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眠り主

ゆっくり目を開いた。
部屋に差し込む朝日から今は朝だということが分かる。

日めくりの暦には前に目が覚めた時から5日後の日付が記されていた。
…正しい記憶だったらの話だけど。

「みんな、いるかな…」

気怠い体を起こし部屋の外へ、大広間の方から賑やかな声が聞こえる。
この時間なら朝食を食べているのだろう

「主!目を覚まされたのですか!!」

後ろから声をかけられ振り返ると慌てた様子の長谷部がいた。
 
「おはよう、長谷部…」
 
「おはようございます…お体は大丈夫なのですか?」

「ええ、平気…っあ?」
 
平気と答えた瞬間視界がグラグラと揺れ体が傾く。
 
「主!?」
 
傾いた体を長谷部が支えてくれる。

「ごめん…治まるまで支えててくれる?」
 
「はい…」

私は治療法のない過眠症だった。
目覚めの感覚が不定期で就寝して数時間後に目を覚ます時もあれば数日目を覚まさないときもある。
目が覚めても意識が覚醒せず眩暈を起こす、激しく感情を起伏させればへたり込む、現実と区別のつかない夢を見て混乱する。
そんな病に私は蝕まれていた。

長谷部の肩に額を乗せて眩暈が治まるのを待つ。
その間長谷部は私の背を優しく撫でていた。

「…助かったよ、ありがとう」
 
「お気になさらず…まだご気分が優れないようでしたら部屋で休まれた方が…」
 
「いや、みんなに会いたいから…大広間行こう」

「分かりました…」

心配そうな表情の長谷部の頭をポンポンと撫で二人で大広間へ向かった。
 
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「主!!」

「目が覚めたんだね、良かった…」

大広間に行くと刀剣男士達は私を見るや否や朝食そっちのけで僕に駆け寄ってきた。

「みんなおはよう…日々に変わりはない?」

「うん!大丈夫だよ」

「そうか、安心した」
 
私を心配して慕ってくれる刀達を一人ずつ頭を撫でる。

「おはよう主、ご飯食べれそう?」

「ありがとう光忠、お願いするね」

「任せて、お腹に優しい物作るね!」

光忠はご機嫌で厨に入って行く。
私が光忠と話している間に刀達の間で食卓の私の隣の席を争ってじゃんけん大会が行われていた。

「私がいつも起きてればこんなことにはならないんだけどな…」

「そう気にするな、主」

「そうだぜ、確かに君がいないのは寂しいがそれは君が悪いんじゃないからな」

「三日月、鶴丸…ありがとう」

私の両端に座り励ましの言葉をかける三日月と鶴丸。
柔らかい良い雰囲気が流れる…それも束の間、三日月と鶴丸の頭に飛来した箸が刺さる。

「何さりげなく主の隣陣取ってんの鶴爺さん…」

「みかづきずるいですよー!!あるじさまのとなりにすわるのはぼくです!!」

どうやら箸を投げたのは加州と今剣のようで見事邪魔者を始末した二人はハイタッチを交わした。

「ちょっと随分騒がしいけどどうし……ちょっ!?何で三日月さんと鶴さん重傷なの!?」

「食卓で騒ぐなんて雅じゃないね…」

騒ぎを聞きつけた光忠と歌仙が厨から出てくる。
歌仙は既に雅を介さぬ行動に怒っているようだ。

「これ誰がやったの…?」

「清光がやりましたー」

「それに今剣も加担しておった」

「へぇ…?」

状況を理解した光忠の表情は笑顔だがその声には怒気が含まれており恐怖しか感じ取れない

「ちょ!?チクんなよバカ安定!!」

「いわとおし!!ばらしちゃうなんてひどいですよ!!!」

「うっさいブス清光、さっさと怒られて来い」

「がははは、先程の行動は少々行儀が悪かったな。たんと叱られて来ると良いぞ今剣」

「ちょっとお話しようか、清光くん今剣くん…?」

「覚えてろよ安定ーー!!!!!!」

「わーん!!!!ごめんなさいー!!!!」

光忠に首根っこを掴まれ二人は光忠と歌仙と共に説教部屋へ消えていき、重傷の三日月と鶴丸は手入れ部屋に運ばれた。

「無事に帰って来ると良いね…」

「そうだな…」

結局光忠が作りかけていた朝食を堀川が作り、両隣に獅子王と太郎太刀を隣に座らせ私は朝食を済ませたのだった。

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「主様、良かったらお庭を見に来てください…」

「みんなで育ててた花が昨日咲いたんだよ!!」

朝食を済ませ鶯丸と平野とお茶をしていると乱と五虎退が私を庭に行こうと誘ってくれた。

乱が言う花は以前に短刀達が私と共に植えた花のことで、私は目が覚める度に咲いていないかと確認していた

「ついに咲いたんだね!すぐ行くよ」

「ほら、平野も!」

五虎退が私の、乱が平野の手を引いて花壇へ。
花壇の周りには短刀達が集まっており私を見ると笑顔で手を振った。
花壇には刀達がそれぞれ育てている色とりどりの花が綺麗に咲いている。

「見事、よく頑張ったね」

「はい!!」

「えへへ、もっと褒めてもいいんだよ?」

「ふふ、良く出来ました」
 
甘え上手な乱は撫でてと言わんばかりに頭を出し、望み通りに頭を撫でてあげる。

「乱だけずるい!!俺も!!」

「僕も…」

「みんな偉かったね、みんなは私の誇りよ」

乱を羨ましがった他の短刀達もそれに続き、私は苦笑しながら順番に頭を撫でる。

「折角だし花の数を増やそうか。歌仙に花の種を貰って来ようね」

「じゃあ僕たちは軍手とスコップを持ってきます!」

「なら俺たちは水だな!」

花を増やすことにした私と短刀達は泥だらけになりながら種を植え、水をやる。
そして昼餉の時に「洗濯物が増えたじゃないか!」と歌仙に怒られたのだった。
 
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「主おやすみー」

「おやすみ、夜更かししないようにね」

「はーい」

「起きたらまた遊んでね!!」

時間は過ぎ夜になり皆寝る時間になった。
刀達は私へ口々に就寝の挨拶をし、部屋に戻っていく。

「…」

全員が部屋に戻り辺りはシン...と静まり返る。
昼間の喧騒が嘘のようだ。

「…主、どうした?眠らないのか?」

「…鶴丸…」

全員部屋へ戻ったのかと思えば鶴丸はまだいたらしく、着流し姿で後ろから声をかけた。

「廊下にいては風邪をひくぞ?部屋まで送って行こう…主、手を」

鶴丸は綺麗な動作で手を差し、私はそれにそっと手を重ねた。

「今日は風が涼しいな、きっと寝やすいだろう」

「そう、だね…」

他愛ない言葉を数言交わす内に私の部屋へ着く。

「眠れそうか?」

「…鶴丸、良かったら眠るまで一緒にいてほしい」

「あぁ、子守歌でも歌ってやろう」

鶴丸は軽口を叩きながらそう答えると二人で部屋へ入る。
私は敷きっぱなしの布団に体を滑り込ませ、鶴丸はその傍に座る。
その間手は繋がれたままだった。

「…鶴丸の瞳は満月みたいだね」

暗闇の中でも鶴丸の金色の瞳は爛々と輝いて、まるで夜空に浮かぶ満月のようだ。 

「そうだろう?その満月が二つもあって君を見ているんだ、贅沢だろう?」

「ええ、とても贅沢…」

じっ...と見つめ合う。
慈愛に満ちた満月がこちらを見ている。

「眠るたびに思うの、楽しかった一日が私が見ていた夢だったんじゃないかって…起きたら一人で病院のベッドの上にいるんじゃないかって…」

今こうしていることが自分の見ている都合のいい夢ではないかと、目が覚めたら白い病室で今までのことは全部夢だったんではないかと。
そう思う度に眠るのが怖い。

「目を覚まさないといけないのなら、眠りたくない…」

「……主は『眠り姫』の御伽話を知っているか?」

「え…?」

突然話を切り出す鶴丸に目を丸くする。

「この間一期が短刀達に読み聞かせていたのを一緒に聞いたんだ……主は眠り姫で紡ぎ車の錘は病のことだな」

「そ、そうなのかな…?」

「そして眠り姫の王子は俺だ…!」

「随分自意識な配役だね…」

得意げな鶴丸の表情につい笑みが零れる。
私に笑われていると鶴丸は気づくとゴホンと咳払いして話を続けた。
 
「つまり何が言いたかったかというとな…例え主が自分の力で目覚められなくなっても俺が起こしてやるさ」

「なるほど…鶴丸王子が目覚めのキスをしてくれるんだね」

「ちゃ、茶化さないでくれよ…」

恥ずかしそうに頬を掻く相手の手をギュッと握るとそっと握り返してくれた。

「それなら…眠るのも怖くないね」

「あぁ……さぁ、いい子はもう眠る時間だ」

前髪を梳くように流され額に口付けられる。

「おやすみ、主……」

「…おやすみなさい」

ゆっくり、瞼を閉じ眠りに落ちる。
眠りの茨が解け、王子の口付けで目を覚ますその時まで。
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