りつまおワンライアーカイブ

 とす。
「ん〜……?」
 仰向けに寝そべってぼんやり漫画を読んでいると、硬くてもふもふしたものが脇腹にぶつかってくる。ちょうどバトルシーンで、重い一撃を食らって吹っ飛んだ主人公が岩にぶつかったところを読んでいたので、感覚が連動したのか実際の威力よりも強く響いたような気がした。
「なぁに。どうしたの、ま〜くん」
「ん〜……」
 数秒前に自分が発したものとはトーンの異なる唸り声。ベッドに頭だけ預けてうんうん言っているそいつの正面には、相変わらず紙束が山と積まれたローテーブル。
「それ、まだ終わってなかったの?」
「違うよ、昨日のは学校で終わらせた」
「……新しいやつ? もらってきたの、わざわざ」
 無言の首肯。よくもまぁ真顔でいけしゃあしゃあと。
「何で学校と家を切り離せないかなぁ……? 家はくつろいで寝るところでしょ、仕事をするところじゃありません」
「お前の場合はどっちもくつろいで寝るところだろ。それに世の中には在宅ワークとかいう就業形態もあってだな」
「持ち帰り残業と在宅勤務を一緒にされてもねぇ……? 失礼だと思わないの?」
「ぐぅ……ぶっちゃけ自分でも反省はしてる。夜通しかけても終わらない分があるのに、これじゃ朝になって余計な荷物が増えるだけだって。最近お前が起きてくれることだけが救いだよ」
「一応訊くけど、もし俺が起きなかったら?」
「今すぐ五キロくらい痩せてくれ」
「俺に骨格標本になれって言うの?」
「それは絵面がやばい……やっぱり人体模型くらいで。皮を剥げ、着ぐるみの中の人みたいに……♪」
「そっちの方が酷いと思うんだけど……」
 見て聞いて、はっきり察する。これは相当な有様だ。【オータムライブ】とかいうやつに【ハロウィンパーティー】、これから迫り来る秋は【SS】に向けてますます忙しくなる時期だろう。しかし、生徒会から追い出されるまで、否、追い出されても働かないと気が済まないこいつのことだ、その負担は計り知れない大きさに違いない。
「ま〜くん」
「ん?」
「おいで」
 壁際に寄って、素朴な木製ベッドの半分をぽすぽす叩く。
「何でだよ。まだ残ってるんですけど」
「え〜……ベッドに面白い形の木目あるから教えてあげようと思ったのに」
「木目って……」
「隙あり〜」
「うぉっ!?」
 体重がこっちに寄っているので、引き上げるのは楽勝だ。一本釣り、大成功。
「こら、凛月! いきなり引きずり込むなって何度言えば……!」
「その割に、離れないのはどうして?」
「…………」
 脇腹に頭が当たったときから勘づいていた。漫画の中で主人公が岩にぶつかったときみたいに、何かに食らった重い一撃なのか、あるいは積み重なった百裂拳なのかは分からないけど。
「休みたいならどうぞご自由に。ここは家の中で、しかも俺の前だよ。『頑張り屋さんの衣更くん』の着ぐるみは、脱いでも誰も驚かないって」
「…………」
 ぱさ、と俺ごと毛布がかけられる。百八十度の寝返りをうって、こっちを向いたその顔は、小生意気な仏頂面。
「……一時間」
「ふふっ、りょうか〜い。りっちゃんタイマー、スタート♪」
「何だそれ……」
 抗議と同時に現れた寝顔は、誰も知らない舞台裏。見ちゃ駄目だよ。休憩室は関係者以外立ち入り禁止だからね。
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