狐の箱庭
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手を引かれて連れて来られたのは船内の土方の部屋だった。
「二度と若旦さまなぞと呼ぶな。お前がそう呼ばないまで此処にいて貰う。帰ることは許さねえ」
何を言ってるの?
つゆは理解出来ない。
「呼ぶなと言ったろ。これで何度目だと思う」
「____呼んでません」
「お前の心から漏れてんだよ」
鍵を持って背中を向けた土方につゆは困惑する。
「トシ……っ」
足を止めて振り向いた土方の顔は恐ろしく静かだった。
「つゆ。俺ァ根こそぎお前が欲しい。此処から出られると思うな」
土方を打ち倒した銀時は船の灯りに向かって走っていた。
つゆ。つゆ。つゆつゆつゆつゆ____。
何度も呼びながらひた走る銀時が木刀で船の出入口を打ち破った時だった。
生者の銀時の後ろから土方の幽体がゆらりと重なった。
パチンと小気味いい音と共に銀時が目を覚ました。
僧と新八と神楽が心配そうにこちらを見ている。
むくりと半身を起こした銀時の顔には濃い影が射していた。
「あの野郎邪魔ァしやがって……っ」
僧を睨んだ銀時は「おっさんもう一回だ」という。
銀時から話を聞いた僧は言った。
「簡単にはいくまい。お前さんが苦しむだろうことだと読まれているのだ。だが答えは単純だ。どの箱庭でもいい。彼女に会い、生きたまま戻ってくることだ。二人でな」
しかし何度繰り返しても土方が銀時の邪魔になった。
エレベーターのない百階に住むつゆのマンションの警備員をやっていたり、芸者のつゆの傘持ちをやっていたり、何かとつゆに張り付いておりつゆのところまで行けない。
三日が経っていた。
飲まず食わずで三日。
僧に休憩だと言われ銀時はきかなかったが焦っても事態は好転しない。
飯を詰め込む間もつゆと会う事を考えた。
「飯は食ったぜさっさと始めようや」
そう言うも、僧は用事に出ていて朝まで戻らない。
返事の返って来ないその場に舌を打ち、銀時は外へ出掛けた。
町の外れに来た時だった。
川向こうに見覚えのある団子屋があった。
この三日間どの箱庭でも見掛けた団子屋。
狐だ。
銀時はピンときて川に土足で踏み込んだ。
川は深いところで銀時の膝まであり、十分につめたい。
真水を割いて渡り、団子屋の長椅子にどっかりと座った。
「よお、何処かで会ったな」
傍に立った店員の男は袖で顔を隠し
「こんなふうに?」
ふ……と蝋燭を吹き消したように男が消えたかと思うと、そこにつゆがいた。
狐のように笑っている。
木刀を狐の首に突きつけ銀時はうなるような低い声で言った。
「つゆを返せ」
睨む銀時の瞳には底からのたくるようなか黒いものが走っている。
ふ……と蝋燭を吹き消したみたいに狐は元の男の姿に戻った。
「狐の嫁入り」
狐の声はひっそりとその場に放たれた。
「あんたあの日を覚えてる? つゆと芝居に行った日の事だよ」
芝居____。
銀時は鮮やかに思い出した。
夏で、よく晴れた日の事。
食料を調達しに団子屋へ行った時、貼り紙を見たつゆが言った。
「銀、芝居がある。行こう」
「珍しいな。この辺で芝居なんざやるなんてよ」
団子を食べ切る前に雨が降ってきた。
綺羅綺羅と、それは晴天の空からきりもなく降ってくる。
音はなく、あたりは静まりかえっていた。
「んじゃァ行こうぜ」
お茶を飲みきり銀時が言うと、つゆは降る雨をきりもなく見上げて黙っていた。
その瞳は水の溜まりのように映え、辺りをまるごと映している。
「つゆ?」
こちらを静かに見たつゆは雨のように真っ直ぐ微笑を灯していた。
「駄目だよ今は。狐の嫁入りだから」
「そんなの迷信だろ?」
つゆの手を引いて銀時は表へ出た。
狐の嫁入りは真っ直ぐ降り、ひっそりと明るく、おおらかでつめたかった。
つゆみたいに。
「芝居の後でどうしたか覚えてる? 言ってごらん。つゆを返してあげる」
「二度と若旦さまなぞと呼ぶな。お前がそう呼ばないまで此処にいて貰う。帰ることは許さねえ」
何を言ってるの?
つゆは理解出来ない。
「呼ぶなと言ったろ。これで何度目だと思う」
「____呼んでません」
「お前の心から漏れてんだよ」
鍵を持って背中を向けた土方につゆは困惑する。
「トシ……っ」
足を止めて振り向いた土方の顔は恐ろしく静かだった。
「つゆ。俺ァ根こそぎお前が欲しい。此処から出られると思うな」
土方を打ち倒した銀時は船の灯りに向かって走っていた。
つゆ。つゆ。つゆつゆつゆつゆ____。
何度も呼びながらひた走る銀時が木刀で船の出入口を打ち破った時だった。
生者の銀時の後ろから土方の幽体がゆらりと重なった。
パチンと小気味いい音と共に銀時が目を覚ました。
僧と新八と神楽が心配そうにこちらを見ている。
むくりと半身を起こした銀時の顔には濃い影が射していた。
「あの野郎邪魔ァしやがって……っ」
僧を睨んだ銀時は「おっさんもう一回だ」という。
銀時から話を聞いた僧は言った。
「簡単にはいくまい。お前さんが苦しむだろうことだと読まれているのだ。だが答えは単純だ。どの箱庭でもいい。彼女に会い、生きたまま戻ってくることだ。二人でな」
しかし何度繰り返しても土方が銀時の邪魔になった。
エレベーターのない百階に住むつゆのマンションの警備員をやっていたり、芸者のつゆの傘持ちをやっていたり、何かとつゆに張り付いておりつゆのところまで行けない。
三日が経っていた。
飲まず食わずで三日。
僧に休憩だと言われ銀時はきかなかったが焦っても事態は好転しない。
飯を詰め込む間もつゆと会う事を考えた。
「飯は食ったぜさっさと始めようや」
そう言うも、僧は用事に出ていて朝まで戻らない。
返事の返って来ないその場に舌を打ち、銀時は外へ出掛けた。
町の外れに来た時だった。
川向こうに見覚えのある団子屋があった。
この三日間どの箱庭でも見掛けた団子屋。
狐だ。
銀時はピンときて川に土足で踏み込んだ。
川は深いところで銀時の膝まであり、十分につめたい。
真水を割いて渡り、団子屋の長椅子にどっかりと座った。
「よお、何処かで会ったな」
傍に立った店員の男は袖で顔を隠し
「こんなふうに?」
ふ……と蝋燭を吹き消したように男が消えたかと思うと、そこにつゆがいた。
狐のように笑っている。
木刀を狐の首に突きつけ銀時はうなるような低い声で言った。
「つゆを返せ」
睨む銀時の瞳には底からのたくるようなか黒いものが走っている。
ふ……と蝋燭を吹き消したみたいに狐は元の男の姿に戻った。
「狐の嫁入り」
狐の声はひっそりとその場に放たれた。
「あんたあの日を覚えてる? つゆと芝居に行った日の事だよ」
芝居____。
銀時は鮮やかに思い出した。
夏で、よく晴れた日の事。
食料を調達しに団子屋へ行った時、貼り紙を見たつゆが言った。
「銀、芝居がある。行こう」
「珍しいな。この辺で芝居なんざやるなんてよ」
団子を食べ切る前に雨が降ってきた。
綺羅綺羅と、それは晴天の空からきりもなく降ってくる。
音はなく、あたりは静まりかえっていた。
「んじゃァ行こうぜ」
お茶を飲みきり銀時が言うと、つゆは降る雨をきりもなく見上げて黙っていた。
その瞳は水の溜まりのように映え、辺りをまるごと映している。
「つゆ?」
こちらを静かに見たつゆは雨のように真っ直ぐ微笑を灯していた。
「駄目だよ今は。狐の嫁入りだから」
「そんなの迷信だろ?」
つゆの手を引いて銀時は表へ出た。
狐の嫁入りは真っ直ぐ降り、ひっそりと明るく、おおらかでつめたかった。
つゆみたいに。
「芝居の後でどうしたか覚えてる? 言ってごらん。つゆを返してあげる」