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「ん……」
時計の短針は、いつもよりひとつ少ない数字を指している。体内時計はかなり安定しているはずなのだが、どうやら昨夜の動揺が未だに抜けきっていないらしい。
今日の朝食当番は明星なので、起こさないよう居間で本読みをするのも、このまま二度寝をするのも俺に保障されうる権利だ。しかし、今はあまり架空の世界に触れていたくない。この現実で生産活動でもしていた方が有意義というものだ。
「むにゃ……お金のプールだ~……☆」
滑るようにベッドを抜け出し、忍び足でキッチンまで辿り着く。同時に炊飯器から予約炊飯の開始を告げる電子音が鳴り響いた。
お湯を沸かしながらレタスをちぎっていると、あの小さな足音がキッチンに近付いてくる。尻尾を振りながら膝に飛びつかれては、流石に放置しておくわけにもいかない。
「ふふっ、やはり大吉くんの耳は誤魔化せないか」
ドッグフードにサラダチキンとレタスの芯を少しずつ混ぜたものを皿に盛ってやって、「お座り。伏せ。よし」と軽く躾けてやると、大吉くんはおとなしくそれらを食べ始める。食事当番は大吉くんの餌やりも同時に行うため、おかげさまで犬の餌にも少し詳しくなってきた。
「危ないからそれを食べたらおとなしくしていてくれ。あと、おかわりはないぞ。やりすぎるとお前の主人が怒るからな」
割った卵をフライパンに落とし、その隅でウインナーに焦げ目をつける。サラダチキンとトマトを切り、ちぎったレタスの山の上に乗せる。豆腐が漂う湯に味噌を溶かし、沸騰直前まで火にかける。余り物はレンジで解凍した冷凍食品と一緒に弁当箱に詰めて、米が炊けたら残り半分を埋める。
そうこうしているうちに日が昇り、ダイニングの戸が開いた。
「あら、北斗くん。朝早くからありがとう」
「おはよう、ホッケ~! 俺が当番なのに先越されちゃった、明日から二日連続でやるから許して!」
「……? あぁ。おはよう、二人とも」
おふくろさんはまぁいい。それよりも、問題は明星の態度だ。
「いっただきま~す☆ ホッケ~、お醤油とって!」
昨夜の緊張感はどこへやら、明星のテンションはすっかりいつも通りに戻っていた。親の前だから普段通りに振る舞っている、という感じもしない。まるであの言動が全て夢だったかのように、そこにはいつもの明星家の朝食風景があった。
「そうだ。母さん、今日は特に仕事入ってないから、俺もホッケ~も早めに帰ってるからね」
「うん、分かったわ。もし母さんより早かったら、先に二人でご飯食べてていいからね」
「うん!」
質問の続きができる雰囲気でもなく、ただ黙々と白米を口に運ぶ。そこから家を出るまでのことはあまり覚えていない。靴を履くときに明星が何か言っていたような気もするが、それが俺に向けてのものだったかもよく分からなかった。
時計の短針は、いつもよりひとつ少ない数字を指している。体内時計はかなり安定しているはずなのだが、どうやら昨夜の動揺が未だに抜けきっていないらしい。
今日の朝食当番は明星なので、起こさないよう居間で本読みをするのも、このまま二度寝をするのも俺に保障されうる権利だ。しかし、今はあまり架空の世界に触れていたくない。この現実で生産活動でもしていた方が有意義というものだ。
「むにゃ……お金のプールだ~……☆」
滑るようにベッドを抜け出し、忍び足でキッチンまで辿り着く。同時に炊飯器から予約炊飯の開始を告げる電子音が鳴り響いた。
お湯を沸かしながらレタスをちぎっていると、あの小さな足音がキッチンに近付いてくる。尻尾を振りながら膝に飛びつかれては、流石に放置しておくわけにもいかない。
「ふふっ、やはり大吉くんの耳は誤魔化せないか」
ドッグフードにサラダチキンとレタスの芯を少しずつ混ぜたものを皿に盛ってやって、「お座り。伏せ。よし」と軽く躾けてやると、大吉くんはおとなしくそれらを食べ始める。食事当番は大吉くんの餌やりも同時に行うため、おかげさまで犬の餌にも少し詳しくなってきた。
「危ないからそれを食べたらおとなしくしていてくれ。あと、おかわりはないぞ。やりすぎるとお前の主人が怒るからな」
割った卵をフライパンに落とし、その隅でウインナーに焦げ目をつける。サラダチキンとトマトを切り、ちぎったレタスの山の上に乗せる。豆腐が漂う湯に味噌を溶かし、沸騰直前まで火にかける。余り物はレンジで解凍した冷凍食品と一緒に弁当箱に詰めて、米が炊けたら残り半分を埋める。
そうこうしているうちに日が昇り、ダイニングの戸が開いた。
「あら、北斗くん。朝早くからありがとう」
「おはよう、ホッケ~! 俺が当番なのに先越されちゃった、明日から二日連続でやるから許して!」
「……? あぁ。おはよう、二人とも」
おふくろさんはまぁいい。それよりも、問題は明星の態度だ。
「いっただきま~す☆ ホッケ~、お醤油とって!」
昨夜の緊張感はどこへやら、明星のテンションはすっかりいつも通りに戻っていた。親の前だから普段通りに振る舞っている、という感じもしない。まるであの言動が全て夢だったかのように、そこにはいつもの明星家の朝食風景があった。
「そうだ。母さん、今日は特に仕事入ってないから、俺もホッケ~も早めに帰ってるからね」
「うん、分かったわ。もし母さんより早かったら、先に二人でご飯食べてていいからね」
「うん!」
質問の続きができる雰囲気でもなく、ただ黙々と白米を口に運ぶ。そこから家を出るまでのことはあまり覚えていない。靴を履くときに明星が何か言っていたような気もするが、それが俺に向けてのものだったかもよく分からなかった。