×××・アフター
特に示し合わせることもなく、私たちは自然とそこに居合わせていた。
きっと、相談を聞いてくださったこのかたも『その後』が気になっていたのだろう。まるで予期していたかのように、ガラスポットを持つ手を傾ける先には飾り気のないマグカップがふたつ。
「――なので、私が作ってきたブローチはその場で解体して、ピアスと髪飾りに分けて……あっ、写真見せますね。あんずさんが記録してくださったものです」
「ほう。ここに付いているのがみかさんの作品で、こっちがマヨイさんのブローチだったものですな。どちらも衣装をよく引き立てています。まさに『プリティ』……と、使い方はこれで合っていますか?」
「ヒィッ!? わ、私に訊かれましても! そういうことは鳴上さんの方が詳しいと思いますのでっ!」
取り乱した私を宥めるように、珈琲で満たされたマグカップのひとつが目の前に置かれる。小さく礼を述べて、暖かい陶器を両手で抱えて水面に息を吹きかけた。
「ともあれ、なずなさんの【ファッションショー】が成功したようで何よりです。皆さんの『プリティ』を――力を合わせた結果でしょう」
「はい。巽さんの言葉をお借りするなら、神さまのお導きです――って、すみません! 私ごときが神さまを語るなど百億年早いですよね!?」
「いえいえ、それこそ『使い方はそれで合っている』というやつです。各々の『プリティ』を信じた選択を、神は見守っておられたことでしょう。折角なら俺も大学祭で現物を見てみたかったものですな」
「でしたら、このあと一緒に衣装ルームへ行きませんか? 大学祭のあと、資料用にどうかと例の衣装をなずなさんがそのまま寄付してくださったそうなので、どこかに残っているはずです」
「おぉ、ではお言葉に甘えて。ああいう系統のものは疎いので、見て学ばせていただきましょう。それに……」
巽さんは机に置きっぱなしになっていたタブレット端末に指を二本添えると、表示されたままだった写真のある一点を左右に開いて拡大していく。左胸にあしらわれた、黒いハートのモチーフ。幼げな印象のトップスの甘さを抑えるのに一役買った、ひと匙の仄暗いフレーバー。
「マヨイさんが担当したというこの部分。どういった考えで選んだのか、是非詳しくお聞かせ願いたいです♪」
「……ヒィ」
いつもと変わらぬ、親しみやすい穏やかな笑顔。そこにひと匙落とされた意地の悪いニュアンス。
未だもうもうと湯気を立てる珈琲は、それをはっきり映すほどにどこまでも純粋に濁っていた。
きっと、相談を聞いてくださったこのかたも『その後』が気になっていたのだろう。まるで予期していたかのように、ガラスポットを持つ手を傾ける先には飾り気のないマグカップがふたつ。
「――なので、私が作ってきたブローチはその場で解体して、ピアスと髪飾りに分けて……あっ、写真見せますね。あんずさんが記録してくださったものです」
「ほう。ここに付いているのがみかさんの作品で、こっちがマヨイさんのブローチだったものですな。どちらも衣装をよく引き立てています。まさに『プリティ』……と、使い方はこれで合っていますか?」
「ヒィッ!? わ、私に訊かれましても! そういうことは鳴上さんの方が詳しいと思いますのでっ!」
取り乱した私を宥めるように、珈琲で満たされたマグカップのひとつが目の前に置かれる。小さく礼を述べて、暖かい陶器を両手で抱えて水面に息を吹きかけた。
「ともあれ、なずなさんの【ファッションショー】が成功したようで何よりです。皆さんの『プリティ』を――力を合わせた結果でしょう」
「はい。巽さんの言葉をお借りするなら、神さまのお導きです――って、すみません! 私ごときが神さまを語るなど百億年早いですよね!?」
「いえいえ、それこそ『使い方はそれで合っている』というやつです。各々の『プリティ』を信じた選択を、神は見守っておられたことでしょう。折角なら俺も大学祭で現物を見てみたかったものですな」
「でしたら、このあと一緒に衣装ルームへ行きませんか? 大学祭のあと、資料用にどうかと例の衣装をなずなさんがそのまま寄付してくださったそうなので、どこかに残っているはずです」
「おぉ、ではお言葉に甘えて。ああいう系統のものは疎いので、見て学ばせていただきましょう。それに……」
巽さんは机に置きっぱなしになっていたタブレット端末に指を二本添えると、表示されたままだった写真のある一点を左右に開いて拡大していく。左胸にあしらわれた、黒いハートのモチーフ。幼げな印象のトップスの甘さを抑えるのに一役買った、ひと匙の仄暗いフレーバー。
「マヨイさんが担当したというこの部分。どういった考えで選んだのか、是非詳しくお聞かせ願いたいです♪」
「……ヒィ」
いつもと変わらぬ、親しみやすい穏やかな笑顔。そこにひと匙落とされた意地の悪いニュアンス。
未だもうもうと湯気を立てる珈琲は、それをはっきり映すほどにどこまでも純粋に濁っていた。
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