深夜のディスカバー
一人では居たいけど、独りにはなりたくなくて、誰かの声を聞いていたくて、繋がってい
たくて、眠れない、眠くない、眠りたくない、そんな時にふと付けたラジオ。
『ヨー!リスナー!今夜も始まったゼ!プレゼント・マイクの、ぷちゃへんざレーディオ!』
「ラジオもこんな感じなんだ。深夜一時なのに元気だなあ」
人気ヒーローで、CMや、電車内の広告、ファッション誌にだって出ていて存在を知らない人はいないだろう。テレビで見る彼は、派手で、やたら声が大きくて、テンションが高くて、動きも大きくて、大胆で、なんていうんだろ、こういう人って沢山の人に囲まれてチヤホヤされて、自分とは程遠い、煌びやかな場所で生きている人なんだろうなって思っていた。
『色々サ、思うところあったって、ままならんって思ってもサ、それでもイイのよ。』
でもどうだろう。深夜三時に聴く彼の声はハイテンションなんかじゃなくて、でも聞いている人に力や勇気や元気を与えるそんな声だった。さっきのは彼の声を聞く前の完全な私の偏見で、きっと色んな人に寄り添うことのできる人なのでは、と時間やお便りの内容によって変わる声を聞くうちにそう思い直した。だってよくよく考えたらヒーローなんだもんね。きっといろんな人が、この見た目とテンションと深夜の声のギャップに落ちていくんだろうな。
『わかる!俺もそーなのよ。なーんかさ、この曜日のこの時間って、無性に誰かと繋がってたくね?』
「人を助けるのがヒーロー、か」
電気を消した部屋には、外の明かりが薄いカーテンに透けて、紺色に染まる。
見慣れたはずの風景はぼんやりと滲んで、しん、とする。
眠れと焦らされているようで嫌いだったこの空気に、ヒーローの声がじわりと浸透していく。
眠れない、眠くない、眠りたくない。
そんな日もあっていいんだって教えてくれるこの声に耳を傾けながら、この時間は誰かと確かに繋がっている。それを感じながら瞼を閉じる。
『もう終わりの時間だってサ。毎週毎週あっという間だナ。じゃ、リスナーたち、グッナイ。グッモーニン。また会おうゼ!』
write 2023/7/1〜7 🎤誕連載