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「おっはようございま~っす♪」
「ほ、本日はよろしくお願いします!」
「あぁっ、やっと来た! 待ってたぞ、二人とも! ぎゅうぎゅうっ☆」
「わぁい、明星く~ん! ぎゅう~っ☆」
「あはは……朝から元気だなぁ、お前ら。でも、この光景が既にちょっとだけ懐かしく感じるよ」
 撮影も中盤に差し掛かる頃。その日の現場であるライブハウスには、とても見慣れた二人の姿があった。
「遊木、衣更。長らく他の仕事を任せきりにしてしまってすまない。今日は久しぶりに『Trickstar』四人揃っての仕事だ。最後までよろしく頼む」
「なぁに、いいってことよ。俺らは一話限りのチョイ役だけど、お前らはまだまだ先がある。人の何倍も働くのは誰かさんたちのせいで慣れてるのでお気遣いなく♪」
「ネットでも第一話からすごい反響だもんね! 公式ハッシュタグが毎週トレンド入りしてるくらいだよ! ほら、記念のスクショがこんなに!」
 ふんふんと鼻息荒く遊木が突きつけてきたスマートフォンには、SNSの検索ランキングのスクリーンショットが何枚も保存されていた。そして、そのどれにも共通して並んでいる文字列の中に、このプロモーションドラマの略題らしきものが堂々と鎮座しているではないか。
「そういえば、さっき駅で守沢先輩に会ってさ。この仕事はそもそもアイドル科の管轄ですらないのに『もし見学していいなら是非呼んでくれ!』って必死に頼まれたよ」
「うげっ、それ本気で言ってる? あの人、これを毎週録画してBDは百枚買って末代まで家宝にする~、とか言うだけじゃ飽き足らず……」
 どこかで聞いたことのある台詞だ。
「やだなぁ、ぶっちゃけ恥ずかしいからちーちゃん先輩にだけは恋愛ドラマやってる俺を見せたくないんだけど~?」
「まぁ、気持ちは何となく分かるけどね。でも、評価されるのは素直に嬉しいでしょ?」
「あぁ。俺も明星も撮影の進行とともに成長中だ。努力の成果を刮目して見るがいい」
「おう、俺もこの前凛月たちとやった『オペレッタ』で演技経験は積んだからな。プロには敵わないけど、できるだけ食らいついていくつもりだ」
「ぼ、僕も頑張るよ! 二人の絡みを直視できるかは……まだ、ちょっと自信ないけど……」
「あははっ☆ 気合いは十分! いくぞ、『Trickstar』!」
 招集がかかり、まずは対バンライブのシーン。他校の軽音部ギタリスト役の衣更と俺の出番となる。
「……♪」
 拳を軽く突き合わせたら、仲間から対戦相手に。その眼差しは、舞台を照らす赤い照明より鋭く。
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