声と残像
五限目の座学は眠りを誘う。
「一昨日やった続きになるが、ヒーロー法六条は覚えたか?今日はそれの実例を使った質問をしていく」
午前中の実技訓練はとても体力を使うし、お昼ご飯もたくさん食べたし。
「教科書三十一ページを開いて。さっそくだが例題を解いてみようか。どれが最適かな」
そして朝ですら心地よい低音が、耳の少し下を掠めて瞼を重くさせる。
「教科書三十二ページに書いてあるヒーローに係る法は大事だから覚えておくように。次のテストにも出すからな」
テストにも出るのか、ちゃんとマーカーしとかなきゃ…ペン、ペン…
板書もしなきゃなのに頭ではわかってはいても抗えずうつらうつらと夢のほうへ引きずられていく。
「ペン、落としたぞ」
眠りへ誘う主の声がすると、ほわほわと浮かんでいたものがパチンと弾ける。
夢だ。
パチンと音がしたのは先生がペンを拾って置いてくれた音だったのだと机に置かれた手で気づく。
「さて、眠気覚ましにここから読んでみようか」
横に立つ先生が通りすがりに「ここ」と私の教科書にとんと指を置き、教卓へ戻る。
次、上鳴、その次芦戸な。と同じようにうつらうつらしている生徒を名指しする。
私の眠気はすっかりどこかへ行ってしまっていて。
ペンを置いてくれた手と、ここと指を置いた手の残像を瞼の裏に残すよう一度ゆっくり瞬きをして、教科書を読む。
write 2023/5