夕飯の時間
「すまん、今日これでいいか?」
そういう彼の手には袋のインスタント麺がふたつ。特に決めていないのだけど、交互にお夕飯を作るようになっていて、そろそろ夕食の準備時間かなと思った頃、彼が聞いてきた。
「いいよー!わたし消太さんの作るラーメン大好き!」
「はあ?こんなの誰が作っても同じ味だろ」
そういう彼は満更でもなさそうな顔をして鍋にお湯を沸かす。
あまりレパートリーの多くない彼の手抜き料理。
さっき言ったのは大袈裟でなく心からの本心で、しょうゆ、みそ、しお、とんこつ、ラーメンの味といえばコレというのを揃えていて、今日はどの味なんだろうと楽しみにしている自分がいるから。
ちなみに今日はみそ。
「お待たせ、できたぞー」
「はーい」
楽しみはまだあって、みそラーメンにはカット野菜がこれでもかと入っている…ほらね。麺の上にこんもりと盛られたキャベツ、にんじん、もやし。あれ便利だからっていつも鍋に全部ぶち込んじゃうんだよね。
「やっぱりみそラーメンだった!美味しそう、いただきます!」
「どうぞ、召しあがれ」
もりもりの野菜を少し避けて湯気の立つスープから麺を救出して、野菜も一緒に口に入れ啜る。
「あつっ、でもおいしー、野菜シャキシャキ!」
「ふーふーしないと。口の中やけどするぞ」
わたしが一口食べたのを確認した彼もひと啜り。
便利なカット野菜といえど、大きさはまちまちでキャベツなんかは芯があるものもあって、切ればいいのだけど、それすらしない彼はその食べにくそうな大きなものや芯があるものを自分の皿に盛る。
そういうところに愛を感じてしまったりして、インスタント麺でもすごく嬉しいのだ。
わたしの野菜たちが口の中でシャキシャキ言うのに対し、彼のはバリボリ言っててちょっと面白かったりする。
「美味そうに食うなあ。インスタントラーメンで喜ぶなんて
〇〇くらいだろ」
「えぇ、消太さん、わたし以外にラーメン作るの?」
「そういうことじゃないよ」
「消太さんが作った、というのが重要なんだからね」
まったく、と呟き、ラーメンを啜る彼の咀嚼音はやっぱりバリボリ言っていて。その音に『愛だなあ』とにやけていると、本人はバレてないと思っている照れ隠しの仕草をすると「伸びるぞ」と言って、その仕草にわたしはまた幸せを感じてしまうのだった。
write 2023/5/30