巽マヨワンライアーカイブ
「……っ!」
こちらであらかじめ仕掛けておいた罠を足に絡ませ、絶望を端的に表したような表情で見上げてくる顔に懐中電灯の光を当てた。
「あぁ! そうです、その顔! 私はそれが見たかったのですぅううう……!」
眩しさに細められたアメジストの瞳も、絶体絶命の状況に荒くなる呼吸も、そこにある彼の全てが私を昂らせる。できることなら今ここで任務を全て投げ出して、警察に突き出すふりをして何処かへ連れ去ってしまいたいくらいだ。その突き出すべき警察は背後に何人も控えているので、うっかり私欲に走ることはできないわけだが。
「っ、はは……どうやら、あなたを見くびっていたようですな。こんなこと、本来は探偵さんのお仕事ではないでしょうに」
「おや、ご存じのはずでしょう? こと仕事において、私は目的のためなら手段を選びません。正義と悪は相対的なものですから、より大きな悪を斃すための多少の悪事には目を瞑ってほしいものですねぇええ……♪」
彼の足に巻きついたネットに染み込ませた麻酔薬も、そろそろ効き目を現す頃だろう。ここまでは手筈通りだ。あとは後ろの方々が余計な真似をしでかす前に、最後の仕上げに移るだけ。
「さて、と……あなたにこのままお縄につかれては、私が介入できる機会も減ってしまいますので。少し二人きりになりましょうか。怪盗組織『ALKALOID』について、あなたから聞けるだけのことを聞いておきたいです」
罠を解き、拝借した手錠で素早く手足を拘束する。絶対についてこないよう警官隊に釘を刺してから、事前に調べておいたビルの応接室まで彼を抱きかかえて運んだ。
◇ ◇ ◇
「す、すみませぇええん……! 巽さ――『ダイヤ』さんの弱点を潰した挙句、演技とはいえ乱暴なことを……!」
「問題ありませんよ、全てつつがなく計画通りです」
応接室のソファに俺を下ろした瞬間、探偵さん――もとい、それに変装した仲間は絨毯の上で丁寧な土下座の姿勢をとる。かと思いきや、その体勢のまま今しがた俺の足にかけた手錠の鍵を器用に外しているあたり、相変わらず抜け目がない。
「あの罠の仕掛けはマヨイさん――いえ、『クローバー』さんにお願いしましたが、提案したのは俺ですから。自分の罠に自分でかかりに行くなんて、よく考えれば随分間抜けなものですな。はははっ」
「もう、笑ってる場合ですか! あの警官隊の新人の方、突っ走ってしまうところがあるようなので、じきにここへ来てしまうかも知れません。『スペード』さんには既にヘリの手配を頼んでいますから、私を振り切ったテイで事前にお伝えした抜け道から早く逃げてください」
「はい。あなたも、すぐに追いついてくださいね。探偵との二足のわらじは大変でしょうけど」
「いいんですよ、それが『ALKALOID』で決めた作戦です。裏でこそこそ動くのは、私の性に合っていますし」
さぁ早く、と促され、応接室に仕掛けた通路の入口まで再び抱えて運ばれる。必然的に這って進むことになるとても狭い抜け道なので、足が麻痺していてもとりあえずひとりで進めるはずだ。
ミッションコンプリートはもう目前。ふと振り返ると、怪盗に逃げられて焦る探偵の顔を作り、扉を力いっぱい開けて応接室を飛び出す仲間の姿があった。
こちらであらかじめ仕掛けておいた罠を足に絡ませ、絶望を端的に表したような表情で見上げてくる顔に懐中電灯の光を当てた。
「あぁ! そうです、その顔! 私はそれが見たかったのですぅううう……!」
眩しさに細められたアメジストの瞳も、絶体絶命の状況に荒くなる呼吸も、そこにある彼の全てが私を昂らせる。できることなら今ここで任務を全て投げ出して、警察に突き出すふりをして何処かへ連れ去ってしまいたいくらいだ。その突き出すべき警察は背後に何人も控えているので、うっかり私欲に走ることはできないわけだが。
「っ、はは……どうやら、あなたを見くびっていたようですな。こんなこと、本来は探偵さんのお仕事ではないでしょうに」
「おや、ご存じのはずでしょう? こと仕事において、私は目的のためなら手段を選びません。正義と悪は相対的なものですから、より大きな悪を斃すための多少の悪事には目を瞑ってほしいものですねぇええ……♪」
彼の足に巻きついたネットに染み込ませた麻酔薬も、そろそろ効き目を現す頃だろう。ここまでは手筈通りだ。あとは後ろの方々が余計な真似をしでかす前に、最後の仕上げに移るだけ。
「さて、と……あなたにこのままお縄につかれては、私が介入できる機会も減ってしまいますので。少し二人きりになりましょうか。怪盗組織『ALKALOID』について、あなたから聞けるだけのことを聞いておきたいです」
罠を解き、拝借した手錠で素早く手足を拘束する。絶対についてこないよう警官隊に釘を刺してから、事前に調べておいたビルの応接室まで彼を抱きかかえて運んだ。
◇ ◇ ◇
「す、すみませぇええん……! 巽さ――『ダイヤ』さんの弱点を潰した挙句、演技とはいえ乱暴なことを……!」
「問題ありませんよ、全てつつがなく計画通りです」
応接室のソファに俺を下ろした瞬間、探偵さん――もとい、それに変装した仲間は絨毯の上で丁寧な土下座の姿勢をとる。かと思いきや、その体勢のまま今しがた俺の足にかけた手錠の鍵を器用に外しているあたり、相変わらず抜け目がない。
「あの罠の仕掛けはマヨイさん――いえ、『クローバー』さんにお願いしましたが、提案したのは俺ですから。自分の罠に自分でかかりに行くなんて、よく考えれば随分間抜けなものですな。はははっ」
「もう、笑ってる場合ですか! あの警官隊の新人の方、突っ走ってしまうところがあるようなので、じきにここへ来てしまうかも知れません。『スペード』さんには既にヘリの手配を頼んでいますから、私を振り切ったテイで事前にお伝えした抜け道から早く逃げてください」
「はい。あなたも、すぐに追いついてくださいね。探偵との二足のわらじは大変でしょうけど」
「いいんですよ、それが『ALKALOID』で決めた作戦です。裏でこそこそ動くのは、私の性に合っていますし」
さぁ早く、と促され、応接室に仕掛けた通路の入口まで再び抱えて運ばれる。必然的に這って進むことになるとても狭い抜け道なので、足が麻痺していてもとりあえずひとりで進めるはずだ。
ミッションコンプリートはもう目前。ふと振り返ると、怪盗に逃げられて焦る探偵の顔を作り、扉を力いっぱい開けて応接室を飛び出す仲間の姿があった。