りつまおワンライアーカイブ
「へ、変じゃないか……?」
「大丈夫、ちゃんと似合ってるよ」
構造通りにスーツを着こなす青年やら、地面を埋める雪のような襟巻きに顔を埋める振袖姿の女子集団やらが通り過ぎていく中、俺はカメラのファインダー越しにただ一点を見つめる。
「着付けとヘアセット、美容院でやってもらったんでしょ? プロの腕を信じなよ」
「だって、袴着るのなんか久しぶりで。ここへ来るまでに着崩れてたらなんか嫌だろ」
「大丈夫だってば。いつも通り、ま〜くんは格好良い『お兄さん』だよ」
「またそんなこと言って……まぁ、『年下』に憧れられて悪い気はしないけどっ♪」
「……うん。ま〜くん、本当に立派になったね」
「なんだ、寂しいのか? 凛月も来年成人だろ? まぁ、それまでに今よりちゃんとしてくれれば、俺みたいになれるんじゃね?」
「むぅ、本当はまだ成人してない癖に大人ぶらないで。成人式だからって調子こいてると、あそこで待機してる公務員サマにしょっぴかれるよ」
「あはは……流石にそこまでしないって」
式の時間も近くなってきたので、あれこれ指示を出しながらシャッターを切る。中学までの友人なのか、途中から騒がしいスーツ集団が乱入してきて、結局そいつらの手持ちの媒体も含めて、集合写真を何枚も撮らされた。
「ありがとうございます! 衣更、こいつ弟?」
「幼馴染だよ。今十九だけど、一個下」
「うあ〜、眩しい! 未成年! 『十代』ってワードが既に心にくる!」
「人のこと言えないけど、何を言ってんだ早生まれが……っと、そろそろかな。凛月、それじゃ行ってくる」
「うん。いってらっしゃい……『ま〜くんお兄ちゃん』」
がやがやと友人に囲まれて、市民会館に入っていく背中を見送る。
「……あ〜あ、置いてかれちゃった」
『魔術』による操作の転機は一年前。あの日から、俺たちは『年齢違いの同級生』をやめて、『歳の近い幼馴染』になった。それはこの微妙な外見年齢差を合わせる最適な『操作』であるものの、ビフォーアフターは似て非なるもの。
まだまだ俺は未成年で、彼に追いつくのは一年先のこと――というのは外見上の設定だ。不老長寿の魔物が人間と同じになるには、その十倍の時を過ごさなければならない。しかも、俺の場合はフライングして、百八十年分の蓄積しかないまま学院を卒業し、『十九歳』を騙っている。埋め合わせにもう十年、つまり追いつくにはあと二十年かかる。
今頃大きなホールに集められているであろう彼らが生まれてから、今日に至るまで二十年前後。『十九歳』のまま、俺は『同じ期間』を今から過ごす。『同じ時間』は、もう過ごせない。今日からは、置いていかれるばかりだ。
それでも、せめて。今の君が何を思うかくらいは知りたいから。『同じ気持ち』くらいまでは、俺にも見せて。
「大丈夫、ちゃんと似合ってるよ」
構造通りにスーツを着こなす青年やら、地面を埋める雪のような襟巻きに顔を埋める振袖姿の女子集団やらが通り過ぎていく中、俺はカメラのファインダー越しにただ一点を見つめる。
「着付けとヘアセット、美容院でやってもらったんでしょ? プロの腕を信じなよ」
「だって、袴着るのなんか久しぶりで。ここへ来るまでに着崩れてたらなんか嫌だろ」
「大丈夫だってば。いつも通り、ま〜くんは格好良い『お兄さん』だよ」
「またそんなこと言って……まぁ、『年下』に憧れられて悪い気はしないけどっ♪」
「……うん。ま〜くん、本当に立派になったね」
「なんだ、寂しいのか? 凛月も来年成人だろ? まぁ、それまでに今よりちゃんとしてくれれば、俺みたいになれるんじゃね?」
「むぅ、本当はまだ成人してない癖に大人ぶらないで。成人式だからって調子こいてると、あそこで待機してる公務員サマにしょっぴかれるよ」
「あはは……流石にそこまでしないって」
式の時間も近くなってきたので、あれこれ指示を出しながらシャッターを切る。中学までの友人なのか、途中から騒がしいスーツ集団が乱入してきて、結局そいつらの手持ちの媒体も含めて、集合写真を何枚も撮らされた。
「ありがとうございます! 衣更、こいつ弟?」
「幼馴染だよ。今十九だけど、一個下」
「うあ〜、眩しい! 未成年! 『十代』ってワードが既に心にくる!」
「人のこと言えないけど、何を言ってんだ早生まれが……っと、そろそろかな。凛月、それじゃ行ってくる」
「うん。いってらっしゃい……『ま〜くんお兄ちゃん』」
がやがやと友人に囲まれて、市民会館に入っていく背中を見送る。
「……あ〜あ、置いてかれちゃった」
『魔術』による操作の転機は一年前。あの日から、俺たちは『年齢違いの同級生』をやめて、『歳の近い幼馴染』になった。それはこの微妙な外見年齢差を合わせる最適な『操作』であるものの、ビフォーアフターは似て非なるもの。
まだまだ俺は未成年で、彼に追いつくのは一年先のこと――というのは外見上の設定だ。不老長寿の魔物が人間と同じになるには、その十倍の時を過ごさなければならない。しかも、俺の場合はフライングして、百八十年分の蓄積しかないまま学院を卒業し、『十九歳』を騙っている。埋め合わせにもう十年、つまり追いつくにはあと二十年かかる。
今頃大きなホールに集められているであろう彼らが生まれてから、今日に至るまで二十年前後。『十九歳』のまま、俺は『同じ期間』を今から過ごす。『同じ時間』は、もう過ごせない。今日からは、置いていかれるばかりだ。
それでも、せめて。今の君が何を思うかくらいは知りたいから。『同じ気持ち』くらいまでは、俺にも見せて。