狐の箱庭
空欄の場合はつゆになります
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暮れになると紫色の中空に三日月がかかった。
「随分人が集まってるな」
舞台で芝居をやっており
「今人気の演目だそうですよ」
近くにいた男がそう言った。
笛と太鼓と鼻腔に漂う出店のにおい。
「銀___」
肌で感じる真横から声がしたのは今だった。
静まり返った全身で耳をそばだてて振り向いた銀時の真横に長い髪を風にさらわれながら立つつゆがいた。
「……____」
「銀見て。飴」
記憶より大人びた彼女はそれでも銀時のよく知っているあの雨のように真っ直ぐで静かな微笑を灯してそこに立っていた。
何事もなかったように、今ふわりと笑った。
「もらったの。一緒に食べよう」
持たされたものは何かずっしりと重い。
ビニール袋に飴の欠片と思われるものが大量に入っているのが透けて見えた。
「つゆ____っ」
腕を引き寄せてつゆを抱擁しようとした時だった。
するりと逆に手を掴まれて、つゆは歩き出した。
笑みを引きづるその後ろ姿が人の群れに重なって見えなくなった瞬間つゆの手がほどけた。
「つゆ?」
ぞっとして辺りを見渡すがつゆはいない。
「つゆ____っ」
叫んでもつゆはいない。
人の群れをかき分けてつゆを探す銀時は今しがた出会ったつゆをありありと覚えている。
掴まれた手の感触も。においも。
確かにつゆだった。
途中で会った新八に目もくれず押し、人を掻き分けつゆを探しているうちに祭は終わっていた。
撤収してゆく屋台の隙間に人がまばらに見える。
肩で息をしながら見渡す銀時の手に現実の代物があった。
つゆから手渡された飴の袋がずっしりと重い。
つゆと繋がりのあるそれを一心に見ると、どういうわけか見れば見るほど可笑しい。
「____硝子……」
目の前で渡された時は確かに飴だった。
大量の飴の欠片のにおいも覚えている。
「つゆ____」
銀時はその場から動けなかった。
誰もいなくなった後で祭の外の周辺を探したがつゆの姿はなかった。
つゆがあんなふうに現れてあんなふうに消えてしまった。
銀時が行き場を失ってさ迷っているところに見知った男がいた。
つゆの人相書を剥がしている。
「おいおい何してくれてんの? 税金泥棒」
煙草をふかしながらこちらを見た土方が身体ごとこちらを向く。
「悪いがこっちの張り紙を貼らせて貰う」
「そんなの貼ってどうすんの? 年中捕まえられねえ癖によ」
剥がされた人相書を奪い取った銀時は元の位置に貼り戻す。
それに青筋を浮かべて土方が言う。
「つーか何だよこの量は。個展か? 個展ひらいてんのか? そんな量だろうよ」
耳に残っている笛と太鼓と鼻腔に漂う出店のにおい。
その間を縫うように今甘い蜜が香った。
「見て」
傍できこえた。
まるでずっと隣にいたみたいに密な距離で。
つゆの声とにおいを追って銀時の瞳は静かに動いた。
「拾ったの。甘いよ」
ひとかさのツツジの白い花が銀時の鼻の前に在る。
その手を掴むとつゆの顔が狐のように笑い、ふ……と消えた。
蝋燭が消えたみたいに真っ暗な夜を残して。
銀時の足元にツツジの花が白く光っていた。
「……お、おおおい」
土方が震えた声をあげ
「いい今女が____」
そう言って中空を指しながら人相書と目を合わす。
「おいお前も見ただろ今の幽霊みてえな、____」
「んな訳あるかよ」
銀時は言い切った。
狐につままれている。
だとしたらその狐をとっ捕まえてつゆの居場所を吐かせてやる。
「随分人が集まってるな」
舞台で芝居をやっており
「今人気の演目だそうですよ」
近くにいた男がそう言った。
笛と太鼓と鼻腔に漂う出店のにおい。
「銀___」
肌で感じる真横から声がしたのは今だった。
静まり返った全身で耳をそばだてて振り向いた銀時の真横に長い髪を風にさらわれながら立つつゆがいた。
「……____」
「銀見て。飴」
記憶より大人びた彼女はそれでも銀時のよく知っているあの雨のように真っ直ぐで静かな微笑を灯してそこに立っていた。
何事もなかったように、今ふわりと笑った。
「もらったの。一緒に食べよう」
持たされたものは何かずっしりと重い。
ビニール袋に飴の欠片と思われるものが大量に入っているのが透けて見えた。
「つゆ____っ」
腕を引き寄せてつゆを抱擁しようとした時だった。
するりと逆に手を掴まれて、つゆは歩き出した。
笑みを引きづるその後ろ姿が人の群れに重なって見えなくなった瞬間つゆの手がほどけた。
「つゆ?」
ぞっとして辺りを見渡すがつゆはいない。
「つゆ____っ」
叫んでもつゆはいない。
人の群れをかき分けてつゆを探す銀時は今しがた出会ったつゆをありありと覚えている。
掴まれた手の感触も。においも。
確かにつゆだった。
途中で会った新八に目もくれず押し、人を掻き分けつゆを探しているうちに祭は終わっていた。
撤収してゆく屋台の隙間に人がまばらに見える。
肩で息をしながら見渡す銀時の手に現実の代物があった。
つゆから手渡された飴の袋がずっしりと重い。
つゆと繋がりのあるそれを一心に見ると、どういうわけか見れば見るほど可笑しい。
「____硝子……」
目の前で渡された時は確かに飴だった。
大量の飴の欠片のにおいも覚えている。
「つゆ____」
銀時はその場から動けなかった。
誰もいなくなった後で祭の外の周辺を探したがつゆの姿はなかった。
つゆがあんなふうに現れてあんなふうに消えてしまった。
銀時が行き場を失ってさ迷っているところに見知った男がいた。
つゆの人相書を剥がしている。
「おいおい何してくれてんの? 税金泥棒」
煙草をふかしながらこちらを見た土方が身体ごとこちらを向く。
「悪いがこっちの張り紙を貼らせて貰う」
「そんなの貼ってどうすんの? 年中捕まえられねえ癖によ」
剥がされた人相書を奪い取った銀時は元の位置に貼り戻す。
それに青筋を浮かべて土方が言う。
「つーか何だよこの量は。個展か? 個展ひらいてんのか? そんな量だろうよ」
耳に残っている笛と太鼓と鼻腔に漂う出店のにおい。
その間を縫うように今甘い蜜が香った。
「見て」
傍できこえた。
まるでずっと隣にいたみたいに密な距離で。
つゆの声とにおいを追って銀時の瞳は静かに動いた。
「拾ったの。甘いよ」
ひとかさのツツジの白い花が銀時の鼻の前に在る。
その手を掴むとつゆの顔が狐のように笑い、ふ……と消えた。
蝋燭が消えたみたいに真っ暗な夜を残して。
銀時の足元にツツジの花が白く光っていた。
「……お、おおおい」
土方が震えた声をあげ
「いい今女が____」
そう言って中空を指しながら人相書と目を合わす。
「おいお前も見ただろ今の幽霊みてえな、____」
「んな訳あるかよ」
銀時は言い切った。
狐につままれている。
だとしたらその狐をとっ捕まえてつゆの居場所を吐かせてやる。