伝わってもらわないと困る
名前も味も知らない店の、一粒いくらだとかの小さい塊。
甘いものが好きで、どんな菓子でも拒まないからいつものように受け取ってもらえると思って渡した。
「こういうのはちょっと」
ちょっととはどういう意味だ。
好みじゃなかったか?高すぎたか?迷惑だったか?ほぼ毎日ように渡すチョコやらクッキーやらは笑顔で受け取るのに?今日がそういう日だからこれは受け取れないという意味か?
他のやつらよりは親密だと、少なからず好意を向けられていると思っていたし、俺もそれなりに、いやそういう日にこういう物を用意するくらいには好きだった。
脈なし、だったか。
「そうですか」
この中途半端に差し出した腕の下げ方を教えてくれ。
これが苦い思いをした、一年前。
性懲りも無く、俺はまた同じ日に別の名前も味も知らない店の、一粒いくらだとかの小さい塊が詰まった箱を渡した。
「私、いつものくらいがちょうどいいです」
「いつもの、とは?」
「甘すぎるチョコや、ざくざくのクッキー、です。それは緊張して食べれないというか、申し訳ないというか」
「は?」
こういう日だから誰かからの貰い物を横流ししているとでも思われていたのだろうか。いや、それはさすがにないだろ。変わらず向けられる好意的な目線は感じるし、なんなら昨年より近づいた気もするし、今年は彼女からも貰えると思っていたのに。
「だから私は、」
「これは俺があなたのために用意したものです」
怒りでも焦りでもないもやもやとした感情が彼女の言葉を遮る。
「私に?どうして?」
「どうしてって、言わせるんですか。バレンタインという日に、この状況で。伝わってもらわないと困るんですが」
ぼっと顔を赤くする彼女に、これは伝わったと捉えても良さそうだ、と支えた手のひらに箱を乗せた。小さな声で「ありがとうございます」と言った彼女はなぜか次の日からよそよそしくなったが、遠くから感じる視線に、もっと意識してくれ、と視線を返した。
さて、一ヶ月後が楽しみだ。
write 2024/2/14