シェアするショートケーキ
「シェアさせてくれない?」
突然の申し出にピンとこず、これ?と注文した食べかけのショートケーキをスッと向いに座る男性ふたりに差し出す。
呼び出されたチェーン店のカフェ、店内最奥のボックス席に長身でガタイの良い男ふたりがぎゅうと押し込められたように座っている。
「いやそれじゃないよ」と無精髭を生やした黒髪癖っ毛長髪の男、相澤が言う。
「ほらやっぱ無理だって」とちょび髭、ブロンドの長髪を後ろでお団子に結んだサングラスの男、山田が隣の男を見て言う。
合理的だと思ったんだがな、とわしわしと頭を掻きながら納得いかなさそうな顔をしている。
「
〇〇、この間言ったこと覚えているか?」
覚えているもなにも、数日前に相澤から「好きだ、付き合ってくれ」と言われたばかりで、返事はもう少し待ってと伝えていた。
「うん」と頷くと「俺のは?」と山田が自分を指差して聞く。相澤から告白される数日前に山田からも「恋人になってほしい」と言われていた。こちらにも、こくん、と頷くと「返事は?」と聞かれ「ちょっと考えさせてほしいと伝えました」思わず敬語で答える。
「俺ら保留されてるわけだが、それぞれ返事聞く前に提案しにきた」
そして冒頭の台詞に戻る。
だからって話が見えるわけでもないが。
「ちょっとよくわからないんだけど」
だから、と少し苛立ち始め語気を強めた一言にびくりと身体を震わせると、まあまあと山田が相澤を宥める。
「…すまん」
「いや、俺らね
〇〇ちゃんの事が好きでフラれるとマジへこむし、どっちかが付き合うの見てられんなと」
「じゃどっちか選ばれる前にどっちとも付き合うってことにすればいいって話になってだな」
ふたりは納得したような、それが正解かのような話振りで置いてけぼりをくらう。
「あの、私の気持ちはどこへ?」
「返事待ってって言うくらい、どっちか選べないでいるんだろ?」
「返事待ってって言うくらい、どっちか選べないでいるんでショ?」
声を揃えて言うふたりに、この自信どこから来るんだ?と少し呆れる。が、その通りでどちらも気になっていたし、尊敬していたし、告白されて迷っていたのも確かだった。
「……その通りです」
しばらく間を置き観念したように言葉を絞り出す。
「んな難しいことじゃねえよ、曜日毎でも週毎でも俺らを交代に相手すればいいってコト」
「俺はたまには3人でもいいけどな」
「…ばっ!なっ、なに言って」
「おい、なんの想像してんだよ、デートだよ、で、え、と」
赤面し慌てる私に、相澤はニヤリと意地悪な笑いをし、わざとらしく一文字ずつハッキリと口を動かす。
ご想像のものも3人てもの悪かねえけどな、とニヤニヤとしている。
「相澤ぁ、そんなこと言って断られたらどうすんの」
「この反応だぞ、断んねえよ」
結果が見えてるのか、余裕そうにコーヒーを啜り、背もたれに踏ん反り返っている。
「で、どう?」
どう、と言われても…と俯き返事に悩んでいると「ねえ、俺のこと好き?」と山田が聞いてくる。
「…好き、です」
おまえばっかりずるい、と「俺のことは?」と相澤も聞いてくる。
「…好き、です」
「じゃあ3人で付き合うのは、あり?なし?」
「…あり、です」
気づくと奇妙な関係の始まりの返事をしていた。
恐る恐る顔を上げると、ニヤニヤしている相澤とニコニコとしている山田が、これからよろしく、と満足そうにこちらを見ている。
「コレひとくち貰うね」と山田がショートケーキをフォークでカットし、口に運ぶ。
「シェアも悪くないね」と自分のカップソーサーに置いていたスプーンでケーキを掬うとガッと口に入れる。
皿に残ったショートケーキを見つめ、自分もひとくち頬張る。
「…甘い」
write 2023/5