狐の箱庭
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ひとりの僧が声をかけてきたのは今だった。
「今のは高等な妖だろう。あれほど人に紛れる事が出来るのだから」
僧は言って続けた。
「はて。何に見えた? ____このご時世に刀を捨てずにいるようなお侍があざむかれる程に関係の深い人にでも見えたのかな。だとすればその人も無事だといいが」
「どういう意味だ」
「見て嗅いで人の形を捉えるなら、必ず会っているからだ」
「つゆは何処にいる」
銀時は全身を研ぎ澄ませて聞いた。
「全く。酷い顔だな。落ち着きなさい」
場所を変えて二人は小料理屋へ入った。
珈琲を二つだけ頼むと店員に嫌な顔をされ、僧は頭をかいた。
「それで坊さん。つゆは今何処にいんだ」
「拙僧にも未だ分からぬがそれは手がかりになるな」
それ、と言って銀時の持っていた白いツツジの花を指した。
「妖だろうがなんだろうが、俺が見つけられなくて他の奴がつゆに会える訳がねえ。何処にもいねえって事は何処にいても可笑しくねえって事なんだよ」
全身から絞り出すように銀時は言い切った。
それだけは確かだ。
「これに、微かだが人の生気が混じっている。この花は妖術だ。強力な霊媒物質とでも言おうか。霊媒物質は霊力によって形づくられる粘液状の物質。自由に形が変わり、その成分は多くが蛋白質で爪とよく似た組成だ。霊媒師などが口や鼻から白い煙のようなものを出しているのを見たことがないか? 普通長くは持たない。しかし流石は妖怪といったところか。すると恐らくこれを紡げる妖は人間の思考に反応して視える世界を霊媒物質で形にし、まるで箱庭のように操っている。つまり彼女の視る世界の中に彼女を閉じ込めたのだとしたら、旦那の言うつゆという者だが」
銀時は息をのんだ。
「彼女は未だ、ある夜の中にいる」
狐につままれたように、しかし確かに現実の尾を握って銀時はそこにいた。
「____……要領得ねえな」
「恐らく同じ日を幾度も繰り返してそこに。幽閉されているのだろう。足止めによく使う手だ」
「手短にそう言えよおっさん」
「しかしどうしてそんなにも長い間足止めされている? 狐の悪戯にしては____これは狸かもしれぬな」
何故そう思うのか銀時には分からない。
「して、お前さんの前に現れた目的はなんだろうな。心当たりはあるか?」
「俺がつゆに繋がる奴だからじゃねえの?」
「しかしからかうにしては妙だ。こんな手がかりを消さぬとは」
手がかりという花を触り僧は言った。
「確かめたいことがある。明朝まで待たれよ」
それから僧はこんなことも言った。
「つゆという者のいる箱庭にお前の幽体を送る。ひとりで出来るか? 見極める目はお前次第。とはいえ、なるべく彼女の元へ近づけるよう祈祷しよう。彼女の物を何か持っていれば用意しておくように」
「今のは高等な妖だろう。あれほど人に紛れる事が出来るのだから」
僧は言って続けた。
「はて。何に見えた? ____このご時世に刀を捨てずにいるようなお侍があざむかれる程に関係の深い人にでも見えたのかな。だとすればその人も無事だといいが」
「どういう意味だ」
「見て嗅いで人の形を捉えるなら、必ず会っているからだ」
「つゆは何処にいる」
銀時は全身を研ぎ澄ませて聞いた。
「全く。酷い顔だな。落ち着きなさい」
場所を変えて二人は小料理屋へ入った。
珈琲を二つだけ頼むと店員に嫌な顔をされ、僧は頭をかいた。
「それで坊さん。つゆは今何処にいんだ」
「拙僧にも未だ分からぬがそれは手がかりになるな」
それ、と言って銀時の持っていた白いツツジの花を指した。
「妖だろうがなんだろうが、俺が見つけられなくて他の奴がつゆに会える訳がねえ。何処にもいねえって事は何処にいても可笑しくねえって事なんだよ」
全身から絞り出すように銀時は言い切った。
それだけは確かだ。
「これに、微かだが人の生気が混じっている。この花は妖術だ。強力な霊媒物質とでも言おうか。霊媒物質は霊力によって形づくられる粘液状の物質。自由に形が変わり、その成分は多くが蛋白質で爪とよく似た組成だ。霊媒師などが口や鼻から白い煙のようなものを出しているのを見たことがないか? 普通長くは持たない。しかし流石は妖怪といったところか。すると恐らくこれを紡げる妖は人間の思考に反応して視える世界を霊媒物質で形にし、まるで箱庭のように操っている。つまり彼女の視る世界の中に彼女を閉じ込めたのだとしたら、旦那の言うつゆという者だが」
銀時は息をのんだ。
「彼女は未だ、ある夜の中にいる」
狐につままれたように、しかし確かに現実の尾を握って銀時はそこにいた。
「____……要領得ねえな」
「恐らく同じ日を幾度も繰り返してそこに。幽閉されているのだろう。足止めによく使う手だ」
「手短にそう言えよおっさん」
「しかしどうしてそんなにも長い間足止めされている? 狐の悪戯にしては____これは狸かもしれぬな」
何故そう思うのか銀時には分からない。
「して、お前さんの前に現れた目的はなんだろうな。心当たりはあるか?」
「俺がつゆに繋がる奴だからじゃねえの?」
「しかしからかうにしては妙だ。こんな手がかりを消さぬとは」
手がかりという花を触り僧は言った。
「確かめたいことがある。明朝まで待たれよ」
それから僧はこんなことも言った。
「つゆという者のいる箱庭にお前の幽体を送る。ひとりで出来るか? 見極める目はお前次第。とはいえ、なるべく彼女の元へ近づけるよう祈祷しよう。彼女の物を何か持っていれば用意しておくように」