【web再録】夢幻ルートからこんばんは
幼少期の成長過程において、『第一次反抗期』というものがある。
子供に自我が芽生え、親の助けを借りずに何でも自分でやろうとする時期を指す言葉だと、教科書にはそう書いてあった。自己主張をするようになるのは良いことだが、当然子供だけの力では限界があるし、場合によっては自分自身や周囲に害が及ぶこともある。だからそれを子供にも分からせるために、その受容の線引きをするのが親の役目である、と、いつからか退屈さに耐えかねて眠りに落ちた生徒に囲まれながら、教師にそう聞いた家庭科の授業はいつのことだったか。
「――つまり、衣更さまのご家庭は所謂放任主義でいらっしゃると?」
「そうそう。だから遅くなってもあんまり文句言われねぇの。妹ならともかく、高校生にもなった息子なんか今更気にされないっつぅか」
「左様で御座いますか」
興味があるのか無いのか曖昧な薄笑いを返しながら、弓弦は書類の山から新しいものを取り出し、作業を再開する。
「今日もだけどさ、姫宮んとこは門限うるさそうだよな」
「ええ。わたくしは一報致しますればこのようにある程度はいられますが、坊ちゃまが遅くなられては旦那様が御心配されますので」
俺が片付けている山よりも、弓弦のそれは遥かに低い。それは単に仕事の速度のせいではなく、量の絶対値の違いであった。
弓弦は先に帰された姫宮に代わって優先度の高い仕事を手伝っているだけなのに対して、俺は自分の仕事に加えて、後輩に振られていたが本人の手に負えなかったもの、急用で不在の副会長の管轄の一部、弓弦の目をかいくぐって姫宮に押しつけられたもの――これは弓弦が目敏く見つけて手早く回収したが――、エトセトラ。いつものことながら、安請け合いしては結果的に自分の首を絞める癖をいい加減どうにかしたいものである。
「ふぅ。衣更さま、進捗のほどは?」
「あ~……今日のノルマはあと三十枚――って、まだそんなにあるのか……」
「ふふっ、いつもながら精が出ますね」
がっくりと項垂れた視界の隅で、弓弦が鞄に筆記具をしまう様子を捉える。
「えっ。弓弦、もう帰るのか?」
「ええ。坊ちゃまがお残しになったお仕事は全て片付きました故に。それに、まだこれからお屋敷の業務もたんまりと待っております」
「そ、そうか。気を付けてな」
「はい。衣更さまもあまり遅くなりませぬよう」
ドアの前で恭しく執事らしいお辞儀をすると、弓弦は生徒会室の外へと出て行った。
その丁寧な所作を横目に、大きな電卓のボタンを書類の記載通りに押していく。日も沈んだこの時間に行う単純作業は、太陽の監視下で行うそれよりも余程退屈に感じて。眠気で集中力が途切れては、簡単なミスを連発してしまう。
「……あっ、これ歳入かよ。うわぁ、途中から全部歳入の欄見てた……」
一般的な電卓を使っていると、こうなった場合に部分修正がきかないのが難点である。一応備品として関数電卓も置いてあるが、ほとんど整数のみを扱う単純な四則計算なら余計なものが無いくらいがちょうど良いため、結局手に馴染んだものに落ち着いてしまう。
「また最初からだ……うぅ、流石にちょっと疲れた……」
遠くを見て目を休めようと、すっかり濃紺に染まった窓の外を眺める。上空の方がやけに明るいと思ったら、どうやら今日は満月らしい。窓から一筋の光が射し込んで、絵画のように幻想的な風景が――などという詩的な表現は、遅くまで蛍光灯が煌々と照る生徒会室ではまず出来ないのだが。
「そもそも、毎日飽きもせずそんな状況を作ってるのは誰だ、って話だけどな」
自嘲気味に鼻を鳴らし、恒星に負けじとまばゆく光る満月から目を逸らす。同じ間違いをしないよう、書類の支出欄にマーカーを引いてから、再び電卓のボタンに指を置いた、そのとき。
『なぁ、まだ仕事終わってねぇの?』
「⁉」
自分以外誰もいないはずの生徒会室の空気を、若い男の声が静かに揺らす。もう夜でも暑い季節になってきたが、まさかこんな明るい部屋に幽霊など現れるはずもあるまい。それにこの声、聞き覚えがあるような――
「ここだよ、ここ」
「うわあぁっ⁉」
「……そんなに驚くことないだろ。幽霊か俺は」
驚いて当然だ。何せ声の正体らしき人物は、背後からいきなり俺の顔を覗き込んできたのだから。死角から唐突に攻められて、何の反応も示さない方がおかしい。
「大体、生徒会室は部外者立ち入り禁止だぞ! お前はいつからそこに――って、あれ?」
「ん? どうかしたか?」
改めて、その人物の全体像をじっくり観察する。その姿にも、俺は確かに見覚えがあった。
「お、おかしいな。遂に幻覚まで見えてる……?」
いや。もっと正確に言えば、見覚えどころの問題ではない。健康的な色をした肌、緑色の大きな猫目、少し紫がかった長めの赤毛、頭上で前髪を纏める黄色いバレッタ――。
「幻覚じゃなくて、本物だよ。お前とは別の、『イサラ マオ』だ」
「は……?」
見れば見るほど、俺とよく似た――いや、俺と瓜二つの姿をした少年。俺そのものが、そこに立っていた。
「うちの学院、『2wink』以外にも双子いたのか……いや、でも俺には妹しかいないし、生き別れの兄弟の話なんて一度も――」
「おいおい、人の話聞いてたか? 俺はお前の兄弟でも何でもなくて、お前と同じ『衣更真緒』本人。分かる?」
「言ってる意味が分からん。つまりドッペルゲンガーか何かなのか?」
「あ~……えっと、ぶっちゃけ俺もどう説明したら良いのか分かんねぇんだよ。とにかく話だけでも聞いてくれないか? そうでもしないと埒が明かないし」
「……分かったよ」
もう一人の俺――以下、『俺』――の言う通り、『俺』にも何かしら深い事情があるのだろう。向こう側の立場になって考えてみれば、それを聞きもしないで真っ向から否定され、嘘だ嘘だと言われ続けても悲しいだけに決まっている。
「まぁ、でもあんまり長くなると仕事の邪魔になるよな。ほら、ちょっとその書類貸してみろ」
「ちょっ、それは内部機密……!」
「どうせ『俺』なんだから変わらないだろ~? ほら、さっさとやるぞ。手伝いながら話してやるから」
「お、おう……」
座高に届くほど高く積み上がった書類のいちばん上。今日の日付が書いてある付箋を貼った範囲のうち半分を、備品の四色ボールペンと関数電卓と一緒に隣の席に移すと、『俺』は「サンキュ」とよく知った顔で笑い、書類の山から一枚取って席に座る。その所作、その仕事をしている一挙手一投足が、普段の俺の姿そのものなのだと思うと、急に気恥ずかしくなった。
『俺』の正体。それを端的に言い表すならば、『同じ時間軸を辿る別次元の住人』。漫画の世界でよく見るパラレルワールドから来たというのに近い感覚らしい。
「本当は別世界の人間同士が、こうやって一つの世界で同時に存在すること自体おかしいんだけどな~? よく分からないけど、急に飛ばされてきて、気付いたらここにいた、みたいな」
「それ、何かきっかけみたいなものはあったのか? ほら、ラベンダーとか」
「俺がかけたのは時じゃなくて空間なんだけどな……」
しばし間を置いて考えているような素振りを見せる『俺』。返ってきた答えは「女の子」だった。
「女の子?」
「そう。長い黒髪の、近所の女子校の制服を着た女の子。特に面識は無いんだけど、やけに俺のことを見透かしているようで……ちょっと、怖かったな」
「その子と会った後に、ここに飛ばされたってことか?」
「あぁ。何だか妙なことを言っていたよ。『るるる? こちらの世界も満月ですか? 満月ですね! 並行世界の時間軸は同一! 故に月の満ち欠けをも共有するようです! 大宇宙~☆』って」
「何と言うか……広いんだな、世界って」
確か、夢ノ咲の近所にある女子校といえば、昔から由緒正しき名家の娘が集うお嬢様学校だったはずなのだが。しかし、あそこも時代の波に乗って共学化の計画が進行しているという噂は小耳に挟んでいるし、多少はうちのように奇妙な生徒が出てきてもおかしくはない、はずだ。
「終わった……!」
「ははっ、お疲れさん。こっちも出来たぜ」
渡された分厚い紙束に、念のためざっと目を通す。流石は俺自身といったところか。記録の付け方も筆跡も、いつもの俺とほとんど変わらない仕上がりだった。
「あの、ありがとな。変なことに巻き込まれて大変なときに」
「ははっ、良いって。それに――」
快活な笑顔を突然ふっと消した『俺』は、俺と同じ色の瞳でじっとこちらを見据える。互いが座っている椅子の距離がやけに近い気がするのは、気のせいだろうか。
「――やっぱり。これだけ量あるのに、ずっと一人でやってたな? クマ凄いぞ?」
「何だ、そんなことか。『俺』なら分かるだろ。いつもこうだから慣――」
ぺしっ。
剥き出しになった額の中心に集中して走る痛み。『俺』はむすっとした顔で、でこぴん直後のような形に右手を変形させていた。
「ってぇ……何すんだよ!」
「分かんねぇよ。俺は俺だけど『俺』じゃないから。俺とお前の分岐点はずっと昔。小さい頃に分裂したの」
「分裂?」
「そう。さっきも言っただろ。俺はこの世界から見れば別次元の――パラレルワールドの存在だって」
そして、『俺』は次のように語った。
人生において、あらゆる場面で選択肢が与えられることは多々ある。例えば、車が通る気配の無い横断歩道が赤信号だった場合、渡るか渡らないか。これだけでも『もしもの世界』は瞬時に作られうるだろう。曲がり角から急に侵入してきた車に撥ねられて大怪我をするかも知れないし、特に何事も無く渡れるかも知れない。
ときとして身体の状態や価値観、果ては死期まで変えてしまう可能性も十分にある。それが人生選択によって宇宙のように無限に広がる並行世界の特性だ。
「何でも図体以上に抱え込まないで、周りの人に頼ったかどうか。それが決定的な違い」
「頼ったのがお前で、そうしなかった今の俺がここに?」
「そう。あと、違う存在になっちまったのは、何も俺とお前だけじゃないぜ? 選択肢の数だけパラレルワールドがあるからな。俺もお前も、無数の『衣更真緒』のごく一部に過ぎないってわけ」
「じゃあ、頼る数を間違えれば凛月みたいな俺も存在し得たりして」
「かもな。もしかしたらそこって、お前みたいな凛月がいる真逆の世界かも」
「そう考えると面白いな」
その後も、俺たちはしばらく並行世界について話をした。途中でふと気になって、お互いの世界にいる知り合いがどんな奴なのか紹介し合ったり、日常について語ったり。分岐の時期が古いせいか、それらはやはり微妙に異なっていた。
例えば向こうの『凛月』は、朝や日光に弱かったり、寝てばかりで留年していたり、兄貴を過剰に避けていたりするところは変わらない。しかし、俺のよく知る凛月ほど『俺』にべったりという訳でもなく、動けそうな時間帯のうちにやれる範囲で自分のことは自分でやっているらしい。
「仲良くなったばかりの頃はもっとだらしなかったんだけどな~? それはそれで寂しいけど、お互いが世話の焼き合いっぽいことするときもあって、結構楽しい♪」
そうにこやかに語っていた『俺』だったが、話が落ち着いてくる頃に、またあの真剣な顔をふっと表した。
「……本当は、何の理由も無く理不尽に飛ばされたんじゃないのかも知れない」
「?」
「さっき言った女の子なんだけど。あの子、他にもこんなことを言っていたんだ」
――るるる? 並行世界の進行の一部に歪みを確認! るりの現在地にも異常がありますか? 異常がありますね! 原因は、異分子の介入……つまり、貴方ですね?
――おわっ、急に出てきていきなり何なんだよ。
――理由の提示が必要ですか? 時間は有限です! 事象を優先度の高い順にソートしたうえでエネルギーを使うべきです! 省エネは宇宙開発における必要条件! 大宇宙~☆
――あぁもう、何が言いたいのかちゃんと言ってくれよ!
――あってはならないことです、異なる並行世界に存在する自己との邂逅は。しかし、どうやら今回のシークエンスばかりは、るりにも制御不可能ですね……? 林檎と地球のように、惹かれ合う重力。人の縁。貴方は、いいえ、ここではない何処かにいる『貴方』のエスは、超自我による抑圧を受けながらも、貴方のような存在を必要としているようですね……?
「常人離れしてるっつぅか、宇宙人みたいな雰囲気の子だったし、言ってることも分かりにくかったんだけどな。でも、この事態はなるべくしてなった。それだけは何となく理解出来たよ」
「つまり、えっと……お前みたいな奴にいてほしいって、俺が無意識に思ったから?」
「それはあくまで可能性だろうな。あの子だって百パーセント原因を理解している様子でもなさそうだったし。『呼び寄せた』んじゃなくて『歩み寄った』結果ともいえる」
「それって、もしかして……」
心に持った余裕も、身近な人の性格も違うのに。ずっと前に分かれたならば、ほとんど別人であるはずなのに。それでも、根本的につくりは同じ。誰かの世話を焼きたがる性分は、何処まで行っても結局『俺』――衣更真緒の根底を成すものだということか。
「やっぱり俺も、結局はお前と何も変わらないのかも。お前みたいなの見ると放っとけないんだよ。もしかしたら自分もこうなったかも。『何でも出来る衣更真緒くん』であり続けて、意地を張り通して、あのまま妹に家族も居場所も全部持って行かれたかも、って」
「……」
だからこそ、自分とは何処かずれた『自分』もまた、庇護欲を向ける対象となるのだろう。今は別の存在とはいっても、生まれてから数年は同じ一人として生きてきたことになるのだから、境遇を熟知している分、尚更だ。
「こんな性格のせいで人脈は広いんだし、誰も迷惑だなんて思わないからさ。たまにはちょっと人に甘えてみようぜ?」
「いやいや。でもこの歳になって今更甘えるって……」
「ほら、それだよ。手始めに俺にでも甘えてみるか?」
「何でだよ!」
「疲れてるんだろ? 悩み相談でも、人肌でも、大抵のことはしてやれるぜ?」
「う……うぅ~…………」
同じ『自分』だ。良いと言っているのならば遠慮する必要は無い。それなのに、どうして言葉が出ないのだろう。こんなにも、『俺』が眩しく見えるのだろう。
情けないくらい、体が上手く動かなくて。重いものでも持ち上げているかのように、ゆっくりと腕を前に伸ばすのが精一杯だった。
「あぁ、抱き締めろと? はいどうぞ~」
その気持ちを汲んでくれたのか、『俺』は席を立ち、触れやすいよう少しだけ近付いてくれる。目線が違うから、互いの顔は見えないし、見られない。嗚呼、やはりこれは鏡の虚像ではないようだ。
「……あったかい」
「そりゃどうも」
「……いつからかなぁ。親に抱き締めてもらえなくなったのは」
「もらわなくなった、の間違いじゃないのか」
「そうだけど……でも、やっぱり落ち着くな。これを、俺はずっと忘れてたのか」
「それを思い出させてくれたのは凛月だけどな。ぶっちゃけ、俺も妹ができてからはそうだったよ。凛月がいてくれたおかげで、今の俺が上手くやれてるっぽいところはある」
腹部に埋まった俺の頭を愛おしげに撫でながら、「まぁ、本人には絶対言わねぇけど♪」とけらけら笑う『俺』。理由はきっとこちらと同じだろう。あいつは褒めるとすぐ調子に乗るのだ。
「一度分裂したら、お前は俺になれないし、選択肢まで戻ることは出来ないからさ。せめて、今のお前は、凛月を大切にしてやってくれよ」
「お前の代わりに、疲れた心の拠り所にしろって?」
「あ~……まぁ、そんな感じ。戻れないなら、近付くことくらいは出来るはずだからな」
「……それ、今からでも遅くないか?」
「勿論。世話が楽しいのは俺も知ってるけどさ。世話されるのも、案外良いものだぜ?」
* * *
「――くん、ま~くんってば」
緩やかに肩を揺さぶられ、机に伏せていた顔を上げる。
「ん、凛月……?」
「いつまで寝てるの。一緒に帰ろうって言ったのに」
見慣れた膨れっ面を浮かべた凛月が、俺の座っている隣の席からこちらを睨む。まだあまり頭がはっきりしていないが、確かそこには先程までもう一人の『俺』がいたはず。
「なぁ凛月……俺は?」
「ん? ま~くん、何か言った?」
「ここにもう一人俺がいただろ……そいつが何処に行ったか知らないか?」
「まだ寝ぼけてるの? 言ってる意味が分かんないんだけど。俺が入ったときから、ここにはま~くん一人しかいなかったもん」
「え?」
突っ伏していた体を起こし、生徒会室をきょろきょろと見渡す。相変わらず点いたままの照明と、少しだけずれた満月。うたた寝といっても、そこまで時間は経っていないらしい。まだまだ俺の傍らには、当たり前のように書類が山と積まれていた。
「何だ、夢か……悪い、まだ仕事あるから先に――」
「そう? もう終わってるんじゃない?」
ほらこれ、と凛月が差し出した紙束のいちばん上と下には、今日の日付が殴り書きされた同じ色の付箋。ぱらぱらと捲って内容を確認すると、各種の決算報告書に自分の手による筆跡がびっしりと残されていた。
「……本当だ……」
ふと、凛月が座っている席に放置された道具が目に入る。生徒会で愛用しているメーカーのロゴが入った四色ボールペンと、何十個ものボタンが一面に埋め込まれた関数電卓。どちらも、弓弦が気付けば必ず所定の位置に戻しているはずの代物だった。
「ま~くん、何か今日は変だねぇ。疲れてるなら早く帰ろうよ。特別に俺が子守唄を歌ってあげよう」
「いや、いい。何と言うか、それより……抱き締めても、良いか?」
余程驚いたのだろう。きょとんとした顔でこちらを見つめたまま、凛月は一向に返事をしない。ここ最近は暑いせいもあって、逆に凛月の方から俺に抱きつけば必ず拒否してきたのだから、無理もあるまい。
しかし、俺らしくもない凛月への要求がそんなに面白かったのか、しばらくすると血の透けたような瞳が嬉しそうに細められる。
「……ふふっ、どうしたの。やけに甘えただねぇ」
ほら、こういうことなんだろう? 『俺』のアドバイスを素直に受け取るか、誰にも頼らない器用な奴として振る舞い続けるか。
たった今生まれた、新しい並行世界。これで俺も、少しは『お前』に近付けたのかな。
「世話されるのも悪くないから大切にしろって言われたんだよ。俺なんかより、よっぽど頼りになる……ちょっと、格好良い奴に、さ」
子供に自我が芽生え、親の助けを借りずに何でも自分でやろうとする時期を指す言葉だと、教科書にはそう書いてあった。自己主張をするようになるのは良いことだが、当然子供だけの力では限界があるし、場合によっては自分自身や周囲に害が及ぶこともある。だからそれを子供にも分からせるために、その受容の線引きをするのが親の役目である、と、いつからか退屈さに耐えかねて眠りに落ちた生徒に囲まれながら、教師にそう聞いた家庭科の授業はいつのことだったか。
「――つまり、衣更さまのご家庭は所謂放任主義でいらっしゃると?」
「そうそう。だから遅くなってもあんまり文句言われねぇの。妹ならともかく、高校生にもなった息子なんか今更気にされないっつぅか」
「左様で御座いますか」
興味があるのか無いのか曖昧な薄笑いを返しながら、弓弦は書類の山から新しいものを取り出し、作業を再開する。
「今日もだけどさ、姫宮んとこは門限うるさそうだよな」
「ええ。わたくしは一報致しますればこのようにある程度はいられますが、坊ちゃまが遅くなられては旦那様が御心配されますので」
俺が片付けている山よりも、弓弦のそれは遥かに低い。それは単に仕事の速度のせいではなく、量の絶対値の違いであった。
弓弦は先に帰された姫宮に代わって優先度の高い仕事を手伝っているだけなのに対して、俺は自分の仕事に加えて、後輩に振られていたが本人の手に負えなかったもの、急用で不在の副会長の管轄の一部、弓弦の目をかいくぐって姫宮に押しつけられたもの――これは弓弦が目敏く見つけて手早く回収したが――、エトセトラ。いつものことながら、安請け合いしては結果的に自分の首を絞める癖をいい加減どうにかしたいものである。
「ふぅ。衣更さま、進捗のほどは?」
「あ~……今日のノルマはあと三十枚――って、まだそんなにあるのか……」
「ふふっ、いつもながら精が出ますね」
がっくりと項垂れた視界の隅で、弓弦が鞄に筆記具をしまう様子を捉える。
「えっ。弓弦、もう帰るのか?」
「ええ。坊ちゃまがお残しになったお仕事は全て片付きました故に。それに、まだこれからお屋敷の業務もたんまりと待っております」
「そ、そうか。気を付けてな」
「はい。衣更さまもあまり遅くなりませぬよう」
ドアの前で恭しく執事らしいお辞儀をすると、弓弦は生徒会室の外へと出て行った。
その丁寧な所作を横目に、大きな電卓のボタンを書類の記載通りに押していく。日も沈んだこの時間に行う単純作業は、太陽の監視下で行うそれよりも余程退屈に感じて。眠気で集中力が途切れては、簡単なミスを連発してしまう。
「……あっ、これ歳入かよ。うわぁ、途中から全部歳入の欄見てた……」
一般的な電卓を使っていると、こうなった場合に部分修正がきかないのが難点である。一応備品として関数電卓も置いてあるが、ほとんど整数のみを扱う単純な四則計算なら余計なものが無いくらいがちょうど良いため、結局手に馴染んだものに落ち着いてしまう。
「また最初からだ……うぅ、流石にちょっと疲れた……」
遠くを見て目を休めようと、すっかり濃紺に染まった窓の外を眺める。上空の方がやけに明るいと思ったら、どうやら今日は満月らしい。窓から一筋の光が射し込んで、絵画のように幻想的な風景が――などという詩的な表現は、遅くまで蛍光灯が煌々と照る生徒会室ではまず出来ないのだが。
「そもそも、毎日飽きもせずそんな状況を作ってるのは誰だ、って話だけどな」
自嘲気味に鼻を鳴らし、恒星に負けじとまばゆく光る満月から目を逸らす。同じ間違いをしないよう、書類の支出欄にマーカーを引いてから、再び電卓のボタンに指を置いた、そのとき。
『なぁ、まだ仕事終わってねぇの?』
「⁉」
自分以外誰もいないはずの生徒会室の空気を、若い男の声が静かに揺らす。もう夜でも暑い季節になってきたが、まさかこんな明るい部屋に幽霊など現れるはずもあるまい。それにこの声、聞き覚えがあるような――
「ここだよ、ここ」
「うわあぁっ⁉」
「……そんなに驚くことないだろ。幽霊か俺は」
驚いて当然だ。何せ声の正体らしき人物は、背後からいきなり俺の顔を覗き込んできたのだから。死角から唐突に攻められて、何の反応も示さない方がおかしい。
「大体、生徒会室は部外者立ち入り禁止だぞ! お前はいつからそこに――って、あれ?」
「ん? どうかしたか?」
改めて、その人物の全体像をじっくり観察する。その姿にも、俺は確かに見覚えがあった。
「お、おかしいな。遂に幻覚まで見えてる……?」
いや。もっと正確に言えば、見覚えどころの問題ではない。健康的な色をした肌、緑色の大きな猫目、少し紫がかった長めの赤毛、頭上で前髪を纏める黄色いバレッタ――。
「幻覚じゃなくて、本物だよ。お前とは別の、『イサラ マオ』だ」
「は……?」
見れば見るほど、俺とよく似た――いや、俺と瓜二つの姿をした少年。俺そのものが、そこに立っていた。
「うちの学院、『2wink』以外にも双子いたのか……いや、でも俺には妹しかいないし、生き別れの兄弟の話なんて一度も――」
「おいおい、人の話聞いてたか? 俺はお前の兄弟でも何でもなくて、お前と同じ『衣更真緒』本人。分かる?」
「言ってる意味が分からん。つまりドッペルゲンガーか何かなのか?」
「あ~……えっと、ぶっちゃけ俺もどう説明したら良いのか分かんねぇんだよ。とにかく話だけでも聞いてくれないか? そうでもしないと埒が明かないし」
「……分かったよ」
もう一人の俺――以下、『俺』――の言う通り、『俺』にも何かしら深い事情があるのだろう。向こう側の立場になって考えてみれば、それを聞きもしないで真っ向から否定され、嘘だ嘘だと言われ続けても悲しいだけに決まっている。
「まぁ、でもあんまり長くなると仕事の邪魔になるよな。ほら、ちょっとその書類貸してみろ」
「ちょっ、それは内部機密……!」
「どうせ『俺』なんだから変わらないだろ~? ほら、さっさとやるぞ。手伝いながら話してやるから」
「お、おう……」
座高に届くほど高く積み上がった書類のいちばん上。今日の日付が書いてある付箋を貼った範囲のうち半分を、備品の四色ボールペンと関数電卓と一緒に隣の席に移すと、『俺』は「サンキュ」とよく知った顔で笑い、書類の山から一枚取って席に座る。その所作、その仕事をしている一挙手一投足が、普段の俺の姿そのものなのだと思うと、急に気恥ずかしくなった。
『俺』の正体。それを端的に言い表すならば、『同じ時間軸を辿る別次元の住人』。漫画の世界でよく見るパラレルワールドから来たというのに近い感覚らしい。
「本当は別世界の人間同士が、こうやって一つの世界で同時に存在すること自体おかしいんだけどな~? よく分からないけど、急に飛ばされてきて、気付いたらここにいた、みたいな」
「それ、何かきっかけみたいなものはあったのか? ほら、ラベンダーとか」
「俺がかけたのは時じゃなくて空間なんだけどな……」
しばし間を置いて考えているような素振りを見せる『俺』。返ってきた答えは「女の子」だった。
「女の子?」
「そう。長い黒髪の、近所の女子校の制服を着た女の子。特に面識は無いんだけど、やけに俺のことを見透かしているようで……ちょっと、怖かったな」
「その子と会った後に、ここに飛ばされたってことか?」
「あぁ。何だか妙なことを言っていたよ。『るるる? こちらの世界も満月ですか? 満月ですね! 並行世界の時間軸は同一! 故に月の満ち欠けをも共有するようです! 大宇宙~☆』って」
「何と言うか……広いんだな、世界って」
確か、夢ノ咲の近所にある女子校といえば、昔から由緒正しき名家の娘が集うお嬢様学校だったはずなのだが。しかし、あそこも時代の波に乗って共学化の計画が進行しているという噂は小耳に挟んでいるし、多少はうちのように奇妙な生徒が出てきてもおかしくはない、はずだ。
「終わった……!」
「ははっ、お疲れさん。こっちも出来たぜ」
渡された分厚い紙束に、念のためざっと目を通す。流石は俺自身といったところか。記録の付け方も筆跡も、いつもの俺とほとんど変わらない仕上がりだった。
「あの、ありがとな。変なことに巻き込まれて大変なときに」
「ははっ、良いって。それに――」
快活な笑顔を突然ふっと消した『俺』は、俺と同じ色の瞳でじっとこちらを見据える。互いが座っている椅子の距離がやけに近い気がするのは、気のせいだろうか。
「――やっぱり。これだけ量あるのに、ずっと一人でやってたな? クマ凄いぞ?」
「何だ、そんなことか。『俺』なら分かるだろ。いつもこうだから慣――」
ぺしっ。
剥き出しになった額の中心に集中して走る痛み。『俺』はむすっとした顔で、でこぴん直後のような形に右手を変形させていた。
「ってぇ……何すんだよ!」
「分かんねぇよ。俺は俺だけど『俺』じゃないから。俺とお前の分岐点はずっと昔。小さい頃に分裂したの」
「分裂?」
「そう。さっきも言っただろ。俺はこの世界から見れば別次元の――パラレルワールドの存在だって」
そして、『俺』は次のように語った。
人生において、あらゆる場面で選択肢が与えられることは多々ある。例えば、車が通る気配の無い横断歩道が赤信号だった場合、渡るか渡らないか。これだけでも『もしもの世界』は瞬時に作られうるだろう。曲がり角から急に侵入してきた車に撥ねられて大怪我をするかも知れないし、特に何事も無く渡れるかも知れない。
ときとして身体の状態や価値観、果ては死期まで変えてしまう可能性も十分にある。それが人生選択によって宇宙のように無限に広がる並行世界の特性だ。
「何でも図体以上に抱え込まないで、周りの人に頼ったかどうか。それが決定的な違い」
「頼ったのがお前で、そうしなかった今の俺がここに?」
「そう。あと、違う存在になっちまったのは、何も俺とお前だけじゃないぜ? 選択肢の数だけパラレルワールドがあるからな。俺もお前も、無数の『衣更真緒』のごく一部に過ぎないってわけ」
「じゃあ、頼る数を間違えれば凛月みたいな俺も存在し得たりして」
「かもな。もしかしたらそこって、お前みたいな凛月がいる真逆の世界かも」
「そう考えると面白いな」
その後も、俺たちはしばらく並行世界について話をした。途中でふと気になって、お互いの世界にいる知り合いがどんな奴なのか紹介し合ったり、日常について語ったり。分岐の時期が古いせいか、それらはやはり微妙に異なっていた。
例えば向こうの『凛月』は、朝や日光に弱かったり、寝てばかりで留年していたり、兄貴を過剰に避けていたりするところは変わらない。しかし、俺のよく知る凛月ほど『俺』にべったりという訳でもなく、動けそうな時間帯のうちにやれる範囲で自分のことは自分でやっているらしい。
「仲良くなったばかりの頃はもっとだらしなかったんだけどな~? それはそれで寂しいけど、お互いが世話の焼き合いっぽいことするときもあって、結構楽しい♪」
そうにこやかに語っていた『俺』だったが、話が落ち着いてくる頃に、またあの真剣な顔をふっと表した。
「……本当は、何の理由も無く理不尽に飛ばされたんじゃないのかも知れない」
「?」
「さっき言った女の子なんだけど。あの子、他にもこんなことを言っていたんだ」
――るるる? 並行世界の進行の一部に歪みを確認! るりの現在地にも異常がありますか? 異常がありますね! 原因は、異分子の介入……つまり、貴方ですね?
――おわっ、急に出てきていきなり何なんだよ。
――理由の提示が必要ですか? 時間は有限です! 事象を優先度の高い順にソートしたうえでエネルギーを使うべきです! 省エネは宇宙開発における必要条件! 大宇宙~☆
――あぁもう、何が言いたいのかちゃんと言ってくれよ!
――あってはならないことです、異なる並行世界に存在する自己との邂逅は。しかし、どうやら今回のシークエンスばかりは、るりにも制御不可能ですね……? 林檎と地球のように、惹かれ合う重力。人の縁。貴方は、いいえ、ここではない何処かにいる『貴方』のエスは、超自我による抑圧を受けながらも、貴方のような存在を必要としているようですね……?
「常人離れしてるっつぅか、宇宙人みたいな雰囲気の子だったし、言ってることも分かりにくかったんだけどな。でも、この事態はなるべくしてなった。それだけは何となく理解出来たよ」
「つまり、えっと……お前みたいな奴にいてほしいって、俺が無意識に思ったから?」
「それはあくまで可能性だろうな。あの子だって百パーセント原因を理解している様子でもなさそうだったし。『呼び寄せた』んじゃなくて『歩み寄った』結果ともいえる」
「それって、もしかして……」
心に持った余裕も、身近な人の性格も違うのに。ずっと前に分かれたならば、ほとんど別人であるはずなのに。それでも、根本的につくりは同じ。誰かの世話を焼きたがる性分は、何処まで行っても結局『俺』――衣更真緒の根底を成すものだということか。
「やっぱり俺も、結局はお前と何も変わらないのかも。お前みたいなの見ると放っとけないんだよ。もしかしたら自分もこうなったかも。『何でも出来る衣更真緒くん』であり続けて、意地を張り通して、あのまま妹に家族も居場所も全部持って行かれたかも、って」
「……」
だからこそ、自分とは何処かずれた『自分』もまた、庇護欲を向ける対象となるのだろう。今は別の存在とはいっても、生まれてから数年は同じ一人として生きてきたことになるのだから、境遇を熟知している分、尚更だ。
「こんな性格のせいで人脈は広いんだし、誰も迷惑だなんて思わないからさ。たまにはちょっと人に甘えてみようぜ?」
「いやいや。でもこの歳になって今更甘えるって……」
「ほら、それだよ。手始めに俺にでも甘えてみるか?」
「何でだよ!」
「疲れてるんだろ? 悩み相談でも、人肌でも、大抵のことはしてやれるぜ?」
「う……うぅ~…………」
同じ『自分』だ。良いと言っているのならば遠慮する必要は無い。それなのに、どうして言葉が出ないのだろう。こんなにも、『俺』が眩しく見えるのだろう。
情けないくらい、体が上手く動かなくて。重いものでも持ち上げているかのように、ゆっくりと腕を前に伸ばすのが精一杯だった。
「あぁ、抱き締めろと? はいどうぞ~」
その気持ちを汲んでくれたのか、『俺』は席を立ち、触れやすいよう少しだけ近付いてくれる。目線が違うから、互いの顔は見えないし、見られない。嗚呼、やはりこれは鏡の虚像ではないようだ。
「……あったかい」
「そりゃどうも」
「……いつからかなぁ。親に抱き締めてもらえなくなったのは」
「もらわなくなった、の間違いじゃないのか」
「そうだけど……でも、やっぱり落ち着くな。これを、俺はずっと忘れてたのか」
「それを思い出させてくれたのは凛月だけどな。ぶっちゃけ、俺も妹ができてからはそうだったよ。凛月がいてくれたおかげで、今の俺が上手くやれてるっぽいところはある」
腹部に埋まった俺の頭を愛おしげに撫でながら、「まぁ、本人には絶対言わねぇけど♪」とけらけら笑う『俺』。理由はきっとこちらと同じだろう。あいつは褒めるとすぐ調子に乗るのだ。
「一度分裂したら、お前は俺になれないし、選択肢まで戻ることは出来ないからさ。せめて、今のお前は、凛月を大切にしてやってくれよ」
「お前の代わりに、疲れた心の拠り所にしろって?」
「あ~……まぁ、そんな感じ。戻れないなら、近付くことくらいは出来るはずだからな」
「……それ、今からでも遅くないか?」
「勿論。世話が楽しいのは俺も知ってるけどさ。世話されるのも、案外良いものだぜ?」
* * *
「――くん、ま~くんってば」
緩やかに肩を揺さぶられ、机に伏せていた顔を上げる。
「ん、凛月……?」
「いつまで寝てるの。一緒に帰ろうって言ったのに」
見慣れた膨れっ面を浮かべた凛月が、俺の座っている隣の席からこちらを睨む。まだあまり頭がはっきりしていないが、確かそこには先程までもう一人の『俺』がいたはず。
「なぁ凛月……俺は?」
「ん? ま~くん、何か言った?」
「ここにもう一人俺がいただろ……そいつが何処に行ったか知らないか?」
「まだ寝ぼけてるの? 言ってる意味が分かんないんだけど。俺が入ったときから、ここにはま~くん一人しかいなかったもん」
「え?」
突っ伏していた体を起こし、生徒会室をきょろきょろと見渡す。相変わらず点いたままの照明と、少しだけずれた満月。うたた寝といっても、そこまで時間は経っていないらしい。まだまだ俺の傍らには、当たり前のように書類が山と積まれていた。
「何だ、夢か……悪い、まだ仕事あるから先に――」
「そう? もう終わってるんじゃない?」
ほらこれ、と凛月が差し出した紙束のいちばん上と下には、今日の日付が殴り書きされた同じ色の付箋。ぱらぱらと捲って内容を確認すると、各種の決算報告書に自分の手による筆跡がびっしりと残されていた。
「……本当だ……」
ふと、凛月が座っている席に放置された道具が目に入る。生徒会で愛用しているメーカーのロゴが入った四色ボールペンと、何十個ものボタンが一面に埋め込まれた関数電卓。どちらも、弓弦が気付けば必ず所定の位置に戻しているはずの代物だった。
「ま~くん、何か今日は変だねぇ。疲れてるなら早く帰ろうよ。特別に俺が子守唄を歌ってあげよう」
「いや、いい。何と言うか、それより……抱き締めても、良いか?」
余程驚いたのだろう。きょとんとした顔でこちらを見つめたまま、凛月は一向に返事をしない。ここ最近は暑いせいもあって、逆に凛月の方から俺に抱きつけば必ず拒否してきたのだから、無理もあるまい。
しかし、俺らしくもない凛月への要求がそんなに面白かったのか、しばらくすると血の透けたような瞳が嬉しそうに細められる。
「……ふふっ、どうしたの。やけに甘えただねぇ」
ほら、こういうことなんだろう? 『俺』のアドバイスを素直に受け取るか、誰にも頼らない器用な奴として振る舞い続けるか。
たった今生まれた、新しい並行世界。これで俺も、少しは『お前』に近付けたのかな。
「世話されるのも悪くないから大切にしろって言われたんだよ。俺なんかより、よっぽど頼りになる……ちょっと、格好良い奴に、さ」
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