「
〇〇ー!
〇〇ー!」
なかなか来ないわね。
「
〇〇ー!
〇〇ー!」
やっと来た。
「どうしたの、よるさん」
「外! 昨日の!」
「ん? 外?」
「だからそう言ってるじゃない」
「え、えと、うそ、あ、いざわ、さん? はい、はい! 今すぐ行きます!!」
〇〇はあわあわさわがしく動いてしゃべって、あわてて出て行った。すぐに戻ってきて、「携帯忘れた~! そう、鍵! 鍵!」ってまたさわがしく出て行ったのよ。見ていて飽きないわ。そういえば、カギって昨日もあの人言っていたわね。
ふうん、あの人があいざわさんっていうのね。ふうん、あの人が
〇〇のすきなひとなのね。
ほらあいざわさんも落ち着いてって言ってるわ、たぶん。それにしても
〇〇、とってもうれしそうな顔。すきが伝わったのかしら。伝わるのはうれしいことなのよ。わたし、知ってるんだから。
帰ってきた
〇〇はふわふわくるくるしていて、花びらとか葉っぱみたいだったのよ。
「どうだった? すきは伝わったのかしら」
「よるさーん! 教えてくれてありがとー」
あまりにもたのしそうにくるくる回るから、わたしも
〇〇に飛びついて、一緒にくるくる回ったの。
たのしかったわ。