りつまおワンライアーカイブ
ぺた、ぺた。
『ちょっと、お兄ちゃん! 凛月さんもいるのにパンツ一丁で家の中うろうろしないでよ!』
「……何の真似だ、凛月」
「ま〜くんの妹ちゃん――が、いつかま〜くんパパに言ってた台詞の物真似、お兄ちゃんバージョン」
「そうじゃなくて」
上に着るものをを部屋に忘れただけで何故こんな茶番に付き合わされなければならないのか。呆れつつパンツ(ジャージの下)一丁でタンスを漁り、適当なTシャツを頭から被る。
「分かってる。むしろま〜くんは、家に俺がいるときじゃないとそんな格好で脱衣所から出てこないもんねぇ。気を許されてる証〜♪」
「そんなことないし、まるでいないときの俺を知ってるような口ぶりはやめろ。気持ち悪い」
「知ってるに決まってるじゃん。何なら証拠見せようか?」
「…………」
逃げたい、今すぐ。
「さて、冗談はさておき。俺もお風呂入ってくるね」
「お、おう。服、持ってなかったらそこから出して。好きなの貸してやる」
「まじ? サンキュー。ま〜くんの家の洗剤、良い匂いするから好きなんだよねぇ」
「洗剤……?」
意味を問うより早く、部屋着を突っ込んである引き出しから何かのときの練習着を引っ張り出し、凛月は鼻歌混じりに部屋を出て行ってしまった。
「……そんなに匂うかな、これ」
Tシャツの裾を嗅いでもいまいち分からないので、試しに別の引き出しから体操服を取り出し、火事の避難訓練のように顔に押しつけてみる。
「…………」
吸って、吐いて。確かに清潔感はあるが、形容できるほど特徴的な香りは感じない。自分の体臭や家の匂いを自覚できないことと同じだろうか。しかし、一度話題に出されるとどうしても気になってしまう。せめて他人の嗅覚にどう思われているのか、それくらいは知っておきたい――若干一名、そういうところにうるさいクラスメイトにも心当たりがあるので。
先ほどと同じルートを辿って、脱衣所へ。水と泡と鼻歌が奏でる籠ったアンサンブルをバックに、洗濯機の上の棚を見上げる。
その洗剤には、見覚えがあった。自分の衣類を自分で洗濯することもあるので当然といえば当然なのだが、使うときに商品名まではいちいち意識しないので、ちゃんと見たのは初めてかも知れない。ドラマ仕立てのテレビコマーシャルと、耳に残りやすいキャッチフレーズでお馴染みのそれ。香りの名称も、コマーシャルの中で強調されていたのでよく覚えている。
「こういうのが好きなのか……」
青空の下、物干し竿ではためく真っ白い布たち。コマーシャルの映像と、屋上で眠る幼馴染を見つけたときの風景が重なって、想像の中の凛月がピンク色の花とシャボン玉のオーラを纏う。それがどうしようもなく可笑しくて、腹を抱えて短く息を漏らした。
『ちょっと、お兄ちゃん! 凛月さんもいるのにパンツ一丁で家の中うろうろしないでよ!』
「……何の真似だ、凛月」
「ま〜くんの妹ちゃん――が、いつかま〜くんパパに言ってた台詞の物真似、お兄ちゃんバージョン」
「そうじゃなくて」
上に着るものをを部屋に忘れただけで何故こんな茶番に付き合わされなければならないのか。呆れつつパンツ(ジャージの下)一丁でタンスを漁り、適当なTシャツを頭から被る。
「分かってる。むしろま〜くんは、家に俺がいるときじゃないとそんな格好で脱衣所から出てこないもんねぇ。気を許されてる証〜♪」
「そんなことないし、まるでいないときの俺を知ってるような口ぶりはやめろ。気持ち悪い」
「知ってるに決まってるじゃん。何なら証拠見せようか?」
「…………」
逃げたい、今すぐ。
「さて、冗談はさておき。俺もお風呂入ってくるね」
「お、おう。服、持ってなかったらそこから出して。好きなの貸してやる」
「まじ? サンキュー。ま〜くんの家の洗剤、良い匂いするから好きなんだよねぇ」
「洗剤……?」
意味を問うより早く、部屋着を突っ込んである引き出しから何かのときの練習着を引っ張り出し、凛月は鼻歌混じりに部屋を出て行ってしまった。
「……そんなに匂うかな、これ」
Tシャツの裾を嗅いでもいまいち分からないので、試しに別の引き出しから体操服を取り出し、火事の避難訓練のように顔に押しつけてみる。
「…………」
吸って、吐いて。確かに清潔感はあるが、形容できるほど特徴的な香りは感じない。自分の体臭や家の匂いを自覚できないことと同じだろうか。しかし、一度話題に出されるとどうしても気になってしまう。せめて他人の嗅覚にどう思われているのか、それくらいは知っておきたい――若干一名、そういうところにうるさいクラスメイトにも心当たりがあるので。
先ほどと同じルートを辿って、脱衣所へ。水と泡と鼻歌が奏でる籠ったアンサンブルをバックに、洗濯機の上の棚を見上げる。
その洗剤には、見覚えがあった。自分の衣類を自分で洗濯することもあるので当然といえば当然なのだが、使うときに商品名まではいちいち意識しないので、ちゃんと見たのは初めてかも知れない。ドラマ仕立てのテレビコマーシャルと、耳に残りやすいキャッチフレーズでお馴染みのそれ。香りの名称も、コマーシャルの中で強調されていたのでよく覚えている。
「こういうのが好きなのか……」
青空の下、物干し竿ではためく真っ白い布たち。コマーシャルの映像と、屋上で眠る幼馴染を見つけたときの風景が重なって、想像の中の凛月がピンク色の花とシャボン玉のオーラを纏う。それがどうしようもなく可笑しくて、腹を抱えて短く息を漏らした。