狐の箱庭
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芝居の後____。
大雨で芝居は途中でやめになり、帰った銀時は打ち合いをした。
打ち合いが終わったら甘酒を持って月見をしようと言った。
つゆはツツジの花の前で待っていると言った。
「つゆはあんたをそこでずっと待っている。出られるのに出ないんだ。あんたが来ないから」
ふわりと笑うつゆの顔と甘い花の蜜のにおいが銀時の肌によみがえり鳥肌が立った。
「あんた達が谷底に落ちた日。それからつゆはずっと同じ箱庭にいるんだ。完璧に囲うことの出来ない箱庭の中に。心の端では普通、ほんの僅かずつ狂いが生じて忘れてゆく。忘れて、違う事をすれば現実に出られる。しかし彼女はどうだ。その日の今だけを見てそこにいる。一人じゃ出られないんだ。あんたとの約束を違えなくて。それを哀れんで、あんたを呼び寄せたんだよ。俺は。ほんの悪戯だったのに。こっちも困ってる」
溜息をつくみたいに肩を落として狐は言った。
「その日の事を思い出せ。思い出しながら目を閉じろ。俺が連れてゆく」
遠くで風鈴の揺れる音がする。
銀時が目を閉じると、狐は銀時の額に指を乗せた。
蝋燭が吹き消されたみたいに辺りの闇が濃くなり、銀時の袖が風に揺れた。
目を開けるとそこは底の深い夜だった。
中空に浮かぶ月もなければ雲もない。
「月のない夜に月見をするのも乙なものだろ。雨夜の月って言葉もあるくれえだしな」
そう言ったことをよく覚えている。
目の前は見知った馴染みのある場所だった。
廃寺から一歩踏み出した銀時のブーツが砂利を踏む。
逸る気持ちで銀時は走り出していた。
立ち並ぶ木々を抜けるとひらけた場所に突き当たり、草いきれがする。
風で長い草が倒れ、その間につゆの背中と白い花が見えた。
長い黒髪が花と一緒に風にさらわれている。
その瞬間銀時の心臓は今動きはじめたかのように熱くうねった。
つゆの真横には白いツツジの花が発光し、狂ったように咲いている。
芯を引き抜いて蜜を吸う。
つゆが口にしたであろう花の木の根には一面その花がこぼれている。
「つゆ____……っ」
振り向いたつゆの瞳が銀時を捉えた。
立ち上がった瞬間、銀時の腕がつゆの生身を捉えて抱擁した。
つゆの指から蜜のない花が落ち、それは風にさらわれながら水溜まりに浮かんだ。
「銀____」
腕の力。熱。
また抱擁が強くなり、つゆは苦しくなって息をのむ。
「つゆ。つゆつゆつゆ。つゆ____」
何度も呼ぶ銀時の心臓が狂ったように早鐘を打っているのを肌で感じる。
「銀、苦しい____」
言うと、銀時が今静かに腕の力をゆるめた。
つゆの両頬に銀時の両手が触れた。
それは小指の先まで熱く脈打っている。
銀時はこちらの瞳を覗き込み
「よお。待たせたな」
その声はつゆの胸の奥まできりもなく届いた。
しかしいつもと限りなく違う。
「その格好は? それに何か____」
大人びている。
つゆは自分も同じだということを気づいていない。
「イメチェンだよ。イメチェン」
仄かに首を傾げてつゆは微笑を灯す。
手を握る銀時の力はくっきりと強い。
「帰ろうぜ」
「甘酒は? お月見」
ああ、と銀時は熱く震える声を放った。
「ああ。しようぜ。これからたんまり飲ませてやるからよ」
大雨で芝居は途中でやめになり、帰った銀時は打ち合いをした。
打ち合いが終わったら甘酒を持って月見をしようと言った。
つゆはツツジの花の前で待っていると言った。
「つゆはあんたをそこでずっと待っている。出られるのに出ないんだ。あんたが来ないから」
ふわりと笑うつゆの顔と甘い花の蜜のにおいが銀時の肌によみがえり鳥肌が立った。
「あんた達が谷底に落ちた日。それからつゆはずっと同じ箱庭にいるんだ。完璧に囲うことの出来ない箱庭の中に。心の端では普通、ほんの僅かずつ狂いが生じて忘れてゆく。忘れて、違う事をすれば現実に出られる。しかし彼女はどうだ。その日の今だけを見てそこにいる。一人じゃ出られないんだ。あんたとの約束を違えなくて。それを哀れんで、あんたを呼び寄せたんだよ。俺は。ほんの悪戯だったのに。こっちも困ってる」
溜息をつくみたいに肩を落として狐は言った。
「その日の事を思い出せ。思い出しながら目を閉じろ。俺が連れてゆく」
遠くで風鈴の揺れる音がする。
銀時が目を閉じると、狐は銀時の額に指を乗せた。
蝋燭が吹き消されたみたいに辺りの闇が濃くなり、銀時の袖が風に揺れた。
目を開けるとそこは底の深い夜だった。
中空に浮かぶ月もなければ雲もない。
「月のない夜に月見をするのも乙なものだろ。雨夜の月って言葉もあるくれえだしな」
そう言ったことをよく覚えている。
目の前は見知った馴染みのある場所だった。
廃寺から一歩踏み出した銀時のブーツが砂利を踏む。
逸る気持ちで銀時は走り出していた。
立ち並ぶ木々を抜けるとひらけた場所に突き当たり、草いきれがする。
風で長い草が倒れ、その間につゆの背中と白い花が見えた。
長い黒髪が花と一緒に風にさらわれている。
その瞬間銀時の心臓は今動きはじめたかのように熱くうねった。
つゆの真横には白いツツジの花が発光し、狂ったように咲いている。
芯を引き抜いて蜜を吸う。
つゆが口にしたであろう花の木の根には一面その花がこぼれている。
「つゆ____……っ」
振り向いたつゆの瞳が銀時を捉えた。
立ち上がった瞬間、銀時の腕がつゆの生身を捉えて抱擁した。
つゆの指から蜜のない花が落ち、それは風にさらわれながら水溜まりに浮かんだ。
「銀____」
腕の力。熱。
また抱擁が強くなり、つゆは苦しくなって息をのむ。
「つゆ。つゆつゆつゆ。つゆ____」
何度も呼ぶ銀時の心臓が狂ったように早鐘を打っているのを肌で感じる。
「銀、苦しい____」
言うと、銀時が今静かに腕の力をゆるめた。
つゆの両頬に銀時の両手が触れた。
それは小指の先まで熱く脈打っている。
銀時はこちらの瞳を覗き込み
「よお。待たせたな」
その声はつゆの胸の奥まできりもなく届いた。
しかしいつもと限りなく違う。
「その格好は? それに何か____」
大人びている。
つゆは自分も同じだということを気づいていない。
「イメチェンだよ。イメチェン」
仄かに首を傾げてつゆは微笑を灯す。
手を握る銀時の力はくっきりと強い。
「帰ろうぜ」
「甘酒は? お月見」
ああ、と銀時は熱く震える声を放った。
「ああ。しようぜ。これからたんまり飲ませてやるからよ」