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「カット!」
そして、戦いは始まった。
「オッケーです。先にシーン24の撮影入りますので、お二人は一旦休憩お願いします」
「は~い、お疲れ様ですっ☆」
作品の趣旨を早く視聴者に理解させるには、第一話で二人のキャラクター性を細かく描写する必要がある。しかも今回のモノローグの視点はほとんどが俺演じる七星のものであるため、自ずとほとんどのシーンに出ずっぱりとなり、これがクランクイン以降初の休憩時間だった。
「ホッケ~、お疲れ様! 遅めのお昼にしよう!」
「明星、お前は二時間前にも休憩していただろう。まだ食べていなかったのか」
「だって、一緒にお弁当食べたかったんだもん! 初めて作ったおかずたくさんあるし、ホッケ~の感想聞きたくて」
共同生活を提案したのは俺だが、その後明星からもいくつか提案が出された。そのひとつがこれだ。現場で用意される仕出し弁当とは別に、日替わり交代で二人分の弁当を作ること。学食派のこいつの口からそんなことを言われたときには正直驚いたが、確かに作中の二人の昼食はどちらも弁当だった。初めての仕事だからか、再現性の高い役づくりを望む俺のやり方に合わせてくれようとしているらしい。
「どうどう? 美味しい?」
「……うむ、美味いな」
「こっちの煮物は?」
「……うむ、里芋の味だ」
「よし分かった。食レポの仕事のときは振られるまで黙ってていいよ、ホッケ~」
「……? 煮物に入った里芋から里芋の味がするのだから成功しているだろう?」
明星が料理をするといった話はあまり聞かないので些か不安だったが、なかなか悪くない出来だ。冷凍食品に頼るのが悪手というわけではないが、一部のおかずを自分で作っているという点に努力が伺える。少し遠くで忙しなく走り回っている彼女あたりにレシピを教わったのだろう。その味からは、おばあちゃんのそれとはまた別の懐かしさが感じられた。
「そうそう。幼馴染といえばさ、サリ~と朔間弟がそんな感じじゃん? 二人も何年か前にあんまり会ってない期間があったみたいだし、どんな感じだったのか昨日サリ~に訊いてみたんだよね」
「ほう。それで、衣更は何て?」
「『俺はそこまで気にしてなかったけど、とにかく凛月が毎日のようにゴネてさ~? ま~くんのいない学校なんて行く意味ない、どうして飛び級制度が認められないの~、って。思えばあの頃がいちばん起こすの大変だったかも』だってさ」
「なるほど。幼馴染にもいろいろあるということか」
どうやら俺が思う以上に、明星はこの未知の仕事と向き合おうとしているらしい。ヒントは家の中にあるとばかり思っていたが、こいつは視野を広く持ち、外に落ちている石ころひとつでさえも見逃すまい、一瞬の雲の形すらも忘れまいと、あらゆるものを演技に生かそうとしている。
下手にその分野をかじって凝り固まった頭より、何も知らないまっさらな頭の方が柔軟な発想を生み出せる。教える側は俺だけではない。俺もまたこいつに教わることがたくさんあるようだ。
「ふふ……俺も未熟者だな」
「? よく分かんないけど、まだ撮影は始まったばっかりだよ! この仕事を通して、またひとつ成長できるといいね☆」
「あぁ。アイドル科代表として、全力を尽くそう」
空になった弁当箱を閉じると、ちょうど二人揃って招集がかかる。まだ分からないことは多いが、今はできることをひとつずつ、だ。
そして、戦いは始まった。
「オッケーです。先にシーン24の撮影入りますので、お二人は一旦休憩お願いします」
「は~い、お疲れ様ですっ☆」
作品の趣旨を早く視聴者に理解させるには、第一話で二人のキャラクター性を細かく描写する必要がある。しかも今回のモノローグの視点はほとんどが俺演じる七星のものであるため、自ずとほとんどのシーンに出ずっぱりとなり、これがクランクイン以降初の休憩時間だった。
「ホッケ~、お疲れ様! 遅めのお昼にしよう!」
「明星、お前は二時間前にも休憩していただろう。まだ食べていなかったのか」
「だって、一緒にお弁当食べたかったんだもん! 初めて作ったおかずたくさんあるし、ホッケ~の感想聞きたくて」
共同生活を提案したのは俺だが、その後明星からもいくつか提案が出された。そのひとつがこれだ。現場で用意される仕出し弁当とは別に、日替わり交代で二人分の弁当を作ること。学食派のこいつの口からそんなことを言われたときには正直驚いたが、確かに作中の二人の昼食はどちらも弁当だった。初めての仕事だからか、再現性の高い役づくりを望む俺のやり方に合わせてくれようとしているらしい。
「どうどう? 美味しい?」
「……うむ、美味いな」
「こっちの煮物は?」
「……うむ、里芋の味だ」
「よし分かった。食レポの仕事のときは振られるまで黙ってていいよ、ホッケ~」
「……? 煮物に入った里芋から里芋の味がするのだから成功しているだろう?」
明星が料理をするといった話はあまり聞かないので些か不安だったが、なかなか悪くない出来だ。冷凍食品に頼るのが悪手というわけではないが、一部のおかずを自分で作っているという点に努力が伺える。少し遠くで忙しなく走り回っている彼女あたりにレシピを教わったのだろう。その味からは、おばあちゃんのそれとはまた別の懐かしさが感じられた。
「そうそう。幼馴染といえばさ、サリ~と朔間弟がそんな感じじゃん? 二人も何年か前にあんまり会ってない期間があったみたいだし、どんな感じだったのか昨日サリ~に訊いてみたんだよね」
「ほう。それで、衣更は何て?」
「『俺はそこまで気にしてなかったけど、とにかく凛月が毎日のようにゴネてさ~? ま~くんのいない学校なんて行く意味ない、どうして飛び級制度が認められないの~、って。思えばあの頃がいちばん起こすの大変だったかも』だってさ」
「なるほど。幼馴染にもいろいろあるということか」
どうやら俺が思う以上に、明星はこの未知の仕事と向き合おうとしているらしい。ヒントは家の中にあるとばかり思っていたが、こいつは視野を広く持ち、外に落ちている石ころひとつでさえも見逃すまい、一瞬の雲の形すらも忘れまいと、あらゆるものを演技に生かそうとしている。
下手にその分野をかじって凝り固まった頭より、何も知らないまっさらな頭の方が柔軟な発想を生み出せる。教える側は俺だけではない。俺もまたこいつに教わることがたくさんあるようだ。
「ふふ……俺も未熟者だな」
「? よく分かんないけど、まだ撮影は始まったばっかりだよ! この仕事を通して、またひとつ成長できるといいね☆」
「あぁ。アイドル科代表として、全力を尽くそう」
空になった弁当箱を閉じると、ちょうど二人揃って招集がかかる。まだ分からないことは多いが、今はできることをひとつずつ、だ。