いっそ身を焦がすくらいの

 何が悪かった?
 誰のせいでこうなった?
 天高く立ち上り、木漏れ日に染み込んでいく煙に問いかける。これはいつもの癖で、条件反射だ。満月に照らされて大きな鍋の中でぐつぐつ煮えたぎる、諸々の自然物から生じるそれに向かって喉を震わせれば、大抵は自分が今知りたいことを教えてもらえたから。その人は大きな帽子を目深に被って、しかしザクロの実のように赤い唇が優しく弧を描くさまだけはいつも変わらず見せてくれて。
 ――あの子ならもう大丈夫。この薬は何にでも効くのさ。
 ――アタシにできないことはないからね、任せとくれ。
 皺だらけの骨ばった手で胸を叩いて、複雑な発音の呪文をまるで赤ん坊の頃から刷り込まれた母語のように流暢に唱えているそのときだけは、普段の弱々しい老婆の皮を脱ぎ捨てて、街の人々が言うところの『大魔女』に相応しい佇まいになる。色とりどりの煙越しに見たその姿は、自分の世界の一種のしるべのようだった。
 しかし、ここに横たわる彼女はどうだ。経験に裏付けられた自信を無数に刻んだ手は枯れ木の枝のように固まり、世へ捧げる救いの言葉を紡ぎ続けた唇に色はない。自分の喉から飛び出すみゃあみゃあと情けない鳴き声は、意味を汲み取られぬまま焦げた雑草の先を揺らすばかり。
 ……何が悪かった?
 ……誰のせいでこうなった?
 俺には何も分からない。あなたに身体を擦りつけて甘えてばかりだった弱い俺には。火のない躰から煙をあげて、昼下がりの森に溶けるように消えていくあなたを見守ることしかできない無力な俺には。
 いっそこのまま鳴き続けて、ザクロの実のように喉を弾けさせてしまおうか。あなたの一部を少しでも感じて、寿命を延ばしたような気分にでもなれば、この気持ちも晴れるだろうか。
 物言わぬ魔女の骸に寄り添い、いつも自分にそうしてくれたように痩せた頬を前足で撫でる。最後に彼女が教えてくれたのは、『別れの悲しみ』という未知の感情だった。
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