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『別に……あいつとはたまたま家が近かっただけだし』
リビングのソファに腰掛けて、持参した台本を音読する。明星演じる生徒会長との同居が瞬く間にバンド内で噂になり、根掘り葉掘り状況を訊かれるシーンだ。
『私立受験なんか親に何回も勧められただろうに。何であそこまで突っかかってくるのか俺が訊きたいくらいだっつの』
物語の登場人物同士が同じ家で二人きりになる理由は、親の転勤や再婚などが多い。このドラマも例に漏れず、俺演じるバンドマン七星(ななせ)の両親に辞令が出され、地方への転勤が決まったという知らせが入る。転校を拒否して地元に残りたがる彼の引き取り手として真っ先に名乗り出たのは、家の近い幼馴染である生徒会長睦月(むつき)。学校の近くでのひとり暮らしを計画していた彼に連れ込まれる形で、七星は予想外の新生活を始めることになる――と、大筋はこんなものだ。
「『お忙しい生徒会長様が』……『お忙しいセートカイチョーサマが』……『生徒会長サマが』……うむ、これだな」
何度振り返っても、不自然な成り行きだ。睦月は仕事の効率化のために通学時間を減らすべく引っ越したらしいが、それが必要になることはもっと前から把握していた。疎遠になっていた七星の両親の転勤のことなど勿論知らされていなかっただろうし、彼を新居に招き入れるためだけにタイミングを意図的に合わせることなど不可能だろう。
『ね~よ。俺の恋人になれるのはギターだけ。体に弦六本張ってから出直せってんだ』
それに、描写から鑑みるに、この時点では二人の間に恋愛感情などないように思える。七星に自分を意識させるための策略ならまだしも、孤独になった彼を引き取る根拠がいまいち弱い。睦月の目的は一体何だ。
「『お前はもっと要らん』……『もっと要らん』……『お前は、もっと要らん』」
オリジナル作品なだけに、原作を読んで学ぶといったことができないのも痛い。答えがあるのは紙の上と、脚本家の頭の中だけ。あとはこの家での生活の中で、ヒントを少しずつ拾っていくしかない。
ともかく、作品理解に関してはひとりでは限界がある。疑問だらけの台詞を読み上げるための集中力は次第に霧散していき、活字の上を滑る目はゆっくりと幕を下ろした。
リビングのソファに腰掛けて、持参した台本を音読する。明星演じる生徒会長との同居が瞬く間にバンド内で噂になり、根掘り葉掘り状況を訊かれるシーンだ。
『私立受験なんか親に何回も勧められただろうに。何であそこまで突っかかってくるのか俺が訊きたいくらいだっつの』
物語の登場人物同士が同じ家で二人きりになる理由は、親の転勤や再婚などが多い。このドラマも例に漏れず、俺演じるバンドマン七星(ななせ)の両親に辞令が出され、地方への転勤が決まったという知らせが入る。転校を拒否して地元に残りたがる彼の引き取り手として真っ先に名乗り出たのは、家の近い幼馴染である生徒会長睦月(むつき)。学校の近くでのひとり暮らしを計画していた彼に連れ込まれる形で、七星は予想外の新生活を始めることになる――と、大筋はこんなものだ。
「『お忙しい生徒会長様が』……『お忙しいセートカイチョーサマが』……『生徒会長サマが』……うむ、これだな」
何度振り返っても、不自然な成り行きだ。睦月は仕事の効率化のために通学時間を減らすべく引っ越したらしいが、それが必要になることはもっと前から把握していた。疎遠になっていた七星の両親の転勤のことなど勿論知らされていなかっただろうし、彼を新居に招き入れるためだけにタイミングを意図的に合わせることなど不可能だろう。
『ね~よ。俺の恋人になれるのはギターだけ。体に弦六本張ってから出直せってんだ』
それに、描写から鑑みるに、この時点では二人の間に恋愛感情などないように思える。七星に自分を意識させるための策略ならまだしも、孤独になった彼を引き取る根拠がいまいち弱い。睦月の目的は一体何だ。
「『お前はもっと要らん』……『もっと要らん』……『お前は、もっと要らん』」
オリジナル作品なだけに、原作を読んで学ぶといったことができないのも痛い。答えがあるのは紙の上と、脚本家の頭の中だけ。あとはこの家での生活の中で、ヒントを少しずつ拾っていくしかない。
ともかく、作品理解に関してはひとりでは限界がある。疑問だらけの台詞を読み上げるための集中力は次第に霧散していき、活字の上を滑る目はゆっくりと幕を下ろした。