11話 伝わる
「よるさーん、ここ入ってー。ほら、いつものふかふかもあるよー」
〇〇がそう言って、狭いカゴの入り口をとんとんと叩いている。
狭いところは入りたくてうずうずするのよ、だって落ち着くし。ふかふかもお気に入りの場所にあって寝転ぶと気持ちいいものだもの。知ってるのにいやな予感がするわ。そのカゴはたまに入るけれど、
〇〇が「入ってー」って言う時は外に行く時だもの。あやしいわ。
「おねがーい」って言うから、しょうがないから入ってあげる。
「よるさん、ありがとう」って言うから、わるい気はしないわ。
「ほら、見て、よるさん。ひまわり! おっきいねえ」
〇〇の顔より大きな丸い花の中のつぶつぶは、じっと見てると目が回りそうだわ。
「木陰に入ると風が気持ちいいね」
ほんと。おうちに入ってくるのとは違う匂いがするわ。
「あ! 朝顔すごく咲いてる! 蕾も可愛いなあ。青いのが好きなんだよねー」
〇〇が見えるもの感じるものをわたしに話しながら、同じように感じるこの時間はたのしい。けれど、どこに行くのかしら。
何かの建物に入って、知らない人から「よるさーん」と呼ばれて、また知らない部屋に入ると「ていきけんしん」と聞こえたの。たぶん、わたしここにきたことあるわ。
〇〇を見るとごめんね、っていう顔してたの。たくさん触られて、ぐりぐりされたりしたけれど、たくさん「えらいねー」って言われて嫌な気はしなかったわ。
ここで騒いだらなんだかはずかしいって思ったのよ。
帰りは少し違う道を通って、こうえんってところに来たの。
〇〇は「そう簡単に会えるわけないか」と残念そうな声で話してたけれど、ここはたくさん色んな音がして、もう少し居たい、と声に出して言ってみたら「ちょっと歩こっか」と言ってくれた。
どのくらい前だったか忘れてしまったけれど、
〇〇から知らない人の匂いがしたの。
〇〇はうれしそうで、お風呂から「いたーい!」って大きな声が聞こえたけれど、それでもうれしそうで、ふしぎだったわ。その日も「あいざわさん、あいざわさん」って言っていて、お腹に顔を埋めたのよ。うれしそうなのに。
だから少し考えて、きっとかなしかったりつらかったりだけじゃないんだなって思ったの。
〇〇が「すき」て言うのよ。そして、すきってなんだろう、って考えたの。あったかかったり、気に入ったり、わくわくうずうずしたり、くっついたりしたいものだって、
〇〇のことも、
〇〇が話してくれることも、お家も、ゴハンも、おもちゃも。ぜーんぶ「すき」なんだって気づいたのよ。
〇〇のお顔を見た時に、
〇〇のきらきらしている目の中にわたしがいて、それがすごくうれしくて安心して「すき」って思って、ゆっくり目を閉じて開いたの。そしたらね、
〇〇も「私もよるさんのことすきだよ」って言ってくれたのよ、伝わったの。
すごくうれしくて、うれしかったわ!