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『それとも……そんなに俺が大切なのかよ。お前の頭はどこまで平和なんだ』
『大切だよ。俺がナナを傍に置いて、昔みたいに仲良く過ごしたいって思うのはそんなに迷惑?』
 ひとつ。言葉より行動タイプだからか、明星はいつも手を伸ばすタイミングが少し早い。そのため、手のひらではなく、手首から払うと自然に見える。
『ナナにだって、出て行く権利はあった。でも、それをしなかったってことは、ナナの本心だって――』
『しなかったんじゃない、できなかっただけだ!』
 ひとつ。無意識なのかアドリブでスキンシップを挟むことが多い。逐一振り払っていては見栄えが悪いので、あらかじめ距離をとるか、軽く突き飛ばすのが有効。
『折角近付いてきてくれたのに……お前を守るために突き放すことしかできなくて……それ以外、人との距離の放し方も縮め方も俺には分からない』
 もしくは、両腕を掴むことでスキンシップそのものを封じる。場合によってはこのフォローが邪魔になることもあるので、様子を見ながら使い分けること。
『……睦月。俺はお前に嫌われたい。どうしたらいいのか、馬鹿な俺でも分かるように教えてくれよ……!』

「氷鷹さん、今日よかったですよ! 多分、今まででいちばん理想のやつ撮れました!」
「そうか。ありがとう」
「もうすぐクランクアップなのが惜しいくらいですよぉ。またお呼びしてもいいですか? それとも今からでも演劇科に移籍しちゃいます? なんちゃって」
「こらこら~! うちのホッケ~を勝手に寝取ろうとする輩は冗談でも許さないぞ!」
「どこでそんな単語を覚えてくるんだ、お前は」
 頬に押しつけられたペットボトルを受け取り、中の水を半分ほど飲み干す。夕方の体育館裏は西日が真っ直ぐ照らしていて、残った水を光に透かすとかなり眩しく反射していた。
「今日も無事に済みそうでよかったよ。ホッケ~、ちょっと元気なさそうで心配だったんだ」
「むっ……そうか?」
「え、誰の目にもそう見えてたと思うけど。ウッキ~もサリ~も気付いてたし」
「……そんなに分かりやすいのか、俺は」
 てっきり朔間の洞察力がなせる業だとばかり。
「でも、ごめん。元気なかったのは多分俺のせいだよね。あれはちょっとおふざけが過ぎちゃっただけだから! ホッケ~を困らせるつもりはなかったんだよ、本当に!」
「別に、俺も困っていたわけではない。お前の行動の意味が必要以上に気になりすぎていただけだ」
 遊木たちがそこまで見抜いていたかは定かでないが、少なくとも朔間は何かが見えていたらしい。『誰かのことを目で追ってるみたいだけど、そんなに気になるならいっそとことん追い詰めてみれば?』それが朔間の独り言だった。つまり、明星の行動が気になってしまうことを逆手にとって、こいつの行動をフォローするような演技を研究すること。それが俺の出した結論だ。
「疑問が解消してすっきりした。ラストシーンは本気でいかせてもらう」
「おう! ガミさんも認める俺直伝のギターパフォーマンス、バッチリかましちゃって!」
 そして、最後の招集がかかる。ライブハウスに移動したら、そこで最後の戦いだ。
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