眠るまで、の話、2
眠い、眠いけど、やっと手に入れた自由時間。
これだけはやっておきたいと思って、見かけてた連ドラの続きを一本、読みかけの本をキリのいいところまで、ちょこっとSNSを見て新商品のお菓子やコスメ、好きなものをチェックして、あれもこれも、とやっていたら、携帯が手から滑り落ちる感覚で、はっと目を覚ます。
落ちた携帯は、手とお腹の間に置かれた、長い指がしなやかで優しげな手にキャッチされていた。
「あれ、ひざしくん、おかえりなさい」
「ただいま、
〇〇ちゃん。もうちょいで携帯がお腹にクリーンヒットするとこだったゼ」
「ありがと。ちょっとうつらうつらしてた」
「寝るならベッド連れてくヨ?」
「んん、ひざしくんが色々終わるまで待っててもいい?」
モチロン、と言って、私の頬を指の背ですりと撫でると彼は、んじゃスグ終わらせてくっから、と言って、バスルームへ向かった。
少しひんやりした指先が通った跡に、じわりと熱が戻ってくる。
「お待たせ」
長い髪は結うことなくさらりとさせ、ゆるいグレーのTシャツと、てろんとした生地が心地よいハーフ丈のパンツを履いている。白と紺の縦縞のそれは、去年の夏に私とお揃いで買ったものだ。
隣に座った彼の肩に寄りかかり、流れる金色に鼻を寄せる。
「ひざしくんの髪、いい匂い。同じのつかってるのにね。髪質かなあ」
「そぉ?俺は
〇〇ちゃんのほうがイイ匂いすると思うケド」
手入れの行き届いた綺麗な形の爪が私の髪をすいて、指の腹が地肌を撫でた。
「ふふ、くすぐったい。でも気持ちいい」
するりと毛先辺りまで指を滑らせると、ひと束掴んで、唇へ寄せる。そして、そっと離して、毛先のカールに沿わせ、肌をなぞる。皮膚の薄い鎖骨の下は、布越しでも彼を敏感に感じ取って、体が震える。緩やかに、見せつけるように動く彼の指先から目が離せなかった。
「これも?」
「ん、これも」
もうムリ、と呟いて、指を絡ませると手を引いて立ち上がり、
「寝よっか」と、彼は言った。
シャワーを浴びたからか、私に触れたからか、いつもはひんやりと冷たい指先は、熱を帯びている。
「寝るの?」
「その顔でその言い方はズリィよ、
〇〇ちゃん」
「え、私どんな顔してるの?」
「俺の奥さんはいつまで経っても俺のココロを弄ぶなア。じっくり教えてやるから、コッチ行こう」
手は繋いだまま、リビング続きの左から二つ目の部屋、寝室へ、ふたり入っていく。
write 2023/8/7